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邪竜は暗雲の下、従者の覚悟を問う


シリアス、かもしれません。


不定期更新、待っていて下さる皆様、ありがとうございます‼︎

今後ともよろしくどうぞっ‼︎






薄暗い空間。



壁に掛けられた松明の火が、揺らめく。

漆黒のローブに身を包んだ数人の人物達は、地面に描かれた赤い陣の上で、ブツブツと呪詛を紡ぐ。

それはまるで呪いの儀式のようで。

彼らにしてみればそれは神聖な儀式だった。



「諸君……聞きたまえ」



若い女性の声が響く。

ローブを纏った人々の中で、黒曜石の装飾を身につけた人物が皆の注目を浴びた。


「どうやら、我らが邪竜様は王都で伯爵令嬢と共に暮らしているらしい」


その言葉に周囲は騒つく。

彼らにとって邪竜は信仰する存在。

まさに神と言っても過言ではないモノ。

そんな邪竜と、邪竜を信仰しない貴族が共に暮らしているのに、怒りを抱いていた。


「しかし、ある協力者が邪竜様を愚かな貴族の手から救出すると申し出た。今夜、代表者がその情報を受け取りに行く」


だが、次の瞬間には彼らは大きな声で歓声をあげていた。

邪竜救出のための情報を受け取りに行く任務に、全員が参加したかったからだ。


「我らの身は全て邪竜様のために‼︎」


高々と拳を上げる人々。


しかし、彼らは知らない。




今夜、その邪竜がその情報提供者を貶めるための罠を張っていることを………。





*****




今夜、レイドが〝ある組織・・・・・〟と接触する。


今回の作戦はその瞬間、彼らを捕らえるとか。

本作戦はとても危険だ。

ゆえにミュゼは今日も留守番になった。


「紅茶をどうぞ、ミュゼ様」

「ありがとうございます、リオナ様」


教会の応接室。

紅茶を入れてくれたリオナにお礼を言って、ティーカップに手を伸ばす。

しかし、それもどこか心ここに在らずのようで。

ミュゼはティーカップを片手に、窓から空を見つめていた。


「心配ですか?」

「…………」

「あら。アリシエラ様を救出する時とは違って、今回は心配そうですのね」


前のソファに座ったヴィクトリアの言葉に、ミュゼは困ったような顔をする。

アリシエラを救いに娼館に乗り込んだ時とは違う。

今回の相手は、〝奴ら・・〟なのだ。

ミュゼが不安になるのも仕方なかった。


「ヴィクトリア様には話したことがありますよね?私が四回目にどうやって死んだかを」

「………確か、元婚約者のアルフレッド様に惨殺されたとか」

「はい。その時、私がいたのはある組織のもとだったのです」

「………ある組織?」


ミュゼは、心配するように闇の中から現れたチビナを撫でながら、大きく息を吐く。



「奴らの名は……《邪竜教・・・》」



「「なっ……⁉︎」」


その名前にヴィクトリアとリオナは言葉を失くす。

邪竜教とは、《破滅の邪竜》を信仰する宗教団体だ。

いや、それよりも適している言葉がある。

そう……奴らは、反世界主義のテロリスト。

邪竜への供物として、無差別テロを起こしたことだってあるし、様々な犯罪を犯している。

その全ての目的は《破滅の邪竜》によって世界を破壊・再生してもらうため。

奴らは、世界滅亡をあくまでも邪竜の手で行ってもらおうと行動する……完全なる犯罪集団でもあるのだ。


「反社会主義ならまだしも、彼らの目的は人間の世界の終わり。邪竜ラグナが支配する世界です」

「………なっ…⁉︎」

「私は四回目の人生で彼らに誘拐されたんです。その理由を一言で言えば……〝生贄〟」


そう、ミュゼが誘拐されたのはラグナへの生贄として。

それを手引きしたのが誰なのかは分からないし、どんな理由を持って生贄と認定されたのかも分からない。

しかし、あの部屋に閉じ込められることになる前、僅かばかりだが信者達にいかに邪竜に捧げられることが崇高なことなのかを熱心に説明されたのだ。

それほどまでに、彼らは邪竜ラグナを絶対信仰している。


「そんな奴らにラグナは捕まっていたんです。ということは、彼らには邪竜を拘束する術があるということですから……不安にならない方がおかしいでしょう?」

「…………なるほど…それはそうですわね」


ミュゼが不安に思っているのは、ラグナが邪竜教に逆に拘束されること。

だから、彼女は覚悟を決める。



「だから、もしあの四回目のようにラグナが捕まるようなことがあったら……私は邪竜教共を許さないです」



ミュゼは今までの人生の中で死んでしまったことは、仕方ないと思っている。

………死から逃れることを、諦めているから。

生きたいとは思っているけれど、苦しい中での死は救いの一つだと分かってしまっているから。

しかし、ラグナが関することだけは別だ。

ラグナがまた、あの頃のように暗闇の中に囚われるなら。

ミュゼは自分の身がどうなろうと、彼だけは自由にしたいと思っていた。

