悪役令嬢、五度目の人生を邪竜と生きる。
最終回です‼︎
約九ヶ月(私の作品の中で一番長い)に及ぶ連載……。
沢山の方に読んで頂きありがとうございました‼︎
拙い文章ながらもこうして終わりに辿り着けたのは、皆様のおかげです‼︎
時々、番外編を載っけるかも&気が向いたら、続編(ミュゼとラグナの子孫とマキナの恋物語)を書くかもしれませんが、ミュゼとラグナの物語はひとまずここまで。
「伯爵令嬢はヤンデレ旦那様と当て馬シナリオを回避する‼︎」を始めとした他の作品でまたお会いしましょう‼︎
では、最終回もよろしくどうぞ‼︎
島田莉音
ローラ・コーナーが教会の聖牢で廃人と見つかってから早一ヶ月。
国王陛下は、執務室で現王太子レイファンと話をしていた。
その内容は、消えた《破滅の邪竜》と《邪竜の花嫁》……そして、先日いなくなったアルフレッド・レンブルについてだった。
「どこを探しても見つからないとなると……一体どこへ行ったのやら……」
アルフレッドはミュゼを殺した男の一人だ。
ゆえに彼も復讐対象だったはず。
だが、彼は先日まで普通に公爵家にいたのだ。
それが唐突にいなくなった。
元々、今の今まで何の変わりもなくアルフレッドが普通に公爵家にいたのがおかしかったのだろう。
他の三人も、それ相応の目に遭っているのだから。
「レンブル公爵家がかなりの人数を使って捜索しているようですが……手がかりが掴めないそうです」
レイファンは報告書を見ながら、国王に言う。
国王は大きな溜息を吐いた。
「ラグナ殿に消された、と見た方がいいか……」
「相手は《破滅の邪竜》殿ですから……なんとも」
結局、ここで話していても答えは分からないのだ。
シェノア家もミュゼのことを探しているが……暗部の力を使ってもその足取りを掴むことはできていなかった。
邪竜の箱庭にいるのだから、それは当たり前なのだが。
「レイファン。ローラ・コーナーの処刑日は決まったか?」
「はい。一週間後になります」
「分かった」
ラグナの復讐劇が終わった今。
残されたのはローラ・コーナーの問題だ。
彼女は罪を犯した。
それは国家反逆罪と称していても、もっと最悪なものだ。
廃人であろうも、処刑は免れないだろう。
「………はぁ…なんとも言えない気持ちだな」
全てが終わったことを喜ぶべきなのに、複雑な気持ちになる二人だった。
*****
聖女ヴィクトリアは、転生者であるリオナと共に教会で祈りを捧げていた。
見届けると言ったけれど、いつの間にか全てが終わっていた。
残っていたのは、焦げ落ちた塊と廃人のローラ・コーナーのみ。
ミュゼも、ラグナも……その痕跡もなく、いなくなっていた。
(わたくしは、《聖女》としてどうすればよかったのかしらね)
邪竜に立ち向かうべきだった?
復讐など止めさせるべきだった?
………だが、ヴィクトリアは分かっていた。
聖女の力を持っていたとしても、邪竜と比べたらその力は微々たるものだ。
敵うはずがない。
今回は偶々、ミュゼに関連する人物だけへの復讐だったが……彼の気分によっては、国ごと消した方が早いと判断していたかもしれない。
いくら考えてもその答えは出ない。
だから、ヴィクトリアは考えることを止める。
過去はもう変えることができないけれど、未来は変えられるから。
そのために、動き出すことを決意して。
「リオナ」
「はい、ヴィクトリア様」
「カルロス様について行きなさい」
「え?」
ヴィクトリアは後ろに控えていた少女を見る。
ずっと、付き従ってくれた大切な従者に。
「わたくしとレイファン様の赤ちゃんができたら、その子と一緒にいて欲しいわ」
「……………はいっっ⁉︎」
ガタンッ‼︎
「はいっ⁉︎」
彼女がその言葉に顔を真っ赤にしたのと同時に、天井からカルロスが落ちてきた。
リオナはまた不法侵入かと思ったが、それよりも自身のお腹を見る。
カルロスもギギギッ……とぎこちない動きでそのお腹を見つめて。
何故、いきなりとか。
何があったのか知っているのか?とか言いたいことはあるが……二人はまさかあの一回で妊娠すると思っていなかったため、絶句する。
「という訳でリオナをよろしくお願いしますわ、カルロス様」
ヴィクトリアの笑顔にカルロスは顔を真っ赤にして頭を掻く。
そして覚悟を決めたように両頬をバチンッ‼︎と叩いた。
「よし。結婚しましょう、リオナ様」
「ふぁっ⁉︎」
ヴィクトリアはそんな二人を見て安堵する。
きっと、この二人は幸せになれるだろうと……なんとなく感じたから。
(そうね。取り敢えずは次代の聖女が自由恋愛できるように頑張るわ。だから、元気に産まれるのよ?)
