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邪竜は我慢が苦手ゆえに、地獄を見せる

お久しぶりです。お待ちしていただいてる方々、不定期で申し訳ありません‼︎

今後も不定期ですが、ご了承ください‼︎

よろしくどうぞっ‼︎


【注意】

若干の残酷表現あります(?)。

苦手な人はご注意下さい‼︎







そこにやって来た馬車は、いかにも見つけてくれと言わんばかりの豪奢なものだった。

テロリストに協力するのに、そんな風に目立つような行動、普通はしないだろう。

ラグナは崖の上で待機しながら、嘲笑した。


「頭の緩さがよく分かるな」

「………そうですね…隠密行動というのを分かってない……」


流石のカルロスも〝これはねぇわ〟と言わんばかりの顔でそれを見ている。

崖の高さは下にいる人達に把握されない程度には距離がある。

ラグナは視力がいいから、よく見えているが……カルロスは聴覚は良くても、視力は人間としての限界がある。

しかし、そんな彼がよく分かる程度には派手だった。




森に囲まれた道を抜けて来た馬車は、遺跡の前に止まる。

御者と馬車内にいる気配が一人ずつ。

ラグナはそれを確認すると、蠢く闇からある魔物を召喚した。


「……そこに、誰かいるんですか?」

「あぁ。姿は見えないが気配でも感じたか?」

「はい」


そう、ラグナが召喚したのは配下にいる魔物の中の一体。

透明ゆえにそれは隠密を得意とし、透明ゆえにそれは邪竜ラグナが情報を集めるための手足となる。

魔物の名は、〝透明人間インビシブル〟。


「お久しぶりじゃないっすか‼︎お呼びっすか、旦那ァ‼︎」


エイダと似たようなその軽い口調さえなければ、ラグナももっと使おうと思うのだが。


「煩い」

「おっと、すんませんっ‼︎いやぁ、百年ぶりぐらいに呼んで頂いたんで嬉しくって‼︎」

「………黙れ、バレるだろうが。今からお前と五感を共有リンクさせる。崖下にいる奴らの会話を盗聴してこい」

「アイアイサー‼︎」

「黙れ」


姿は見えないが、その口調から漂う残念感が凄まじい。

カルロスもなんか可哀想なものを見る目になっているほどに。

ラグナは若干イラッとしながら、インビシブルに感覚共有魔法をかけて五感を共有リンクさせる。


「どうだ?」

「感度良好なり‼︎」

「…………崖下に降ろす。死ぬなよ」

「畏まり‼︎」


ラグナは大きな溜息を吐いて、風魔法でゆっくりとインビシブルを降下させた。

それを見送ってから、カルロスは恐る恐る聞いた。


「えっと……今のは?」

透明人間インビシブルという姿の見えない魔物だ」

「……えっと…大丈夫なんですか?軽かったんですけど……」

「どうだろうな。魔物の中では最弱クラスじゃないか?」

「えっ⁉︎大丈夫なんですかっ⁉︎」


カルロスが不安げになるのも仕方ないだろう。

話だけだが、邪竜教はラグナを拘束したことがあるのだ。

つまり最強クラスの邪竜を、だ。

なのに、彼は最弱たるインビシブルを向かわせた。

不安になるのも至極当然だ。

だが、そんなカルロスの不安を吹き飛ばすように……ラグナは笑う。


「確かにあいつは人間と変わらない姿が見えないだけの奴だ。代わりにあいつは一定時間に限りその存在感を消すことができる」

「…………そのくらい、誰でもできるのでは?」

「気配じゃないぞ?存在感を、だ。つまり完全に空気と同化し、そこに存在していて存在してないんだ。魔力さえも漏らさない……だから、警戒している奴がいても、気づかれない。気づけない」

