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周りの者達は、邪竜と花嫁の壊れた姿に恐怖する


【注意】

残酷表現はないはず(?)ですが、少し壊れ具合が凄くなっております。ご注意下さい。



お久しぶりです。

更新が遅く、お待ちしていただいている方々には申し訳ありません‼︎

ですが、諸事情につき、こんな状態が来年2月末あたりまで続いてしまうので……ご了承いただけたら幸いです‼︎

今後ともよろしくどうぞっ‼︎








森の中で隠れていた彼らは、その光景を見て絶句していた。



「……あぁ…アレが……邪竜なのか……」



翡翠の髪に琥珀色の瞳……レイドと同じ色を持つ少年が、呆然としながらその光景を見つめる。

絶叫をあげる者達の中で、笑うモノ達。

傾国の美貌を持つ漆黒の青年は、とても美しく……でも恐ろしい笑みを浮かべ。

その背後に控える色気ダダ漏れな双子らしきモノ達も、艶やかで不気味な笑みを浮かべていた。


その異常さは言わずとも、まるで地獄絵図だ。


本来ならば、ある程度のところで彼ら……王国騎士団がその場に乗り込んでレイド達を拘束する予定だった。

しかし、それはその提案者たる邪竜ラグナ先走りフライングした所為で有耶無耶うやむやになってしまった。



だが、流石の彼らもあそこに飛び込む勇気はない。



「いっ……いかがなさいますか、王子」


背後に控えていた騎士の一人が怯えたように聞いてくる。

それに彼……レイドの弟である第二王子レイファン・ヴァン・ノヴィエスタはゆっくりと考えて………。



「………取り敢えず…あの絶叫が終わってから考えよう」




あの場に出ることを、放棄した。





*****




数十分の絶叫の後ー。

その場は、はっきり言って死屍累々が積み重なっていた。

その場に倒れたレイド及び信者達は身体を痙攣させながら、白目を向いており……それを見たラグナ達は満足気に頷く。


「うわぁ……エゲツな……」


いつの間にか崖下に降りてきたらしいカルロスもそれを見て引き気味になっているし、インビシブルも「………ちょっと心にダメージ負ったんで、先に失礼しますっさぁ……」と引き気味で帰っていった。

エイダとエイスは、そんなインビシブルを見て呆れたように文句を言っていた。


「あいつ、魔物なのに繊細っすよねぇ?」

「本当よね〜。乙女みたいだワ」


そう……この二人、美しい見た目に反して、かなりの加虐趣味があり……この現状に色気全開な恍惚とした笑みを浮かべていた。

ラグナは、そんな二人に苦笑しつつも……信者の一人が持っていた例の紙を奪い取り、内容を確認する。

そして、大きく目を見開いた。


「どうされましたか、ラグナ殿」


絶叫が終わったからか、やっと出てきたレイファン及び騎士団員達。

騎士達はそのまま倒れている人達に同情しつつ……捕獲に入ったが、レイファンはそのままラグナ達の元に来た。

ラグナは彼に視線を送るだけで、大きな溜息を吐く。

その姿はどこか憂鬱そうで……苛立っているようで。

そして、ゆっくりと口を開いた。


「…………はっきり言うとだな」

「はい」

今回の・・・この馬鹿王子は、あの女に禁術を教えてない」

「……………え?」

「あぁ、くそっ。分かってたのに……あの女が何度も何度も繰り返していると分かってたのに、まだちゃんと理解できて・・・・・いなかった・・・・・っ‼︎」


ラグナにしては珍しく反省した声に、周りにいた人達は困惑した顔をする。

それに答えるように、ラグナは言葉を続ける。


「あの馬鹿王子は本当に、この禁術の書かれた紙を邪竜教の奴らに渡せと言われただけだ」

「………いや、待って下さいっ‼︎聞いてた話では、あの聖女は禁術を使っているんですよねっ⁉︎ですが、それは王族が管理するものです‼︎それを事前に知っていたということは………」

