拷問官は笑顔でナイフを翳す
【注意】残酷表現あります。ご注意下さい。苦手な人は逃げて下さい。
シリアス‼︎&拷問‼︎
今後もよろしくどうぞ‼︎
ガタゴトと馬車が揺れる。
ローラは隣に座った兵士達に拘束されたまま……虚ろな瞳で、先ほどのラグナの瞳を思い出していた。
とても、冷たい瞳。
軽蔑の、瞳。
あんなの、主人公に向ける瞳ではない。
(……どうして…皆に愛される存在……アリシエラなのに……どうして…あんな眼で……)
ガタンッ‼︎
馬車が大きく揺れて止まる。
そして……隣に座っていた兵士と兵士団長が話し出した。
「ついたみたいですね。エイスさん、兵士の皆さんにかけていた能力を解いて下さい。こちらも変化の幻術を解きます」
「分かりましたワ」
兵士がパチンッと指を鳴らすのと同時に、二人の姿が変化する。
兵士は色気のある美青年に。
兵士団長は幼いけれど、美しい少年の姿になる。
それを見て……ローラは目を見開いた。
「ではローラ・コーナー。君には我らが主人主催の復讐劇を楽しんで頂きましょう」
少年……マキナは笑う。
その直後、ローラは腹部に強い衝撃を与えられ……意識を失った。
*****
ぴちょん……。
水の滴る音で目を覚ましたローラは、目を開いたはずなのに見えない視界に……大きく目を見開いた。
「………え?何…なんなのっ、ここっ‼︎」
手の感触からそこが石でできた場所だと分かる。
見えない中、手探りで動いて壁に当たる。
また動いて壁に当たる。
どうやら小さな部屋のようで。
光が差し込まない。
何も見えない。
ローラはその闇に、身体を震わせる。
「ちょっと‼︎ねぇ、誰かっ‼︎誰かいないのっ⁉︎ねぇっ‼︎」
叫ぶけれど声も反響しない。
誰の返事もない。
「ねぇ、誰かっ‼︎」
ひやりとした風が頬を撫でる。
背筋がぞわりっとする。
ローラは壁を殴るように、拳を叩きつける。
「ねぇ‼︎誰か答えてよっ‼︎私をここから出してっ‼︎」
ローラは何度も何度も叫び続ける。
だが、その声に反応するモノは零れ落ちる水滴の音だけだった……。
どれくらい時間が経ったか分からない。
時間感覚が狂った中、ローラが目を覚ました時……視界には柔らかな光が見えていた。
蝋燭の、淡い光。
あの暗闇の中で、数時間だか数日だかを過ごしたローラは、その光を見た瞬間……ボロボロと泣き始める。
「あ……あぁ……」
だから気づくのが遅れた。
自分が今、椅子に手足を縛られて動けなくなっていることに。
「やっと目が覚めたのね。待ちくたびれちゃったわ」
プシュッ。
「………え?」
ローラは、目を見開いて自身の右手を見つめる。
そこには……ナイフで斬られた大きな裂傷があった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあっ⁉︎」
遅れてやってくるのは、ズキズキとした痛みと熱さ。
だがそれは直ぐに治る。
しかし、その斬られた痛みは消えない。
ローラはやっと、目の前にいる人物を睨んだ。
「あら。《秘匿されし聖女》って言うのは嘘じゃなかったのね。拷問がしやすくて有難いわ」
そこにいたのは蒼銀色の髪に菫色の瞳……真っ黒な装束を身に纏っているが、ミュゼよりも女性として成熟した色気を出す……ミュゼに似た女性。
彼女……既に嫁いでいたシェノア家の長女ミルカは全てを魅了するようなうっとりとする笑みを浮かべた。
「うふふっ。拷問官を呼び出すぐらいなんだもの。どれだけ悪いことをしたのかと思ったら……貴女、とーっても悪い子なのね」
ミルカは家族から話を聞いていた。
最初は理解できなかったが、幻術を使うマキナや翼を生やした人型の魔物の姿を見て……自分の妹が目の前にいる女の所為で何度も殺されたことを知っている。
それを聞いた時、腹わたが煮えくり返る思いだった。
自分の可愛い妹が、正当な主張をしただけのミュゼが冤罪で殺されること。
それがたかが一人の男の愛を手に入れるためだなんて。
それだけのために他の男を誑かすなんて、同じ女としても信じられない。
それに加えて今回の国家反逆罪だ。
