表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/82

邪竜は過去を推定する(2)



説明、シリアス?続きます。


まだまだ不定期続きますが、よろしくお願いします‼︎

今年も、もう残りわずか……今年最後の投稿になるかもしれません(本編or番外が書ける時間があるか……と格闘中です)が、沢山の方に読んで頂きありがとうございました‼︎

来年もよろしくどうぞ‼︎







なぁ、ミュゼ。

気づいてるか?



最初、お前は俺の手が汚れることを好まなかった。

ただ、壊れていても……まだ少しはマトモなところがあったんだろうな。

お前は、普通に暮らしたいと願っていた。



だけど、邪竜おれの力がお前を侵して。


ミュゼという人間を殺して。


ミュゼという化物を生み出した。



今のお前は、気づいていてもそれを受け入れている。



俺の手は、ミュゼが望んだことではないけれど……俺の我儘によって汚れているんだ。


殺してはいないけれど、奴らは死よりも苦しい目に実際に遭っている。


俺の力で気が狂うことができないから、余計に奴らは苦しんでるんだ。


一人になった瞬間に……あいつらはガタガタと身体を震わせているんだ。


そうなるように、俺が細工したから。


人といる時は大丈夫でも……一人になった瞬間、《破滅の邪竜》に与えられた悪夢が、苦痛が、襲いかかってくるように呪いをかけたから。



以前のミュゼだったら……俺がこんなことをしたら、きっと悲しんだだろう。

俺が誰かを傷つけるようなこと、望んでいなかったから。



でも、今のお前は違う。

人の手によって壊れた心に、邪竜によって壊れた人という概念。


今のお前は限りなく俺に近い存在で。


だから、俺のすることに疑問も抱かない。


俺の手が汚れることも厭わない。


俺が望むことならどんなことも肯定する。


ミュゼは……俺が望んだから始まった復讐わがままを受け入れてくれる。



もうそれだけで、俺は幸せで。




俺に捧げられた……その壊れた愛に、俺は酔いしれるんだ。




*****





「ミュゼが可愛いことを言うからつい、話が逸れたな。話を戻そうか」

「むぅ、私の所為ですか?」

「お前が可愛いのがいけない」


ぷくっと頬を膨らませるミュゼ。

クスクスと笑いながら、ラグナは彼女の頬を撫でて、空中に光の文字を書いた。


「ここまでの話をまとめるぞ」


ラグナは分かりやすいように、空中に話の内容をまとめていく。





[ローラ・コーナーに関して]

・この女はタイムリープを繰り返している。

・禁術の知識、聖女の知識、邪竜教の情報を有している(タイムリープの中で入手したと思われる)。

・毎回、何かしら暗躍している。

・《秘匿されし聖女》アリシエラ・マチラスの肉体と入れ替わっている。

・邪竜を邪竜教に捕まえさせようとしていた。

邪竜おれの寵愛を受けるのは自分だとか抜かしてやがる。

・ミュゼに敵意を抱いている。


[アリシエラ・マチラスに関して]

・ローラ・コーナーの肉体と入れ替わっている。

・善良がゆえに騙され易い性格だと考えられる。


[ミュゼ・シェノアに関して]

・ミュゼは四回、死を繰り返している。

・冤罪で死んでいる。

・邪竜の花嫁


[現時点での疑問点]

・今までの人生では肉体を入れ替えていないのは何故?(ミュゼがローラ・コーナーに辛辣な態度で当たられていたから、入れ替わっていないと仮定する)。

・何故、五回目で入れ替わった?

・今まではローラ・コーナーの肉体でどうやって禁術などの情報を集めた?

・何故、ミュゼに敵意を抱く?

・何故、あの馬鹿女はミュゼが死ぬように動くのか?





