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邪竜による蹂躙


【注意】

残酷な描写があります。ご注意下さい。


たくさんの方に読んでいただいて、ありがとうございます。

著者、体調不良につきまして、明日の投稿はないかもしれません。今日もちょっと短めです。

ご了承下さい。








王城から帰って来たミュゼとラグナは、ミュゼの部屋でまったりとしていた。



チビナは二人の空気を読んで、どこかお散歩に行ってくれたらしい。

ミュゼはそれを少しだけ申し訳なく思いながら、ラグナに甘えていた。


「………ん…」


ソファに座ったミュゼは隣にいるラグナの肩に頭を預けて、少しだけ眠そうにしていて。

そんな彼女の髪や頬を撫でながら、ラグナは楽しそうに微笑んでいた。


「………そういえば…ちゃんとラグナが何を考えてるのか、聞いておきたいです」

「………覚えてたのか」

「勿論ですよ?ラグナのことですから」


その台詞に少し頬を赤くしながら、ラグナは頬を掻く。

そして、困ったように笑った。


「いや、それはあの時、ミュゼがちゃんと邪竜おれを受け入れてくれたから大体問題は解決してるっていうか……」

「駄目です、ちゃんと言葉にして下さい。ちょっとでもラグナが不安だと嫌ですから」

「…………本音は?」

「勿論、さっきのも本音ですけど、どちらかと言えば……ラグナが私のことであたふたしてるのは、いつもの私を見てるみたいでちょっと優越感がある感じですね」

「………意地悪だなぁ」


ラグナは拗ねたように、でも嬉しそうに頬を膨らませる。

ミュゼは彼の首に腕を回して、にやりと笑った。


「さぁ、答えるのです」


その顔は〝逃げられないぞ〟と言っているようで。

ラグナは降参、と肩を竦めて話し始めた。


「………俺は邪竜だから、残酷なことが普通なんだよ。それこそ世界を滅ぼすとかな。あの宰相子息の時もそうだっただろうけど、あんなことして生き生きしてただろ?だから、ミュゼに嫌われたら嫌だなぁ……って」

「私は貴方を嫌いにならなかったですよ?とても大好きです。というか、ラグナが残酷でも構いません。どうせ、世界を滅ぼしたって、私のことだけは大事にしてくれるでしょう?」

「うん。ミュゼのことだけは世界が滅んだって大事にするに決まってる。だから、言っただろ?ミュゼが実際に俺の本性を見る前だって、怯えることなく真っ直ぐに見てくれた。見た後だって、変わらないでいてくれた。だから、俺はそれで充分……」

「あ、ちなみにあの時言ってた〝本当のミュゼなんだろうな〟……的な発言についてはどういうことですか?」


ラグナの動きがピタリっと止まる。

そして、ゆっく〜りと視線を逸らし始めた。


「…………えーっと……」

「………まさか……私のこと、偽物だとか疑ってたとかじゃないですよね……?」

「いやいやいや、それはない。本当にないから、その怒った顔は止めてくれ‼︎俺の心が折れるっ‼︎」

「じゃあ答えるのです」


ミュゼの真剣な顔に、ラグナは少し居心地が悪そうにそわそわしながら、答える。

その顔は若干、赤かった。


「………その、あの時、ちゃんと邪竜おれに向き合ってくれてから、肯定してくれただろ?ただ、頭ごなしに肯定するんじゃなくて。だから、ミュゼはちゃんと人と向き合ってから判断する人なんだろうなって……そういう一面を見たから、そういうのが本当のミュゼなんだろうなって思ったっていうか」

「……………」

「俺の花嫁となるミュゼがそんな風に誠実で、改めて良かったと思ったっていうか……いや、うん。なんていうか……嬉しかったというか…………あー、すまん。上手く言えない……」


