邪竜ルート、あるいは異なる世界の物語(1)
不定期続きます。
なんかネタバラシ編に入ってるので説明多くて、読みづらいですよね。
ごめんなさい、ご了承下さい‼︎
今後ともよろしくどうぞ‼︎
♪ちゃっちゃっ
光の中で四人のイケメンがキメ顔をする。
♪ちゃっちゃっ
闇の中で男性のシルエットの瞳が光る。
♪ちゃちゃちゃ〜
そして、一人の可愛らしい少女がゆっくりと目を開き、彼らに手を差し伸ばし……。
彼らも手を伸ばして……。
♪ちゃららっちゃっちゃ〜
タイトルロゴがその中央にー……。
「ちょっと待て。そういうのはいらない」
「え?あ。オープニングムービーの説明は、いらないですか?」
リオナが聞くと、ラグナはゲンナリとした顔で頷いた。
「いかにも女受けしそうな感じの始まりが受け入れられない」
「まぁ、乙女ゲームですから……女子の妄想が存分に盛り込まれた恋愛シミュレーションですからね」
現在、なんとか落ち着きを取り戻したミュゼ達は、ラグナルートのシナリオをリオナから聞いているところだった。
ラグナとしては、ミュゼという愛おしい花嫁がいるのに他の女と睦まじくなるストーリーをこれから聞かなくてはならないことに、ただでさえ気が滅入っていて。
早く話を終えて欲しいのに……彼女は長くなりそうな冒頭のオープニングムービーから説明しようとしたので、ラグナがストップをかけたのだ。
「……はぁ…脱線しそうだから、俺がお前の脳内を直接映し出すぞ。ゲームの俺のシナリオだけを思い出せ」
「…………はーい」
ラグナは心底面倒そうな顔をしながら魔法を発動させる。
「ミュゼのためとはいえ……ゲームの中であろうと、自分がクソ女と話している場面を見るのは、苛立つな……」
「我儘言ってごめんなさい。後でいっぱい甘やかしてあげます」
「うん、我慢する」
「後、多分あのゲームは本物のアリシエラ様ですよ?」
「他の女と話してるのは変わらないから」
腕の中にいるミュゼの首筋に、背後からキスをして強く抱き締める。
ちなみに……ラグナの精神安定剤代わりに、彼の膝の上にはミュゼが乗っていた。
「じゃあ、映すぞ」
そうして……ラグナルートのシナリオが明らかになる。
******
私は、アリシエラ・マチラス。
今までは普通の人として暮らしていたのだけど、親が死んでしまったらおじい様に引き取られたの。
その先がなんと……貴族の家‼︎
お母さん達はどうやら駆け落ちをしていたみたい。
急に貴族令嬢として暮らすことになった私は、貴族の子息令嬢達が通う学園に通うことになったわ。
〜〜学園の廊下〜〜
「大丈夫かい?」
転びそうになったところを、王太子様が助けてくれたの。
キラキラしててお姫様になったみたいだったわ。
〜〜学園の図書室〜〜
「おや。その本が好きなんですか?奇遇ですね」
宰相さんの息子さんとは本の趣味が合うみたい。
今度、オススメの本を紹介し合うことになったわ。
〜〜学園の中庭〜〜
「手当てをしてくれて、ありがとう」
騎士科に通う彼は生傷が絶えないみたい。
手当てをしてあげたら、とても可愛らしい笑顔でお礼を言ってくれた。
〜〜学園の校舎内〜〜
「ここは広いからな。迷子になる奴もいるんだ」
カッコいい男子が、迷子になった私を助けてくれた。
彼は公爵家の子息なんですって‼︎
上級貴族は意地悪なイメージがあったから、優しくてびっくり‼︎
貴族が通う学園って、私が思ってたのと違うみたい‼︎
〜〜学園のダンスホール〜〜
そして、新入生と在校生の舞踏交流会の夜。
私は彼に出会ったの。
「………貴方は…」
息抜きを兼ねて庭園に出てきた私の目の前……四阿にいた黒髪の美青年は、人ならざる美しさを誇っていて。
彼はその金の瞳で私を射抜く。
「貴様は……」
「私は、アリシエラ。アリシエラ・マチラスよ。貴方は?」
「………俺の名を、穢れなき乙女に告げる気はない」
「乙女……」
じわりと頬が熱くなる。
胸がドキドキして、苦しくなる。
これは……。
「なんでこんな所に一人でいるの?」
「花嫁を、探しに」
「花嫁?」
「そうだ」
彼は遠くを見つめるように、私が来た道に視線を向ける。
もしかして……。
「ダンスパーティーに、花嫁を探しにきたの?」
「あぁ」
「……………」
泣きそうな彼を見て私まで悲しくなる。
私がゆっくりと歩み寄ると、彼は冷たい視線で威圧してきた。
「近づくな」
「なんで?」
「お前と俺は相容れないからだ」
そんな迷子みたいな目をして?
近づこうとする人を拒絶するの?
