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初デートと(今回)初拉致(1)


※最初は「初デートと初誘拐」というサブタイトルでしたが……誤字報告で拉致の方が正しいのでは? とご指摘いただき、その通りでしたのでサブタイトル変更させていただきます。

ご迷惑をお掛けします!


誤字脱字報告、ありがとうございます!!








彼女は険しい顔をしていた。




この世界は彼女(自分)のための世界だ。

与えられた能力ギフトは、彼女がこの世界に甘やかされている証拠だと思えるぐらいで。


今まで、彼女の思い通りにことが進んだ。

運命すらも思い通りで……あぁ、なんて幸せなんだろう。

そんな風に考えていたのだ。


だから、油断していた。



もう一度、ギフトが使えたら。



そう願ったって、できないのだが。

元々、五回しか使えなかったのに……今回が最後・・なのに、今までが上手くいっていたから油断してしまったのだ。



今回は今までと違う。



どこでボタンをかけ間違えたのか……そう考えたって答えは分からない。

いや、ひとつだけ心当たりがある。


あの日、あの夜、あの行動だけは……今までの世界でなかったことだ。






どうすれば自分の世界の綻びを直せる?




彼女のための世界は緩やかに綻び始めていた。








*****







ラグナが国王と交渉してから一週間後。



ミュゼ・シェノアとアルフレッド・レンブルの婚約破棄は、早々に執り行われた。

公爵家は王家に連なる家。

その家で婚約破棄が行われたというのは社交界でも噂になった。

普通ならば数多の手続きが必要なのだが……国王の命令で速攻で破棄されたのだから、尚更だ。





あの日、ラグナの姿を見た国民達は世界の終わりだと言っていたが……いつもと変わらぬ日々を送っている。

ラグナと国王の交渉は、王城前の広場で行われたため、それを知るのは一部の者だけだった。

王城は周りを高い塀が囲っており、その広場はその塀の中にあり、一般公開をされない限りはそこに一般市民が入ることがなかったからだ

(アルフレッド達は公爵家という地位を使って、広場に入ってきたが)。






まぁ、今の現状を一言で言うと……ミュゼとラグナは甘々な日々を過ごしていた。



「うぅ…んっ……」


ミュゼは柔らかなベッドの上で寝返りを打つ。

柔らかな日差しと温かな温もりに包まれて、ふわふわとした気持ちになる。


「起きたか、ミュゼ?」

「ん……?」


しかし、その声を聞いた瞬間、ミュゼは目を見開いた。

凛と、とても整った顔立ちが目の前にある。

艶やかな漆黒の髪は襟足が少し長いが、彼に無駄に似合っていて。

爛々と煌めく黄金の瞳は、甘やかに蕩けている。

あらわになっている上半身は、ほどよく筋肉がついていて引き締まっていて。



美青年が、そこにいた。



「きゃぁぁぁぁぁあっ⁉︎」

「落ち着け」


ベッドから飛び起きて、転がり落ちそうになったところを抱き締められて捕まえられる。

目の前に男性の裸があって、ミュゼは顔を真っ赤にした。


「おはよう、ミュゼ。今日も可愛いな」


甘く微笑むその顔は、きっと誰もがイチコロだろう。


彼の名前は、ラグナ。


破滅の邪竜ラグナの人間の姿だった。


「……おっ…おはよう…ございます……ラグナ…あの……裸で寝るのは……止めてって……っていうか…昨日服着て寝てましたよね?」

わずらわしくて脱いじゃうんだよなぁ。一応、下のズボンは履いたままだから褒めて欲しいんだが?」


そう言ってラグナはズボンを見せる。

しかし、ミュゼは少し怒ったように頬を膨らませた。


「……もう一緒に寝ませんよ?」

「むっ……それは困るな。だけど……ずっと裸だったからなぁー……あ、そうだ。どうせならミュゼも裸になればー」

「なりません」

「残念だ」


あの日からラグナはシェノア家の屋敷で共に暮らしている。

邪竜の姿だと屋敷に入らないので人の姿になってもらったのだが……いかんせん。

人の姿ゆえに接しやすくなったと、ラグナのスキンシップは激しかった。

ミュゼが経験したことがあるスキンシップとは、婚約者の腕に腕を絡ませる程度まで。

こうやって共寝をしたり、ずっと一緒にいたり、甘やかされたりするスキンシップは……もうミュゼの中では、スキンシップの域を超えている気がした。


「どうした?」

「………いえ。着替えようかと」

「手伝ってやろうか?」

「一人でっ‼︎できますっ‼︎」

「そうだな。後ろのボタンは留めてやるよ」


ラグナはベッドの上に放り投げていたシャツを手に取ると、それを着る。

ミュゼもベッドから降りて、ウォークインクローゼットに向かった。



ミュゼの部屋にはラグナがいるため、メイド達……いや、この家の者達は近づかなくなっていた。

それが意味するのは、彼女の身の周りの支度を自分でしなくてはいけないということ。

ドレスを着るまでは大丈夫なのだが、流石に後ろのボタンは留められない。

そこだけはラグナに手伝ってもらっていた。


「ラグナ」

「今日は淡い桃色のが良いな」

「はい」


こうやって特に着たい服がない時は、ラグナの意見を聞いて着ている。

考える手間も省けるし、ラグナも喜ぶしで一石二鳥だった。


「ラグナ」

「はいはい」


名前を呼ぶだけで彼はこちらに来て、ボタンを留めてくれる。

