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偽聖女は最後の舞台へ


【注意】残酷表現?というよりグロテスクありです‼︎


もう少しで終わります‼︎暫くは他の作品をお休みしてこの話に集中します‼︎

最後までよろしくどうぞ‼︎








気を失った偽聖女ローラが教会に運ばれて行く。



教会から呼ばれた神官は、ただ一心に祈りを捧げ……担架で運ぶ兵士はとても怯えた顔をしていた。

それもそうだろう。



彼女の腹は異常なほどに膨れ上がり……下腹部から今も夥しい量の血液が流れ続けているのだから。



ラグナはその光景をシェノア家の屋敷……ミュゼの部屋で、インビシブルの視覚共有を用いて見ていた。

勿論、腕の中にいるミュゼにもその光景を共有している。


「よく失血死しないのです」

一応・・聖女だからな。治癒の力が働いてるんだろ」

「というか周りの人達の顔が凄いのです」


ミュゼはクスクスと笑いながら言う。

確かに運んでいる兵士はガクガクと顔面蒼白で震えているし、神官に至っては神に救いを求めるほど。

それほどまで今のローラは、禍々しい雰囲気オーラを放っていた。


「これからどうするのです?」

「うん?あー……アレ・・産まれる・・・・間近になったら会いに行こうか。ミュゼもあのクソ女に一言ぐらい言ってやりたいだろ?」

「うーん……本音を言っちゃえば、どうでもいいのです」


ミュゼはクスクスと、濁った瞳で微笑む。


「あの女がラグナに恋をするのとか、ラグナを手に入れようと動くのは殺意が湧きますけど……私が殺されたのはもう・・どうでもいいのです。なんとも思わないのです」

「…………ミュゼ…」

「今、ラグナの腕の中に私がいるだけでもう他のことがどうなろうと構わないのです。だから、ラグナ?」


クスクスクスクス。

見る人によっては狂気を感じさせるような笑顔で、ミュゼは彼の首筋に爪を立てる。



「ラグナが私のために復讐をしているのは分かっているのですが、早く終わらせるのですよ。私は、ラグナが他の人に殺意でも憎悪でも憤怒でも同情でも。ラグナの感情が向けられることの方が耐え切れないのです。ねぇ、ラグナ?私を不安にさせないで欲しいのです。じゃないと……私はいつかラグナが好き過ぎて………殺しちゃいそうです」



