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邪竜と花嫁、互いをもっと知る日(2)


沢山の方に読んで頂きありがとうございます‼︎

明後日の更新はちょっとお休みしますね‼︎

よろしくどうぞっ‼︎






着替えを済ませたミュゼとラグナは、食事などを済ませて、ミュゼの部屋のソファで、ここ最近通常化してきているお膝抱っこで座っていた。

互いを知るために、会話をするのは……何気に初めてだった。


「なんだかんだと言って、まだ少しの間しか一緒にいないんですよねぇ」

「そうだな……」


四回目の人生も合わせて、二人が共にいた時間は半年も経っていない。

それなのに長い年月を共にいたかのような気持ちになっていた。

しかし、やっぱり互いのことを深くは知っていないのだ。

今までは知らなくても、彼が側にいるだけで満足できていた。

しかし、今のミュゼはもっとラグナのことを知りたい。

もっとラグナと深く繋がりたい。

そんな願望、欲望を抱いていて。

生死すら構わぬ壊れた少女は、ただ《破滅の邪竜ラグナ》という愛しい存在だけをより強く求めていた。


「でも、互いを知るためにお話しするのって、難しいですよね」

「…………ミュゼが言い出したんだぞ?」

「分かってるのです。でも、そう思いませんか?結局、他人なんですから……その人がどう思ってるとかはその人しか分からないです。言葉として伝えても、聞いた人次第では好きに解釈しちゃいますし」