リオナのお腹に宿る……次の聖女に、微笑みかけた。
*****
シェノア家は、とても重苦しい空気に包まれていた。
それはそうだろう。
シェノア家の次女、ミュゼがいなくなったのだから。
「ミュゼは…一体どこに……」
伯爵家当主エルドリックは、大きな溜息を吐く。
伯爵夫人ベラーゼも、悲しげな表情で……夫を見つめていた。
ラグナと共にいるだろうとは思っているが、まさか何も言わずにいなくなるとは思ってもみなかった。
せめて一言。
家族にぐらいは何か告げて行くと思っていたのだ。
それさえ言わずに消えたということは……何か事情があったのか?
それとも、そこまでに家族に興味がなかったのか。
エルドリックは後者の気がして、大きな溜息を吐いた。
「どうして、こうなったんだろうな」
ローラ・コーナーがタイムリープの力を持ってしまったからか?
転生者という存在がいたからか?
ミュゼが殺されてしまったから?
その答えは、出てこない。
*****
エドワードとビビアンは暗部の服に身を包み……互いに背を合わせながら、兵士団の駐屯地の屋上にいた。
今もミュゼは見つからない。
大切な妹がいないのは悲しいけれど……二人の気持ちは、シェノア家長女ミルカによって指導された拷問練習による憂鬱に包まれていた。
暗部を率いる身だと分かっていても、あの拷問の練習はかなり応えていたのだ。
「………なんか、改めて暗部ってのを知った気がする」
「そうね。でも、汚れ役がいなくちゃ……この国は成り立たない」
互いに溜息を吐いて、ゆっくりと指を絡ませる。
きっと、二人はこれからもこうやって支え合っていくのだろう。
*****
ユーリ・シェノアは婚約者となったマデリーン・ティガレット公爵令嬢と共に、彼女の屋敷でお茶をしていた。
しかし、彼の顔は相変わらず暗いもので。
マデリーンは心配そうな顔をする。
「ユーリ……大丈夫?」
「………すみません、マデリーン嬢」
「いいえ。まだミュゼ様が見つかってないの?」
「………はい」
ユーリはローラに洗脳され、ミュゼに罵詈雑言を吐いたことがある。
ゆえに、ミュゼがいなくなったことに……自分が関係しているのではないかと不安になっていたのだ。
しかし、同じミュゼとラグナに対面したことがあるマデリーンは思う。
彼女達が自分達の意思でいなくなった可能性の方が高いと、ユーリよりも的を射た答えに辿り着いていた。
しかし、当事者でないマデリーンが口を出すべきではないだろう。
だから、彼女は彼を側で見守ることにした。
*****
某日ー。
国家反逆を企んだ稀代の悪女……ローラ・コーナーが王城前の広場に設置された断頭台で処刑された。
そこに現れた彼女は、虚ろな目で動きもせず……兵士に引きずられるまま、抵抗することもなく死んだのだ。
その異常さに観客達は、若干困惑しながらも……自分達の生活が脅かされなくてよかったと安堵した。
処刑を見ながら、ローラを拷問したミルカはつまらなそうな顔をする。
(わたくしの拷問より、苦痛を味合わせた人がいるのね)
「ミルカ〜行こう〜」
「えぇ‼︎」
しかし、そんな考えも愛しい夫に呼ばれたら直ぐに消え去っていた。
*****
自身の身体……ローラが処刑された日。
アリシエラは教会の庭で空を見上げていた。
そこにやって来るのは盲目の異端審問官ベンジャミン。
彼は彼女の横に座り、同じように空を見上げた。
「行かなくてよかったんですか?憎い相手でしょう?」
ベンジャミンの言葉に、アリシエラは怪訝な顔をする。
そして、静かな声で問う。
