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初デートと(今回)初拉致(2)









ラグナは女性達に囲まれながら、笑った。




あんなに忠告したのに、この国は愚かな奴ばかりいるらしい。


だから、彼は抑えていた殺意を放った。



「ひぃっ……」



周りにいた女達が泡を吹いて倒れる。

抑えていたモノを解放する瞬間が一番、力が漏れやすい。

ほんの一瞬ではあったが、ラグナの魔力に当てられたのだろう。

死んではいないだろうが、数日間は目覚めない気がする。



それでもラグナは殺意それを収めない。



周りの人間が死なない程度に殺気を抑えて……とても綺麗で、とても恐ろしい笑みを浮かべる。





場合によっては、この国さえ滅ぼすつもりだった。






*****








「急に申し訳ありませんでした、ミュゼ嬢」




目隠しを取られると、そこは古びた屋敷だった。

破れた暗幕カーテンから僅かな光が差し込む。


身体は縄できつく縛られていて、椅子に縛り付けられている。


目の前にいたのは……三回目の人生で特に彼女アリシエラと親しくしていたこの国の宰相の息子ヴィクター・ワークダルだった。


焦げ茶色の髪に青い目。

整った顔立ちをしているが、眼鏡の奥の瞳は酷く冷たい。

ミュゼはあぁ、またか……と思ってしまった。


「なんでここに運んだかはお分かりですか?」

「いいえ、分からないです」

「………ハッ…減らず口を」


ヴィクターは彼女の髪を掴んでグイッと顔を上に上げる。

そして、酷く冷たい顔で告げた。


「君の所為で我が国はおかしくなりました」

「何故、私の所為なんですか?」

「君が邪竜を呼んだからです」

「彼は彼の意思で来てくれただけですよ」

「………生意気な口をききますね…」

「それはどうも」


以前の彼女だったら、こんな口が利けなかっただろう。

しかし、ミュゼは静かに微笑んでみせる。

ただヒトリ、自分を想ってくれる人がいた。

それを知った今はいつ死のうと覚悟はできていた。

だからミュゼはこんな大胆な話し方ができるようになったのだ。


「で?私をどうするんですか?殺しますか?」

「えぇ……殺しますよ。ただし、この国を狂わせた責任は取ってもらいます」

「責任、ですか」

「…………殺す、というところには反応しないのですね」


ヴィクターは怪訝な顔をする。

普通の人間ならば責任よりも殺すというところに反応するのだろう。

しかしミュゼは既に四度死んでいる。

今更だった。


「あははっ、死んだことのない貴方には分からないでしょうね‼︎」

「…………何…?」


ミュゼはとても落ち着いた顔で微笑む。

でも、その笑顔はどこか歪だった。


「人間、一度死ぬとおかしくなるんですよ。それが四回もだと尚更」

「………………」

「死ぬのは怖いです。身体が震えるくらいに。発狂しそうなくらいに。でも、彼が私を見つけてくれたから……彼はどこまでも私を信じてくれるから、死ぬのは怖いけど絶望せずに死ねるんです」


ミュゼは正しく狂っていた。

そして、彼女の経験が……ヴィクターの嘘を見抜いていた。


「それに……貴方の言った国のためというのは嘘でしょう?」

「………どういう、意味です……?」

「正しくはアリシエラ様のためなのではありませんか?」

「………っ‼︎」


ヴィクターの瞳が動揺に揺れる。

カマをかけてみたのだが、成功したらしい。

ミュゼは困ったように笑った。


「あぁ、やっぱり。私はアリシエラ様のために殺されるんですね?その理由はなんです?」

「………それは…彼女が貴女は死ぬべき存在だと言ったから」

「彼女は神様なのですか?彼女が私は死ぬべきと言ったから、死ぬのですか?ただ一人の一存で?」

「っ……アリシエラを侮辱する気ですかっ‼︎」


パンッ‼︎

ヴィクターがミュゼの頬を叩く。

叩かれた弾みで彼女の口が切れて…口の中に血の味が広がった。

ヴィクターは激昂したように叫んだ。




「アリシエラは〝聖女〟なのですっ‼︎その彼女が死ぬべきだと言ったなら貴女は死ぬべきなんだっ‼︎」




その言葉にミュゼは目を見開いた。

絶句、に近いかもしれない。


「………聖女、ですって…?」

「っ‼︎謀りましたねっ……⁉︎」

「………貴方が暴露しただけですよ」


ミュゼはアルフレッド達が彼女を心酔している理由がやっと分かった。

聖女とはこの世界で唯一、不思議な力を持つ乙女達。

その存在がいるだけで、その国は豊かになると言われている、神に祝福されし存在。

人々が寄せる信仰の対象、信仰の象徴。

しかし、この国には既に聖女と呼ばれる方が存在する。

一国に二人の聖女がいては、国際問題にすら発展するだろう。

それほどまでに聖女というのは影響力があるのだから。

つまり……アリシエラは〝秘匿されし聖女〟であるのだ。

ヴィクターがそれを知っているのは、アリシエラが教えたか、聖女の関係者であるかのどちらかなのだろう。


「………つまり…私は聖女によって死ぬのですか」

「…………えぇ。大人しく死になさい」

「嫌だと言ったら?」

「死ぬ定めは変わりません」


彼は知らないのだろうか?