一回目・・・の人生で、手に入れたということだろうな」

「……………えぇ…?」

「あぁ、これ以上の説明はミュゼと国王……聖女も一緒の方がいいな。こいつらを捕まえたら直ぐに教会へ向かおう」


ラグナはそう言って先に歩き出そうとするが、思い出したようにレイファンに告げた。


「そいつら、この遺跡の地下に隠れ家みたいなのを作っているらしい。人の気配はないが……もしかしたら証拠品となるかもしれないから、押さえておくといい」

「っ‼︎ありがとうございます、ラグナ殿。騎士達、地下への入り口を探せっ‼︎」

「はっ‼︎」


騎士達が大慌てで遺跡の地下入り口を探し始める。

そんな彼らを確認してから、ラグナは今度こそ歩き出し……カルロスと双子も、若干慌てながらその後に続いた。



残されたレイファン達は……素早く現状保存ができるように、全力を尽くした。





*****




教会に戻って来たラグナ達を迎えたのは、心配そうなミュゼだった。

彼女はラグナが部屋に入ってくるなり、チビナを直ぐに退かして駆け寄った。


「ラグナっ‼︎大丈夫ですか⁉︎」

「ん?……あぁ、問題ない」


ラグナは困ったように笑って、彼女を抱き締める。

どこか疲れた様子の……どこかピリピリした空気を纏った彼に、流石のミュゼも少し不安気で。


「何か……問題ごとでもありましたか?」


ミュゼの質問に、ラグナは押し黙った後……素直に大きな溜息を吐いた。


「………いや、邪竜といっても万能じゃないって分かってたが……ちょっと調子に乗ってたみたいだ。自分の不甲斐なさに苛立ってる」

「………落ち込んでるんですか?」

「まぁな……うん、素直に認めないのは良くないな。落ち込んでるといえば落ち込んでる」

「………ふふっ」


ラグナは腕の中で笑うその可愛らしい声に、ちょっと拗ねたような胡乱な目をする。

しかし、ミュゼはくすくすと笑って……彼の胸に頭を預けていた。


「………なんか、嬉しそうなんだが?」

「ふふっ、嬉しいですよ?ラグナが弱さを晒け出してくれて」

「……………弱さを見せるのが嬉しいのか?」

「はい。ラグナは強いですから……私にできることは少ないんです。でも、貴方にも弱さがあるなら、私でも話を聞くことや支えることぐらいはできるでしょう?」


柔らかく笑いながら、ミュゼは告げる。

その笑顔はとても綺麗で。

ラグナの顔を、赤くさせるほどに。


「………お前、強い女だよなぁ……」

「うふふっ、お褒めに預かり光栄です。正確に言うとラグナ以外の事象はどうでもいいだけですけどね」

「本当に、何回俺を惚れさせれば気が済むのかな?」

「何百回でも惚れさせてあげますよ?」

「くくっ、最っ高な殺し文句だな」


彼女の髪を撫でながら、ラグナは頬を寄せる。

彼の纏っていた痛々しい空気は霧散して、代わりに甘い空気がその場に満ちる。

ゆっくりと……二人の視線が絡まって……。



「すみませんが。自分とヴィクトリア様、リオナ様がいるのに甘い空気出さないで下さいますかー?」



カルロスの呆れたような声で、二人の動きが止まる。

ミュゼはそう言われて顔を真っ赤にしては硬直してしまうが……ラグナは忌々し気にカルロスを睨んで。


「…………邪魔するなよ、馬鹿王子の従者」

「いやいやいや、マジで独身の身には居た堪れないんでお願いします。イチャつくのは二人の時にして下さい。今は止めて下さい」

「……………」

「うわぁー。邪竜としての威圧を発動していらっしゃるー……」


ラグナは舌打ちをしながら彼女から離れ、その手を引きながらソファに座る。








しばらくして、やって来た国王や先に戻って来た第二王子を含めて、今回の報告会が始まった。


「レイファン、報告を」

「はい……兄上及び邪竜教信者九名を拘束しました。どうやら、邪竜教は遺跡の地下を違法改造して隠れているようです。押収したモノがこちらになります」


