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邪竜は壊れた花嫁に愛しさを募らせる


【注意】

シリアス……なんでしょうか。

残酷表現はないですけど、少し危ない雰囲気の溢れる感じになってます‼︎

あ、ちょっと無理と思うかもしれないのでご注意下さい‼︎


不定期続きます。

よろしくどうぞ‼︎








夜の帳が下りる頃。



少し用事があると言って別行動をしていたラグナが屋敷に帰って来た。

何をしていたのかを聞くと、「ちょっと人に会っていただけだ」と言って、それ以上教えてくれない。

ミュゼ本人もどうせ後で分かることだろうと思い、それ以上聞く気はなくなり……小さな机の上でちょこちょこ駆け回るチビナに視線を戻した。


「何してるんだ?」


ラグナがミュゼの背後に立ち、チビナを見つめる。

彼女は振り返らずにそれに答えた。


「チビナの肥満対策運動です」

『おねーちゃんに言われたの‼︎運動をちゃんとしないと豚になっちゃうんだって‼︎頑張ってるんだよ‼︎』

「…………邪竜(小)が豚……」


その言葉で今の今まで思いつかなかったのだが、豚の鼻と耳、尻尾をつけているチビナを想像してしまい……思わず吹き出す。

彼も同じことを想像したのか肩を震わせていた。

チビナだけがきょとんとしているのが、また笑いを増長させる。


「くくっ……はぁ…あまり無理はするなよ、チビナ」

『うん、ありがとー‼︎』

「んじゃぁ、そのまま運動してるか……ちょっと部屋から出てってくれ」

『………あぁ、うん。分かった‼︎』


チビナはそれだけで意味を理解したのか、闇に紛れるようにその姿を消す。

ミュゼは急にどうしたのだろうと後ろを振り返ると、そこには楽しそうに目を細めた彼の姿があった。


「さて、ミュゼ?」

「………なんです?」


少し笑いを滲ませた声で名前を呼ばれる。

きょとんとしていたら、ラグナは彼女を抱き上げてベッドへと連行した。


「きゃあっ⁉︎」


ラグナはベッドに座り、ミュゼを膝の上に乗せる。

そして、彼女の蒼銀色の髪を優しく撫でて微笑んだ。


「少しばかり、俺とイチャイチャしようか」

「………唐突ですね?」

「まぁな……あのクソ女を相手にすると疲れるんだよ。俺の我儘わがままで始めた復讐だけどさぁー」


肩を揉む仕草をしながら、ラグナは愚痴る。

ミュゼは顔に疲労を滲ませる彼の頬を撫でた。


「私とイチャイチャするので、疲れが取れるんですか?」

「取れるぞ?」

「……ラグナの疲れが取れるなら、いくらでも付き合います」


ミュゼはそのまま彼の首に腕を回して、頬を擦り寄せる。

互いの体温と体温が、混ざり合う。

暖かくて……ホッとする。


「ミュゼは柔らかいんだな」

「柔らかい、ですか?」

「あぁ。俺と比べたら柔らかいだろ?」


そう言われて彼の身体に手を添える。

引き締まった肉体。

確かにラグナの身体は、細身ながらにも筋肉質だ。

………女性と、違う。


「…………」

「顔、赤いぞ」

「ラグナが変なことを言うからですっ‼︎」

「あははっ‼︎」


火照った頬を手で仰ぎながら、じろりっと彼を睨む。

しかし、ラグナはそんな視線を意に介さずに、愛おしそうな手つきで髪を梳いた。


「ミュゼ。本当に他の奴にその可愛い顔見せるなよ」

「?」

「悪い奴に襲われちゃうぞ?………俺みたいな」

「………他の人は嫌ですけど、ラグナにだったら良いですよ」

「……………」


その言葉に今度は彼が頬を赤くする番だった。

目を逸らし、何度か口を開いては閉じて……ミュゼの肩に額を押しつける。

そして、ボソッと呟いた。


「本当に……ミュゼは俺を煽るのが上手だな。疲れも考えてることも全部、飛んでっちゃいそうだ」

「ラグナ?」

「あーぁ……世界でミュゼと二人きりなら良いのに」


少しだけ仄暗い瞳でそう漏らすラグナに、ミュゼは考える。

世界で二人っきり。

それはどんなに幸せだろうと。


「………ラグナと二人っきりなら、幸せなんでしょうね」

「…………え?」

「ずっと……永遠・・に」


ラグナは息を飲んで、彼女を見つめる。

ミュゼは目の前にいる邪竜が本気を出せば、簡単に他の人達が死ぬことが分かっていた。

だが、それをしないのはミュゼが人だから。

ミュゼの生活のために人の営みを、滅ぼすのを躊躇ためらっているから。

なら、この屋敷に篭ってしまえば小さいけれど簡易な二人だけの世界になる。

しかし、それは上手くいかないだろう。

秘匿されし聖女……アリシエラの肉体を奪ったローラがいるのだから。

彼女がラグナにちょっかいを出しているのは分かっている。

それがどんな目的なのかは分からない。

だが、彼女がいなければ面倒なことにはならなかったはずだ。


(……あの脳内お花畑な自称聖女がいなければ……)


菫色の瞳が濁ったような光を宿して、僅かに開いたカーテンの向こう……窓から見える空を見上げる。

ラグナはそんな彼女に……少しだけ話を変えるように、軽い調子で聞いてきた。


「今、あの女の子のこと、脳内お花畑とか思っただろ」

「……………なんで分かったんですか?」

「顔に出てるからなー。ついでに言えばお前は俺の花嫁だから、大体考えてることは分かるからな?完全に分かる訳じゃないけど、ミュゼも俺の考えてること分かる時あるだろ?」