そんなの、悲しすぎるわ。
「拒絶されても私は、貴方のことが知りたいの。貴方のことが気になったのよ」
「…………」
「何を怖がっているの?」
「っっ‼︎」
彼が大きく目を見開く。
そして、苛立たしそうに髪を掻き……何も言わずにその場から去って行った……。
*****
「まず気になるところが数点」
ラグナがミュゼの手を恋人結びで繋ぎながら、呆れた顔をする。
リオナも少し困ったような顔で告げた。
「気にしたらそこで終わりですよ。ご都合主義なんで」
「俺、ダンスパーティーに行こうなんて思わないんだけど?」
「あ、そこから否定します?」
「当たり前だろ?《邪竜の花嫁》って、そもそも俺が定義するモノだし。もし、花嫁であるミュゼがあそこにいるならあんな所に道草食うわけねぇだろ?」
それを聞いたカルロスは、呟いた。
「なら、ミュゼ様がいるかは分からないけど探していて偶々ダンスパーティーを見に来たとか?」
「なら、余計にゲームの俺はダンスホールを見ていかなくちゃ駄目だろ」
「そりゃそーっすね。ミュゼ様がいるかもしれないのに、見ないでアリシエラ様の言葉で退散ってあり得ないですもんね」
実際に花嫁に対する態度を見ているからこそ、カルロス達は彼が何もせずに帰るなんて〝あり得ない〟と否定できた。
他人の目から見てもラグナの執着は異常だ。
溺愛とも狂愛とも言える邪竜の執愛。
そんな彼が、花嫁がそこにいるかもしれないのに会わずに帰るなんてあり得ない。
「つまり、逆に考えると……素直に帰った時点で、クソ女………じゃなくて。秘匿聖女に会ったゲームの俺は、花嫁を決めてないってことだろ」
『え?』
その言葉に、ミュゼ以外の人達の動きが止まる。
ミュゼを溺愛しているラグナが、ミュゼを花嫁としていないということが理解できなかったからだ。
「なんだよ」
「いや、あの……ミュゼ様はラグナ様の花嫁であられますよね?だけど、花嫁じゃないって……」
「言っとくが、四回目の初対面の時は……最初の頃は、ミュゼを花嫁としてなかったからな」
『えぇぇっ⁉︎』
流石にその台詞にはミュゼを除く全員がギョッとする。
あの溺愛から見ても、最初からミュゼのことを花嫁として扱っていたと思っていたからだ。
「じゃあ……なんで五回目で……ここにいるラグナ様は、対面時にミュゼ様を花嫁としたんですか?」
カルロスの言葉に、ラグナは腕の中にいる愛しい人の髪を撫でる。
「要するに……花嫁の特徴ってのは、俺が花嫁と決めた女の魂に刻むんだ。で、俺は四回目でミュゼを花嫁とした。だから、たとえ輪廻転生して記憶がなくても、俺はミュゼだった魂を愛する」
「………はぁ…」
「で、五回目は俺が永きに渡って闇の中で微睡んでいたから、花嫁を見つけるのが遅くなった。加えて、ミュゼが五回目だって思い出して、俺を呼んだから……俺は目覚めて直ぐに彼女の元に来れた。だから、俺達は出会えた。そんな前提があったから、記憶がない……まっさら状態による関係の始まりじゃなかったってだけだ」
それを聞いたミュゼは頬を染める。
魂さえもラグナのモノであることに恍惚とした感情が溢れたからだ。
だが、ふと思う。
「………それ、私がもしラグナのことを思い出したりしなかったら。違う人間として転生してたらどうするんですか?」
もしも。
もし、私が記憶を思い出していなかったなら。
違う人間となっていたのなら。
もしかしたら、その時の自分は彼を拒絶するかもしれない。
そんな不安に駆られたのだ。
だが、それは杞憂に終わる。
「第二王子と同じ答えになるのは少し癪だが、口説き落とすぞ?」
「……………」
「そもそもの話、俺はゲームの俺のように拒絶されるのが恐いとか思ってないしな。というか、拒絶するなら勝手にしてろ。あ、ミュゼは別だが。花嫁だけは離さない。というか、さっきも言ったが輪廻転生なんてさせずに死んだ後も俺の手元に置いておくことだってできるんだ。それに、ミュゼはもう人間じゃないから……早々死なないし、不安がらずとも大丈夫だ。だから、もしもを考えるだけ無駄だぞ?」
ラグナは揺るぎなくラグナだった。
どこまでも花嫁を愛する邪竜だった。
ミュゼはそれに嬉しくなって、蕩けるような笑顔で彼の頬にキスをする。
そして、甘くにっこりと微笑みかけた。
「ふふっ、なら……死んでも私のこと、離さないで下さいね」
「あぁ、勿論だ」
そのままイチャイチャと甘い空気を出し始める二人。
そんなミュゼ達を無視して、それを聞いたレイファンは「なるほど」と納得した。
「となると、リオナ殿が言っていたご都合主義……は的を射ていますね。ゲームの世界はアリシエラ嬢に都合がいいように動いていますし、この世界との相違点が多いようです。いっそ乖離しているとも言えますね」
イチャイチャするミュゼ達を見ながら、カルロスは思う。
「………ということは。花嫁ではないゲームのミュゼ様は、どう関わってくるんですかね」
『……………』
彼らは顔を見合わせる。
そう、彼らは気づいたのだ。
ゲームのストーリーは、今、この邪竜と花嫁の異なる物語であるとーー。
カルロス達は、いそいそとゲームのシナリオの続きを見始めた………。