レイファンが出した書類を受け取り、国王は溜息を吐く。

そこにあるのは世界滅亡の妄想シナリオが記された教典や現在の邪竜教信者数など。

どうやらあの場所にある書類は、ほんの一部だけのようだった。


「考えるに、重要書類などを様々な場所に離して保管し、何か有事の際に取り扱えるようにしていたのかと」

予備バックアップを用意していたということか」

「そのように考えます。まさか文化遺産である遺跡を改造して住処にしているとは考えていませんでしたから。たとえ、捕まっても直ぐに再起できるようにするためかと」

杜撰ずさんではあるが理由は分かるな。全ての情報を一箇所で管理していたら、そこを押さえられた場合、一気に情報が漏れる」


レイファンの言葉に、国王は頷く。

そして……国王は静かに聞いた。



「レイドの、状態は?」



しんっ……と静まり返る場。

それは執務のため直接ここにきたがゆえに息子の状態を何も知らない国王が、一番聞きたかった情報だろう。

目線を下げたレイファンは大きく息を吐いて、答えた。


「恐慌、状態ではありますが……正気・・です」

「…………」

「気狂うことも、できていないようです」


それはつまり、ラグナがそのようにしたということ。

国王はそれ以上、何も言わずに「……もういい」と答えた。

その顔に浮かぶのは国王としての諦めか。


………父親としての嘆きか。


しばらく沈黙がその場を支配していたが、馬鹿王太子の話は終わったと判断したラグナは、話を続けた。


「今日捕まえた奴らは代表者だけだ。大人数はヌゥティス遺跡にいるらしい。その他各所の遺跡にも。後でまとめてやる」

「それは本当か?」

「直接頭の中見たから合ってるはずだ」

「………なるほど」


ラグナは柔らかく笑いながらも、静かな怒りを纏っていて。

ゆらゆらと危ない光が、彼の目に垣間見えていた。


「ラグナ?どうしたんですか?」


ミュゼが彼の頬を撫でながら聞く。

ラグナは大きく息を吐いて、足元の影に語りかけた。


「エイダ、エイス、命令だ。あのバカ宰相子息とアホ騎士候補から情報を手に入れてこい」

『りょーかいっす‼︎』

『分かりましたわ〜』


ラグナが指を鳴らすと、折り畳まれた紙が空中に出現し、影の中に落ちていく。

それを確認してから彼は皆を見渡した。


「多分、これで必要な情報が揃うから……俺の過去に関してのみ起こった出来事を推定できる力で限りなく真実に近づけるはずだ」

「まだ、足りない情報があったんですか?」

「あぁ。ミュゼに関わることだからな。なるべく情報は揃えて全てを明らかにしたいんだ」


ラグナはそう言って、ミュゼの頬を撫でる。

その手は少し震えていて……ミュゼは彼の瞳を見て、納得した。


「私のために怒ってくれてるんですね、ラグナ」

「………っ‼︎」

「大丈夫です。私にはラグナがいますから、どんな真実があろうと変わらないです」

「…………ミュゼ……」


ミュゼはそう言って柔らかく微笑む。

この人は自分ミュゼが巻き込まれた真実に、誰よりも先に感づいていて……それが許しがたかったんだろう。

でも、ミュゼにはそんなのどうでもいい。

生きることも、死ぬことも……ただ、それよりもラグナと共にいられればそれでいい。



「だから、ラグナ。早くラグナの報復わがままを終わらせて欲しいです。全部終わらせて……貴方と二人だけの世界に行きたいです」



ぞわりっ……。

その時のミュゼの声は、笑みはとても恍惚としていて。

ラグナを除く全員が……その笑みに恐怖していた。



「それは、この世界を滅ぼして二人きりの世界になりたいってことか?」



『っ⁉︎』


その言葉に息を飲んだのは、カルロス達。

しかし、そんな彼らを気にする気がないラグナは、ゆっくりと黄金の瞳を細めた。


それはミュゼの言葉に興奮したから。


