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邪竜と暗躍する者達の密会(1)


はい、シリアスです。

苦手な人は逃げて下さい。


沢山の方に読んで頂きありがとうございます‼︎

こそこそランキングに載ったりしていて、嬉しいです。

今後も頑張りますので、よろしくどうぞ‼︎








星が鈍く輝く夜。



いつも通り、同じベッドで就寝したミュゼとラグナだったが……日付が変わる頃合いに、彼はゆっくりと起き上がった。

自らの腕の中で眠る愛しい花嫁の額にキスをして、彼女が起きないようにベッドから降りる。


サイドテーブルに置かれた籠の中。

布が敷き詰められた寝床にいるチビナにミュゼを託し、ラグナはその部屋から抜け出す。


そうして向かった先は……シェノア家の図書室だった。

図書館と言うほどではないが、それなりの蔵書を誇るその場所。

ラグナは図書室の奥、光の差さない本棚の前に立ち……ゆっくりと手をそこに押し込んだ。

本来ならば仕掛けを動かして入る隠し通路。

しかし、邪竜にとってはそんなモノは必要ない。

ただ魔法を使えばいい。

透過の魔法を使って隠し通路に入ったラグナは……視界が見えない暗闇だと言うのに、迷うことなく歩を進める。

そして……突き当たりに辿り着いた頃。

目の前がゆっくりと開かれた。



「お待ちしておりました」



そこにいたのは、青い髪の真面目そうな女性。

しかし、その身が纏うのは黒の特殊服で。

彼女に促されて中に入ったラグナは、ニヤリとその場にいた人々に微笑みかけた。



「ミュゼの兄は久しぶりだが……そちらの二人には初めまして・・・・・と言うべきだろうな」



様々なモノが乗っかったテーブルが中央にあるだけの部屋。

そこにいたのはミュゼの兄エドワードと、オフゴールドの髪に菫色の瞳持つ四十代くらいの男性、薄い蒼色の髪にオリーブ色の瞳を持つ婦人だった。

四人に共通するのは、全員が黒の特殊服……さながら、暗殺者を思わせるような服装をしていることだろう。

その中の一人……男性は柔らかい笑顔を浮かべてラグナに声をかけた。


「よく我らのことを見つけられましたね、ラグナ殿……いや、邪竜殿と言うべきかな?」

「好きに呼ぶといい。それよりもお前達の名を聞こうか」

「おっと失礼。わたしの名はエルドリック・シェノア。こちらは妻のベラーゼ。エドワード、ミュゼ、ユーリの親ですよ」


そう……そこにいたのはミュゼの両親。

影で暗躍していたのは、彼らのことだったのだ。


「で?そっちの女は?」

「ビビアン・マルタと申します。宰相子息ヴィクター様の元婚約者と言えばお分かりでしょうか?」

「あぁ……あの屑の」

「えぇ、そうですわ」


そして……ラグナを出迎えた女性は、ゲームのシナリオで名前だけの存在だった者。

流石に、病弱と聞いていた彼女のことは予測していなかったため、ラグナは少しだけ驚くが……それを表に出さずに、エルドリックに話しかけた。



「さて。早々に本題に入ろう」



ラグナはとても鋭い瞳でそこにいる者達を見つめる。

その威圧に後ずさりかけながら。

四人は邪竜に相対した恐怖を叩き伏せて、真っ直ぐに見つめ返す。

そして……ラグナは彼らに問う。



「お前達……いや、暗部・・はどこまで知っている?」



ミュゼをここに連れて来なかった理由。

それは、シェノア家の本当の姿を見せないため。

シェノア家は、この国に仕える影なのだ。

それを知るのはここにいる四人含め、暗部の人間のみ。

諜報、拷問、暗殺……その手を汚して、この国を人知れず支えてきた者達。

それがこの国の暗部だった。

エルドリックは、ラグナの言葉に目を細める。

