そして、邪竜と花嫁は……本当の意味で結ばれる
【注意】
ちょっとR-15かもしれません?
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最近、社交界で噂になっているのは公爵家子息と子爵家令嬢の婚姻の話だ。
急な話であるのだが、半年後に結婚式を挙げることになったらしい。
普通ならば公爵家と子爵家の婚姻が成されることはない。
だが、この婚姻は子爵家令嬢が娼館でも使われるような媚薬を用いて……致したことが原因なのだと、噂されていた。
それを聞いた貴族達は、様々な反応をする。
媚薬を用いられ、責任を取る羽目になったレンブル公爵家へ同情。
洗脳が解けた者達の、アリシエラ・マチラスへの怒りや嫉妬。
未だに解けていない者達は、彼女がそんなことをするはずがないと庇うほどだ。
しかし、情報戦が重要となってくる貴族社会ではその噂は直ぐに広まった。
そうなると、否応なしに人々は公爵家子息の元婚約者に注目することになる。
彼女が、どんな反応をするか……を。
*****
学園から帰って来た二人は、ミュゼの自室で相変わらずお膝抱っこで寄り添っていた。
ラグナはミュゼの髪を指で梳きながら、クスクスと楽しそうに笑う。
その目には千里眼による力で、エイスがレンブル公爵家とマチラス子爵家の醜聞の情報を流しているところが映っていた。
「楽しそうですね?ラグナ」
「あぁ、楽しいさ」
「今は何を視ているんです?」
「エイスが情報をバラ撒いてるところだな」
淫魔というのは、相手の懐に入りやすい……言ってしまえば人を魅了することが得意な種族だ。
その力を使えば、さり気なく初めからいた友人のような振る舞いをすることだって可能だし、いつの間にか話の中に紛れ込むことだって可能なのだ。
本来ならば、聖女の誘惑よりも中毒性が高く、危険な力なのだが……淫魔は魅了を使わなくても、特有のフェロモンで精気などが集められる。
だが、今回ばかりは、エイスは普段はあまり使わない力をほんの少しだけ使って、誰にも警戒心を抱かれず……その噂を広めていた。
相手に、その噂を強く印象づけるために。
「あぁ……学園でもローラ様が凄い目で見られてるのはその所為なんですね」
「大変だったが、もう殆どの生徒の洗脳は解けてるからな。あの女も再洗脳するほどの余裕はねぇだろ。ってことは、結果的にもうあのクソ女に味方はいないってことだな」
「針の筵ってヤツですね」
ミュゼは学園の様子を思い出しながら、クスクス笑う。
最近の学園では、ローラは様々な視線に晒されている。
それは恨み、怒り、嫉妬、軽蔑……複雑なモノばかりだ。
それに加えて〝淫乱〟や〝売女〟などの悪口も言われているらしい。
ミュゼは興味がないが。
「まぁ、精神的に追い詰められていくだろ」
「ですね」
ローラが媚薬を使って、アルフレッドに自分を襲わせて責任を取るカタチで婚姻することになったと思われているのだ。
レンブル公爵家としては、被害者面ができるためその情報を積極的に消そうとはしていない。
しかし、相反してマチラス子爵家には大ダメージだった。
自家の娘がそのような卑劣な真似して公爵夫人の座を手に入れたと思われているのだ。
今まで親しくしていた家との繋がりも途絶え始めているだろう。
ゆえに、マチラス子爵家当主は少しでも後ろめたいことがないと虚栄を張るためにも。
未来の公爵夫人として学園に通わず引き篭もることも、ローラに許さなかった。
好きでもない男に純潔を奪われ、周りの悪意に晒されている状況は……ラグナが好きな彼女には耐え難いだろう。
しかし、ローラは逃げられずにその状況に晒されるしかない。
精神的な攻撃も、ラグナの復讐の一つと言える。
となると、次に行うのは肉体的な復讐だ。
ラグナは次の復讐を考えて、ほくそ笑んだ。
………と、そこまでいって、ラグナはふと思い出す。
そして、腕の中にいる愛しい花嫁に聞いてみた。
「ところで……公爵家子息を利用したら、ミュゼも変な目で見られて大変じゃないか?」
「……………え?」
「元婚約者の醜聞だ。ミュゼも周りの奴らに興味津々な様子で見られてるだろ?」
「………あぁ…」
ラグナに言われてミュゼは思い出す。
確かに、アルフレッドの元婚約者としてミュゼがどんな行動をするのか?
