邪竜は過去を推定する(1)
説明口調が多いです。
シリアスです。読み辛いかもしれませんが、ご了承下さい‼︎
作者の諸事情につき、不定期続きます。よろしくどうぞ‼︎
わたくしは、この光景に恐怖せずにはいられませんでしたわ。
《破滅の邪竜》が人の常識に囚われないのは、当たり前のこと。
なのに、何故、それを忘れていたのでしょうか。
そして……その花嫁たるミュゼ様。
彼女は自分が人間ではなくなったというのに、それを簡単に受け入れてしまわれましたわ。
先ほど、皆さんで話し合う前。
わたくしはミュゼ様に〝人ならざるモノ〟になり始めていると警告しました。
しかし、ミュゼ様の返答はこうです。
『だから、なんですか?』
まるで天気の話をするかのような軽さで首を傾げられた彼女。
わたくしは絶句しましたわ。
そして、この二人の会話を聞いて……分かってしまったのです。
この二人は、共にいればいるほど……壊れていくのでしょうと。
そして、互いさえいれば他はどうなろうと構わないのでしょうと。
わたくしは、心の中で神に祈ります。
どうかこの気まぐれな災厄が……気まぐれで世界を滅ぼさないように、とーー。
*****
ミュゼとラグナの異常さに恐怖している中。
ラグナは唐突に、ヴィクトリアの方を向いた。
「あぁ、そうだ。聖女に一つ聞きたい」
「……わ……わたくしに、ですか?」
急に声をかけられたヴィクトリアは、少し怯えたような……驚いた顔をした後、「……なんでしょうか?」と声を少し震わせながら聞く。
ラグナは鋭い目線を向けたまま、質問した。
「今、この教会に保護されている本当のアリシエラ・マチラスはどんな人間だ?」
「………アリシエラさん、ですか…?」
彼女は思い出すように目を伏せて……ゆっくりと語り出す。
「………そうですね……。人を疑うことなく、慈悲深く。言われたことや頼まれたことをなんでも素直に聞く……まさに《聖女》として相応しい人格者ではあります。善良、と言えますわ」
「身体を奪った偽物聖女のことは?」
「……彼女にはもう怒っていないそうです。事情があったのかもしれないと」
「………あんな目にあって許すのか。甘いな……だが、これで情報が一つ」
影からするりと妖艶な双子が出てくる。
エイダとエイスは「「ご機嫌よう」っす」と挨拶をすると、ラグナに紙を手渡した。
「情報っすよ〜」
「すっごく怯えられたけど、きちんと搾り取ってきましたワ」
二人は艶やかに微笑むと、〝教会は神聖な空気がしてて嫌だから〟と言って直ぐに去る。
ラグナは渡された紙を確認して、頷いた。
「これで情報が二つ、三つ。さて……過去に起きたであろう話をするか。ただ、数多の可能性の中、一番確率の高い答えを導き出すだけだから、百発百中という訳じゃないことを覚えておけ」
そう前置きをしてから、ラグナは空中に光の文字を書き出した。
「まず、大事なのはローラ・コーナーはタイムリープを繰り返しているということ。それはミュゼが今までの死を思い出しているから、間違いないと思われる。本物のアリシエラとローラの身体が入れ替わっている以上、身体を乗っ取るために回数を重ねていたというところか」
アリシエラの肉体にはローラの魂が。
ローラの肉体にはアリシエラの魂が。
二人の肉体は禁術によって入れ替わり、もう戻ることはない。
「ここであの宰相子息からの情報が一つ」
ラグナは手元の紙を確認して、嘲るように笑う。
「アリシエラ・マチラスという名義で、彼女が学園に来る一週間ほど前に手紙が届いたそうだ。その内容は自分が聖女であること、予知ができること。ローラ・コーナーという少女が自分を害そうとしていると予知したが、最悪の場合はローラ・コーナーと二度と会えないようにして欲しい。助けて欲しい……なんて書いてあったらしいぞ?」
「………それってもしかして……自分達が救出に行った娼館に売られた時の……?」
「多分な。この手紙は本物のアリシエラではなく、偽聖女が書いて出したものだと思われる。つまりはアリシエラと出会う数日前には動き出していた、と」
ラグナは、「この行動はもしかしたら、馬鹿女が肉体と魂の入れ替わりが二度と戻らないことを知らず、本当のアリシエラが何かしないようにと画策したがゆえなのかもしれない」と付け加えた。
「馬鹿女が聖女と入れ替わる禁術を用いた。だが、入れ替わることであいつにどんなメリットがある?入れ替わったことによる目的は?そんな疑問があることを前提に仮定して、次にミュゼの死について話していこう」
