幕間・騎士候補は悪夢を見ていた
【注意】
残酷な表現あります。ご注意下さい。
ある時から、彼は酷い悪夢を見るようになっていた。
その夢で自分は剣を片手に、血塗れで立っていて。
眼前には家族、友人、お世話になった人……沢山の人が、帰らぬ人になっていた。
それなのに、自分はその夢の中で笑っていて。
狂ったように、笑っていて。
これは自分がやったのだ、と。
夢でありながら、おかしくなりそうだった。
その最後には、あのミュゼも現れる。
彼女は酷く冷めた顔で、告げるのだ。
『あぁ……貴方は人々を守る騎士を目指すのに、私を何度も殺すのですね?』
彼女に剣を突き立てたところで目が醒める。
夢を見た後は、いつも嘔吐していた。
夢だと分かっていても、彼は日々、憔悴していく。
いつ頃からか、彼はほぼ寝たきり同然になっていた。
学園にも行けていない。
だが、行けなければその分、彼女に会う確率も低くなり……あんな風に自分の意思と関係なしで傷つけようとしないで済む。
人間なので、眠らない訳にはいかない。
まともに眠れないことと、騎士を志す彼の心への傷とで……身体は辛かったが、その一点だけは少しだけ心が軽くなった。
そんなある日。
うつらうつらとして居眠りをした時……その日だけはいつも通りの夢を見なかった。
代わりに金髪碧眼の美しい女性がいた。
エナメルの服を着た、大人の色気が溢れる彼女は告げる。
『ボクが見せた悪夢は辛かったですかぁ?坊や』
見た目に反した話し方をする彼女はそう言ってきて。
ずっと続いた夢は、彼女が原因なのだと悟る。
『うんうん、ちゃーんと心が壊れかけてくれてますねぇ〜。良い子っすよ、坊や』
彼女は彼の両頬に両手を添えて上を向かせる。
考えるようにどこかを見て、小さく呟く。
『多分、ボクの悪夢ならあの女の洗脳にも勝てるっすよねぇ?』
そして静かに告げた。
『《明日は必ず、学園に来ること》これがボクの命令っすよ?分かった?』
甘い匂いと、不思議な力が働いて彼は呆然としながら頷く。
それは、いつもの意識が遠のく感じよりも、マシな意識のぼやけ方だった。
*****
目が覚める。
いつもと変わらない自室。
いつもは寝覚めが最悪なのに、今日はいつもよりはマシで。
なんの夢を見ていたかさえも、忘れてしまった。
「行かなくては……」
彼は何日経ったか分からないが、久しぶりにベッドから這い出る。
今日は必ず、学園に行かなくてはならない。
働かない頭で、それだけを考えて動き出していた………。