公爵家子息は全てを奪われ、舞台の準備は終わる
【注意】
シリアス&グロテスクです。
本気で苦手な人は逃げて下さい。
今後も頑張りますので、よろしくどうぞ‼︎
ラグナから聞かされた話は、信じられないことばかりだった。
何度も時間を繰り返していること。
ミュゼがその度に殺されていること。
自分が洗脳されていたこと。
アリシエラとローラの魂が入れ替わっていること……など。
アルフレッドは信じられないと思いながらも、目の前にいる《破滅の邪竜》の存在から……信じるしかなかった。
「まぁ、とにかく。お前らはミュゼを殺してきた。だから今、俺がお前らに復讐をしている」
「………復、讐?」
「あぁ。宰相子息は魔物達に穢されてから監獄送り。元騎士候補生は……斬りつけては治すという拷問をしてから、教会送り。まぁ……今は魔物になり始めてるか。で、元王太子は廃人にした」
「っっっ⁉︎」
その言葉にアルフレッドは愕然とする。
その三人は、全員がアリシエラの取り巻きになっていた者達だ。
つまり……。
「勿論、お前も復讐の対象だぞ?」
ラグナは笑う。
ケラケラと、楽しそうに。
「来い」
ラグナの影がねっとりと隆起して、ベチャッ……と気持ち悪い音をたてながら何かが這い出てくる。
それを見た瞬間……アルフレッドは「ヒィッ⁉︎」と後ずさった。
『お呼びですが、邪竜様』
「あぁ。お前に人間の器をやろうと思ってな」
ラグナの足元にいたのは、気持ちが悪い粘液を纏った何か。
ミミズのような、蛭のような。
ワームのようでもある、意味の分からない生き物。
ただ言えるのは、気持ちが悪い悍ましさを感じさせる存在だった。
ラグナは足元の存在を指指し、ミュゼに紹介した。
「こいつの名はパラサイト。まぁ、その通りに寄生虫だな。俺の眷属だ」
『どうも、初めまして。花嫁様』
「初めましてです、パラサイトさん」
『おや、わたしの容姿を気味悪がりませんか。素晴らしい娘さんですな、邪竜様』
「だろう?」
パラサイトの喋り方はどこか年寄り染みたモノで、ミュゼはなんの警戒もなくにっこりと笑いかける。
その笑顔を見てパラサイトは『ホッホッホ』と笑った。
『さて……器を頂けるということでしたが、その青年ですかな?』
「あぁ。ミュゼを俺の目の前で刺し殺した。そして、五回目もあのクソ女の取り巻きになっていたんだ。だから……」
アルフレッドはそれを聞いてガバッと顔を上げる。
そして、決死の形相で懇願した。
「お願いだっ、助けてくれっ‼︎」
「……………」
「時間を繰り返していると言われても、ボクには分からないんだっ‼︎だって、そんな記憶ないんだからっ‼︎殺したと言われても、それはボクじゃないっ‼︎それに、洗脳だってされていたんだろうっ⁉︎情状酌量の余地ぐらいあるだろうっ⁉︎」
動揺のあまり素が出るほどにアルフレッドは、懇願した。
確かに、タイムリープした今、ミュゼを殺したのはここにいるアルフレッドではなく……四回目のアルフレッドだ。
それに洗脳だってされていた。
そうなると……アルフレッドの言う通り、情状酌量の余地があるだろう。
しかし、それは人間の中で、の話だ。
「なぁ」
ラグナは心底不思議そうな顔で、アルフレッドを見つめる。
そして、子供に諭すように……優しく語りかけた。
「俺は邪竜だ。破壊の象徴、滅びの権化……《破滅の邪竜》だ」
「………へ?」
「なんで、お前達人間の考え方に従ってやらなければいけない?」
アルフレッドが言ったことは間違いではない。
しかし、それは人間の考え方としての話で。
ここにいるラグナは人間ではない……人ならざる存在なのだ。
ゆえに、アルフレッドの言う情状酌量の余地を考える理由がなかった。
「俺は人間じゃない。それにお前に情けをかけてやるつもりもない。ミュゼという存在しか、例外はないんだよ」
「………ぁ…」
それをやっと理解したアルフレッドは思考を巡らせる。
頭痛など構うものかと、考えて考えて自分に起こるだろうことを推測する。
寄生虫と、言った。
そして、新たな器を与えると。
そこから考えられるのは……自分がこの寄生虫の器になるということ。
それが分かってしまったからこそ、アルフレッドは慌ててこの現状を打破する解決策を考える。
そして……ラグナの言葉から、それに辿り着くのは必然だった。
「ミュゼっ‼︎」
邪竜の唯一……。
それを認めるのはなんとも言えない複雑な気持ちになったが、アルフレッドは自分が生き残るために彼女に声をかけた。
彼女ならば、邪竜の復讐から……アルフレッドを救ってくれると信じて。
「どうかっ、君からも彼に言ってくれっ‼︎」
「……………」
「四回目のボクと、今回のボクは違うっ‼︎洗脳されていたっ‼︎だからっ……」
「………えっと……何が言いたいんです?」
しかし、アルフレッドの願いは叶わない。
それはそうだ。
ミュゼだって……もう彼が知るミュゼではないのだから。
「アルフレッド様は私に何をさせたいんですか?」
「だからっ……復讐しないようにとっ……彼を止めて……」