一回目はアリシエラに働いていたというデタラメな悪事をアルフレッドと宰相の子息にでっち上げられ、その所為で婚約破棄された後に国外追放。旅の途中で何者かに襲われ、崖から落ちて死んだ。
二回目はやはり婚約破棄をされ、アリシエラを慕っていた騎士候補の男に殺された。
三回目は婚約破棄で泣きながら王都を彷徨っていたら、攫われてズタボロになった後に病気で死んだ。
四回目は……邪竜教という宗教に捕まり、生贄として殺されそうになったところを、アルフレッドに助けられたかと思ったら彼に殺された。
そして、今は五回目。
「一回目の死は馬鹿王太子に命令されたそこの従者の仕業。二回目は元騎士候補。三回目はあの宰相子息……四回目は元婚約者……というのが、ミュゼを殺した奴だ。で、どうしてミュゼが死ぬことになったのか。それはアリシエラが原因になっていると考えられる」
「…………アリシエラ、様がですか……?」
「ミュゼ……お前に聞く。お前は今までの人生でアリシエラにどんな風に接していた?どんな風に婚約破棄された?」
ミュゼはそう言われて思い出す。
一回目の方はもう記憶もあやふやだが……なんとか思い出して、ぽつりぽつり……と話した。
「……総じて、私の行動はアリシエラさんに注意をしていたと思います。アリシエラさんは身分が自分よりも上の方と仲睦まじくされていました。それこそ公爵家子息様や王太子様と恋人のように。本人にその気はなかったとしてもその行動は駄目だと思い、注意をしました」
「…………イジメはしてたか?」
「いいえ、してないです。言葉で注意をするだけで……あぁ、でも。卒業式の日、アルフレッド様に婚約破棄される時は必ず、アリシエラ様に酷いイジメや怪我を負わせたからだと言われてたんですよ。ちゃんと物的証拠なんて……私が見たことも、したこともないモノも用意されてて……」
そして、反論も否定も聞いてもらえず無理やり婚約破棄されて……様々な理由で死ぬのだ、とミュゼは答えた。
それを聞いていた全員は静まり返り……困惑した顔で、ラグナを見つめた。
その中で、代表するようにカルロスが聞く。
「それとミュゼ様、アリシエラ様がどういう関係なんですか?」
「先ほど言っていただろう?アリシエラという女はお人好しと言えるほど善良だと。なら、どうしてミュゼの忠告を受け入れなかった?」
「………そうですよね。ヴィクトリア様が言う通り、アリシエラ様が素直な方なら……ミュゼ様の話を聞きますもんね?」
「そうだ。何故、忠告を聞かなかった?今の話からもミュゼが冤罪なのは明らかだろう?冤罪だと言うのに、何故、そんな証拠が残っていた?逆を返せば……誰かの悪意によってアリシエラは害され、それをしたのがミュゼだと惑わされた。そして、ミュゼは…貶められるために罪をなすりつけられた……なんて考えられないか?」
人を簡単に信じるアリシエラ。
だからこそ、誰かの悪意によっては簡単に騙されるのではないかと。
そして、その悪意はミュゼを殺すことに向かっていたのだと……ラグナは推測する。
「……タイムリープの条件がミュゼが一定条件下で死ぬことだったからなのかもしれないが……これまでの話から考えても、ミュゼは不当な死を迎えていたとしか考えられない」
それはつまり、彼女は死ぬ必要はなかったのにタイムリープのために死んできたということ。
しかし、ミュゼはそれを聞いて暢気に答えた。
「そうだったんですか」
…………何度目かも分からない沈黙。
国王は眉間にシワを寄せながら聞いた。
「………いや、ミュゼ嬢よ……もう少し驚くところでは?」
「別にどうでもいいです。今はラグナと一緒にいますし……死んでもラグナが一緒にいてくれますし」
「……………」
クスクスと恍惚と微笑むミュゼは、そう言ってラグナの肩に頭を預ける。
甘えるように擦り寄った彼女に、ラグナもうっとりとした笑みを浮かべた。
しかし、彼は「まだ話の途中だったな」と咳払いをして、真剣な顔をする。
「さて……ミュゼを貶めるため。そして、現在の馬鹿女のミュゼへの態度を考えて……偽りのイジメの証拠を揃えるのに今まで、協力していたのは誰だと思う?」
今のローラのミュゼへの態度は、はっきり言って馬鹿にしている。
完全に格下に見ていて、罵倒し、嘲り、邪竜の寵愛を得るのは自分だと……ミュゼ本人に言うほどに、馬鹿にしていた。
それを影で確認していたカルロスは、ハッとする。
