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そして、復讐劇は終わる


【注意】残酷表現あり。グロテスク。

苦手な人はお逃げください。


明日の話で、ラストです‼︎

最後までよろしくどうぞ‼︎







次にローラが目を覚ました時。


そこは〝純白〟だった。




「………え?」


四角い部屋。

扉も、窓も、何もない白。

白、シロ、しろ。

闇だけのあの空間も異常だったが、その白もローラを精神的に追い詰めるほどには異常だった。


「どこ、ここどっ……うぅっ⁉︎」


状況が理解できていなかったため、反応が遅れたが……ローラは自身の下腹部を見て言葉を失くす。

それはそうだろう。



今の彼女の腹は、まるで妊娠しているかのように大きくなっていたのだから。



「うぅぅぅぅ……」


彼女を襲う痛み。

傷は治っているのだろうけれど、その痛みは止まらない。

タラタラと下半身から血が流れている。

ローラは痛みで朦朧とする中、思い出す。


(そうだわ……アルフレッドが……違う……アルフレッドの精神は…もう死んでて……?パラなんとかって……彼が来て……魔物に……)


ローラは昨夜の悲劇を思い出して身体を震わせる。

そして、思いっきり髪を掻き毟った。



「あ……ぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ‼︎いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎なんでなんでなんでぇぇぇぇぇっ‼︎」



ローラは叫ぶ。

ボロボロと涙を零しながら、狂ったように叫ぶ。

ただでさえアルフレッドに純潔を奪われてしまったのに。

それだけでなく、魔物達にも穢された。

それがローラは受け入れられない。

ラグナだけを求めていた、ローラは……それを受け入れたくない。


「ラグナ、ラグナ、ラグナァァァァァァァァァア‼︎」


身体を襲う痛みが。

膨らんだ腹が。

ローラを精神的に追い詰める。

狂いたいのに聖女の力で狂えない。

怪我は治っても、痛覚は残る。



「私を助けてよぉぉぉぉぉぉぉぉおっっっ‼︎」



ベチャッ……。



「………………ぁ…」


ローラの身体が硬直する。

ローラの叫びに反応してしまったのか?



腹の中にいたモノ・・自ら・・這い出てくる。



ベチャッ…ズルっ……ズルリッ……。


まるで粘着性のある物体が這うような音。

吐き気を催すほどに酷い腐敗臭。



そして……ソレ・・が産まれた。



「うぐっ⁉︎」


ローラの身体がブルブル震える。

一体、自分の身体には……何がいた・・・・のか?

ローラは目の前のソレ・・を見た瞬間、叫んだ。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ‼︎助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎ねぇ、誰かぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」



痛む身体に鞭を打って壁を拳で叩く。

それほどまでに、目の前にいたモノはおぞましい。

ネチョネチョと真っ黒な……でも、ローラの血で汚れた赤子のような小さな……溶けた身体を引きずり。

目と口だけがアンバランスに配置されている。

不気味で、恐ろしくて、気持ち悪くて。

ギョロリと眼球が動く。

その視線がローラを見つけた瞬間、まるで喜ぶようにキャキャッと笑う。

だが、その見た目の所為か。

その異常な闇のオーラを纏う所為か。

本来可愛らしいはずのその笑い声さえも、不気味だった。


『……あー…ぅー……まぁま……ままぁー……』

「ヒィッ⁉︎」


ソレ・・はローラを〝まま〟と呼ぶ。

彼女を母親だと思っているのだ。

とうして自分の腹の中にこんな不気味なモノがいるのか?

