幕間・呼び戻された彼は顔を引攣らせる
短めです。
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その知らせが届いたのは、唐突だった。
留学していた彼の元に届いた、父からの手紙にはただ動揺した。
『国家に関わる重大な事態が発生した。まだ、水面下でのことではあるが、至急戻って来てもらいたい』
冗談だろう。
そう思ったのも仕方ないと思う。
自分が留学している間に国家の危機が起きていたのだ。
詳しい内容は書けなかったのだろう。
必要以上の情報が漏れるのは困るから。
ひとまず、彼にできることは、急いで自分の国に帰ることだった。
そして、自分の国に帰ってみれば最悪だとしか言えなかった。
お伽噺ともいえる《破滅の邪竜》や《邪竜の花嫁》……自称・聖女の洗脳、その他色々。
それだけならまだしも、まさか自分の兄が禁術を他者に明け渡すような真似までするなんて。
信じられなかったし、信じたくなかった。
王族としての志だけは立派だった兄。
自分はそんな兄を影から支えようと思っていたのに。
洗脳、なんて訳が分からないものに負けて、国家を危機に晒すなんて……愚かとしか言えなかった。
だから、言われなくても……父が自分を連れ戻した理由が、その事件を沈静化させるために必要だからだと理解してしまった。
血の繋がりはあれど、彼は王族。
第一にすべきことはなんなのか。
それは嫌というほど、理解している。
だからこそ、彼は自分が与えられるであろう役割を全うする覚悟を決める。
敵に存在を知られないように、王都にある隠れ家で隠れて生活していた。
今はまだ、出番ではないらしい。
微妙な時間調整をするのが面倒だから、早めに呼び戻されたのだろう。
今、自分の国がどうなってるのか。
それは分からない。
その理由は簡単で。
この事件の解決に動いているのは、父ではないこと……邪竜が主導権を握っているから、父も動かされている駒の一つに過ぎないという理由があるから。
だから、情報が上手く入ってこないのも仕方ない。
だから、彼が現れたのには……驚いてしまった。
「あぁ、初めましてだな」
漆黒の髪に、黄金の瞳。
魔性の美貌を誇る美青年。
シンプルなシャツとズボンというスタイルなのに、その色気は抑えきれていない。
同性だというのに、思わず頬を赤くしてしまった。
「貴方、は……」
「俺?俺は邪竜だよ」
クスッと笑う彼は、とても美しくて。
邪竜は邪悪なる存在。
そのイメージは醜いモノだと思っていた。
それなのに……目の前にいる青年は、信じられないほどに綺麗で。
無意識に、息を飲む。
「あんたの出番の時間だ。上手く立ち回ってくれるんだろうな?」
「………っ…‼︎」
試すような声。
それだけで、今の今までその美貌に見惚れていた心がスッと冷めて真剣な気持ちに切り替わる。
それを見て、邪竜は楽しそうな顔をした。
「当たり前です。僕は、僕のすべきことをします」
「………はっ…なら良い。作戦会議といこうか」
そして……その作戦を聞き、聖女の加護を受けたり……と。
彼は自分の役割が予想より重要な位置にあることを知り……。
若干、顔を引攣らせるのだった……。