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偽聖女の断罪


シリアスです。

今後もよろしくどうぞ‼︎







(……どういう…こと…?)



ローラは呆然としながら、この光景を見ていた。

本来ならば、この場に膝をつくのはミュゼ・シェノアのはず。

なのに、自分が取り押さえられている。

どういうことなのか、ローラは理解することができなかった。


「ご報告致します。まず、先ほど国家反逆罪と申しましたが……他にも多数の罪を犯しております」

「続けよ」


兵士団長はローラが犯した罪を報告する。

元王太子レイド、宰相子息ヴィクター、元騎士候補生ジャン……並びに公爵家子息アルフレッドの洗脳。

洗脳した元王太子から禁術の情報を提供させて、使用。

加えて、人身売買の関与。

ローラ・・・コーナー・・・・の意識を奪い、ヴィクター・ワークダルと共謀し娼館に勝手に売却。

その後、学園内にて複数人の生徒を洗脳したことでミュゼ・シェノアに精神的迫害を行使。

また、元王太子から提供させた禁術は、国家テロリスト《邪竜教》へと流されたことが分かっており……しかし、現王太子レイファン主導で捕縛したことで、テロが起こるのは未然に防ぐことができている。

よって、これらまとめて国家反逆罪と称した。



「なお、使用した禁術は……魂の交換。言うならば肉体の入れ替えです。よって……この場にいる女は、アリシエラ・マチラスの肉体を奪ったローラ・・・コーナー・・・・です」



人々はそれを聞いて騒つく。

禁術の使用が、禁止されているのは誰だって知っている。

加えて、他人の身体を奪ったことや洗脳したことなど……普通だったらあり得ないことをしでかした異常な女に、その場にいた者達は怯えた。


「待ってくれっ‼︎では、わたしの孫娘……本物のアリシエラはどこにいるっ‼︎」


そこで叫ぶような声で聞いてきたのはナイゼルだった。

彼が動揺するのも仕方ないだろう。

自分の孫娘だと思っていた少女の中身が、別人だと知ったら……動揺しない方がおかしい。


「………彼女は無事に見つけ出して救出しております。ですが…先ほども言ったように彼女は無理やり娼館に売られておりました。何をされたかは言わなくてもお分かりですよね?」

「…………っ…‼︎」


娼館と言われれば誰でも、その場で行われることを想像できる。

兵士団長はそっと視線を伏せて答えた。


「現在は心身のケアのために教会に身を寄せています。聖女ヴィクトリア様も気にかけておられるそうです。ですから……ひとまず、彼女は無事であるとしかお伝えできません」

「………あぁ…なんてことだっ……‼︎」


ナイゼルはそれを聞いて崩れ落ちる。

流石の彼でも、この現状で立っていることができなかった。


「加えて、《邪竜教》に流した禁術は邪竜を召喚するもの、邪竜をその地に縛りつけ、力を奪うもの……邪竜を操る禁術でした。《邪竜教》は邪竜の力を持って世界を滅ぼし浄化することを悲願としております。このことからも、彼女はこの国を滅ぼす……いえ、世界を滅ぼすことに加担しているかと」

「違うわっ‼︎世界を滅ぼそうだなんてっ」

「黙れ‼︎」

「痛いっ‼︎」


押さえつける兵士が更に力を込めて、ローラの拘束を強くする。

ローラは歯を噛み締めながら、ミュゼを睨みつけた。


「こんなおかしい展開シナリオ、ゲームにはなかった‼︎あんたが仕組んだのっ⁉︎なんで主人公ヒロインの邪魔をするのよっ‼︎悪役の癖にっっ‼︎ラグナの隣に立つのは、私なのにっっ‼︎」

「黙れと言ってるだろうっ‼︎」

「きゃあっ‼︎」


とうとう、地面に顔を押しつけられるようにして無理やり黙らさせられたローラ。

しかし、その眼はミュゼを睨み続けていて……。

ミュゼはその眼を、静かな瞳で見つめ返した。


私は・・何もしてないですよ、ローラ様」

「…………っ‼︎」


そう、ミュゼは何もしていない。

したのは……ラグナなのだから。

ただミュゼは彼の隣で、彼を愛していただけだ。

兵士団長は、ローラの姿を見て……人々に教え込むように口を開いた。


「………さて…今のでお判り頂けたかと思いますが、どうやら彼女は精神異常者のようなのです。彼女はこの世界がゲームだと思っているらしい。そして……彼女がこのような国家反逆罪まで犯して手に入れようとしたのは……ミュゼ・シェノア嬢の婚約者……ラグナ・ドラグニカ殿の寵愛だと判明しました」


どうやらこの世界を男性の寵愛を求めるゲームだと思っていたローラ・コーナーは、主人公ヒロインの器としてアリシエラ・マチラスの肉体を奪った。

そして、ラグナ・ドラグニカの寵愛を得るために……恋の障害としてミュゼ・シェノアを悪役にしたてあげた。

洗脳によってミュゼに精神的攻撃をしたのは、ラグナから離れさせるためだったのだろうと、兵士団長は語る。


「ミュゼ嬢とアルフレッド殿が婚約している際、彼は既にローラ・コーナーの洗脳下にあった。その時期にミュゼ嬢がアルフレッド殿を始めとする生徒達から罵詈雑言を浴びせられていたのを、生徒の皆さんはよく知っているでしょう」