そう、彼に何かあれば……彼女は単身でも乗り込んでいくつもりなのだ。

ラグナがいなければ、ミュゼは生きていたって意味がないのだから。



それに……どうせ四回目と同じようなことになるなら、どうせ死ぬ・・・・・なら、他でもない……ラグナの手で殺されたい。



「ミュゼ、様……⁉︎」

『おねぇーちゃん、落ち着いて‼︎』

「………え?」


そこでふっと我に返ったミュゼは、自分の影が蠢いて広がっていくその様子に、目を見開く。


「なんですっ⁉︎これっ……」


彼女がギョッとすると、その影はゆっくりと落ち着いて……ミュゼの影の姿へと戻っていった。

しんっ……と静まり返ったその部屋の中、全員がった顔で、顔を見合わせた。


「えっと…その……あの……」


ミュゼが慌てていると、先に落ち着いたヴィクトリアが大きく息を吐いた。


「リオナ。今ので教会内に影響が出てるか確認してきて下さる?」

「は……はい……」

「今見たことは、わたくし……聖女ヴィクトリアの名のもと、他言無用ですわ」

「………承りました」


リオナは怯えたような顔をしつつ、部屋を退出する。

残されたミュゼとヴィクトリアは、なんとも言えない複雑な顔をして見つめ合った。

膝の上に乗っかったチビナは『だいじょーぶ……?』と不安気だ。


どれほど沈黙していたのか……。

数秒、数分……数十分に感じた時間の末、先に口を開いたのは、ヴィクトリアだった。


やっぱり・・・・……」

「…………ヴィクトリア、様……?」

「ミュゼ様。わたくしは今から残酷なことを言うかもしれませんわ」


その顔はいつもとは違い、真剣なもので。

纏う空気さえも、神聖さを感じさせる。


そして……聖女ヴィクトリアは、厳かな声で告げた。



「ミュゼ・シェノア様。貴女は、自分が人間ではない存在・・・・・・・・になってきているのを、理解していますか?」







*****





暗雲立ち込める夜。

ラグナとカルロスはテグノー遺跡が見える崖の上、身を隠していた。

この遺跡はかなりの年月が経っており、天井がない土の壁と柱が残っている程度の観光客の少ない遺跡だ。

深い森の中に存在し、背後はかなりの高さがある崖。

普通身を隠すなら森の中なのだが……邪竜ラグナカルロス・・・・だからこそ、崖の上に潜むという選択を取ることができた。

ついでに加えると、邪竜ラグナが拘束される危険性を配慮した安全マージンでもある。


「いかにも悪巧みするには適した夜って感じだな」

「……まぁ、月明かりがない方が行動しやすいですよね。それはこっちもですけど」

「それはそうだ……っ‼︎」


その時、ラグナは大きく目を見開く。


そして、ゆったりと……場違いな蕩けそうな笑みを浮かべた。

それを見たカルロスは言葉を失くす。

美貌耐性のある彼でも、思わず頬が赤くなる程度には……その笑みは毒だった。


「ど、した……んですか……」

「んー?可愛い俺のミュゼが、どんどん壊れていってるなぁって思ってさ」

「………ミュゼ嬢が?」


甘い熱を込めた声。

その色気はとてつもなくて。

しかし、今、この場にいないミュゼのことを話す彼に、カルロスは怪訝な顔をした。


「あぁ……早く終わらせてミュゼに会いたいなぁ……」


そう、ラグナが彼女の話をしたその時。

それはミュゼの影が蠢き出した瞬間と同じだった。

影が蠢き出す現象。

それがなんなのか……ラグナはその答えを知っている。

しかし、それをわざわざカルロスに説明する気はなく……ただ愛しいミュゼに会いたい気持ちばかり募らせた。



そんなことを考えていた時。

遠くから、崖下の遺跡に向かって来る乗り物の音がした。

かなり距離があるらしいが、静寂が支配するこの場において、馬車の車輪の音は酷く響く。

音に敏感な二人には簡単に分かってしまった。

ラグナとカルロスは顔を見合わせて、気持ちを切り替える。


「王子だから仕方ないのかもしれないけど、馬車で来るのは悪手だろ」

「見つけてくれって言ってるよーなもんですもんね」

「で?本当に良いんだな?」


ラグナは最後の確認と言わんばかりにカルロスに聞く。


カルロスはレイドの従者だ。

王として相応しい品格を持っていた王太子の。

しかし、彼は洗脳によって罪を犯した。

だが、それはローラによる洗脳のため。

洗脳それを加味すれば情状酌量の余地はあるかもしれない。


これらの事柄を踏まえて、カルロスに王太子レイド捕獲に参加するのか……というのを、ラグナは問うていた。

カルロスはその言葉に静かに頷く。

その顔は酷く落ち着いていて。

覚悟を決めた者の顔をしていた。


「当然です。レイド殿下は禁術を外部に漏らしただけでなく……殺人教唆、テロリストとの接触までしています。完全にアウトでしょう。それに……殿下を盲目的に信じて、止められなかった……自分にも罪はあります。参加これはケジメです」