「…………なんか、変わった?」
「…………」
優しい風が二人の頬を撫でる。
沈黙の後、ベンジャミンはゆっくりと答えた。
「…………何がです?」
「無駄に綺麗事並べるような雰囲気じゃなくなったから」
「……………」
アリシエラの言葉にベンジャミンは、歪んだような笑みを浮かべる。
そして、思いっきり寝そべった。
「別に……神様に真実を見るギフトを与えられたのに、現実が見えてなかったと気づきまして。善い人でいようと、馬鹿な正義感拗らせてたのかなぁと」
「ふぅん。よかったわね」
「え?」
「それに気づけたってことはそれを糧に今後を生きれるってことでしょ。それに……人には人の正義感ってのがあるんだから、周りに迷惑かけない程度でいればいいんじゃない?」
ベンジャミンはそう言われて、ぽかん……とする。
そんな彼の顔を見て、アリシエラは顔を顰めた。
「何よ」
「いや……ぷぷっ‼︎」
「何笑ってるのよ」
「すみません…笑う気はなかったんですけど……悲劇のヒロインぶってるより、そっちの君の方が好きですよ」
「……………はぁ?」
悲劇のヒロインの殻を破った彼女はどうやら、とても強い人らしい。
ベンジャミンはそんな彼女の……魂の美しさに、笑顔を浮かべた。
*****
邪竜の箱庭。
それは彼の眷属達が住む、小さな箱庭。
その日、その箱庭にある唯一の屋敷で……《邪竜の花嫁》は美しい漆黒のウェディングドレスを着ていた。
「お待たせ致しましたっす、ミュゼ様」
「ありがとうなのです」
エイダの手によって美しく化粧をされたミュゼは、漆黒のマリアベールを被り……大広間に向かう。
この世界には教会なんて存在しない。
その代わりに、屋敷にある大広間で……ミュゼとラグナは結婚式を行うことにした。
「この先に、ラグナ様がお待ちです」
「では、行ってらっしゃいマセ」
マキナの案内で大広間に辿り着き、エイスとエイダによって扉が開かれる。
参列者は誰もいらない。
ミュゼとラグナだけの、二人だけの結婚式。
大きな扉を潜り、絢爛豪華な大広間の先には……漆黒の正装を着たラグナの姿。
魔性の美貌を持つラグナは、愛しい花嫁の姿を見て……蕩けるような笑みを浮かべた。
「ミュゼ」
「ラグナ」
大広間の中央で二人は手を取り合う。
互いの髪には、互いの色を模したリボンが結われていて。
そのリボンを互いに撫でながら、微笑み合う。
「結婚式というのは神に誓うものらしいが……俺は神になんか誓わない」
「奇遇ですね。私もです」
神なんて必要ない。
ミュゼに必要なのはラグナで。
ラグナに必要なのはミュゼなのだから。
「ミュゼ。俺、《破滅の邪竜》……ラグナ・ドラグニカは生涯無二の伴侶。愛しき我が《邪竜の花嫁》に誓おう。永劫の時間を共に過ごし、共に朽ち果てるまで……いや、朽ち果てようともお前を離さないと」
「ラグナ。私、《邪竜の花嫁》ミュゼ・シェノアはただ一人だけの愛しい夫となる《破滅の邪竜》に誓うのです。永遠に、私は貴方だけのモノであり……貴方も永遠に私のモノ。生きていようと死んでいようと、ラグナの側にいるのです」
ミュゼとラグナは互いの指を絡めて、誓いの口づけをする。
軽く触れるだけのモノから、徐々に深く深く……互いを貪るかのように、絡み合う。
「愛してるよ、ミュゼ」
「私も……愛してるのです、ラグナ」
四回の死を繰り返した悪役令嬢は、《破滅の邪竜》の寵愛を受けることで……五回目の人生を生きることになる。
五回目の人生は甘く、蕩けるような日々で……。
そして、壊れたような愛が満ち溢れるモノだった。