そう言われた生徒達は青ざめた顔で黙り込む。

生徒達は、特に確証もないまま意味もなく……ミュゼを売女だと罵っていた。

今思えば、彼女は正しいことしか言っていなかったのに。

婚約者がいる男性と親しくしていたローラを注意していただけだ。

それなのに何故か、ミュゼの方が悪者のような扱いを受けていた。

それらが全て、ローラの洗脳によるものなのだと分かり……恐ろしいことに加担してしまったと、今、知ったのだ。


「洗脳されていたとはいえ、ミュゼ嬢に罵詈雑言を浴びせたことに変わりありません。皆さんも罪を償いなさい」


兵士団長の声に生徒達は悲痛な顔で俯く。

陰鬱な空気になりながらも、兵士団長は「話を戻しましょう」と続けた。


「よって、これらの凶行は全て、ラグナ殿への異常な執着が起こしたものとも言えるのです」

「では、ラグナ殿が此度の国家反逆罪の原因だと言うのか?」


国王陛下の質問に兵士団長は「いいえ」と首を振る。

そして、静かに……ミュゼとラグナを見た。


「ラグナ殿はローラ・コーナーという女を知っていましたか?」

「いいや、知らない。というか、ローラ・コーナーに会ったことすらない。確かに、学園では会ったこともないそこの女がいきなり親しい友人……いや、今思えば恋人ような振る舞いで接してきていたが……喋ったこともないのにくっついて来られて、気味が悪かった」

「っっっ⁉︎」


まるで汚物を見るような目で見られたローラは、目を大きく見開いて涙を零す。

しかしラグナは止まらない。


「俺はミュゼしか愛していないからな。そもそもミュゼ以外、興味もない。だから俺がその女に好意を向けることはあり得ないのに……そいつは執念深く付きまとってきていたんだ」

「………以上のことから、ローラ・コーナーが一方的にラグナ殿を知っていたと考えられます。そうなると思いつくのは……ラグナ殿を尾行ストーキングしており、自分が愛されるべきだと思い込んだのかと。ゆえにその隣にいるミュゼ嬢が許せなかったのではないかと」


若干の作り話を混ぜながら、兵士団長は語る。

だが、真実を織り交ぜながら語る話をその場にいた人達は信じた。

それを証明するように、ローラがラグナの隣にいるのは自分だと叫んだり、ミュゼを悪役だと罵ったから。


「だが、アルフレッド殿の件はどうなる?」


国王が指し示すのは社交界でも噂となっている媚薬の件だろう。

それを聞いた兵士団長は、「そちらもご報告します」と懐から違う紙を取り出した。


「マチラス子爵家で働く者達から聞きましたが……どうやら、ローラ・コーナーは夜間にラグナ殿が訪ねてきたと話していたそうです。ですが、それはアルフレッド殿で……媚薬を用いたことでアルフレッド殿は、ローラ・コーナーからの誘いを断れなかったそうです。なお、使用した媚薬は娼館でも使われるような中毒性が高く……精神異常をきたす作用があるモノであり、ローラ・コーナーがアルフレッド殿として認識しなかったのはその媚薬の所為かと思われます」

「成る程……薬の所為でおかしくなっていたということか?」

「えぇ。そう考えるのが妥当かと」


ローラはそれ聞いて反論しようとするが、押さえつけられている所為でそれすらも敵わない。


「精神異常者と判断するには充分でありますが、情状酌量の余地はないかと思われます。《邪竜教》というテロ組織に禁術を流したのは勿論、肉体交換や洗脳も禁忌です。よって、それ相応の対応をするべきかと」

「……………」


国王陛下はそれを聞いて黙り込む。

静まり返る会場。

数十秒の沈黙の後、国王陛下はゆっくりと頷いた。


「ローラ・コーナーを第一級犯罪者として捕縛する。並びに他にも情報を隠しているかもしれない。なんとして・・・・・でも口を・・・・割らせよ・・・・

「はっ‼︎連れて行けっ‼︎」

「っっ‼︎嫌よっ‼︎」


兵士団長の合図でローラは無理やり立ち上がらせられる。

彼女はその場に留まろうとするが、兵士達はローラを引きずって会場から出て行こうとした。


「どうしてっ⁉︎おかしいでしょうっ⁉︎私はヒロインなんだからっ‼︎ゲームの世界なんだからハッピーエンドにならなきゃ……ラグナと結婚しなきゃおかしいでしょうっ⁉︎なんでなんでなんで‼︎ラグナ、助けてよっ‼︎」

「即刻連れて行け‼︎」

「嫌嫌嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ‼︎」


ローラはみっともなく泣きながらラグナに救いを求める。

しかし、彼はそれに答えない。

答える気もない。


こうして……連れて行かれたローラを見て、会場は静まり返っていた。


「………流石にこのような空気の中、パーティーを続行するのは不可能だろう。ミュゼ嬢へ謝罪したい者もいるだろうが……今宵することではない。ひとまず、解散せよ」


国王陛下の一言で、この卒業パーティーが中止になる。

しばらく人々は動揺の中にいたが……一人、二人と少しずつ帰り始めた。



そんな人々を見ながら、ラグナは薄っすらと笑みを浮かべる。




これで卒業パーティーで行われるはずだった……ゲームのシナリオ的に言えば、悪役令嬢ミュゼへの断罪は偽聖女ローラへの断罪へと変わる。




しかしまだ序幕だ。



これからが、本番。




「ミュゼ。お前を苦しめた女への復讐を見に行こう」

「はい。ラグナが行く場所に、私もお供するのです」



二人は微笑み合いながら、ダンスホールを後にした。






そして……舞台は変わる。







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