「この時点で分からないことは?」


ラグナの言葉に皆が首を振る。

そして、国王がその文字を見て……大きく息を吐いた。


「もうこの時点で頭が痛いな……。重要なのは今後、どう行動するか、か?」

「そうだな。まぁ、分からないモノは分からないし……最終的に元婚約者と馬鹿女にも報いを受けてもらうから、その時にでも聞き出せば良いだろう」

「……………ちなみに、いつ動き出す気なんだ?」


恐る恐る聞かれてラグナは考え込む。

だが、それはあくまでも建前フリで……彼は既にその日を決めていた。


「……いつと言われれば卒業式の日にしようかと思ってるが?」

「その理由は?」

「ミュゼが婚約破棄されるのがその日だから。逆に断罪してやろうかなって」

「……………卒業式の日なんてもう時間がないじゃないか……」


なんだかんだと言って、卒業式の日は約一ヶ月ぐらいしかない。

逆に言えば、ミュゼがあのダンスパーティーで婚約破棄を申し出た日から、まだ三ヶ月ほどしか経っていなかった。


「なんか濃厚な日々ですね」

「そうか?」

「はい。ちょっと楽しいです」


邪竜ラグナによる復讐の日々が楽しいと言えるミュゼは、かなり壊れている。

だが、ラグナはそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。


「ミュゼが楽しいなら俺も嬉しいよ」

「ふふふっ、私が楽しいならラグナも嬉しいなんて……変なラグナですね?」

「そうか?好きな女が楽しそうにしてたりするのは嬉しくなるだろ」


会話は甘いのに……その事実はとても恐ろしくて。



「…………ふと思ったのですが」



その時、今まで口を開いていなかったリオナが口を開いた。

皆の視線が彼女に向く。


「さっき言ってたように……ラグナ様に愛してもらうために、ローラ様はタイムリープを繰り返していたってことですよね?」

「………まぁ、自意識過剰じゃなければ」

「その過程で、ラグナ様を手に入れる情報とか、力を手に入れるためにレイド殿下とかに近づいていたと」

「あぁ。だけど、近づいていたのは本物のアリシエラだろうから……どうやって馬鹿女が情報を手入れたのかは分からないが」

「……………逆に考えてみませんか?」

「…………ん?」


リオナの言葉に皆が首を傾げる。

しかし、彼女は「確かかは分かりませんけど」と前置きをして答えた。


「初めからローラ様は全てを知っていた……と考えるんです。邪竜を手に入れる方法をレイド殿下…というか、王族が知っていたとか。どんな風にミュゼ様が婚約破棄されるのか、とか」

「…………つまり?」

「このシナリオを知っていた上で、その通りに動こうとしていたみたいな……」


その言葉を聞いた瞬間、ラグナは目を見開いた。

そして、リオナを上から下まで見て……警戒したようにミュゼを抱き締める。

彼の唐突な行動にミュゼは勿論、彼らは何事かと少し慌てた。



「…………お前……何者・・だ?」



ラグナの声は、いつもより低くて……警戒心が露わになっていて。


「………え?」


リオナの顔に動揺が走る。

しかし、彼女が何かを弁解するよりも先にラグナは「あぁ、そうか」と小さく舌打ちをした。


「俺が気づかない訳だ。お前、異世界の神に関わりがあるな?」

「………っ⁉︎」

「流石の俺でも、異世界の神が関わったことは感知できない。だが、注意して見ればその残滓くらいは。違和感ぐらいは分かる」


ラグナはそこで言葉を切ると……リオナに問うた。



「お前、転生者か?」



『え?』


ラグナの言葉に驚きの声が重なる。

リオナも大きく目を見開いて……呆然とする。

追い打ちをかけるように、ラグナは告げた。



「素直に答えなければ、俺はお前を殺す。俺の愛しいミュゼが関わることなんだ。素直に吐け」



ぞわりっ……。

その声は酷く冷たくて、とても冷酷で。

ラグナの顔からは表情が抜け落ちて、闇を帯びた黄金の瞳がリオナを見つめていた。

ガクガクと彼女は震える。


それは、邪竜という人ならざるモノの力に威圧されたから。

邪竜の力に、晒されたから。


リオナは涙を目滲ませながら、何度も頷いた。



「………は……は、ぃ……私は……異世界、から……転生した者……です……」



その返事に、ラグナからの威圧がなくなる。

そして……その場でその言葉の意味を理解できたのは、ラグナ以外いなかった。

〝転生者〟という概念はこの世界になかったのだから。


「ラグナ。その、テンセイシャ?というのはなんです?」

「………簡単に言えば、異世界で死んだ者が違う世界……例えばこの世界で生まれたりするんだ。異世界の記憶、前世の記憶を有したままで」

「……は…ぃ。ラグナ様の、ご説明通りです……」


怯えきったリオナは少しばかり・・・・・会話が困難になっていた。

ラグナは少しバツが悪そうになり、ヴィクトリアに視線を向ける。

彼女も少し困ったような顔をして……だが、何も言わずにリオナの手を握った。


「大丈夫ですわ、リオナ。ゆっくり話して下さいな」

「…………は、い……」


《聖女》の癒しの力でリオナの精神は少しずつ落ち着いていく。

そして、彼女は少しずつ語り出した。


「………私の場合、神様の手違いで死んでしまったため、救済措置として転生しました。私の世界の神様は新米らしくて……手違いで死んでしまう人がいるらしいんです。そして、私の世界の神様の先生役に当たる神様がこの世界の神様。ですから、先生が責任を取って、死んだ魂をこの世界に受け入れるらしいです」