「どうしてです?」
「え?」
ミュゼは首を傾げて不思議そうな顔をする。
そして……告げた。
「ラグナが楽しそうにしているんです。なんで止めなきゃいけないんですか?」
「………え?」
ミュゼはラグナに近づいて、彼の頬を撫でる。
ゆっくりと……触れるか触れないかの力加減で。
「ラグナは《破滅の邪竜》です。だから、復讐をしている時はとっても楽しそうです。大好きなラグナが楽しんでいるのに、どうして止める必要があるんですか」
「……………」
アルフレッドはそれを聞いて言葉を失う。
彼は知らなかった。
ミュゼが壊れてしまっていて、ラグナ以外の……自身の生死を含めた全てがどうでもよくなっていることに。
人間ではなく、《邪竜の花嫁》という人外の存在になっていることに。
だから、ミュゼにはラグナを止める気はない。
ラグナが楽しんでいるのなら、それを見守るだけだ。
「ボクはっ‼︎君の元婚約者だろうっ⁉︎」
「ですね」
「なら、少しぐらい助けようとー」
「思わないですよ。私にとって大事なのはラグナだけなんですから。だから……貴方が死のうがどうでもいいです。せめて、ラグナを楽しませて死ぬんですよ?」
そう……今まで見たことがないようなとても綺麗な笑顔で告げる元婚約者を見て……アルフレッドは絶句する。
やっと。
やっと彼は気づいたのだ。
ミュゼが、壊れていることに。
おかしくなっていることに。
そして……そこにいる彼女は、ラグナのモノになっていることに。
ゆっくりと近づいてくるラグナに、アルフレッドはハッとする。
ミュゼが自らの手から離れていったことに、虚しさや悲しみを抱いていた気持ちが霧散して、直ぐに恐怖に塗り替えられる。
それほどまでに、彼が恐かった。
死を告げる使者のように、恐かった。
「嫌だ……嫌だっ‼︎死にたくなー……」
アルフレッドはボロボロと涙を零しながら、逃げようとするがそれよりも先にラグナが魔法で拘束する。
「大丈夫だ。死にはしない」
ラグナが魔法でアルフレッドをうつ伏せにして、手足が動かないようにきつく、地面に縫い付ける。
顔も暴れないように固定されて、大きな口を開けさせられる。
ズルリ……ズルリッ……。
床に擦れる音を出しながら、粘液を纏ったパラサイトが近づいて来る。
何が起きるのかを推測したアルフレッドはなんとか逃げようと暴れるが、暴れれば暴れるほど拘束が強くなるだけで。
涙で顔を汚しながら、目の前に来たパラサイトを見つめた。
「ただ、お前の内側から……お前じゃなくなっていくだけだ」
楽しそうなラグナの声と共に、パラサイトが口腔内に侵入してきた。
ブチュッ…………。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ‼︎」
声にならない悲鳴が漏れて、ソレが体内に侵入する。
アルフレッドは目を見開いて、身体を痙攣させる。
身体全体に響くブチュッブチュッ……と何かを踏み潰したような音。
焼けるような痛みと、バリバリと貪られる音。
喰われているのは自分の内臓なのか、それとも意識なのか。
分からない、分かりたくない。
時間感覚が狂って、自分の内側から死んでいく感覚に頭がおかしくなりそうで。
「アァァァァァァァァッッッ‼︎」
そして……最後の締めとばかりに、電撃で貫かれたような激痛がアルフレッドの身体を走り抜けて、彼の眼球がぐるりっと回り………。
…………アルフレッド・レンブルという意識は、死んだ。
動かなくなった器を見つめて数分ー。
ピクッと指先が動いた瞬間、ラグナはやっと拘束の魔法を解いた。
「あー……久しぶりに疲れましたなぁ……」
ゆっくりと立ち上がったソレは、肩を揉みながら優しく微笑む。
そして、ラグナの前で膝をついた。
「無事にこの青年の身体を承ったことをご報告致します」
「あぁ」
パラサイトの力は、その名の通り肉体に寄生すること。
しかし、ただ寄生するだけでなく……その肉体の内側から作り変えて、その意識を殺す。
つまり、パラサイトはアルフレッド・レンブルという肉体を被った状態になるのだ。
ローラが使った禁術と違うのは、魂を交換するだけだったが……パラサイトは精神を殺して奪う。
方法は違うが、ローラが使った禁術と同じように身体を乗っ取る能力だった。
「さて……邪竜様。青年の肉体を乗っ取りましたが、目的は?」
「あぁ、簡単だ」
ラグナは話す。
これからパラサイトにさせようと思っていることを。
それを聞いたパラサイトは「成る程……」と納得した。
「分かりました。ですが、わたしが邪竜様の真似をするとしても……青年の姿ですぞ?」
「それはマキナの幻術を使う。それに……終わった後に仕込まなくてはいけないからな」
「ホッホッホ、分かりました。では、そのお役目……お引き受け致します」
こうして、アルフレッド・レンブルになったパラサイトは……マキナの幻術でラグナの容姿になり。
ローラ・コーナーに会いに行った……。
こうして
『第63部 幕間・偽聖女はゲームの彼に本気の恋をしていた』の最後に繋がります。