ラグナは小さく呻き声を漏らしながら、顔をしかめる。

上手い言葉を見つけられなくて、悔しがっているようで。

ミュゼはそんな彼を見て、柔らかく笑った。


「ラグナ」

「………ん…?」

「ラグナが言いたいことは、なんとなく理解できました」

「……本当に?」


額と額を合わせて、至近距離で視線を絡ませる。

甘えるように、ミュゼは頬を緩ませた。


「はい。直訳すると私のこと、大好きってことですよね?」

「いや、うん。間違いじゃないんだけど……その一言でまとめられると、ちょっと頑張って言葉にしようとしたのが恥ずかしくなるっていうか……」

「ふふふっ……ラグナ、顔が真っ赤ですね?」

「ミュゼの所為だからなっ⁉︎」


ラグナはそのまま、呻き声をあげて両手で顔を覆う。

永い時間の中、邪竜であるラグナをこんなにも翻弄するのはミュゼが初めてで。

ラグナは、恥ずかしさに死にそうになっていた。


「ラグナ。私も大好きですよ」

「………俺も大好きだけど……ごめん、ちょっと冷静になる時間をくれ……」


完全に降参モードのラグナを見て、ミュゼは思わず笑ってしまった。






*****





翌日。


学園に来たミュゼとラグナ(メガネver)は、教室には行かずに騎士科へと来ていた。

ちなみに、今日のチビナは手の平サイズのおかげでミュゼの胸ポケットの中に隠れている。

それは、これから側にはいるがミュゼの隣からラグナが少し離れるため、護衛代わりだったからだ。


「準備は良いか?」

「はい」

『良いよー。おねぇちゃんはボクが守る‼︎』


ラグナはその返事を聞いて、扉を勢いよく開けた。

突然の乱入者に静まり返る教室。

そして、彼は人だかりの中……その中心にいる人物を見つけると、彼の前に行きにやりと笑った。

彼……ジャン・ビィスタは驚いたように目を見開く。


「さぁ、報いを受ける時間だ」

「………ぁ…」


ジャンは酷くやつれていて。

その姿からどれだけ、悪夢が厳しいものだったかが見て取れる。

しかし、ラグナはそれを見ても容赦をかけるつもりはなかった。


「おい‼︎なんだよ、お前っ‼︎こいつ、体調が悪いの見て分かるだろっ⁉︎」


周りにいた生徒達がラグナに掴みかかろうとする。

しかし、相手が悪かった。


「…………あ?」

「ひぃっ……⁉︎」


一瞬で下がる部屋の温度と、彼から放たれる殺気。

周りにいた生徒達は、顔面蒼白で……ラグナを見ていた。

ここにいる彼らは、仲間ジャンを庇いたい気持ちで立ち向かおうとした。

だが、それは相手が普通の人間なら成り立つことで。

人外……況してや、〝邪竜〟を相手に、そんなことができるはずがない。

そして、それに追い打ちをかけるように……ミュゼが教室内に入った。


「お前はっ……‼︎」

「ご機嫌よう、ジャン様」


ゆったりとミュゼが頭を下げる。

それを見たジャンは殴りかからん勢いで、叫んだ。


「お前に名前を呼ばれる筋合いはないっ‼︎」


弱り切っていたジャンが、いきなり殺意を彼女に放つ。

その変わりように、周りにいた生徒達も困惑していた。


「お、おい……どうしたんだよ、ジャン。女性にそんな風に接するなんて……」

「こいつはアリシエラの敵だっ‼︎女性扱いなんてする価値もないっ‼︎」


本当にミュゼに殴りかかりそうになり、周りの生徒達が抑え込む。

どうやら、ローラの洗脳は普通科を中心としているようで騎士科にはほとんどされていないらしい。

それとも騎士を目指すという誇りが洗脳に抵抗させているのか。

ラグナは冷静に分析しながらも、ジャンへと殺意を向けた。


「………っ…⁉︎」


彼は息を飲む。

その殺意は、今までの人生で初めて感じる……明確な〝死〟だったから。


「騎士科っていうぐらいなんだから、何か問題ごとがあると決闘で決めるんだろ?」

「………何故…それ、を」

「決闘しようか、ジャン・ビィスタ。お前は俺の花嫁ミュゼに剣を向けた。なら、お前も剣を向けられる覚悟はできてるだろ?」

「当たり前だっ……‼︎」


ラグナはワザとミュゼの名前を出して言う。

ミュゼに関係することに関してだけは、ジャンの洗脳は強くなる。