ぞくりっ……。

ラグナはそう言われて、蕩けるような甘い笑顔を浮かべる。

肌を重ねたことで、ミュゼはその独占欲・・・さえも壊れ始めていた。

愛情を確かめ合ったことで安心する人もいるだろう。

逆に不安になる人もいるだろう。

確かな繋がりを得たからこそ、離れる可能性に怯える。

だが、ミュゼは離れる可能性が微塵もないと分かっている。

だけど、頭では分かっていても壊れた心は暴走する。


殺したくなるほどの依存。


殺したくなるほどの独占欲。



そんな狂った感情を向けられたラグナは……幸せ・・堪らな・・・くなる・・・



《破滅の邪竜》は破滅を司るがゆえに、壊れた人間ミュゼが大好きなのだから。


「ごめんな?もうすぐ終わるから……俺の花嫁を殺したことへの報いを受けさせるだけだから。終わったら俺はあのクソ女への復讐心も何もかもなくなるよ」

「………分かってるのです……なんか、ラグナと肌を重ねたら、もっともっとラグナが欲しくなっちゃったのです……。迷惑、ですか?」

「迷惑な訳ないだろう?可愛いよ、俺のミュゼ。俺はお前のその狂った異常性さえも大好きだ。それに……お前に殺されるのなら本望だ」


ラグナは微笑む。

邪竜は既に神にすら近い存在。

つまり普通ならば・・・・・死ぬようなことはない。

だが、例外はあるのだ。

それは……同じ性質を持つ存在になら、殺されてしまうこと。



つまり、この世で唯一ラグナを殺せる存在が……花嫁ミュゼなのだ。



だから、ラグナは余計に嬉しい・・・

ミュゼの壊れた愛が更におかしくなって暴走して殺されるならば、それはとても幸せな結末だから。

それにきっと……ミュゼも一緒に死ぬだろうから。


「ミュゼ。愛してるよ……」

「ラグナ……私もです」


二人の唇が触れ合って、深く深く繋がる。

唇も、舌も、体温も、吐息さえも奪い合うような深い口づけ。

至近距離で交わる金色と菫色の瞳は熱で浮かされたように蕩けきっていて……互いのことしか考えられない。

ラグナは口づけをしたまま、ミュゼの美しい髪を指で梳く。

サラサラとした触り心地は絹糸のように滑らかで……今すぐ押し倒したくなる衝動をなんとか堪える。

ぐちゃぐちゃにドロドロに、獣のように愛して壊して犯してしまいたいのを、我慢する。


二人の姿は………関係はとても異常だ。

壊れた者を愛する邪竜と、壊れた狂愛を向ける花嫁。

だが、《破滅の邪竜》と《邪竜の花嫁》としては相応しい姿。



………そして…少しだけ、ミュゼとローラは似ているのかもしれない。

ただ一途にラグナを愛していて、彼の愛を求める。

違うのは、ラグナがミュゼを選んだこと。

その愛の異常性が、ミュゼの方が狂っていたということだけ。

だから、もしかしたら……ほんの少しだけ運命が違っていたら、今、この腕の中にいるのはローラだったのかもしれない。



所詮、〝もしかしたら・・・・・・〟の話であるが。




二人は、暫くの間……そうやって唇を重ねていた。






*****




異端審問官のベンジャミンは、その娘を見て絶句していた。


真実を視抜く瞳を持つ彼は、目が視えないけれど本質を視抜く。

そして……教会に連行されたローラを視て、口元を押さえた。


「おぇっ……」

「ベンジャミン様っ⁉︎大丈夫ですかっ⁉︎」


介助役の神官の青年が、顔面蒼白になったベンジャミンの様子に慌てる。


ローラ・コーナーはたった一夜にしてその腹を膨らませ、血を垂れ流し続けるようになり……その異常は〝悪魔憑き〟となったのではないかと判断され、急遽、教会に運び込まれたというのが台本シナリオだ。