「………なっ…⁉︎」


それは……弱いけれど、その能力を使えば簡単に凄腕の隠密として行動できるということ。

つまりは、情報収集・暗殺などの間諜スパイ活動をするのに適した能力で。

裏世界を知っている人間としては、喉から手が出るほどに有力な力だ。


「まぁ、あいつは〝めんどくせぇーっす‼︎〟とか言って一刀両断したけどな」

「…………あはは……ラグナ様、お持ちになってる人材が素晴らし過ぎませんか?」

「お前も人間にしては使える人材だぞ?」

「……………お褒めに預かり光栄です…」


カルロスは思う。

邪竜というだけでも敵に回したくないのに、暗殺とかもお手の物だとか……怖すぎる、と。


「お、来たみたいだな」


だが、その言葉で思考を切り替える。

これからやってくるのは、邪竜教テロリストだ。

最新の注意を払って、行動しなくてはならない。




そして……その数十分後、彼らは知る。

邪竜教という存在が……いかに邪竜を盲信しているかを。





*****





「お初にお目にかかります、王太子殿下」



灰色のローブに身を包んだレイドが馬車から降りると、漆黒のローブを纏った者達が遺跡跡地からのっそりと現れた。

人が隠れる場所などないはずなのに、急に現れた彼らにレイドは目を見開いた。


「……一体どこから……魔法かい?」

「いえいえ。我らは愚弄なる人間。貴き邪竜様と同じ神秘の技を使えるはずがありませぬ」

「そうですとも。魔法が使えるのは神に許されたモノのみ。ゆえに神たる邪竜様のみが起こせる奇跡でありますぞ」


老人と男性と思しき声に、レイドは「そうなんだ」と頷いた。

今の会話だけでも、彼らが信仰する邪竜が神と同等であると認識していることが分かる。

だが、どう現れたかを語る気はなさそうな彼らは、少し興奮した様子で口を開いた。


「まさか邪竜教われらを異端扱いする王族が接触してくるとは思いませんでしたな」

「そうだね。少し前の僕だったら考えられなかったよ」

「では、何故に?」

「…………全ては《秘匿されし聖女》のため、だよ」


そう、彼が動くのはアリシエラローラのため。

彼女が邪竜教かれらとの接触を望んだからこそ、レイドは動いたのだ。

本来ならば、この役目はヴィクターの仕事だったのだけれど。


「《秘匿されし聖女》、ですと?」

「あぁ。《聖女》ヴィクトリアではない、もう一人の聖女だよ。彼女は邪竜を危険視しているからね。君達に託したいと言っていたんだ」


レイドは気づいていない。

邪竜教が邪竜の力を持って世界を滅ぼそうとしていると知っているのに、邪竜を彼らに託すことで世界が滅びるかもしれないのだという事実に。

邪竜ラグナを危険視していると言うのに、その力を利用しているテロリストにその邪竜へいきを手に入れるための情報を与えようとしていることに。

その矛盾に、気づいていない。



………気づけない。



「おぉ‼︎《秘匿されし聖女》殿は我々の考えを理解して下さるのかっ‼︎」

「なんと……代々、教会は我らを異教として迫害するばかり……しかし、そちらの聖女殿は話が分かるようだ‼︎」


彼らは嬉しそうな声をあげて、互いに喜び合う。

そんな彼らもレイドが言った〝危険視というつごうのわるい〟言葉を理解せずにいる。


偽聖女ローラに洗脳されたレイド。

邪竜を盲信している信者達。


この場にはマトモな思考を持っている人間が、存在しなかった。


「それでは……そちらが事前にお伝え下さった邪竜様をお迎えする方法というのはどういったモノで?」

「………さぁ?僕は彼女に頼まれただけだから分からないけど……この術式を渡せば良いと言われたよ」


レイドは懐から四つ折りにした数枚の紙を取り出すと、それを彼らに差し出す。

信者達の一人がそれを恭しく受け取ると、中の内容を確認した。


「これはっーーっ‼︎」


プルプルと震える男に、周りの人達も怪訝な視線を向ける。

そして、彼は……泣き崩れるように膝を地に突いた。



「これは……邪竜様を召喚する禁術だ……」



その場に戦慄が走る。

そして、信者達は感嘆の声を漏らして……ボロボロと泣き始める者さえいた。



邪竜を召喚する禁術。



それは、邪竜教が欲しくて欲しくて堪らなかったモノ。

貴き邪竜を召喚するための、術式。


「それに……急に召喚された邪竜様に落ち着いて頂くための術式と、長く留まって頂くための術式も書いてある。それに……これは邪竜様に捧げるべき供物まで……これは、聖女様が?」