留め終えると、ラグナはちゅっ……とミュゼの首筋に柔らかなキスをした。

それをくすぐったく感じながら、ミュゼは頬を染める。


「お前は淡い色合いが似合うな」

「そうですか?」

「あぁ、可愛い」

「ラグナは可愛いばっかり言いますね?」

「実際に可愛いからなぁ……」

「………うっ……甘やかし厳禁ですよ。我儘になっちゃう」

「構わないさ。お前の我儘ぐらい、いくらでも聞き入れてやる」


ラグナに手を差し伸べられて、そこに手を重ねる。

エスコートされながら、ダイニングルームに向かった。





あの日から父と母、兄と姉、弟とは会ってはいない。

公爵家との婚約破棄だけでなく、邪竜を連れて来たミュゼは家族と疎遠になってしまった。

今までと同じようにシェノア家で暮らしてはいるが、食事の時間は家族と分けられることになったし、屋敷内でもすれ違ってすらいない。

家族からしてみたら彼女は伯爵家の癌のようなモノになったのだろう。

しかし、今のミュゼにとっては不安ではない。

それがラグナが隣にいてくれるおかげなのだ。

だからあぁやって文句を言いながらも、それが他愛ない睦言の一つだと二人はそれすらも楽しんでいた。


「どうぞ?」


ダイニングルームに着くと、二人分の食事だけ用意されて他には人がいなかった。

ここまで避けられていると逆に笑えてくる。

ミュゼは彼に椅子を引いてもらって席に着いた。

ラグナも向かいの席に座り、食事の挨拶をした。


「頂きます」

「頂きます」


朝食のスクランブルエッグとサラダ、スープとパンを食べながら二人は会話を楽しむ。

今日は何をしようかとか。

記憶を見て知っているだろうけれど、ミュゼがどんな風に生きてきたとか。

ラグナはどんな風に生きてきたのか、とか。

彼との会話は途切れることはない。

途切れる時間があってその沈黙さえも心地良くて……ミュゼは幸せに泣きそうになる。

アルフレッドとはこんな時間、過ごせなかった。

彼にとってミュゼは社交の場で使う道具でしかなかったのだから、それは当然だった。

あくまで義務的に婚約者として相応しい態度を取っていたに過ぎないのだから。


「ミュゼ。今日、出かけてみないか?」

「………出かける…?」

「デート、だよ」

「………デートっ⁉︎」


顔を真っ赤にしたミュゼを見て、彼は満足そうに笑う。

デートなんていつぶりだろう?

彼女が異性と出かけたのは、デートとも呼べない視察の付き合いぐらいだ。

それも自分を想ってくれる人と出かけるなんて…初めてで。




ミュゼはもうこの時点で浮かれてしまった。












屋敷から街へ出るには馬車などは必要ない。

正確には出してもらえないのだが……彼となら街へと歩く道のりも楽しくて。

ミュゼとラグナは腕を組みながら、街へ繰り出した。





王都ノヴィマは血気盛んな街だ。

国王が有能ゆえこの国全体が栄えているのだが、王都はそれが更に顕著だ。

高級そうなお店だけじゃなくて、手頃な出店も多く……まるで毎日がお祭りのようだ。

ラグナはそれを見て感心していた。


「凄く栄えているみたいだな」

「そうね。国王陛下のお力です」

「こんな風に栄えているのは初めて見る」

「そうなの?」

「あぁ。ずっと寝てたからなぁ……最後に起きたのは神と戦った時か?」

「…………」


なんか凄いことを聞いてしまった気がしてミュゼは、笑って流した。

ふっと見るとラグナは興味深そうに辺りを見渡している。

ミュゼはそんな彼が可愛らしくて、にこっと笑った。


「行きましょう、ラグナ‼︎」

「あぁ‼︎」


彼の手を引いて歩き出す。

色々な食べ物や、雑貨。

家具や小物、洋服まで……色々売っている。



………その行く先々で、ラグナは何かしらもらっていた。



「お兄さん、この果物どうぞ‼︎」

「ん?あぁ……ありがとう」

「こっちのお菓子も食べて下さいっ‼︎」

「ありがとう、頂く」

「こっちのも……」

「あたしのも……」


年配の女性から小さな女の子まで、ラグナは様々な物を渡される。

ミュゼはそれを見ながら、何事かと思ってしまった。

いつの間にかラグナの周りには沢山の女性が集まっていた。

中には腰を抜かして立てなくなっている人までいる。

そこで彼女達の目が蕩けているのを見て、ハッと思い出した。



そう……ラグナは魔性の美青年だったのだ。



初めて彼を連れて帰った時、メイド達も数人再起不能になっていた。

つまりはラグナは純粋にその容姿でモテているのだ。


「むぅ……面白くないですねぇ」


ミュゼはムスッとしつつ、側にあった果物のジュースを売っている出店で、飲み物を買おうとした。

出店にいたのは男の人だったのだが、その人もラグナに見惚れている。

同性だんせいの方が耐性があるらしい。


「おじ様〜。ジュース下さい」

「ハッ……はいよっ‼︎」


おじさんはミュゼの声に我に返り、ジュースを手渡してくれる。

お金を払って、彼女は遠目でラグナを見ていた。


しばらくかかりそうですねぇ)


ミュゼは本当に面白くなかったが、離れるのはなんとなく嫌だったのでそこで待つことにした。


人が多かった。

皆がラグナに視線を送っていた。






だから……ミュゼが後ろからやって来た奴に口を塞がれて拉致されてしまったのは、仕方なかったのかもしれない。






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