【本編後日談】元宰相子息は罪を背負い、生きていく
【注意】シリアス。残酷表現あり。
なんか後味悪いと感じるかもしれないので、苦手な人は読まないでね‼︎
今回は、本編のその後のお話第一弾です。
一番最初に復讐された宰相子息。彼のその後を描きます。
多分、次は王太子従者君の話とかかな……?
※間違えてたところ(ジャンは投獄されてないよ‼︎教会預かりだよ‼︎)があったから、修正しました。
自分で書いた小説の内容を覚えていませんでした。すみませぬ。
では、よろしくどうぞ‼︎
その手紙が届いたのは、全てが終わって……暫く経った頃だった。
海の上にある、小さな孤島。
そこは、一度入ってしまえば出ることが叶わないと言われる監獄島。
そこで囚人として暮らす元宰相子息のヴィクターは、現王太子レイファンから届いた手紙を、与えられた部屋で読み終え……ゆっくりと顔を上げた。
「…………アリシエラ……」
天井を見つめながら、熱を上げていた少女の名を呼ぶ。
いや、その名で呼ぶのは相応しくないだろう。
…………彼女は、本物のアリシエラの肉体を奪った……偽物だったのだから。
「…………まさか、こんな結末だったとは」
手紙に書かれていたのは、《破滅の邪竜》に関わることの顛末……自分がこの監獄島に来た後に起きた、事件の全てだった。
本音を言えば、知りたくなかった。
けれど、知らなければ……いけなかった。
ヴィクターは、一番先に逃げたのだから。
《秘匿されし聖女》アリシエラの身体を奪った少女。
偽聖女……稀代の悪女ローラ・コーナー。
彼女はタイムリープの力を使い、五回も時間を繰り返した。
その過程で、宰相子息を始めとする騎士候補生ジャン、王太子レイド、公爵家子息アルフレッドの四人は……とある伯爵令嬢を殺してしまったらしい。
それこそが《破滅の邪竜》ラグナの逆鱗……彼の最愛、《邪竜の花嫁》ミュゼ・シェノア。
五度目の人生では彼女を殺していなくても。
ローラ・コーナーに操られていたとしても。
ミュゼを誘拐してしまった時点で、もうヴィクターの未来は決まっていたのだ。
邪竜に情状酌量なんて言葉は、当て嵌まらない。
救いなど、許しなど与えられない。
今まで彼女を傷つけてきたヴィクター達は、どう足掻いたって……復讐の対象にしかならなかった。
そして、ヴィクターは邪竜によって……魔物達の苗床にされ、激痛と狂気に染まる壮絶な地獄を味わった。
気が狂えたらどんなに良かったのか。
きっと、何もかも分からなくなっていたら……幸せだったかもしれない。
けれど、気が狂うことはなかった。
気狂いになれなかった。
精神を繋ぎ止める魔法を使うほどに。
邪竜はヴィクターが壊れることを許さなかったのだ。
そのため、彼は正気でありながらも悍ましい記憶に苛まれる日々を過ごすことになった。
「ははっ……邪竜は……こうなると分かっていて、僕を見逃したんですか……?」
ヴィクターは、濁った瞳に涙を滲ませながら呟く。
騎士候補生は、何十回も何百回も斬られては再生させられを繰り返した末、教会預かりとされた。
王太子は邪竜に壊されて、正気であれど正気でない……廃人のようになってしまった。
公爵家子息は、色々とあって偽聖女と婚約をし……けれど、邪竜が消え去った同時期に、何も言わずに忽然と消えてしまったらしい。
………それだけでなく。
騎士候補生に至っては……いつの間にか、この教会からも消え去ってしまったとか。
一人で出て行ったのかと騒ぎにもなったが……きっと騎士候補生と公爵家子息は、邪竜に復讐されてしまったのだろう。
そして……偽聖女は。
精神的にも、肉体的にもボロボロにされて……最後は処刑された。
けれど、ヴィクターは。
今、この場にいて……早々に逃げたヴィクターだけは。
あの記憶に苛まされることはあれど、肉体が欠けることなく……狂ってもいない。
他の者達は生死も定かではない行方不明か、精神が死んでるか……間違いなく死んでいるかで。
自分だけ一応は無事に生きていることに。
明確な罪を犯したのは、自分だけなのに。
あの三人を差し置いて、こうして逃げ生き残ったことに……罪悪感で押し潰されそうだった。
「……っ…‼︎」
監獄島に来たのは、自分がしたことの責任を取る理由もあった。
ミュゼを誘拐したこともだが、本物のアリシエラの精神が入ったローラ・コーナーの身体を売ったのだ。
人身売買に手を染めたヴィクターは、揺るぎなく罪人だった。
ならば、こうやって牢屋に入り、罪を贖罪するのは当然だろう。
けれど、監獄島に入ることを懇願した本当の理由は……邪竜から逃げたかったからだ。
光が差し込まない冷たい、地下牢。
闇が騒めき、体内を食い破られ、ぐちゃぐちゃにされる感覚。
おかしくなるほどの激痛。
今も色褪せることのない、恐怖。
「はっ……かはっ……‼︎おぇっ……‼︎」
ヴィクターは口を押さえ、部屋の隅に置かれた桶の中に顔を突っ込む。
定期的にあの記憶を思い出し、嘔吐する彼のための用意された桶に駆け寄るのは何度目だろうか。
何十、何百回目だろうか。
日に日に精神を削られていき、体力、気力さえも衰えていくのに……彼は邪竜の魔法で、狂気に逃げることすら叶わない。
………………邪竜の眷属達の苗床にされたからか、致命傷でさえ簡単に治るようになってしまったヴィクターは……〝死〟に逃げることすらできなくなった。
「…………はぁ……はぁ……」
ヴィクターは頬を伝う涙を拭わずに、その場に蹲る。
震える身体を。
湧き上がる恐怖を。
堪えるように……軋むほどに強く自身の身体を掴みながら。
今回の手紙で、完全に理解した。
本来ならば、ヴィクターも他の者達と同じような末路を迎えるはずだったのだろう。
けれど、自身がこうして生きていること。
これもまた、邪竜の復讐なのだと……理解した。
今度こそ、逃げることは許されない。
死に逃げることは許されない。
恐怖と罪悪感を背負い生きていくしか、許されない。
それは……死ぬよりも厳しい、罰だ。
「ごめん…なさいっ……ごめんなさいっ……‼︎……ごめんなさいっ……‼︎」
何度も何度も、謝罪の言葉を繰り返し続ける。
その謝罪は何に、誰に向けたモノなのだろう。
同じ……否、彼らよりも罪を犯したのに、自分だけ生き延びたことになのか。
自分よりも酷い目にあった王太子達へなのか。
ローラに言われるまま、売り飛ばしてしまったアリシエラに対してなのか。
それとも……繰り返された人生の中で、自身が殺してしまったミュゼに対してなのか。
…………ただ分かるのは。
………その言葉は、誰にも届かないということだけ。
「ごめんっ……なさいっ……‼︎」
彼は今日も、生きていく。
消えて、死んでいった彼らの代わりに。
〝罪を背負って生きる〟という罰を受けながら、生きていく。