「……………」

「必要なら命だってかけます……まぁ、それがミュゼ嬢への罪滅ぼしになるかは分からないですけど」


カルロスはなんとなく、分かっていた。

ミュゼやラグナは明言はしていなかったが……レイドに虚偽の情報を流した時に言われた言葉から、一回目の人生で彼女を殺したのは自分だということを。

一回目では、カルロスがレイドの言葉通りに行動して、彼女を崖から転落死させたのではないかと。

カルロスには、その転落死させた記憶はない。

しかし、今までの出来事から考えて、過去であり未来の出来事とはいえ、自分がやったのには変わりがないのだと分かっていた。

だから、これはミュゼへの罪滅ぼしでもあると考えていたのだ。

そして……そんな彼の心境を見透かしていたラグナは、ムギュッと眉間にシワを寄せた。



「いや、ミュゼに対して罪滅ぼしとかいう感情を向けられること自体、不愉快なんだけど」



「………………うわぉ……。」


ラグナは途轍もなく、いやそー(嫌そうではなく、いやそー)な顔をして言う。

なんか最終決着的な真剣シリアスな雰囲気だったのに、一気に気が抜けるような雰囲気に変わってしまった。


「というか、ミュゼに何かしらの感情向けられること自体ムカつく」

「いやいやいや、ラグナ様。今、そんな場面でしたっけ?というか、罪悪感を向けることさえ駄目なんですか?」

「駄目に決まってんだろ?だって、お前が言ってることってミュゼのこと気にしてるってことだよな?俺以外の人間にミュゼのこと、考えて欲しくない」

「……結構、シリアスだったのに……普通に独占欲発揮してらっしゃるぅ………」


シリアスムードはどこへやら。

なぜか若干のコミカル感が漂いつつも、ラグナは暢気に言った。



「まぁ、取り敢えず。ミュゼのことをお前が考えると腹立つから考えなくて良い。というか、ミュゼを理由にしてレイドを捕まえるのは仕方ないっていう免罪符を手に入れようとするなよ」



「…………っ‼︎」


そう言われて、カルロスは息を飲む。


「あのバカ王子を止められなかった?もう過去形にするのかよ」

「…………ですがっ…殿下は……」

「まだ、本当のところまで堕ちてねぇだろ。まだ、ミュゼを殺してないから。まだ……邪竜教と手を組んでしまうっていうのを止められるんだから。これは最後のチャンスだ」


レイドを止められなかったというのは、邪竜教と完全に組んでしまい、ミュゼが死に……全てが終わってどうしようもなくなったことを言うのだと、ラグナは告げる。



「っていうか……いくら理由を並べたって、結局のところ、お前が……お前自身があいつを止めたいと思ってるから、参加するんだろ?自らの意思で奴を捕まえるすくうんだろ?余計な理由を並べんじゃねぇーよ」



その言葉に、カルロスは苦笑してしまった。

自分で決めたことなのに、何かと理由をつけて逃げようとしていたからだ。

自分カルロスよりも他人ラグナの方が、本当の気持ちに気付いていたから。

それほどまでに、カルロスは自分が追い詰められていたのだろうと……笑ってしまう。

そう言われたら、もう……逃げられない。


「………すみません、ラグナ様。ラグナ様の愛しい姫君を利用するところでした」

「本当にそれな。次に少しでもミュゼのこと考えたら俺が………殺すぞ」

「うわぉ……最後の台詞の殺気が本気ぃ……」

「まぁ、情報を手に入れるためにも、あのバカ王子には取引してもらうけどな」


にやりと冷たい笑みを浮かべるラグナを見て、カルロスはふと思う。

そして、その事実に気づき…若干、冷や汗を掻きながら、ラグナに聞いた。


「………あの……ラグナ様?それって奴らと手を組んじゃってるって言いませんか……?」

「………ん?」


そう言われたラグナは、ちょっと上を見ながら考える。

取引をする。

それはつまり情報を提供するということ。

カルロスの言う通り、手を組んでいると言っても過言ではなくて。

………ラグナが出した答えは、だいぶ適当な感じだった。


「………まぁ、来るのは代表者数名だけだし、本部に情報が行かなきゃセーフだろ」

「………ソウデスカ……」


そんな今更感溢れる会話をしながら、二人は気持ちを切り替えて、やっと見えてきた馬車に視線を向ける。




………何も知らない、レイドを捕獲するために。





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