「…………まさかっ…」
「それもあの女が暗躍していたと考えられる。それに、タイムリープをしていたあの馬鹿女はただの馬鹿ではなかったらしい。今までのタイムリープで得た知識などを次の人生で生かしていたみたいなんだ」
それを聞いたレイファンはあの遺跡でのラグナの言葉を思い出して、呟く。
「もしかして……ラグナ様がおっしゃってた、兄上が禁術を教えていないと言うのは……」
「あぁ。何回目かのタイムリープの中で教えてもらったんだと思う。あの王太子の記憶には、禁術を渡した記憶はなかった」
「………つまり、ローラ・コーナーは四回のタイムリープを得て……禁術や情報を手に入れ、聖女の肉体を乗っ取り、学園を洗脳していたように……国でも手に入れようと動いていたと言うのか?ラグナ殿」
国王の疑問にラグナは「……いや…」と歯切れ悪く否定する。
その顔は心底嫌そうに……面倒くさそうで。
ミュゼを抱き上げて自分の膝に座らせ、後ろからぎゅうっと抱き締めながら……嫌々、彼は口を開いた。
「……………本当は……あんまり言いたくないんだけど……」
「ラグナ?どうしたんですか?」
ミュゼは少しだけ身体を傾けて不安そうな顔をする。
こんな態度を取るのを初めて見るからこそ、なんとも言えない不安が満ちた。
「………その……自意識過剰とか言うなよ?」
「言わないです」
「…………多分、あの女の……聖女の肉体を奪ってまで果たそうとしている目的は……〝俺〟だ」
「……………え?」
その言葉にミュゼだけでなく、他の人達も呆然とする。
ラグナは頭を乱暴に掻きながら、ムスッとしながら続けた。
「そもそも、俺の寵愛を受けるのは自分だとか抜かしてるし」
「あ、そうですね?」
「あの女、あの遺跡に俺を閉じ込めるつもりだったみたいだし」
「……………え?」
ラグナはレイドから邪竜教に受け渡されそうになった禁術が、邪竜を召喚するもの、邪竜の力を奪うもの、邪竜をその場に縛り付けるものだったのだと語る。
「つまりは俺を物理的に閉じ込めて、愛してもらおうとしてたって考えられるだろ?俺にはミュゼっていう花嫁がいるのに………」
「………………」
「ミュゼ?」
ミュゼはそれを聞いて固まっていた。
邪竜教がラグナをあの遺跡に閉じ込めるつもりだった。
ということは……それは……。
「………あの遺跡は、私が四回目に殺された場所の可能性があるんですか?」
その場の空気が気不味いものに変わる。
ミュゼは、四回目の人生でラグナがいた場所に閉じ込められた。
そして、そこを訪れた元婚約者に殺されたのだ。
もしかしたら場所が変わっている可能性も捨て切れないが……今回も同じ場所である可能性もある。
ラグナはそれに僅かに頷いた。
「……その可能性は高いと思う」
「………そうですか」
「自分が死んだ場所かもしれないなんて、嫌なことを勘づかせたな……ごめんな」
「いいえ、死ぬこと自体は気にしてないんです。ただ……ラグナの目の前で死んでしまった場所であることが……嫌だっただけなんです」
「………ミュゼ…」
「他の男に殺されるぐらいなら、ラグナの手で殺されたかったと思ったんです」
ミュゼの中では、どこで死のうが生きようが関係ない。
大事なのはラグナに関わることだけだ。
今までは他の男に殺されてきた。
だが、それがどんなに嫌なことなのか……今のミュゼは、他の男に殺されることになったら、死への恐怖ではなく、それが原因で泣いてしまいそうなくらいなのだ。
それほどまでに、ラグナを依存していて。
ラグナになら生かされようが、殺されようが、人間じゃなくさせられようが、ぐちゃぐちゃにされようが喜んで受け入れられる。
だから、ミュゼは微笑む。
「ラグナ。私は自分の生死がどうなろうといいです。でも、もしも。今回も私が死ぬようなことになったら……今回は貴方が私を殺すんですよ?他の男に……私の命を奪われる前に、奪っていくんですからね?」
その言葉は。
その壊れた愛は。
壊れたものを愛する邪竜には、まさに毒のように甘いモノで。
「勿論。俺の隣にいて欲しいからなんとしてでも生かすけど……もしも。本当にどうしようもなくなった時には。ミュゼの全部を奪ってやるよ」
ラグナは、そう艶やかに微笑んで答える。
愛する人に、自分を殺すように願うなんて。
普通なら考えられないことだろう。
でも、この二人にはそれは普通で。
周りの人達は何度、この二人の会話に恐怖を覚えなくちゃいけないんだ……と心の中で嘆いた。




