邪竜は過去を推定する(2)
説明、シリアス?続きます。
まだまだ不定期続きますが、よろしくお願いします‼︎
今年も、もう残りわずか……今年最後の投稿になるかもしれません(本編or番外が書ける時間があるか……と格闘中です)が、沢山の方に読んで頂きありがとうございました‼︎
来年もよろしくどうぞ‼︎
なぁ、ミュゼ。
気づいてるか?
最初、お前は俺の手が汚れることを好まなかった。
ただ、壊れていても……まだ少しはマトモなところがあったんだろうな。
お前は、普通に暮らしたいと願っていた。
だけど、邪竜の力がお前を侵して。
ミュゼという人間を殺して。
ミュゼという化物を生み出した。
今のお前は、気づいていてもそれを受け入れている。
俺の手は、ミュゼが望んだことではないけれど……俺の我儘によって汚れているんだ。
殺してはいないけれど、奴らは死よりも苦しい目に実際に遭っている。
俺の力で気が狂うことができないから、余計に奴らは苦しんでるんだ。
一人になった瞬間に……あいつらはガタガタと身体を震わせているんだ。
そうなるように、俺が細工したから。
人といる時は大丈夫でも……一人になった瞬間、《破滅の邪竜》に与えられた悪夢が、苦痛が、襲いかかってくるように呪いをかけたから。
以前のミュゼだったら……俺がこんなことをしたら、きっと悲しんだだろう。
俺が誰かを傷つけるようなこと、望んでいなかったから。
でも、今のお前は違う。
人の手によって壊れた心に、邪竜によって壊れた人という概念。
今のお前は限りなく俺に近い存在で。
だから、俺のすることに疑問も抱かない。
俺の手が汚れることも厭わない。
俺が望むことならどんなことも肯定する。
ミュゼは……俺が望んだから始まった復讐を受け入れてくれる。
もうそれだけで、俺は幸せで。
俺に捧げられた……その壊れた愛に、俺は酔いしれるんだ。
*****
「ミュゼが可愛いことを言うからつい、話が逸れたな。話を戻そうか」
「むぅ、私の所為ですか?」
「お前が可愛いのがいけない」
ぷくっと頬を膨らませるミュゼ。
クスクスと笑いながら、ラグナは彼女の頬を撫でて、空中に光の文字を書いた。
「ここまでの話をまとめるぞ」
ラグナは分かりやすいように、空中に話の内容をまとめていく。
[ローラ・コーナーに関して]
・この女はタイムリープを繰り返している。
・禁術の知識、聖女の知識、邪竜教の情報を有している(タイムリープの中で入手したと思われる)。
・毎回、何かしら暗躍している。
・《秘匿されし聖女》アリシエラ・マチラスの肉体と入れ替わっている。
・邪竜を邪竜教に捕まえさせようとしていた。
・邪竜の寵愛を受けるのは自分だとか抜かしてやがる。
・ミュゼに敵意を抱いている。
[アリシエラ・マチラスに関して]
・ローラ・コーナーの肉体と入れ替わっている。
・善良がゆえに騙され易い性格だと考えられる。
[ミュゼ・シェノアに関して]
・ミュゼは四回、死を繰り返している。
・冤罪で死んでいる。
・邪竜の花嫁
[現時点での疑問点]
・今までの人生では肉体を入れ替えていないのは何故?(ミュゼがローラ・コーナーに辛辣な態度で当たられていたから、入れ替わっていないと仮定する)。
・何故、五回目で入れ替わった?
・今まではローラ・コーナーの肉体でどうやって禁術などの情報を集めた?
・何故、ミュゼに敵意を抱く?
・何故、あの馬鹿女はミュゼが死ぬように動くのか?