そして、感情の読めない笑顔を浮かべた。


「どうして、我々が暗部の者だと?」

「答え合わせが必要か?」

「参考までに」


引く気がなさそうなエルドリックに、ラグナは面倒そうな顔をする。

しかし、人間でありながらも邪竜に対して引けを取らない態度を見せる彼にほんの少しだけ興が乗ったラグナは、それに付き合ってやることにした。


「簡単に言えばミュゼの兄だな」

「え?」


ここで名指しされるとは思ってなかったのか、エドワードは目を見開く。

ラグナはニヤリと笑いながら、答えた。


「ミュゼがお前達の訓練を見学に行った日があっただろう」

「あ……あぁ……」

「そこでのお前は、どうやら筋肉バカの頭の緩い男を演じていたようだが……どうも剣筋はその通りじゃなくてな」

「は?」

「つまり、少しばかりお前を観察したんだよ」


エドワードはそう言われて固まる。

どうやら、彼の〝良い人〟、〝筋肉馬鹿〟、〝頭が緩め〟の演技・・はこの邪竜の前では意味がなかったらしい。


「お前の剣はどうにも頭が良い奴の剣でな。そこでまず、自分の実力を見せたくないのか……何か隠し事をしているのかと推測した」

「………で?」

「で、だ。周りにいた兵士の奴らの中にどうも兵士らしからぬ身のこなしをする奴らが数名。俺がミュゼに絡んでいた男共を威圧した時、明らかに動揺して本性を出しかけたのが更に数名。で……貴族でありながら兵士と仲がいいということを考慮し、シェノア家と兵団には何かしらの関係があると考えたんだ」


そこに元騎士候補生のジャンから得た情報を加える。

彼から聞いた情報は、この国において捕虜は騎士団と兵団、どちらが拘束するのかということ。

その結果は捕虜の拘束は兵団の仕事だと分かった。

となると、捕虜に対する尋問などもあるはず。

そこから、兵団にはそれ専門の者がいると繋がり……そのような役割を負う者が所属すると考えられる組織を数個考えた。

それらを吟味しつつ……眷属の魔物に探らせ、得た情報からラグナが過去推測をした結果……暗部が兵団を隠れ蓑にしている可能性に辿り着いたのだ。

その統率としてシェノア家が、貴族という隠れ蓑を纏いながら、君臨していることも。


「それだけで我らが暗部所属と判断したのですか?」

「俺の過去推測は、ほぼ真実に近い結果を導き出すからな。それに……一応、表の顔と裏の顔を使い分ける制度らしいからな、この国は」


国によっては表立って動けるようにするために、表の顔を用意するところもあるという。

この国も同じだったということだ。


「それに……どうも貴族としてはおかしかったからな」

「何が、です?」

「普通ならば、俺とミュゼを放置しておくはずないだろう?」


エルドリックは目を細めてラグナを見つめる。

普通の貴族ならば、公爵家という身分が上の者に対して、自分の娘が一方的に婚約破棄を申し出たことに、激怒するはずだ。

爵位が上の者との繋がりができるし、貴族のプライドというモノがあるのだから。

しかし、彼らはミュゼと会うことをしなくなかったが、追放もしなかったし、折檻も加えなかった。

国王命令……というのがあったかもしれないが、恨み言の一つや二つ、言うはずだ。

それさえなかった。

ということは、ミュゼへの対処は他家へ対するパフォーマンスの可能性が高い。

甘いと他の者から言われようが……あくまでも、このように対処したという建前を用意したとも言う。

結論から言うと、シェノア家において貴族身分に関わる事柄は重要ではないということが、ラグナが考えた……二人を放置していた一つ目・・・の理由。


「ミュゼや俺への対処が甘かった理由として、考えられることは二つ。一つはシェノア家において貴族的な事柄は重要ではないから。二つ目は、ミュゼの婚約がなくなったことに安堵したから」