そのおかげで返事は上々。

ラグナは酷く冷たい笑みを浮かべると、ミュゼの肩を抱いて教室を出て行く。

出て行く間際にこちらに向けた視線は、〝ついて来い〟と言っているようで。

ジャンは、洗脳通りにミュゼを害そうと考えながら……その後に続いた。









騎士科があるため、この学園には彼らが剣術の練習をするための訓練場が用意されている。

勿論、使用できるのは刃を潰した練習用の剣だけだが……きちんと対人戦の練習ができることから、ここの利用者は多い。

以前、カルロスがレイドに反撃したのと同じ場所でもある。

屋外にある、ただ足元に正方形の石を並べて足場にしただけの場所。

だが、かなりの広さを確保したその場所はラグナとジャンが決闘するには充分な場所だった。


「こちらが勝ったら、あんたはどうするんですか」


ジャンは、ラグナの背後で観戦するミュゼを睨みつけながら問う。

ラグナが答えるよりも先に、ミュゼが聞いた。


「貴方は逆にどうしたいんですか?」

「………こちらの要望は貴様に消えてもらうことだ」

「殺したいのですか?」

「あぁ、そう取ってもらっても構わない」


ジャンの背後にいた騎士科の生徒達が騒つく。

ジャンという男は、騎士を志す好青年だった。



弱きを助け、強きを挫く。



そんなことを体現するかのような男だった。

だから……彼がそんなことを言うなんて信じられなくて。

何かがおかしい、と。

気づき始めていた。



「なら、貴方様がラグナに勝てた暁には、私は素直に殺されてあげます」



だから、そんな彼を上回る言葉を言い放ったミュゼに、彼らは動揺した。


「…………は?」


ジャンも怪訝な顔をする。

だが、ミュゼだけは……柔らかく、綺麗な笑みを浮かべていたのだ。


「だから、ラグナ。勝ってくださいね?」

「……ミュゼ自身が自分の命をかけるのは狡くないか?」

「ふふっ、だって……ラグナが勝つから問題ないかと思ったんです」

「………はぁ…そこまで期待されたらちゃんとご要望に答えなきゃな」


そう言いながらも、ラグナも剣を手に取りながら笑っていた。

この決闘は初めから勝者が決まっているのだ。

それを知らないのはジャンを含めた騎士科の生徒達だけ。

彼らは、騎士候補として名乗りをあげており、かなりの腕前を持つジャンに……目の前にいる普通科きぞくの生徒が勝てるとは、思っていなかった。


「そっちのタイミングで、始めて構わないぞ?」


余裕ある様子でラグナが告げる。

ジャンはそれを見て、激昂したように剣を持つ手に力を込めた。


「なら……お言葉に甘えてっ‼︎」


ジャンが駆ける。

凄まじい勢いで、ラグナとの距離を詰める。

そして……剣先がラグナに向けられた瞬間……。




ジャンの片腕と共に、真っ赤な血が、空を舞った。




「…………え?」


ジャンは目を見開く。

周りには赤い鮮血が散っているのに、どこにも傷がない。

いや、斬り飛ばされた腕にも異常がない。

だが、確かに目の前にいるラグナには返り血が飛び散っていて。


それを理解した瞬間、ジャンの身体に激痛が走った。


「あぁぁぁぉぁぁぁぁあっ⁉︎」

「まずは一回」


ラグナの剣が、ジャンの身体を斬る。

血が飛び散る。

だが、その傷はどこにもない。

そしてその斬りつけられた場所に走る激痛。

再びジャンは絶叫した。


「痛い痛い痛いっ‼︎」

「二回目。ほら、続くぞ?」


何度も何度も同じことが繰り返される。

血が飛び散るのに傷はない。

幻覚かと思えるけれど、飛び散る血がそれを現実だと証明する。

ジャンは恐怖を顔に浮かべながら、ラグナと無理やり距離を取った。


「ひぃっ……⁉︎」


その悲鳴はジャンのモノなのか、後ろにいる騎士科の生徒達のモノなのかは分からない。



だが……そこで血に染まりながら、綺麗な顔で微笑むラグナは、化物のように美しかった。




「まだまだ……これからだぞ?」







その言葉と同時に、邪竜による蹂躙が始まる。








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