テロリストに協力しただけでなく、この国の将来の要となる青年達を洗脳したこと。
そして、人々を混乱に陥れたこと。
加えて……五度目だという今回もミュゼを悪役扱いをしたこと。
全てを加味して、ミルカは目の前にいる自己中女を許す気はなかった。
「あ、あんたっ……‼︎」
「あら。わたくしにそのような口を利かないでくれるかしら?」
ざくんっ‼︎
「っっっっっっっ⁉︎」
ローラの口にナイフが侵入したと思ったら、唇の端から頬までを真っ二つに斬り裂かれる。
だが、それも聖女の力で簡単に治ってしまって。
ローラはボロボロと、涙と鼻水を溢れさせながら恐怖に身体を震わせる。
「………ぁ…ぁぁぁっ……痛い…痛いよぉ……」
「あらあら……怪我は治るのに痛覚は残るのね。なら、余計にやりやすいわ」
クスクスと、彼女は笑う。
とても綺麗な笑顔で、簡単に人をナイフで斬り裂く。
それを部屋の隅で見ていたエドワードとビビアンは……若干引き攣った笑みを浮かべた。
「うわぁ…姉上、すっごい生き生きしてらっしゃる……」
「ストレス溜まってらしたんでしょうか?」
「エド、ビビ。何を部屋の隅で突っ立ってるの。わたくしがいない時は貴方達が拷問を行うのよ?……あぁ、そうだわ。怪我が直ぐに治るならいい練習台になるわ。二人にもやらせるから、ちゃんと見ていなさい?」
「「………はい…」」
ミルカは暗部を率いるシェノア家の中でも一番に拷問を得意としていた。
《拷問の淑女》と呼ばれるほどに。
そのやり方は男であろうと女であろうと精神崩壊を起こし、肉体が壊れないようにじっくりねっとりと拷問していく。
しかし、今回の相手は聖女の力で身体の傷が簡単に治ってしまう。
聖女の力が使えなくなっても、ラグナの回復魔法もある。
つまり、今回の拷問はどれだけ酷くしても問題ないのだ。
加えて、ここ最近……旦那の仕事が忙しく、構ってもらえなかったことでミルカのフラストレーションが溜まっており……。
この期にストレス発散もしてしまうつもりだから、彼女は容赦なくその身体を壊す勢いで拷問することを決めていた。
「じゃあまずは貴女が隠していることを全て話しなさい?」
ミルカは血のついたナイフでローラの頬を撫でる。
しかし、ローラはボロボロと泣くだけで答えられない。
「………痛いよ……いたぃ……」
「はやく答えて頂戴」
「助けて…助けてよぉ……ラグナぁ……」
「もう。聞いてらっしゃるの?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあっ‼︎‼︎」
ローラは右手を痙攣させながら、目を見開く。
ぎろりっと自身の右手を見ると、親指の爪が綺麗に剥ぎ取られていて。
目の前にいるミルカによって、剥がれたのだと、理解する。
だが、その爪も直ぐに生え揃ってしまって。
流石のミルカも、その人外の治癒能力に……気持ち悪そうな顔をした。
「……流石のわたくしも、こんなに直ぐに治られると気持ち悪いと思ってしまうわ……《秘匿されし聖女》なんて言われているみたいだけど、実際には化物みたいですわね」
「………痛いよ…痛いよ……痛いよぉぉ……」
ローラは蓄積される痛みに涙を零す。
いっそ気が狂えたら楽なのに、一向に狂えそうにもない。
聖女の力が、肉体的にも精神的にも効いている所為だった。
「わたくしの質問は絶対です。もし答えないなら……今度は全部の指の爪を丁寧に剥ぎ取って差し上げますわ」
「ひぃっ⁉︎」
ローラは顔面蒼白でガクガクと震える。
こんな展開、ゲームで見たことがない。
こんな痛みを、ローラは感じたことがなかった。
どうしてゲームの世界なのにこんなにも痛いのか?
どうしてゲームの世界なのにこんなにも恐いのか?
ローラは意味も理解できずに震える。
目の前にいる拷問官に、恐怖する。
「さて。お話しなさい?貴女が知っていることを全て、事細かく、明らかに」
これは本当にゲームの世界なのか?
こんな残酷な世界、主人公のための世界じゃない。
やっと、ラグナへの執着を拗らせていたローラは……それに気付き始めたが……。
もうここまで来た時点で、手遅れとしか言えなかった。