「この時点で分からないことは?」
ラグナの言葉に皆が首を振る。
そして、国王がその文字を見て……大きく息を吐いた。
「もうこの時点で頭が痛いな……。重要なのは今後、どう行動するか、か?」
「そうだな。まぁ、分からないモノは分からないし……最終的に元婚約者と馬鹿女にも報いを受けてもらうから、その時にでも聞き出せば良いだろう」
「……………ちなみに、いつ動き出す気なんだ?」
恐る恐る聞かれてラグナは考え込む。
だが、それはあくまでも建前で……彼は既にその日を決めていた。
「……いつと言われれば卒業式の日にしようかと思ってるが?」
「その理由は?」
「ミュゼが婚約破棄されるのがその日だから。逆に断罪してやろうかなって」
「……………卒業式の日なんてもう時間がないじゃないか……」
なんだかんだと言って、卒業式の日は約一ヶ月ぐらいしかない。
逆に言えば、ミュゼがあのダンスパーティーで婚約破棄を申し出た日から、まだ三ヶ月ほどしか経っていなかった。
「なんか濃厚な日々ですね」
「そうか?」
「はい。ちょっと楽しいです」
邪竜による復讐の日々が楽しいと言えるミュゼは、かなり壊れている。
だが、ラグナはそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。
「ミュゼが楽しいなら俺も嬉しいよ」
「ふふふっ、私が楽しいならラグナも嬉しいなんて……変なラグナですね?」
「そうか?好きな女が楽しそうにしてたりするのは嬉しくなるだろ」
会話は甘いのに……その事実はとても恐ろしくて。
「…………ふと思ったのですが」
その時、今まで口を開いていなかったリオナが口を開いた。
皆の視線が彼女に向く。
「さっき言ってたように……ラグナ様に愛してもらうために、ローラ様はタイムリープを繰り返していたってことですよね?」
「………まぁ、自意識過剰じゃなければ」
「その過程で、ラグナ様を手に入れる情報とか、力を手に入れるためにレイド殿下とかに近づいていたと」
「あぁ。だけど、近づいていたのは本物のアリシエラだろうから……どうやって馬鹿女が情報を手入れたのかは分からないが」
「……………逆に考えてみませんか?」
「…………ん?」
リオナの言葉に皆が首を傾げる。
しかし、彼女は「確かかは分かりませんけど」と前置きをして答えた。
「初めからローラ様は全てを知っていた……と考えるんです。邪竜を手に入れる方法をレイド殿下…というか、王族が知っていたとか。どんな風にミュゼ様が婚約破棄されるのか、とか」
「…………つまり?」
「このシナリオを知っていた上で、その通りに動こうとしていたみたいな……」
その言葉を聞いた瞬間、ラグナは目を見開いた。
そして、リオナを上から下まで見て……警戒したようにミュゼを抱き締める。
彼の唐突な行動にミュゼは勿論、彼らは何事かと少し慌てた。
「…………お前……何者だ?」
ラグナの声は、いつもより低くて……警戒心が露わになっていて。
「………え?」
リオナの顔に動揺が走る。
しかし、彼女が何かを弁解するよりも先にラグナは「あぁ、そうか」と小さく舌打ちをした。
「俺が気づかない訳だ。お前、異世界の神に関わりがあるな?」
「………っ⁉︎」
「流石の俺でも、異世界の神が関わったことは感知できない。だが、注意して見ればその残滓くらいは。違和感ぐらいは分かる」
ラグナはそこで言葉を切ると……リオナに問うた。
「お前、転生者か?」
『え?』
ラグナの言葉に驚きの声が重なる。
リオナも大きく目を見開いて……呆然とする。
追い打ちをかけるように、ラグナは告げた。
「素直に答えなければ、俺はお前を殺す。俺の愛しいミュゼが関わることなんだ。素直に吐け」
ぞわりっ……。
その声は酷く冷たくて、とても冷酷で。
ラグナの顔からは表情が抜け落ちて、闇を帯びた黄金の瞳がリオナを見つめていた。
ガクガクと彼女は震える。
それは、邪竜という人ならざるモノの力に威圧されたから。
邪竜の力に、晒されたから。
リオナは涙を目滲ませながら、何度も頷いた。
「………は……は、ぃ……私は……異世界、から……転生した者……です……」
その返事に、ラグナからの威圧がなくなる。
そして……その場でその言葉の意味を理解できたのは、ラグナ以外いなかった。
〝転生者〟という概念はこの世界になかったのだから。
「ラグナ。その、テンセイシャ?というのはなんです?」
「………簡単に言えば、異世界で死んだ者が違う世界……例えばこの世界で生まれたりするんだ。異世界の記憶、前世の記憶を有したままで」
「……は…ぃ。ラグナ様の、ご説明通りです……」
怯えきったリオナは少しばかり会話が困難になっていた。
