幕間・邪竜が名前を呼ばせなかった理由
割り込み投稿です〜。
書き忘れていた設定を思い出しました。
なので、急遽書きました。
ですが、本編書いたの二年前なので……今話は微妙に文章の感じが違うかと思います。
ご了承くださいませ。
という訳で、よろしくどうぞ!
自室のソファに腰をかけながら本を読んでいたミュゼは、ふとあることを思い出した。
「そういえば……」
「うん?どうした?」
ミュゼの隣に座り、同じように本を読んでいたラグナは……その呟きに反応して読んでいた本を閉じて、テーブルに置く。
彼女も同じようにテーブルに本を置くと……彼の方を向きながら、質問した。
「忘れていたのですが……国王陛下とお会いした時、なんで〝今は俺の名前を呼ぶな〟って言ったんですか?」
「…………ん?」
「五回目の私達が初めて会った日です。ラグナが私を見つけてくれて……その後、王城まで飛んだでしょう?」
「あぁ、あの時のか」
最初は首を傾げていたラグナだったが、ちゃんとあの時のことを思い出したようだった。
彼は「そう言えば、話してなかったな」と呟くと……語り始めた。
「あの時、名前を呼ばないように言った理由は……邪竜とラグナという名前を関連付けないためだな」
「…………どういうことですか?」
ミュゼはこてんっと首を傾げる。
そんな可愛らしい彼女の反応にラグナは頬を緩めながら……噛み砕いて説明をした。
「そうだな……例え話だが。ジェネという人間の男がいたとする」
「はい」
「そして、ジェネという名前の竜がいるとする」
「んん?」
「竜の固有名がジェネだと知らなかったら、人間のジェネのことはなんとも思わないだろうが……竜の固有名を知ってたら、人間のジェネというのと同じ名前だって思うだろ?」
「……確かに…」
「そしたら、もしかして……このジェネという人間は、実際に関連があろうとなかろうと、竜と関連があるんじゃないかって思っちゃうだろう?」
「………‼︎そういうことですか‼︎」
ミュゼはその説明を受けて、納得したように頷く。
あの時、王城には国王陛下だけでなく……その他にも王城を護衛していた騎士や不特定多数の者達がいた。
一応、あの場にいた者達には邪竜との交渉に対する箝口令を敷いたようだが……情報というのはいつ、どこから漏れるか分からないモノだ。
ゆえに、ラグナは行動を阻害されるリスクを少しでも減らすために……名前を名乗ることをしなかったのだろう。
邪竜の名前がラグナだと知られていなければ、人の姿をしたラグナが邪竜だと気づかれる可能性がかなり低くなる。
加えて、人の姿をしている状態での行動の自由度も変わってくる。
だからこそ……ラグナはあの時、ミュゼに自身の固有名を呼ばせないことで、邪竜=ラグナだと知られないようにしたのだ。
「《破滅の邪竜》の名前を知らなければ……人の姿をしているラグナが邪竜と関係あるとは思い辛いですものね」
「そういうこと。髪とか目の色とか、他にも紐付ける要素はあるが……容姿よりも名前の方が連想しやすいからな。だから、あの時は名前を呼ぶなって言ったんだ」
「なるほど……」
「まぁ、あの馬鹿どもが来た時は……俺の名前を呼ぶかもしれないとは思ったが」
「っ‼︎」
ラグナはさらりと言ったが……ミュゼはそれを聞いて申し訳ない気持ちになった。
馬鹿どもとはアルフレッドとジャンのことだろう。
彼女はあの二人の前で邪竜の……ラグナの名前を呼んでいた。
もし、あの二人があの王城前、沢山の人達の前で彼の名前を呼んでいたら……不特定多数の者達にその名前を知られて、情報が漏れる可能性がより高まっていたはずだ。
ミュゼは沈んだ声で謝った。
「………ごめんなさい……」
「……あっ」
ラグナは落ち込んだミュゼを見て、自身の発言が原因だと一瞬で理解する。
そして、慌てて彼女の肩を掴むと、思いっきり首を横に振って否定した。
「いやいやいや、ミュゼは悪くないぞ?そもそも、名前がバレてたとしても、ちょっと注目が集まりやすくなるぐらいで……邪竜の力を使えば全然問題ないんだから、気にするな」
「…………本当ですか?」
「花嫁に嘘なんてつかない」
ラグナは真剣な声音で伝える。
その言葉に嘘はない。
実際に竜の力を使えば、できないことの方が少ないのだ。
邪竜の名前がラグナだとバレていても……多少、煩わしく思うだけで。
ミュゼを取り巻く状況を打開するために必要であれば、いつ邪竜だとバレたって構わないのだ。
それに……。
「あの時〝邪竜様〟と呼ばれて思ったんだが……ミュゼに〝ラグナ〟って呼ばれないと寂しいんだ。だから、これからもずっと俺の名前を呼んでくれ」
ふわりと笑いながら、ラグナは彼女の頬を撫でる。
その指先に愛しさを込めて。
ミュゼはそんな彼の手に頬を擦り寄せると……その菫色の瞳に愛しさを込めて、同じように笑みを返した。
「……なら、ラグナも私のこと。ずっとミュゼって呼んでくださいね」
「勿論」
邪竜と花嫁は互いに微笑み合いながら……そう約束を交わすのだった。