「………そんなのこと言われてもなぁ。言っとくが、俺は他者を知るために会話をするなんて初めてだぞ」

「………えっ、そうなんです?」


ラグナは語る。

邪竜であるがゆえ、他者から恐れられる。

破滅の象徴たるラグナに、触れ合おうとする者はいなかった。

側にいないなら、理解しようがない。

だから、ラグナは今まで、他のモノを学ぶことができても理解、できなかった。

それ以前に、ラグナにとって周りのモノは全て等しく興味がなくて。

ただ破壊の対象であって。

色のない世界中の全てに、なんの興味も抱かけなかった。

魔物を助けたが、所詮それも本当の気まぐれで。

だから、眷属として仕えるようになった魔物達にも興味がなかった。


だが……そんなラグナが変わったのは、ミュゼと出会ったからで。

興味がなかったモノが色づき始めたのだ。

ミュゼがいるから、彼は愛しいという気持ちを知った。

ミュゼが傷つけられるから、彼は憤るという感情を知った。

ミュゼが側にいないから、彼は悲しさと虚しさを感じた。


だが、先ほども言ったようにそんな感情が芽生え始めたのはミュゼに会ってから。

人間に限らず、他の生物の有する心の機微に疎い。

だからこそ、彼女から互いを知るために話そうと言われても……何を話せばいいのか分からなかった。


「なら、ラグナは何が好きですか?」

「ミュゼかな」

「私も大好きです。食べ物とか好きな行動とかはなんです?」

「……ミュゼが作るモノはなんでも好きだし、一緒にいるのが好きだ」

「私もそうです」


楽しそうに笑うミュゼは、彼の頬を撫でて……金色の瞳を見つめる。

彼の瞳に滲む困惑が、とても面白い。


「ラグナは一般常識を知らないのです?」

「………多分、そうだな。邪竜だから、一般常識なんていう人間にしか使わないようなモノ、覚える気もなかった」

「じゃなきゃあんなこと言わないですもんねぇ」

「うぐっ……」


他の女に夜に会って、親しい女性が嫉妬する。

その会うことで嫉妬するということは知ってても、その過程(色事をしたりするから嫉妬されるなど)を知らなかった。

そんな世間知らずな一面は、なんでもできるイメージを壊して……ミュゼに親しさを感じさせる一面だった。


「ラグナはなんでもできてしまうので、ちょっとだけ嬉しいのです」

「………知らないことがあるのが?」

「はい。私にもラグナに女心とか常識を教えることができるのですよ。ラグナの役に立てるのです」


ただ隣にいるだけで、ラグナがドロドロになるまで愛してくれる。

それはとても甘美で、ミュゼを甘やかす魔法だ。

しかし、ミュゼはもっともっとラグナが欲しい。

ラグナのために何かしてあげたい。

そう思っていたのだ。

だから、ラグナが知らないことを教えてあげれるのは……とても幸せだった。


「さっきの嫉妬しろ発言が怒るものだったってのは分かったのです?」

「うん……」

「なら、そういうこと方面で教えていくのですよ」


ミュゼはそう言ってラグナに教えていく。

自分がどれだけラグナが好きで、彼に他の女性に近づいて欲しくないか。

本当は二人だけの世界に閉じ籠りたいけど、そうはいかないと理解しているとか。

本当は復讐の感情さえも偽聖女に向けて欲しくないとか。

夜に出かけるというのは、場合によっては浮気に繋がるとか。

他の女性と二人っきりで会うのも浮気に入る場合があるとか。

恋人同士や夫婦同士によってはその浮気の範囲も変わってくるとか。

事細かに説明していった。


聞いていたラグナが若干理解できない時は、自分ミュゼが他の男とそうしていると場面を考えてもらった。

妄想でもあんまり他の男と親しくしているのを考えて欲しくなかったが……仕方ない。

そうすることで、ラグナは人間の……ミュゼが嫌なことを知っていく。

理解していく。

そして、それに相対してその気持ちの裏返しこそがミュゼがどれだけラグナを愛しているかの証明になった。



愛しているからこそ、嫌なことが多い。



ラグナはちゃんと理解しなくてはいけないと思いつつも、緩んだ頬を直すことができなかった。


「…………何、笑ってるのです」

「いや……だって、ミュゼがそんなことしたら嫌だって言うのは、それだけ好きだからだろう?」

「そうですよ?」

「…………存外、言葉で伝えてもらうのは気持ちがいいな……」

「………愛してるって言うのだって言葉にして聞く方が嬉しいでしょう?」

「あぁ、そうだったな。それを知ってるのに、今、言葉で伝えることの大切さをちゃんと理解したんだ」


ラグナはとても愛おしそうに瞳を細めて彼女を見つめた。


「俺はどうも全ての事柄に鈍過ぎるらしい。これからも言葉で教えてくれ」

「………どういうことです?」

「心情とか情緒に関して、理解するのに時間がかかるってことだ。だから、ミュゼに教えて欲しい。駄目か?」


その言葉にミュゼは目を見開く。

ラグナに助けてもらうだけだった自分が……彼に任せるだけだった自分が、初めて彼にしてあげられること。