自分に何かあったら、ラグナがこの国を滅ぼすと言っていることを。

ラグナと国王の交渉は最重要国家機密になったらしいから、宰相の子息とはいえ聞かされていないのかもしれない。

だが…アルフレッド達と同様にアリシエラに心酔しているなら、彼らから聞いているはずだ。


(あぁ……もしかして、あの二人、軟禁されてるのかも……)


そう考えるとミュゼを恨んでいそうな二人ではなく、ヴィクターが動いたのも納得できる。

ミュゼはどうせ死ぬなら、と笑いながら聞いた。


「ちなみに…私はどう死ぬんです?」

「僕は手を下しません。貴女の身は盗賊、もしくは闇売人に売り渡します。今更、〝一人・・〟や〝二人・・〟……変わりませんからね」


最後の言葉にミュゼはぴくりっと反応する。

どうやら目の前の男は既に、悪に手を染めているらしい。


「貴族であり、アリシエラほどではないにせよ美しい容姿を持ちますからね……最悪な趣味を持つ悪趣味な奴に買われるか、娼婦にでも身を堕とされるんじゃないんですか?」

「それじゃあしぶとく生きるかもしれませんよ?」

「身を汚され、売女にまでなるのは死より辛いでしょう。その内、遊び半分で殺されるか、自死すると見越していますから」

「………ふぅん、そうですか」

「………驚かないのですね」


ミュゼはにっこりと微笑む。

そして、彼の言葉のおかげでこの治安の良い王都で襲われて死んだ理由が分かった。

あの時のことは、この男が手引きしたのだろう……と。

怖くて怖くて逃げたいけれど、仕方ない。


「その結末は惨殺されるより痛くなさそうなので」

「……………惨殺…?」

「それに私はもう彼に愛してもらえました。だから絶望せずに死ねると言ったでしょう?」


誰も味方がいなくて恐怖に震えてた頃とは違う。

ただ、誰かに寄り添ってもらうこと。

それだけでミュゼは強くなった。



「さぁ、どうぞ?私を殺して下さい」



ヴィクターの顔が固まる。

まるで得体の知れない化け物を見て怯えているかのようで。

実際にミュゼの笑顔は酷く、酷く美しくて。

その場に不釣り合いなそれは、いっそ禍々しいほどに不気味だった。



だが、それよりも最悪なのは……。



その場に、ラグナの姿があったことだった。




「簡単に殺して下さい、なんて言うもんじゃないぞ。ミュゼ」



黒い影に紛れるように、ゆったりとした足取りでミュゼの背後に現れるラグナ。

彼女はきょとんとしながら、首だけを後ろに回した。


「………あれ…?ラグナ、いたんですか?」

「あぁ。朝、首にキスしただろ?マーキングしてたからな…直ぐに追いついた。でも、この馬鹿が独白してたからな…少し我慢して姿を消してた。頑張って殺意を抑えてたんだ。褒めてくれ」


そう言った彼は、爪を少しだけ伸ばしてミュゼの身体を拘束していた縄を断つ。

そして、するりとその身体を抱き締めた。


「殺意を抑えてて褒めてくれって……まぁ、良いですけど。偉いですね、ラグナ」

「ふふっ……頭、撫でて?」

「良いですよ」


ヴィクターは微笑み合う二人の姿を見て、恐怖に震えて失禁していた。

ラグナから放たれる殺気は痛みすら感じるほどに凶悪で、身体がいうことを利かない。

それを隣にいながら平然とした顔で微笑むミュゼも、何故、そんな殺気の中で普通にしていられるのか分からなくて。


だが、ヴィクターはもう一つ、失敗していた。

それは……。


「ミュゼ?その口は……」

「……ん…?あぁ…平手打ちされた時にちょっと切っちゃっただけでー……」

「………あぁ…やっぱり、人間は愚かだ」

「ひぃっ⁉︎」


ラグナはヴィクターを睨みつける。

ぐわんっ‼︎と彼の身体が浮いたと思ったら、次の瞬間には壁に叩きつけられていて……バキッ……と嫌な音がした。

ヴィクターは痛みのあまりか、あっさりと意識を手放す。

しかし、ラグナの怒りは収まっていなかった。


「この国、滅ぼすか」

「えっ⁉︎」

「ミュゼに何かあったらこの国を滅ぼすと国王に言ってたからな……仕方ない」


冗談ではなさそうな雰囲気にミュゼは慌てる。

流石に関係ない人が死ぬのは彼女にしても気分が悪い。

だからミュゼはパンッと彼の両頬を両手で挟んだ。


「もう、大丈夫ですよ‼︎ちょっと切っただけですから‼︎」

「…………だが…」

「そんなことより…ラグナが関係ない人の命まで奪っちゃう方が嫌ですから。それに今回はラグナが悪いんですよ?」

「俺?」

「はい。他の女性に囲まれてて私を一人にしたからです。ラグナがずーっと私の隣にいたらこんなことにはならなかったでしょう?責任転嫁はいけません」

「……………うっ…」


頬を膨らませて怒ったフリを装えば、ラグナはころっと騙されて申し訳なさそうな顔をする。

ミュゼはムスッとしたまま、そっぽを向いた。


「さてラグナ?何か言うことはありますか?」

「………一人にして、悪かった……」

「そうです。ラグナからデートだって言ったんですよ?」

「はい…そうです……ごめんなさい……」


しゅん……としてしまったラグナは、子犬のように凹んでいて。

それを見たミュゼは小さく笑った。


「反省したなら良いです。じゃあ戻りましょう?」

「………あぁ…」

「あぁ、でも」


ミュゼは頬を赤く染めて、彼の耳に唇を寄せる。

そして秘密を明かすように、小さく告げた。




「他の女性に目移りしたら…私が悲しいので、そこは覚えておいてくれると嬉しいです」




「…………っ…‼︎」





ラグナは顔を真っ赤にして彼女の顔を見る。






林檎りんごのように赤い顔を見て…ミュゼは悪戯いたずらが成功した子供のように無邪気に微笑んだ。








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