邪竜ルート、あるいは異なる世界の物語(5)
皆さんこんばんは‼︎
朝起きたら歯が欠けてて驚いた著者です‼︎
かくして、邪竜ルート編終わります。
今後は最後の復讐準備編ですね。
ついでに、50話記念&バレンタインということで、3話同時更新です。
本編とご都合主義番外を載っけます‼︎
楽しんで頂けたら幸いです‼︎
よろしくどうぞ‼︎
〜〜????〜〜
『目覚めなさい、アリシエラ』
ふわふわとした意識をなんとか引っ張って、目を開けると……そこには金髪碧眼の美人の女性がいた。
彼女は優しい笑顔を浮かべて私の頬を撫でてくれる。
「貴女、は……」
『お行きなさい。貴女を待つ者が、泣いているわよ』
耳を傾ければ、確かに泣き声が聞こえる。
あぁ……この声は。
「……ラ、グナ……」
彼が泣いてる。
私を思って、泣いてくれている。
「行かなきゃ……」
そう言った瞬間、彼女は微笑んでくれた。
〜〜テグノー遺跡〜〜
目を開ける。
視界に入ったのは満点の星空。
さっきまで遺跡にいたはずなのに……どうして?
「う…ぐっ……」
「っ⁉︎」
側で誰かの呻く声が聞こえる。
ハッとして起き上がると、そこには瓦礫の下敷きになった黒ローブの人達がいた。
「何が……」
『GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼︎』
咆哮が聞こえる。
その声に満ちるのは悲しみ、苦しみ、怒り。
ラグナの声に、私は勢いよく起き上がったわ。
「ラグナっ‼︎」
視界を移すとそこには、灰色に変わった世界。
森の方へ向かって、枯れ木の……色のない世界が広がっていた。
「これは……生命力を、奪っている?」
『GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼︎』
再び咆哮が響く。
私はそれ以上考えることもなく、勢いよく駆け出していた……。
〜〜星明かりの丘〜〜
「ラグナっ‼︎」
あの日、星空の下で初めてのキスをした場所。
そこは見るも無残な死んだ世界になっていた。
その中心にいるのは、漆黒の闇を纏う邪竜。
ラグナは、私を見て大きく目を見開いた。
『……A…Ri……シ…えrA……?』
「そうよ、ラグナ。私は生きてるわ」
落ち着かせるように柔らかい声で話しかける。
彼は動揺を隠せないのか、身体が大きく震えていて。
なんだか…子供みたいで少し笑ってしまったわ。
「帰りましょう、ラグナ」
『……お…レ……は……』
苦しむような声で彼は呟く。
私はにっこりと微笑んで、告げたわ。
「ラグナ様、大丈夫よ。…貴方の隣には……私がずっと一緒にいてあげるから」
手を差し出すが、彼は動かない。
どうしたのかと思ったら、闇の粒子が一気に放出された。
『ウガァァァァァァァァァァァァァォォァァア⁉︎』
「ラグナっ⁉︎」
ラグナは苦しそうに叫ぶ。
それを見て、力が制御できてないのだと悟った。
なら、私にできることは?
「ラグナっ‼︎落ち着いてっ‼︎」
『逃げ…ロ……アリ…しエラ……』
「嫌よっ‼︎貴方を置いていかない‼︎」
私は祈る。
大好きな彼を救いたい一心で。
「愛してる貴方を、一人にしないわっ‼︎」
その瞬間、世界は光に包まれた。
光が消え去って、目を開くと……そこには倒れ込むラグナの姿と、元に戻った世界。
私は慌てて彼の元に駆け寄った。
「ラグナっ‼︎」
彼の身体を抱き上げて、ボロボロと涙を零す。
私の涙が彼の頬に落ちたら……ラグナはゆっくりと目を開いてくれた。
「アリシエラ……」
「ラグナっ‼︎無事で良かったっ‼︎」
強く強く抱き締める。
離さないように、強く。
ただ、この腕の中に大好きな人がいる。
その奇跡に、私は喜びを隠せなかった。
〜〜卒業パーティー〜〜
崩壊した遺跡の下敷きになった黒ローブの人達が捕まり、後始末が終わった頃。
卒業パーティーが開かれた。
そんなパーティーの最中、私は殿下達に壇上へと連れて行かれた。
壇下には酷く冷たい顔をしたミュゼさん。
そして……アルフレッド様が、大声で宣言した。
「ミュゼ・シェノア‼︎君との婚約は破棄させてもらうっ‼︎」
騒つく会場。
ミュゼさんは大きく目を見開いて……震える声で聞いた。
「それは……どうしてですの?」
「それを君が言うのかっ‼︎君がアリシエラを虐めていたことは知っているんだぞっ⁉︎」
それを聞いて私は驚く。
だって、私が虐められていることは皆に言ってなかったのに。
アルフレッド様は今までミュゼさんにされてきたことを皆の前で明らかにしていく。
ミュゼさんは自分がしてきたことなのに驚いたように呆然としていて。
「私は、そんなことしていませんっ‼︎」
「嘘を吐くなっ‼︎」
ミュゼさんはやっていないと何度も否定する。
でも、皆、ミュゼさんの忠告を聞かないからって言っていたのよ。
「自分の手を汚さず他人の手を使うなど、君は人として最低だ‼︎」
「それにね?ミュゼ・シェノア。君は知らなかっただろうけれど……アリシエラは《秘匿されし聖女》なんだよ」
…………《秘匿されし聖女》…?