それゆえに異端審問官であるベンジャミンは、彼女と対面しなくてはいけなくなった。

それが今の現状に繋がる。


「直ぐ、に。教皇猊下、と聖女様に……連絡、を。聖牢へ、連行すべきだと」

「はっ……はいっ‼︎」


周りに待機していた神官見習いが慌てて、二人の元へ向かう。

ベンジャミンは顔面蒼白のまま……もう一度、ローラを視た。


その肉体うつわの色は元は穢れなき清らかな聖躯せいくだったのだろう。

だが、その内側にある魂はとても穢れていて。

それに影響されて肉体までも異常なほどに闇に汚染されていた。

そして……その腹に宿った・・・モノ・・

それはとても禍々しい、漆黒の闇。

なんと表現したらいいか分からないほど、気持ち悪く・・・・・



見ているベンジャミンの方が精神異常をおかしそうなほど、狂気的・・・だった。



目が見えず、本質が視えるがゆえにそれが直接ダイレクトに伝わってしまう。

ベンジャミンは、初めて自身のギフトを憎みそうになった。


「ベンジャミン様」


そんな時、慌てた声が彼にかけられる。

彼はその神聖な雰囲気オーラが、ローラの邪悪やみを若干緩和したことにホッと息を吐いた。


「その声、は……ヴィクトリア、様」

「大丈夫ですか?顔色が酷いわ」

「申し訳、ありません……少し、視え過ぎた、だけですので」

「…………あぁ…聖牢へ?」

「えぇ……あの女性が、宿している、魔の物は……邪悪過ぎる・・・・・


ヴィクトリアはそれを聞いて、そっと目を伏せた。

〝聖牢〟とはその名の通り、聖なる牢屋だ。

聖なる神気で満ちているため、魔の物を捕らえることができる。

また、その闇を浄化していく作用もある。


「わたくしがベンジャミン様を介抱しますわ。他の皆様は直ぐにお清めの準備を」

「はっ‼︎」


ローラが使った部屋や通った道を清めるために、神官達は準備に取り掛かるため部屋を退室する。

二人きりになったヴィクトリアとベンジャミンは、暫く無言で彼女を見ていた。


「…………話には聞いていましたが…実際に目にすると……ここまでおぞましいモノとは……思いもしませんでしたわ」

「………え?」

「………ラグナ様にお聞きしていなかったのですか?貴方も、ラグナ様の復讐劇ぶたいにキャスティングされてしまったのでしょう?わたくしもなのです」


ヴィクトリアの言葉にベンジャミンは目を見開く。

それでも、ヴィクトリアは話し続けた。


「いいえ…正確には自ら首を突っ込んだという方が正しいのかもしれませんわ。かなり後悔しておりますけれど」

「な、ぜ……」

「彼女は……本来の持ち主ではありませんが、わたくしと同じ聖女の力を有しています。ですが、それを使って……ただ一人の愛を求めるがために、数多の運命を狂わせた。神に与えられた力を有する者として許され難いことですわ。ですから、わたくしは…同じ力を持つ者として、この全てを見届ける義務があると感じ得ました。だから、わたくしはここにいますの」


そう綺麗事を言っても、ヴィクトリアの身体はローラの身が放つ闇のオーラで震えているが。

それでも、同じ聖女の力を持つ者として結末を見届けるべきだと思っていた。


「貴女は、これから……ローラ・コーナーが……何を・・産み落とすかご存知なのですか?」

「………………えぇ」

「聖女である貴女が、それを許すのですか?」


ベンジャミンはラグナがしようとしていることを知っている。

それは許されない行為だ。

だからこそ、神の使徒である聖女ヴィクトリアが……これを許容していることが信じられなかった。

彼女なら、正義かみの名の下に止めると……。


「ねぇ、ベンジャミン様」


ヴィクトリアは酷く疲れた顔で彼を見る。

そして、優しく問うた。


「わたくしは聖女であるけれど、その前に一個人の、貴方とも同じただの人間でしかないことを……ご存知ではないのですか?」

「…………あ…」

「相手は《破滅の邪竜》。世界を滅ぼす存在ですのよ?わたくしの正義感で彼の方の前に立ち塞がれば……どうなるとお思いですの?」


そう言われてベンジャミンは、言葉を失くした。

例え、間違っていると思ってもそう言えないのだ。

相手は世界を滅ぼすことができる存在。

この全てはラグナの復讐劇。

彼の花嫁が過去の人生で殺されたがゆえに起きたこと。

もし、彼の復讐を止めようとしたら……その矛先はどこへ向く?



止めた者に向かうかもしれないし……世界にだって、向いてしまうかもしれない。



だから、ヴィクトリアは止められない。

たかが一個人の意見で、世界を滅ぼす危機に陥れることなどできないから。

数多の命せかいと数人の命、どちらを差し出すかと言われたら……答えは明白だ。


「それに、ラグナ様の復讐はとても人間らしいと思いませんか?彼の方は邪竜ですけれど」

「………それ、は…」


残酷過ぎるかもしれないが、ラグナの復讐きもちも正しい。

人は、やられたらやり返す生き物だから。

大切な人が傷つけられたら、怒る生き物だから。

やり返さない人間は、ただ優し過ぎる人間で……ラグナのように復讐する方の人間の方が多い。

だから、ヴィクトリアは……なんとも言えない気持ちで、ただ結末を見届ける傍観者キャストとなることを決めた。


「邪竜という存在を、人間の枠組みの中で考えようとする方が愚かですわ。そして、わたくしは貴方が彼の方を止めようとするなら、それを咎めません。ただし、関係ない方達の命がかかっていることを……ゆめゆめお忘れなきように」

「…………」

「そして、ローラ・コーナーがアリシエラ・マチラスから肉体を奪い、娼館に売り、その身を汚させ、永遠に消えない傷を残したことを忘れてはなりませんわ」

「っっっ‼︎」


そう言われた瞬間、ベンジャミンはもう・・何も言えなくなった。

ヴィクトリアは知っているのだろう。

最近の彼が、アリシエラと懇意にしていることを。

そして……その魂の美しさに惹かれ始めていることを。

だから、ベンジャミンは何も言えなくなる。

彼も、ただの人間なのだから。

大切な人が傷つけられたら……傷つけた人を恨んでしまうような、普通の人間なのだから。




ローラは聖牢に連れて行かれる。




そこが、最後の舞台だった。







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