「へぇ……そうなんですか」

「そうなんです」


ラグナは少し複雑そうな顔で笑う。

それは少し、危険な方向に思考がシフトしかけた彼女をラグナに戻すには充分で。


「どうしたんですか?」

「ん?」

「変な顔してます。何を考えてるんですか?」

「……………」


彼がちょっと驚いたように目を見開く。

そして、肩を竦めながら答えた。


「いや、普通・・の人はもっと〝なんで分かるんですか?〟とか〝プライバシーの侵害です〟とか言うんだろうなって思ってな」

「………言って欲しいんですか?」

「いや?」

「ラグナにだったら私の心を覗かれようがなんだろうが気にしないです。だって邪竜ラグナですし。たとえ、ぐちゃぐちゃにされても……ラグナだったら良いんです」


それを聞いたラグナの身体がぴくりっと止まる。

彼の黄金の瞳が、スッ……と冷めたように静かなものになった。


「………っ…‼︎」


だから、ミュゼの身体が硬直したのも仕方がないことなのだろう。

この瞳は邪竜としての瞳だ。

初めて向けられる、瞳だ。

仄暗く、黄金の瞳の奥でゆらゆらと妖しい炎が蠢く。

ミュゼは大きく目を見開き……息が詰まりそうになる。


「ミュゼ」


だが、冷めた視線は……彼女の名前と共に一瞬で柔らかくなって。

今の冷たい視線が嘘のように、甘えるように抱きついてくる。

そして、とても甘える声でねだってきた。



「なぁ、俺のこと、癒して?」



「………は、い…」


震える手で優しく、彼の漆黒の髪を撫でる。

愛しい人に触れているはずなのに。



どこか、変な感覚が……二人の空間を蝕んでいた。




*****




ミュゼの小さな寝息が静かに響く。



少し前までぎこちなく甘やかしてくれていた彼女は、瞼を下ろし始めたと思ったら直ぐに眠りについてしまった。

そんな彼女の身体をベッドに横たえて、その姿を見守る。

ミュゼの寝ている姿は酷く幼くて……ラグナの心には温かな感情が満ちていた。

邪竜として、人々に恐れられて生きてきたラグナにとっては……ミュゼに出会って初めて抱いた感情。

それと同時に、仄暗い感情も存在するのは確かで。

彼女の頭を撫でながら、ラグナは呟く。


「さっきは怖がらせてごめんな」


先ほど、ミュゼは確かに身体を硬直させていた。

それは、ラグナが邪竜の……いや、彼が抱く仄暗い感情を向けてしまったがゆえなのだろう。

それは彼女を傷つけるものではない。

むしろ、愛おしいから抱いた感情で。

だが、ミュゼが〝邪竜の花嫁〟とはいえその身は所詮、人間。

本能的に強張ってしまうことだってあるのだろう。

だが、その視線を向けてしまったのはミュゼだって悪いのだ。

ラグナが……愛しくなるようなことを言うのだから。



「…………ミュゼ。お前は俺に〝依存・・〟してるね」



他の人達から見たら、二人は互いに互いで愛し合っているように見えるかもしれない。

だって、それほどまでにミュゼはラグナを愛しているように見えるから。

だが……。


「なぁ、ミュゼ?分かってるか?お前が好きだと言うのは……どちらかといえば愛情よりも依存から出る言葉だって思う方が、ぴったりなんだぜ?」


〝ラグナにだったら〟。

〝ラグナがいれば〟。

何度も繰り返されるその言葉はある意味、盲信だ。

依存だ。

殺されて、殺されて……心が壊れた中で、ラグナという支えてくれる存在ができた。