「あぁ、彼女から手渡されたんだよ。君達にとってはとても良いものだったみたいだね」

「はい、はい……それはもう‼︎邪竜様を我らが元にお呼びできるっ……‼︎」


ボロボロと呻き声を漏らしながら、泣き崩れる彼らの姿はとても異常で。

そして、とても嬉しそうに叫んだ。



「皆の者、よくきくがよい‼︎《秘匿されし聖女》様は我らにこの世界を浄化する方法をお伝え下さった‼︎」



大きな歓声。

その声には途轍とてつもない熱力が込められていて。

レイドは若干、後ずさる。


「そしてっ‼︎今、世に噂されている《邪竜の花嫁》ミュゼ・シェノアが邪竜様を呪う存在だとも書いてあった‼︎」

「何……っ⁉︎どういうことだっ‼︎」

「あの売女は邪竜様を呪い、自身の元から動けないようにしているらしいっ‼︎その忌まわしき呪いから是非とも邪竜様を救って欲しいとっ……聖女様は望んでおられるっ‼︎」


それはマトモな人間ならば、誰が聞いても嘘だと分かっただろう。

しかし、この場にいるのは盲信の末に狂信していると過言ではない人達ばかり。


〝邪竜が害されている〟。


そんな根も葉もない嘘を信じてしまうほどに愚かな者ばかりだった。


「なんと忌まわしいっ……邪竜様がお可哀想だっ‼︎」

「聖女殿が邪竜様をそこまで思われているとは……彼女こそが《邪竜の花嫁》に相応しいのではっ⁉︎」

「あぁ、わたしもそう思う。ゆえに我らの全身全霊を持ってーー……」



「《黙れ》」



ぞわりっ。

背筋が凍るような悪寒に、その場にいたレイドと信者達の身体が動かなくなる。

息をするのさえ困難で、冷や汗が止まらない。

それはそうだろう……何故なら。



「誰の許可を得て……俺の花嫁を罵倒している」



暗い夜の中でも爛々と輝く黄金。

漆黒の髪と銀色のリボンが風になびく。

いつの間にかその場に降り立っていた邪竜ラグナは、殺気を放ちながら……彼らを睨んでいた。


「あぁ、もう少し我慢してやるつもりだったのに……ふざけやがって。その名さえ穢さなければ、地獄を見せないでやろうと思ったのに」

「なっ……なっ……」

「あぁ、そうだよな。元々、我慢するのは苦手なんだ。いや、我慢してやる必要がなかったか。こいつらはただの屑だ」


ラグナは笑う。

嘲るように、馬鹿にするように。

笑っているのに、その瞳は怒りを抑え切れていない。


「お前達の頭の中、見せてもらうぞ」


ラグナはそう言うと、その場にいた奴らの記憶を一斉に読み取る。

本来、記憶の読み取りにはかなりの技量が必要で……丁寧に行わなければ、記憶の読み取りを受けた人物の脳に衝撃ダメージを与える。

ミュゼの時は、細心の注意を払ったがこいつらには必要ない。


「ギャァァァァアッ⁉︎」

「グァァァァァアッ⁉︎」


レイドも含めて、その場にいた奴らはどんどんと倒れていった。

今の彼らには、激しい頭痛と吐き気が止めどなく押し寄せているだろう。

ラグナは読み取った記憶に……特にレイドの記憶の中にいるあの女に、怒りを増長させた。


「エイダ、エイス」

「はいっす」

「は〜い」


ラグナの背後に現れた二人の淫魔は、ニヤリと笑う。

その瞳は、ラグナと同じように怒りを宿していて。

花嫁ミュゼに対する謂れなき罵倒に、二人も激怒していたのだ。



「地獄を、見せてやれ」



次の瞬間、その場に絶叫が響いた。

そして始まるのは、彼女が一回目にされた死に方の再生リピート

何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

馬車に乗って、馬車が倒れて、襲いくる恐怖に怯えて、崖から落とされて死亡する。

止めてくれと叫んでも止まらない。

幻の痛みを錯覚して、その身体に激痛が走る。

数分、数十分、数時間、数日間、数年間ー。

実際にはそんなに時間は経っていないのに、与えられる悪夢はとても凝縮していて頭がおかしくなるほどに。

与えられてもいない痛みに、身体が悲鳴をあげるほどに。


いたくて、こわくて、痛くて、怖くて、イタクテ、コワクテ。


血は出ていないはずなのに、血の匂いが充満する。

肉が裂ける、感覚がする。


「アァァァァァァァァッ⁉︎」


レイドは、叫ぶ。

何故、こんなことになったのか……理解できずに。





それを、邪竜ラグナ達は楽しそうに……見つめていた。






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