邪竜と花嫁、互いをもっと知る日(1)
短めです。
ごめんなさい、短めです‼︎
取り敢えず、続きます‼︎
ミュゼがもっとラグナと仲良くしたい話です‼︎
小鳥の囀りが響く朝。
目覚めるや否や、ミュゼは頬を膨らませて……隣で眠っているラグナをジト目で見つめた。
彼の綺麗な寝顔を見ていると、無意識に頬が緩んでしまうが……ミュゼはハッとして、また頬を膨らませる。
微笑みと拗ねた顔を繰り返していたら……目の前で眠っていたラグナがゆっくりと目を開けた。
その時のミュゼの顔は、膨れっ面。
彼は少し目を丸くして……そして困ったように笑った。
「おはよう、ミュゼ」
「…………おはようございます、ラグナ」
挨拶をしてもミュゼは頬を膨らませたままで。
ラグナはラグナで、彼女がこんな顔をしている理由が思い当たるため……素直に怒られることにした。
「ラグナ」
「うん」
「私が怒っている理由は分かりますか?」
「分かるよ。夜にどこかへ行ったからだろう?」
ラグナが正解だろう?と聞くような顔をしたが、ミュゼはジトッとした顔で「違うです」と否定した。
合っていると思っていたラグナは、その反応に少し驚く。
「別に、夜にどこかに行くのはいいですよ」
「…………どこかに行くのはいいのか…」
「でも行く場所とかはちゃんと言って行くのです」
ミュゼはそう言って彼に抱きつく。
昨夜、確かにミュゼは眠っていたが……ラグナが自分の隣から数時間いなくなったことを感じていた。
それは花嫁としての力なのかは分からないが……とにかく、彼はミュゼに何も言わずにいなくなったのだ。
別にラグナがどこに行こうと止める気はない。
でも、どこに行くかぐらいは教えてもらいたい。
でないと、不安になってしまう。
今のミュゼにとって、ラグナは唯一無二の存在なのだから。
彼がいなくなったら、ミュゼはおかしくなってしまうのだから。
「……………」
ラグナは目を見開いて固まる。
そして、クスッと笑った。
「……なんだ。少しぐらい嫉妬してくれたかと思ったのに」
「嫉妬、ですか?」
きょとんとするミュゼに、ラグナは頷く。
親しい男女間において、相手を置いて夜間に出かける理由は少ないと聞いたからこそ、ミュゼが嫉妬してそんな風に言ったのだろう思ったのだ。
「普通の人間は、夜に出かけるとなると他の異性に会ったりするんだろう?だから、怒ったんだろう?」
しかしラグナは分かっていなかった。
なんとなく言ったのだろうけれど、それは親しい男女間において地雷だということを。
「……………」
ラグナがその言葉を言った瞬間、ミュゼの顔から表情が抜け落ちる。
濁った菫色の瞳で、目の前にいる男を見つめた。
「つまり……浮気のために、出かけたんです?」
ぞわりっ……。
この世に存在する者達に恐怖と畏怖を抱かせる側であった邪竜は、ミュゼのその姿に……背筋が凍るというのを初めて体験した。
なんの感情も感じさせない声。
無機質な声に、ラグナは滅多にないほどに動揺する。
「ミュ、ゼ?」
「…………」
「あの……浮気って、どうしてそうなった?」
彼女の無反応に、ラグナは冷や汗が止まらない。
ミュゼを溺愛していてても……人間の……正確には、男女の機微に疎いラグナは、どうして彼女がこうなったのかが分からない。
「あの、怒ってる?」
「…………………」
「いや、あのな?ミュゼ?浮気なんてするはずないだろう?」
「………………………………」
「あの、本当だから。ちょっと手駒になりそうな奴らに会ってきただけだから。浮気じゃないから」
何度も彼女の名前を呼ぶが、ミュゼは一向にその無表情を止めない。
段々とラグナは不安になって、その目が涙で潤み始める。
どうしてこうなったのか。
何がいけなかったのか。
とうとう、我慢できずに泣き出しそうになったらラグナは……ぎゅうっとミュゼに抱き締められて、目を見開いた。
何度か瞬きを繰り返して、彼は目の前で楽しそうに笑うミュゼを見つめる。
「……………ミュ、ゼ?」
