幕間・邪竜は暗躍する者達と会うらしい
割り込み投稿です。
ぶち込まぬと伏線回収できなかったのです。
よろしくどうぞ‼︎
(………なるほどな…)
天井裏に隠れていた二人は、下にいるラグナ達の会話を聞いて静かに納得していた。
先の竜騒ぎに、箝口令。
シェノア伯爵家とレンブル公爵家の婚約解消、及び伯爵家に滞在する青年。
学園での洗脳騒ぎに、《秘匿されし聖女》の噂……《邪竜教》。
その全ての始まりが、今日、理解できた。
(国王陛下が我々に必要以上の情報を与えなかったのは。大部分を隠していたのは、ミュゼ・シェノアが関わっていたからか)
彼は酷く冷たい顔で、僅かに開けた隙間から下の部屋を観察する。
隣にいる人物も同じように観察していて……唐突にビクッと震えた。
まぁ、それも仕方ないだろう。
下の部屋にいる……漆黒の髪の青年と、元王太子付きの従者がチラリとこちらに視線を向けたのだから。
(若、気づかれました)
(………いいや、最初から気づかれている)
(………なっ⁉︎)
下にいる人達の中で、特に強いのは先の二名。
……………いや、正確には三名。
どうやら、ただの伯爵令嬢であった彼女も、手こずる相手になってしまったらしい。
(きっと彼のことだ。接触してくるだろう。帰るぞ)
(…………畏まりました)
彼らは音もなく、気配もなく消え去る。
それは、彼らなりに今後の準備をするためだった……。
*****
「あ、帰ったみたいです」
国王とレイファンが帰り、見送りでリオナが退室した応接室。
現在ここに残るのは、ミュゼとラグナ、カルロスとヴィクトリアだった。
「帰ったとはなんですの?」
「うーん……よく分からないですけど、ここ最近、こそこそと嗅ぎ回っていた人ですかね?」
「なぁっ⁉︎」
ヴィクトリアがそれを聞いて絶句する。
教会は聖女がいる以上、かなり厳重な警備を行なっている。
それなのに簡単に侵入を許したのだ。
驚くのも当たり前だった。
「人数は二人ですかね。相手さんもプロですね。ほぼ気配がないです」
「一人は完璧に気配を絶ってたが……もう一方が少し油断した時に気配が漏れていたな」
のんびりと話すラグナとカルロスに、ヴィクトリアは頭を抱えてしまう。
つまり、この密会がバレてしまったのだ。
加えて、《秘匿されし聖女》の存在もバレてしまった。
それがどんなに大変なことなのか……下手をしたら国家が混乱しかねない案件だ。
というか、なんでミュゼまでもそれに気づいたのかが分からない。
「なんでミュゼ様はお分かりになられたんですの?」
「えーっと……勘ですよ?」
「…………勘…」
「まぁ、正確には《邪竜の花嫁》だからな。感覚も邪竜に近づいてきてるんだろう」
つまりミュゼは順調に人外へとなり始めているのだろう。
当の本人は気にしている様子もないが。
「………ミュゼ様は、人外になっても構いませんの?」
「………ラグナと一緒にいられるなら、人間でも化物でもさほど問題ないですよ?」
そう言ったミュゼは……とても嬉しそうに。
でも……仄暗い光を宿した瞳で笑う。
ヴィクトリアはそれを見て、確信してしまう。
もう、ミュゼの纏う空気は邪竜と同質で。
その笑顔は、とてもラグナに似ている。
〝これはもう自分が関われることではない〟と、嫌でも理解させられるような笑顔だった。
ヴィクトリアは大きく息を吐き、ラグナへと視線を向けた。
「取り敢えず。上にいた方達はどうしますの?」
「問題ない。上にいた奴らとは接触する予定だったからな。事情を説明する手間が省けた」
ラグナはミュゼをエスコートして立ち上がる。
それにヴィクトリアは目を見開いた。
「彼らが何者か予想がついてますの?大丈夫なんですの?」
「あぁ。なんのためにあの騎士候補生からも情報を取ってきたと思っている」
「………え?」
そう言われて彼女は思い出す。
そういえば……先程、淫魔にヴィクターとジャンから情報を回収しに行かせていたことを。
そして、ジャンの方の情報は言っていなかったことを。
「取り敢えず、今日は帰る。またな」
「失礼します、ヴィクトリア様」
ラグナが魔法を発動させて、一瞬でその場から消え去る。
残されたカルロスとヴィクトリアは……互いに顔を見合わせて……苦笑した。
「取り敢えずオレは、レイファン様とヴィクトリア様の伝達係をしますね」
「えぅっ⁉︎」
「ついでにリオナ様に警備が緩そうな所、忠告しておきます。それでは」
カルロスは普通に扉から出て行き……一人残されたヴィクトリアは、疲れ切った溜息を吐いて脱力する。
もう色々と起こり過ぎていて、考えるのが面倒になっていた。
「どうされました?ヴィクトリア様」
帰って来たリオナに心配されたが、ヴィクトリアは「なんでもないわ」と言って苦笑する。
ついでに、カルロスがリオナに警備の甘いところを伝えると言っていたことを言うと……リオナの顔が引きつった。
「……………なんてこった……」
ヴィクトリアもその気持ちには賛同するしかできなかった………。