どうしていきなり……。


『まぁま……まぁま……』


ソレ・・が手を伸ばしてくる。

しかし、ローラはソレ・・を蹴り飛ばして自分から離した。


「ヒィッ‼︎なんなのよぉっ‼︎」

『………まぁま…』


プスッ……プスプスッ……。


焦げるような匂いが部屋に満ち始める。

どうやらソレ・・が焦げ始めたらしい。

元々、この部屋は聖牢だ。

闇を滅する力がある。

聖女ローラから産み落とされたため、若干の抵抗力があったが……所詮、ソレ・・は闇の存在。

産まれたばかりで力も強くないソレ・・は、聖牢の力で死に始めていた。


『………まぁま……』


ヒック…ヒック……。


ソレ・・が泣くけれど、ローラの目に宿るのは憎悪や怯えといった感情で。

ソレ・・は産まれ落ちるだけして、短い生を終わらせる。

焦げた赤子のような塊に腐敗臭。

それだけが残る部屋でローラは叫ぶ。


「なんなのよ、なんなのよ、なんなのよぉっ‼︎どうしてこんな目に遭わなきゃいけないのっ⁉︎嫌だ嫌だ嫌だ‼︎」

「あぁ……早かったな」

「えっ⁉︎」


ローラはその声に顔を上げる。

そして、その顔は喜色に染まった。

いつの間にか目の前にいたのは……ローラが恋するラグナ

だけど、その喜びは直ぐに霧散する。

何故なら……その腕の中に憎き悪役令嬢ミュゼがいたのだから。


「なんでっ……」

「で、どうだった?自分の子供を……俺が与えたソイツ・・・殺した気分は」

「……………え?」


その言葉にローラは固まる。

ラグナはミュゼの髪を梳きながら、笑みを浮かべる。


「お前が見殺しにしたソレ・・はな?俺が作ってやったんだよ。だから、言ってしまえばお前は俺が与えた子供を殺したんだ。あぁ、可哀想に」

「え?え?」


ローラはその言葉を理解するにはかなりの時間を有した。

ラグナが作った子供・・

つまり、ローラが殺したのは……。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」



ローラは慌てて焦げた物体を抱き上げる。

だが、既に焦げているソレは抱き上げることすらできず……彼女の手を墨色に汚すだけ。


「嘘、嘘だぁっ……ラグナと私の赤ちゃんがぁぁ‼︎赤ちゃんがぁっ‼︎」

「あははっ‼︎見ろ、ミュゼ‼︎あの狂った姿‼︎聖女の力で狂えないのに、あの女は頭がおかしい‼︎俺が作った…与えたと言っただけで、俺の子供とは一言も言ってないのになぁ。どうしてあそこまで自分の都合の良いように解釈できるんだか……」

「ラグナが楽しそうで何よりです。でも、本当にラグナの赤ちゃんじゃないと分かってても……口に出されるのは腹立つのです」

「大丈夫だよ、ミュゼ。俺の子供を産むのはミュゼだけだ」

「はいです」


ラグナとミュゼはクスクスと笑いながら、乱心したローラを見つめる。

そして……最後の締めと言わんばかりにラグナは告げる。


「ローラ・コーナー。俺はお前みたいな汚い人間、嫌いだよ」

「………あ、……ぁ……」

「俺が愛しているのはミュゼだけだ。お前が死んだところで悲しみもしないし、嘆きもしない。それにな?」


ラグナは笑う。

嘲笑うように、穢らわしいモノを見るかのように。



「お前みたいな醜い女、俺が愛する訳ないだろ?」



その言葉は残酷に、ローラの心を抉る。

ローラは「ヒュッ……」と短く息を吸った瞬間。



バタンッ……。



ローラは受け身を取らずに倒れ込んだ。

彼女の目は開いているけれど、何も写していない。

身体さえも動かない。

ラグナはそれを見てクスクスと笑った。


「やっと終わったか」

「……あの人、どうしたんです?ラグナの言葉にショックを受けて死んだんです?」

「まぁ、俺の言葉がトドメだけどさ。簡単に言えば、聖女の力が限界に達したんだよ」

「え?」


聖女の力は例外以外は・・・・・、一生消えることはない。

例外というのが、魔物にその身を穢された場合なのだ。

アルフレッドとの初夜。

既にアルフレッドの身はパラサイトのモノになっていたため、人間でありながら魔物であった。

ゆえに、その時点でローラの聖女の力は有限のものになった。

そして……その日に彼女の体内に埋め込んだモノ……先程、ローラが産んだのはラグナが作った人工生命体。

分かりやすく言えば、合成生物キメラだった。

食人鬼グールにスライムなどの魔物の因子、闇の因子を埋め込んだ種子タネに、ローラの卵子とアルフレッドの精子が合わさって、魔物達の闇の力を糧に成長した。

ある程度のサイズになれば、ローラの体内……ローラの肉体を喰らい餌として、更に成長。

まぁ、ラグナが与えたモノであるが……ローラとアルフレッドの子供と言うのが正しい。

そして産み落とされたのだが……産まれた場所が聖牢ゆえに、ラグナほどの力を有しないソレは簡単に死んだ。

それによって負った精神的な傷を聖女の力で癒し続けた。

拷問を受け続けた肉体的な傷も、聖女の力で癒し続けた。

常時癒しの力を発動し続けたため、聖女の力がなくなり……遂にその代償が出たのだ。

人の身でありながら、聖女の力という莫大な力を有していたのだ。

過ぎたる力は身を滅ぼすという言葉があるように、聖女の力がなくなった時点で反動が出ないはずがない。

それにより……ローラは今、レイドと同じように……いや、完全なる廃人状態に陥ったのだ。


「本当はズタボロにしてやりたかったんだがな?あーやった方が傷つくだろうと思ってな」

「そうなのですね」

「あぁ。だから、俺の復讐劇はここまでだ。さて、俺の愛しいミュゼ?」

「なんです?」


ラグナは彼女の手を取り、その手の甲にキスをする。

ミュゼはそれを微笑みながら受け入れた。



「我が愛しい花嫁。俺と共に俺の世界で永遠を生きてくれるか?」



全てを終えて、ミュゼも《邪竜の花嫁》として完成した今、二人はこの世界にいる必要がなくなった。

だから、ラグナは彼女を自分の箱庭せかいに彼女を連れて行く。

拒否されることなどあり得ないと分かっているのにラグナは問うのだ。

ミュゼが望まないなら……連れて行くことはしないと。

だが、ミュゼはそんなのどうでもいい。

自分の生死も。

他人の生死も。

家族の生死も。

人間関係も。

あらゆることが。



ラグナ以外の全てがどうなろうと構わない。



だから彼女は笑いながら答える。

蕩けるような笑顔を浮かべて……彼の唇に触れるだけのキスをした。



「うふふっ、聞くまでもないのですよ?私がいるべき場所は、ラグナの隣なのです」



誰にも何も告げることなく。

その日、ミュゼとラグナはこの世界を去る。





こうして、《破滅の邪竜》と《邪竜の花嫁》

は復讐劇の舞台を降りた。








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