そんな人がいたら、盲信するし依存もするだろう。

ミュゼはラグナを第一に生きているし、ラグナもミュゼを第一に生きている。


生きるのも、死ぬのも諦めているミュゼ。


手を差し伸べたのが、ラグナだったから……その手だけを信じてしまっている哀れな少女。


「あはっ……最高」


だから、ラグナはこの仄暗い感情を抱いてしまった。

甘く、微笑みながらラグナは彼女の額にキスをする。

胸に満ちる仄暗い感情が、甘く疼いて堪らなくなる。



そう……ラグナの胸に満ちる仄暗い感情とは……ドロドロと汚い、愉悦感と高揚感。


人によっては、〝狂愛〟と呼ばれる感情。



ラグナは分かっていた。

あの絶望的な環境で唯一、側にいたのがラグナだったから……彼女は自分を愛していると錯覚しているに過ぎないということを。

恋心じゃない。

本当の愛じゃない。

普通の人間なら、恋愛感情ではないと分かっただろう。

だが、彼女は分からない。

壊れているから。



だが、そんな壊れた人間を、《破滅の邪竜ラグナ》が愛さないはずがない。



最初は一目惚れだった。

その美しさに、惚れてしまった。

ミュゼの記憶を介して、さらに愛しく思った。



そして……五回目いまの彼女は、それに加えて心が壊れている。


壊れているから、余計に愛しかった。



邪竜は壊れたモノや、闇に生きるモノを愛する。

あらゆる破滅を愛する。

だからこそ、この壊れた娘に。

壊れた少女に。

自分ラグナだけを慕う彼女に。

依存する哀れなミュゼに。

愛しさが募って募って募り続けて。

ラグナは恍惚とした笑みを浮かべる。



「ふふっ……壊れた愛って、なんでこんなに素敵なんだろうなぁ……ミュゼが〝邪竜の花嫁〟で良かった」



楽しそうな声は、背筋が凍りそうなほどに不気味で。

きっと、彼がずっとヒトリだったら分からなかったはずだ。

ラグナにその感情を与えたのは、誰でもないミュゼで。

そして、彼女はラグナが思うよりもより一層、壊れ具合が進んで。


「あぁ、違う……邪竜おれに染まってるんだ」


ラグナの好みに染まり始めているミュゼは、益々、彼好みになっていく。


壊れて、思考回路が似てきて、人とは・・・少し違うモノ・・・・・・になってきている。


それが嬉しくて、楽しくて……ラグナは頬が緩むのを抑えきれない。

本性を晒してしまった瞬間から、ラグナの中で彼女の前で良い存在ヒトを演じる必要は無くなってしまった。

だって、彼女は残酷な本性さえも受け入れてしまったのだから。

だから、ミュゼにだって邪竜として……本当のラグナとして接してしまう。


「怯えても良い……偽物の愛でも良い。俺の手から逃げなければ」


怯えていても逃すつもりはない。

偽物だったなら本物にしていけば良い。

邪竜じぶんの手の中で。


「甘やかして、俺なしで生きれなくなれば良い」


そうやって本物の愛が芽生えたら、彼女は余計におかしくなるだろう。

だって、本物になればなるだけ……離れられなくなるから。

そうやって……ゆっくりと、でも確実に少しずつ二人だけの世界を作り上げて……生きていけば良い。



「愛してるよ、ミュゼ」




邪竜は花嫁を抱き締めて……その身をベッドに沈めて、眠りについた。








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