ラグナは少しバツが悪そうになり、ヴィクトリアに視線を向ける。
彼女も少し困ったような顔をして……だが、何も言わずにリオナの手を握った。
「大丈夫ですわ、リオナ。ゆっくり話して下さいな」
「…………は、い……」
《聖女》の癒しの力でリオナの精神は少しずつ落ち着いていく。
そして、彼女は少しずつ語り出した。
「………私の場合、神様の手違いで死んでしまったため、救済措置として転生しました。私の世界の神様は新米らしくて……手違いで死んでしまう人がいるらしいんです。そして、私の世界の神様の先生役に当たる神様がこの世界の神様。ですから、先生が責任を取って、死んだ魂をこの世界に受け入れるらしいです」
それを聞いたラグナは「この世界の神は、そんなこと一言も言ってなかったぞ……」と文句を言う。
リオナは真剣な顔で、続けた。
「会ったことはありませんが、多分……ローラ・コーナーも同じ転生者だと考えられます」
「………どうしてそう思う?」
「………この世界が、『光と闇のロンド〜秘密の聖女は愛に溺れる〜』っていう乙女ゲームの世界に類似しているから」
「………オトメ…ゲーム?」
ミュゼ達が理解できない単語が出てきた。
困惑した空気の中、ラグナは面倒そうに溜息を吐いた。
「おい、お前の話じゃ理解ができないから記憶を覗かせろ」
「……………はい……」
ラグナは黄金の瞳に力を込める。
そして、リオナの記憶を見て……先ほどのように空中に文字を書いた。
『光と闇のロンド〜秘密の聖女は愛に溺れる〜』
主人公のアリシエラ・マチラスが、駆け落ちした両親が死んだため、庶民から子爵家の令嬢となり、学園に通うことになる。
そこで四人の攻略対象と称される男と仲良くなり……恋愛したり、悩んだり、邪魔されたりと、様々な問題を乗り越えてハッピーエンド(過程を間違えるとバットエンドになる)に向かう。
………という内容だった。
「神様の話では……私の世界で死んだ場合は、この世界に受け入れるって仕組みになっていたみたいですけど、救済措置として異世界に転移させるのは、どの世界でもいいみたいなんです。ついでに言うと、時間軸がバラバラに転生するものらしくて……私の世界にあったゲームはこの世界の出来事を覚えていた転生者が、作ったみたいなんです」
「………だが、そいつは馬鹿女みたいにタイムリープしてないだろう?なんで複数のシナリオが分かったんだ?」
「えっと……その人はギフト持ちで。確か……未来視が……」
その言葉にラグナは「そういうことか……」と呻いた。
つまり、その転生者がいた時のこの世界では、そのゲームの内容の出来事が起きた。
その人物は自身の未来しか知れないが未来予知とは違い……。
確実性はかなり低いが、数多の未来の可能性を見ることができる未来視を使って、攻略対象である四人ごとの場合でのシナリオを知ることができた。
そして、その人物が転生し、ゲームとした。
そのゲームを遊んだのが、ローラやリオナ。
ゆえに、彼女達はシナリオの内容を覚えていた。
今度はそんな二人が、シナリオの舞台となった世界に転生し……。
ローラは、そのシナリオを再現しようとした、と。
「………オトメゲームというのは、要するに恋愛小説みたいなものなんだな?」
「はい」
「なるほどな……だから、ミュゼに敵意を」
リオナの記憶を見て納得したラグナは、皆が理解できるように説明した。
「シナリオは書いた通りだ。で、このシナリオの中でヒロインの恋路を邪魔するのが……悪役令嬢という役割を与えられた少女らしい」
「もしかして……」
「………あぁ」
ラグナの視線がゆっくりと向けられる。
彼の腕の中……ミュゼは、なんとも言えない顔で苦笑した。
「私がその悪役令嬢、なんですか?」
ラグナが無言で頷く。
これで、納得した。
ローラ・コーナーがミュゼを馬鹿にしていた理由を。
ミュゼは悪役令嬢で、その役割はヒロインの恋を邪魔して……罪を犯し、最後には断罪されるべき存在だったから。
ミュゼが断罪されるからこそ、その恋が、相手との仲が深くなるから。
攻略対象と呼ばれる男達が、アリシエラを永遠に愛すると誓うキッカケになるから。
だから、ローラはミュゼを何が何でも断罪させたかったのだ。
「………つまり、あのクソ女はその恋愛小説を実現させようとして、ミュゼを殺してたのか」
「………はい…」
「なら、肉体を乗っ取った理由も恐らくだが推測できるな」
「………そうなのか?」
怪訝な顔をする国王に、彼は頷いてみせる。
そして、呆れたような……嘲るように鼻で笑った。
「簡単に言えば、あの女は自分が世界の中心と言わんばかりの態度だった。要するに……この世界の主人公になれなかったのが気に食わなかったんだろ?だから、身体を乗っ取ったんじゃないか?」