それはミュゼのもっとラグナが欲しいという欲望を甘く満たした。



「はい。いくらでも貴方のために教えてあげるのです。たっくさん頼って下さいね‼︎」



ミュゼは笑う。

蕩けるような、甘い笑顔で。



ラグナも、そんな彼女の欲望を満たせたことに笑顔を隠せなかった……。





*****




その夜。

ラグナはミュゼに、眷属達に会ってくることを告げて彼女の寝室を後にした。





闇色の世界。

ラグナの眷属達が住む、ラグナが生み出した架空の箱庭せかいの中。

豪邸……とは言わないがそれなりの大きさの屋敷の中の執務室で、ラグナはエイダとエイス、マキナと話をしていた。

今は復讐のために使えそうな情報をこの三人に集めてもらっているのだ。

それをまとめている中……エイダは思い出しように口を開いた。


「そーいえば。日中の、影からこそっと見てたっすよ」


エイダはコソコソと手に入れてきた情報を、彼に渡しながら言う。

ラグナは怪訝な顔をして、その続きを待った。


「ラグナ様、感情の機微が疎いって嘘っすよねぇ?」

「……………どうしてだ?」

「女の勘っす」


エイスは自分の姉が主人に無礼な口を聞くのをヒヤヒヤしながら見つめていた。

マキナは、何も言わずにミュゼの父から与えられた情報をまとめている。

そんな三人を軽く見つめて……ラグナはニヤリと笑った。


「まぁ、負の感情に至ってはとても理解しているさ。だが、俺の性質に相対する感情には一応・・は鈍いぞ?」

「でも、一度理解すれば分かっちゃうっすよね?花嫁様を喜ばせるために、分かってても教えを乞うたんっすか?」

「……………そんなに分かりやすかったか?」

「男女の駆け引きは十八番オハコっす」


ラグナはそれを聞いて小さく笑った。

確かに、ラグナの《破滅》という性質は好意や恋慕といった感情と相対する。

ゆえに、そういう正の感情には疎い。

しかし、今は彼が愛するミュゼがいる。

愛しい女性がいることで、ラグナはその正の感情の理解度の低さ、疎さを克服しつつあった。

それを理解できなければミュゼの心を傷つけてしまうかもしれないから。

というか、今朝、既に傷つけたので……猛スピードで克服していた。

そして、現在、ほぼそういった感情に対応できるレベルには成長している。

一度理解してしまえば、他の感情だって芋づる式に理解してしまえた。

邪竜としてではなく、花嫁のためにラグナはそのスペックを遺憾なく発揮したのだ。

だから、もうラグナは今朝のような失敗は繰り返さない。

既に男女間の駆け引き、恋慕や心情の機微は問題ない。

しかし、それを隠して……ラグナはミュゼに色々教えて欲しいと願ったのだ。



「だって可愛いだろう?ミュゼが俺のために色々と教えようと奮闘する姿は」



そう……ラグナが隠したのはミュゼが可愛かったからなのだ。

正の感情に鈍い。

逆を言えば、ラグナは負の感情……欲望、殺意、悪意などは簡単に理解することができる。

そして、《邪竜の花嫁》として繋がりがあるミュゼの欲望に気づかないはずがない。



〝ラグナがもっともっと欲しい〟。

〝ラグナの役に立ちたい〟。



とてもシンプルで、欲望的な願望。

そして、それはラグナをとても喜ばせる願いで。

なら、それを叶えてやるのも……夫の務めだと、ラグナは考えたのだ。


「まぁ、ラグナ様が楽しいんならいいと思うっすよ」

「姉さん……流石にそれは言い過ぎヨ」


エイスは軽い口調でラグナと話続けることに我慢できず、小さな声で注意をする。

しかし、彼女はキョトンとしてラグナに聞いた。


「口調、気にするっすか?」

「お前達の言動を気にするほど興味がないから問題ないぞ」

「うっす」

「………………」


殺伐とした関係のように見えるけれど、元々眷属にさえ興味がなかったラグナだ。

眷属ではないが、配下にいるマキナにだって興味を抱いていなかった。

こうして話すようになったのも、ミュゼが彼の花嫁になってから。

だから、彼がこうして会話をしている方が奇跡に近い。

ゆえにこの会話もラグナの気まぐれなのだ。

前だったら、ただ命令を下すだけだったのに。

いや、それすらもしなかったのに。


ミュゼといる時間が減るからという理由だけで、今、眷属達は動いている。


そして、それを不満に思う者達はいない。


救われた、という事実があるから……彼が自分が弱ることを知っていながらも、気まぐれで力を分け与えてくれたから。

だから、眷属達は今、こうしてここにいる。


「まぁ、ラグナ様が幸せならいいと思いますワ」


エイスはそれで納得して、エイダが集めた情報をまとめた。




ちなみに……その後、自分の姉が言った爆弾発言で、エイスは思いっきり噴き出すハメになったのは別の話だ。






ラグナさんは花嫁のためならば、なんでもします。

知らないフリだって、なんだってします。


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