自分のことなのにそんなこと聞いたことがなかったから、思わず首を傾げてしまう。
殿下はそんな私の疑問に答えるように、教えてくれた。
「彼女は聖女としての力がある。癒しの力や豊穣の力がね」
それを聞いて、あの夜のことを思い出した。
死んだ世界に色が戻った時。
あれは私の聖女としての力が目覚めたからだったのだと。
「つまり、保護されるべき聖女様にっ‼︎貴様は虐めを行っていたのだっ‼︎よって、牢屋へと投獄するっ‼︎」
「私はやっていませんっ‼︎」
「連れて行けっ‼︎」
ヴィクター様の言葉に近衛兵達がミュゼさんを連れて行く。
それを呆然と見送った私は……足元に跪いた殿下達によって意識を戻した。
「アリシエラ。わたし達も婚約者と婚約解消をしたんだ」
「………えっ⁉︎」
殿下のその言葉に私だけじゃなく会場の人達も驚愕する。
だって、ジャン様は元々婚約者がいなかったらしいけど……王太子様や宰相子息様、公爵家子息様が一気に婚約がなしになったんですもの。
無知な私だって驚くわ。
「わたし達は君が好きだ。どうかわたし達の気持ちに答えてくれないか?」
それを聞いた瞬間、私は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「………嘘…」
知らなかった。
殿下達が私のことを好きだなんて。
でも、私は彼らの手を取れない。
だって……。
「………ごめんなさい……私、好きな人がいるの」
私にはラグナがいるんだもの。
「アリシエラ」
声の方を振り向けば……壇下で正装をしたラグナが甘やかな笑みを浮かべながら立っていて。
私は壇上から降りて、彼の腕に飛び込む。
「ラグナ。好きよ」
「………あぁ……俺もだ」
さっき、ヴィクター様は聖女は保護されると言っていた。
つまり、私は自由ではなくなってしまう。
そうしたら、邪竜であるラグナと共にいることができなくなってしまう。
それは嫌だった。
「ラグナ、攫って」
「………っ‼︎」
「貴方と、生きたいの」
ラグナは目を見開き……そして微笑む。
とても穏やかで、優しい笑顔で。
「分かった。共に生きよう、アリシエラ」
彼の腕の中に閉じ込められて、強い風が吹く。
目を開いた時には、星明かりが煌めく空へと飛び立っていた。
私は、きっと。
死ぬ時までこの夜空を忘れないわ。
*****
かくして、邪竜ルートの観賞が終わったその空間で。
皮膚に竜の鱗を出現させ始めたラグナは、苛立ちを隠さずに舌打ちをした。
「なぁ、取り敢えず。ムカつくからあの女、殺してきていいか?」
「あくまでもゲームの世界の話なので、落ち着いて下さいませ」
取り敢えず止めに入ったヴィクトリアは、大きく息を吐く。
そして、凄まじいほどに感情を感じさせない真顔になっているミュゼに視線を向けた。
「邪竜ルートなるモノも見終わりましたし……邪竜様もミュゼ様もご機嫌が悪そうなので、本日は解散にした方がよさそうですわ。ミュゼ様、今後の偽聖女の接触の対策にはなりましたの?」
「はい……取り敢えず、彼女がこのゲームのシナリオ通りに動こうとしているのはよーく分かったのです」
ふふふっ……と笑うミュゼは、怒りの余りか喋り方もいつもと変わっていて。
カルロス達はそんな彼女の様子に恐怖を覚えた。
学園生活でのローラの接触の仕方は、このゲームに類似していた。
いや、正確に再現しようとしていたのだろう。
だが、現時点で異なる点もある。
アルフレッド以外の攻略対象は退場しているし、《邪竜教》は今回の奴らを皮切りに捕まることになる。
つまり、ゲームとこの世界は完全に違うのだ。
しかし、完全に違うと分かっていても……ミュゼは、ラグナが他の女性と親しくしているのはいい気分じゃなかった。
ゲームの世界の異なるラグナであるけれど……同じ姿をしている彼が、他の女性と親しくしているのは映像を見ただけで、本当に怒り狂ってしまいそうだった。
今、こうして多少の理性が働いているのは、ラグナに抱き締められているからに過ぎない。
ゆえに、ミュゼはあの偽聖女がゲーム通りの接触をしようとするのを断固として阻止しようと決意した。
「ラグナ」
「なんだ?」
「人前でのイチャつきを許可します」
「えっ⁉︎」
その言葉を聞いてラグナはギョッとする。
ラグナは積極的にスキンシップを取ろうとしていたが……ミュゼは人前では恥ずかしいようで。
人前でのスキンシップは(ラグナ的には)控えていたのだ。
だが、ミュゼから人前でイチャつき許可が出た。
その事実に、彼はとても喜ばしいのだけど……とても驚いたのだ。
「私とラグナの仲の良さを見せて、ラグナは私のモノだって分からせてやりたいのです」
〝それは逆に煽ることになるのでは?〟と、その場にいた人々は思ったが……魔性の美貌を誇る邪竜が、他の人々をノックアウトさせるほどに蕩けた笑みを浮かべていたので……。
その言葉はミュゼに伝えられることはなかった。