愛しい花嫁が自分を望んでくれたから。


邪竜おっとはそれを喜ばずにいられない。


だが、ミュゼは彼にそう言われて……キョトンとした。


「……そこまで考えてなかったです。ラグナとずっと一緒にいられたら、それで。あぁ、でも……私はいつか死んじゃいますね」

「大丈夫だ、ミュゼは俺の花嫁だからな。俺の力を与えているから死ぬ時は一緒だ」

「そうなんですか?」

「あぁ……そういえば、言ってなかったな」


ラグナは嬉しそうに、恍惚に微笑んで……彼女の毛先に触れる。



変色して、漆黒に染まりつつある毛先に。



「ミュゼはもう人間・・・・じゃない。俺の花嫁・・だ」



その言葉に戦慄したのは、ミュゼ以外の者達だった。


彼は人間を、ミュゼを人ではなくさせた。

つまり、人を人外にさせるほどの力がある。

そして、それを無断で行ったのだ。

知らない内に人外にさせられていたら、恐怖しないはずがない。


そう、彼らは自分達の常識の範疇で考えていた。



でも、ミュゼは違う。


違うのだ。


「ラグナ……」

「ん?」

「ふふっ、嬉しいですっ‼︎」

『っ⁉︎』


そう言って抱きつくミュゼを見て、カルロス達は再び戦慄する。

その異常さに、驚愕する。


「うふふっ……生きていようが、死んでいようがどうでもよかったんですけど……死んだ場合はどうやってラグナの側にいようかと思ってたんです。魔物がいるくらいだから幽霊にはなれるかなって思ってたんですけど……それなら安心です‼︎」

「あぁ、俺もだよ。でも、幽霊だと俺の子が産めないだろう?だから、死ぬなら俺の子を産んでからにしてくれ」

「はい‼︎」

「あぁ、でも……ミュゼが死んだら俺も死ぬしかないな。愛しい花嫁がいないならこんな世界意味ないし……でも、子供がいるなら残した方がいいのか?」

「ふふっ、今はまだそんなことになってないから考えても仕方ないですよ?ならその時になったら考えましょう?場合によっては、私達の子供ごと消してあげればいいです」

「ふふっ、そうだな。ミュゼの言う通りだ。なら、とっとと俺の復讐わがままを終わらせなきゃな」


クスクスと綺麗な顔で微笑み合う二人は、側から見れば仲睦まじく見えるだろう。



しかし、その会話は普通の人間には理解できなくて。



そう、ここにいる者達はきちんと理解していなかった。


ミュゼがどうしようもなく壊れていることに。


ラグナが人間の常識に囚われない邪竜だということに。



それゆえに、そんな彼女の唯一無二である邪竜ラグナ以外の存在が、事柄がどうなろうと構わなくなっていることに。


自分の生死さえもどうでもよくて、ラグナの側にいて愛することが全てになっていることに。


そしてそれは、ラグナも同じで。



つまり、そこから導き出される結論は……この復讐劇は《破滅の邪竜》が愛しい花嫁を傷つけられたからこそ、起きているに過ぎないのだということ。


花嫁にとっては、あの偽物聖女と四人が生きようが、死のうが、復讐されようが興味がないのだということ。



そして……同じく、花嫁ミュゼを唯一無二とする邪竜ラグナに彼女が望めば……簡単に世界が滅びるということ。



周りの人達は……その真実を忘れていた。

この二人と協力関係のような関わりを持っていたから。

この二人の甘い空気に、危機感を薄れさせていた。




ここにいるのは、世界を滅ぼす《破滅の邪竜》とその花嫁。




彼らは……今更ながらにその壊れた二人の姿に、身体を震わせた。






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― 新着の感想 ―
[一言] 狂ってる・・・
[一言] 多分この回が、 本編における好きなシーンベスト3に入るくらい 好きな回ですね。
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