それを聞いたラグナは「この世界の神は、そんなこと一言も言ってなかったぞ……」と文句を言う。

リオナは真剣な顔で、続けた。


「会ったことはありませんが、多分……ローラ・コーナーも同じ転生者だと考えられます」

「………どうしてそう思う?」

「………この世界が、『光と闇のロンド〜秘密の聖女は愛に溺れる〜』っていう乙女ゲームの世界に類似しているから」

「………オトメ…ゲーム?」


ミュゼ達が理解できない単語が出てきた。

困惑した空気の中、ラグナは面倒そうに溜息を吐いた。


「おい、お前の話じゃ理解ができないから記憶を覗かせろ」

「……………はい……」


ラグナは黄金の瞳に力を込める。

そして、リオナの記憶を見て……先ほどのように空中に文字を書いた。




『光と闇のロンド〜秘密の聖女は愛に溺れる〜』

主人公ヒロインのアリシエラ・マチラスが、駆け落ちした両親が死んだため、庶民から子爵家の令嬢となり、学園に通うことになる。

そこで四人・・の攻略対象と称される男と仲良くなり……恋愛したり、悩んだり、邪魔されたりと、様々な問題を乗り越えてハッピーエンド(過程を間違えるとバットエンドになる)に向かう。

………という内容だった。





「神様の話では……私の世界で死んだ場合は、この世界に受け入れるって仕組みになっていたみたいですけど、救済措置として異世界に転移させるのは、どの世界でもいいみたいなんです。ついでに言うと、時間軸がバラバラに転生するものらしくて……私の世界にあったゲームはこの世界の出来事を覚えていた転生者が、作ったみたいなんです」

「………だが、そいつは馬鹿女みたいにタイムリープしてないだろう?なんで複数のシナリオが分かったんだ?」

「えっと……その人はギフト持ちで。確か……未来視が……」


その言葉にラグナは「そういうことか……」と呻いた。

つまり、その転生者がいた時のこの世界では、そのゲームの内容の出来事が起きた。

その人物は自身の未来しか知れないが未来予知とは違い……。

確実性はかなり低いが、数多の未来の可能性を見ることができる未来視を使って、攻略対象である四人ごとの場合でのシナリオを知ることができた。

そして、その人物が転生し、ゲームとした。

そのゲームを遊んだのが、ローラやリオナ。

ゆえに、彼女達はシナリオの内容を覚えていた。


今度はそんな二人が、シナリオの舞台となった世界に転生し……。

ローラは、そのシナリオを再現しようとした、と。


「………オトメゲームというのは、要するに恋愛小説みたいなものなんだな?」

「はい」

「なるほどな……だから、ミュゼに敵意を」


リオナの記憶を見て納得したラグナは、皆が理解できるように説明した。


「シナリオは書いた通りだ。で、このシナリオの中でヒロインの恋路を邪魔するのが……悪役令嬢という役割を与えられた少女らしい」

「もしかして……」

「………あぁ」


ラグナの視線がゆっくりと向けられる。

彼の腕の中……ミュゼは、なんとも言えない顔で苦笑した。



「私がその悪役令嬢、なんですか?」



ラグナが無言で頷く。

これで、納得した。

ローラ・コーナーがミュゼを馬鹿にしていた理由を。

ミュゼは悪役令嬢で、その役割はヒロインの恋を邪魔して……罪を犯し、最後には断罪されるべき存在だったから。

ミュゼが断罪されるからこそ、その恋が、相手との仲が深くなるから。

攻略対象と呼ばれる男達が、アリシエラを永遠に愛すると誓うキッカケになるから。

だから、ローラはミュゼを何が何でも断罪させたかったのだ。


「………つまり、あのクソ女はその恋愛小説を実現させようとして、ミュゼを殺してたのか」

「………はい…」

「なら、肉体を乗っ取った理由も恐らくだが推測できるな」

「………そうなのか?」


怪訝な顔をする国王に、彼は頷いてみせる。

そして、呆れたような……嘲るように鼻で笑った。




「簡単に言えば、あの女は自分が世界の中心と言わんばかりの態度だった。要するに……この世界の主人公ヒロインになれなかったのが気に食わなかったんだろ?だから、身体を乗っ取ったんじゃないか?」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