「ふふふふっ、いい気味です。動揺してますねぇ」
ミュゼはクスクスと笑いながら、彼の頭を撫でる。
そして、ちょっと凄みのある笑顔を浮かべて彼の耳を引っ張った。
「はい、ラグナ。問題ですよ?どうして私が怒ったと思います?」
「…………ぇ?」
「もう少し人間……のことは分からなくてもいいですけど、女の気持ちを考えて欲しいです」
ミュゼはそのまま目を見開いて呆然としている彼の身体に馬乗りになり、にっこりと微笑んだ。
「ラグナ。想像して下さい」
「…………何を…?」
「ラグナと一緒に寝ていた私は、貴方に何も言わずに出て行きます。そして、他の男の人と会ったりします」
「は?」
そう言われた瞬間、ラグナの顔に怒りが滲む。
だが、ミュゼはそのまま続けた。
「でも、ラグナが言ったんですよ?夜に親しい異性以外に会うってことは、時と場合によってエッチなことしたりするんです」
ラグナはギリッ‼︎と歯噛みして、ミュゼの腕を掴み身体を入れ替えベッドに押し倒す。
剣呑な光を宿した鋭い眼光で、彼女を睨みつけた。
「ふざけるな、そんなの許す訳……」
「ですよねぇ。ラグナは私に、ラグナがそんなことをしていたと疑えと……嫉妬しろって言ったんですよ?」
「………………」
そう言われた瞬間、ラグナの顔が凄まじく歪む。
自分が言った失言に気づいたらしい。
「…………ごめん。嫉妬させて俺のことがいっぱいになるのは、嬉しいけど……夜に出かけるってのと、他の女に夜に会うって言葉がそんな風に繋がると思わなかった」
そう、これはラグナが邪竜だから。
だから人間の情緒、事柄、当たり前などに疎い。
夜、他の女に会うこと目的が、そういう色事なのだと知らなかったのだろう。
ただ、夜に出かけるということが……女性と会ったりすると知っているだけで、それが嫉妬に繋がるということしか知らなかったのだろう。
その二人が、何をするのかを知らなかったのだろう。
嫉妬するということは……嫉妬するような色事を相手がした結果なのに。
それを知らずに、嫉妬するという結果だけ知っているという事実が……そういう世間知らずなところが、ミュゼは面白くて仕方ない。
なんでもできる《破滅の邪竜》なのに、自分にだけ負けてしまうラグナが面白い。
まぁ、それでも。
ラグナは深く考えていなかったのだろうけれど……親しい間柄である相手から、他の女に会ったこと(という仮定。または、もしも)を嫉妬しろなんて言われたら、怒るに決まっている。
もしもでも、ラグナの隣に自分以外の女がいることを。
ミュゼは、許せない。
まぁ、そもそもの話。
ミュゼ本人はラグナが浮気しているとは思っていないし……ラグナがそんな風に言ったのは、ラグナが離れていたのに自分がどうってことがなさそうにしていたからなのだろうと想定しているのだが。
事実、その想定は合っている。
「………本当に、ごめん……」
なんとも言えない顔をしたラグナの姿に、ミュゼは小さく噴き出す。
「ふふっ……涙目ラグナは面白いですねぇ。でも、ラグナはなんでも知ってそうで知らないことが多いんですね?」
「………うぅ…もう少し人間的な情緒を学ぶことにする……」
「どうせ、ラグナは邪竜なんですから人間のことなんて学ばなくていいです。代わりに、私のことを知って欲しいのですよ」
「…………ミュゼの、こと?」
ミュゼはにっこりと微笑んで彼の頬を撫でる。
その指先は触れるか触れないかの距離で。
微かに触れる肌に、ラグナは頬を僅かに赤らめる。
「邪竜とその花嫁という関係ですから、なんとなく察することはできるのです。でも、もっと深く繋がりたいと思うのですよ」
「もっと?」
そう言ったミュゼはとても色っぽい笑顔を浮かべていて。
ラグナの喉が、ごくりっ……と鳴る。
「はい。取り敢えず、ラグナは私を怒らせたことを反省するのですよ?」
「…………うん」
そして、今日は互いのことを知るため……お話しの日にすることになった。
世間知らずならぬ人間知らずラグナですねw