そして、ラグナは気づく。

彼の言葉によって変わった、ベラーゼの表情に。


「………ふぅん。どうやら母親としての情が、暗部としての責務より強かったみたいだな」

「………ぁ…」


今まで黙っていたベラーゼが、小さく声を漏らす。

そう……彼女が僅かに滲ませたのは、後者に対する反応。

ラグナはそんな彼女に視線を向けず……エルドリックを睨みつけた。



「貴様、ミュゼを起爆剤にするつもりだったのか?」



「……………」


エルドリックは否定しない。

いや、邪竜かれの前では嘘は無意味だと理解しているからだろう。

それにラグナは大きく舌打ちをした。


ミュゼを公爵家……アルフレッドと婚約させた理由。

それは公爵家……正確には、レンブル公爵への牽制だったのだろう。

暗部を率いる血筋の者を送り込むこと。

それは、公爵家側に暗部の者が監視に入ると錯覚させるには充分で。

場合によっては、暗部側は何も知らないミュゼを利用して……公爵家内部の情報を聞き出すつもりだったのだろう。

そして、ミュゼに何かあればあくまでも身内に関することと称して、実際は暗部が動くことになる。

暗部が動けば結果的にレンブル公爵家の権力を削ぐことに繋がる。

これらのことを考えても、ミュゼを婚約者……公爵家に嫁がせることは、レンブル公爵家に下手な行動をしないようにさせる牽制の意味合いを持っていたのだ。


だが、そもそもの話……エルドリックがミュゼを起爆剤にするつもりだったのなら、ベラーゼが婚約がなくなったことに安堵する必要はないのだ。


「………あぁ、そういうことか」

「………………」


そして、ラグナは理解する。

シェノア家は確かに暗部を率いているが、それよりも上の者がいることを。


「一つ、聞く」

「……………」


ラグナはエルドリックの目を見て、質問した。



「お前達……暗部は誰のモノだ?」



その質問に彼は数秒黙り込む。

そして……。


「……………はぁ…隠しても仕方ありませんね」


エルドリックは困ったような……諦めたような顔をした。

そして、静かに語り始めた。


「暗部……我らは、グスタフ・インツィア王弟殿下直属の配下になります」

「………あの、ジジイのか?」

「ジジイって……まぁ、そこは置いておきますが。この国に置いて、汚れ仕事というのは王の親族が担うモノなのです」


今代においては、王弟グスタフがその汚れ仕事を担うことになったのだと、エルドリックは語る。


「ミュゼ……ビビアン嬢もですね。二人は公爵、宰相への牽制として嫁入りするよう、王弟殿下が命じられたのですよ。まぁ、二つともなくなりましたがね」


そう言ったエルドリックはとても嬉しそうな顔をしていて。

命令のため仕方なく公爵家の子息と婚約させたのだということが、明白に伝わってきた。


「…………まぁ、長々と話をしたが……俺は最初に聞いた質問の答えが知りたい」

「残念ながら、我ら四人はミュゼとラグナ殿が関わる案件から外されています。身内のことですからね。あぁ、ビビアン嬢が外された理由は、彼女がミュゼの幼馴染だからですよ」


幼少期からエドワードと共に暗部の教育を受けてきたがゆえ、ビビアンはミュゼとも接点があったのだろう。


「なるほどな。侯爵家の方が身分は上だが、動きやすさならば伯爵家の方が優位。だから、シェノア家がリーダー格を務めているのか」

「ご慧眼、恐れ入ります」


ビビアンはゆっくりと頭を下げる。

身分が高い侯爵家が暗部として動いていたら、怪しい動きをしていると沢山のものに注目される。

しかし、伯爵家ならば程々に権力があるから、動きやすいのだろう。


「ゆえに、暗部に所属しているとはいえ人間ですから……人としての情を考慮され、外されました」


エルドリックは肩を竦めながら答える。

それを見たラグナも面倒そうな顔になりつつ、息を吐いた。


「少し、訂正しよう」


ラグナは乱暴に自身の髪を掻き、四人それぞれの目を順に見る。







「お前達四人・・は、どこまで知っている?」








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