そんな野次馬目線で見られることが多くなった。
しかし、ミュゼの行動規範はラグナだ。
興味を抱くのも、慈しみたいのも、愛したいのもラグナだけで。
全ての事柄においてラグナ以上に大切なモノはないし、ラグナが関わらないなら向けられる視線も無いと同然で。
だからミュゼはにっこりと微笑んだ。
「私はラグナがいれば他がどうなろうと構わないです。だから、周りの視線なんて気にしてないですよ?」
「……だろうなぁ…」
ラグナは嬉しそうに頬を緩ませる。
彼女の、毛先だけが自分の色に染まった蒼銀色の髪を指で梳きながら、ミュゼのこめかみに優しくキスをする。
「俺はお前が愛おしいよ」
「………ラグナ?」
「可愛い可愛い俺のミュゼ。何度も殺されて心が壊れて。生死すら構わないと、最近はそう言わなくなかったことに気づいているか?」
「………そう、でしたか?」
そう言われれば……記憶を思い出した頃は、死んでても生きててもどっちでもいいと思っていた気がする。
それは今でも変わらないが……。
「でも、今は俺以外はどうなったっていいって言うのが口癖になっているんだぞ?」
ミュゼは最近の口癖をおもいだす。
………彼女は少しだけ、へにゃりと困ったように笑う。
「………迷惑、です?」
「まさか‼︎俺のことを愛しているからそんなことを言うんだろう?そんなお前が迷惑なはずないだろう?」
ラグナはミュゼの指先に、頬に、目元に、鼻に……キスの雨を降らせる。
「俺に依存して、俺以外のことがどうでもよくなるくらいに俺が一番で。そんなミュゼが愛おしくて愛おしくて堪らないよ」
「………ラグナ…」
「………狙った訳ではないが……まさか、今、終わるとはな」
「?」
ラグナは彼女の姿を見て、顔を蕩けさせた。
ミュゼの毛先は漆黒に染まり、その菫色の瞳にはキラキラと黄金の光が混ざっている。
漂う魔力は邪竜と同質。
やっと、やっと。
ミュゼは完全なる《邪竜の花嫁》へと変貌を遂げた。
「ミュゼ」
「はい」
「この復讐が終わったら、俺の箱庭に行こうか」
「…………え?」
「ミュゼはもう完全に俺の花嫁だ。だから、俺の箱庭に連れて行っても、死なない」
やっと、本格的にミュゼを愛せることにラグナは喜びを隠せない。
人間の性質が残っていたら、ミュゼがラグナと肌を重ねたり、箱庭に来たりしたら、異形化しただろうが……その憂いはなくなった。
だから、彼はこの復讐が終わったら彼女を連れ去る。
自分が創った箱庭に、彼女を連れ去って……骨の髄まで蕩けるように愛したい。
誰の目にも触れないところで、自分だけを愛して欲しい。
ラグナは、愛しい花嫁への想いを抑えることを止めた。
「嫌だと言ってもミュゼに拒否権はないんだけどな。俺はお前を攫うよ」
「………まさか。私が断ると、拒否すると思ってるんです?」
「思ってないよ」
「うふふっ」
ミュゼも蕩けるような笑顔を浮かべる。
ラグナが、ずっと自分が完全な《邪竜の花嫁》になるのを待っていたのを知っている。
だからこそ、今、その熱い熱い欲望が宿った瞳で見つめてきていることが……答えになる。
やっと自分の身体が変わったのだと。
人間でなくなったのだと。
ラグナに愛されて、問題がない身体になったのだと。
「ラグナ。大好きな、大切なラグナ」
「……ミュゼ…」
甘えるように。
我儘を言うように。
ミュゼは彼の耳元で囁く。
「どうか私の全てを、貴方のモノにして欲しいのです。何もかも、分からなくなるほどに……ラグナだけで埋め尽くして?」
唯一の最愛にそんなことを言われたら、我慢できるはずがない。
「ミュゼっ……」
噛みつくように奪う唇。
何度も、何度も、角度を変えて。
何度も、何度も、深さを変えて。
全てを蹂躙するように舌を絡ませ合い、指先を絡める。
至近距離で絡み合う視線は、熱に侵されてただ相手を奪うことしか考えられない。
その日、ミュゼとラグナは……深く繋がった。
*****
月の光が優しく室内を照らす。
隣で眠る、愛しい花嫁の寝顔を見ながら……ラグナは嬉しそうに微笑んでいた。
やっと、愛しい花嫁の全てを手に入れることができた。
滑らかな肌も、あの艶やかな姿も、蕩けた顔も……ラグナの欲求を大いに刺激し、少しやり過ぎてしまったほどだ。
「………あぁ…《破滅の邪竜》たる俺が幸せになるなんて……」
《破滅の邪竜》ゆえに彼がずっと感じてきたのは、怨嗟、憎悪など負の感情ばかりだ。
それは自身が感じるものではなく……他者の感情だったが。
破滅を司る以上、正の感情を抱くことはないと思っていた。
しかし、今、この腕に愛しい花嫁を抱いていることがこんなに幸せだなんて……思いもしなかった。
この唯一の幸福を、手放したくないと強く思ってしまう。
「ははっ……きっと俺はもう、世界が滅ぼうとお前を手放せないよ」
たとえ、ミュゼの家族を殺すことになっても。
自身の眷属達が死のうとも。
ラグナはもう、ミュゼしか慈しめない。
ミュゼしか大切にできない。
たとえ、ミュゼの身に邪竜の子供が宿ることになっても。
ラグナはミュゼしか愛さない。
だが、それがとてつもなく幸福だった。
「………愛してるよ、俺のミュゼ」
その執着心はいっそ狂気的で。
しかし、壊れた花嫁と邪竜にはお似合いなのだろう。
ラグナは、優しく微笑みながら……彼女の唇に優しくキスをした。
本当の意味で結ばれるまでが長かった‼︎
ローラとミュゼの対比になりましたね‼︎