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聖女との邂逅、邪竜による反撃の狼煙


日間ランキングに入りました‼︎

読んでくださってる皆様、ありがとうございます‼︎

拙い文章ですが、頑張ります。よろしくどうぞ‼︎









グスタフの迅速な行動により、ミュゼはラグナと婚約することになった。

婚約は、家の当主の了承の元に行われる。

ラグナの後見人たるグスタフは公爵家の人だ。

流石に父親も公爵家からの申し出を断れない。

父親は渋々……といった様子で、婚約届けにサインをしてくれた。






そして……約一週間後。

ミュゼとラグナは、国王……加えてカルロスも共に白亜の教会の中にいた。

質素ながらも品のいい応接室で、柔らかな一人席用のソファに座った国王と、隣同士に座ったミュゼとラグナ、従者なので後ろで立って待つと言って聞かなかったカルロスは、その人が訪れるのを待っていた。


「……まさか…お主も事情を知る者だとは知らなかったぞ、カルロスよ」

「申し訳ありません、国王陛下。下手な動きをしてはレイド殿下に気づかれますので」


国王の言葉にカルロスは頭を下げる。

レイド付きの従者が今日、この場にいるのはラグナが彼も連れて来た方が良いと判断したからだ。

そこら辺の詳しい話はミュゼには分からないので、ラグナに一任してしまっている。


「今回は国王に聖女と同年代だからっていう理由でカルロスを共にするように頼んだから、問題はないと思うが……お前からこっちに接触してくるとあの女側に情報が漏れる可能性があるからな」

「そうですね。殿下も何故、オレなんだと文句を言ってましたが」

「王家の人間が複数人、聖女に接触しては問題も多かろう」


国王の言葉を聞いて、カルロスはレイドへの言い訳を考え始めたようだ。

ミュゼはそんな彼らを見て呑気に紅茶を飲んでいた。


「……ところで、ミュゼ嬢が話の外に追いやられておるが、良いのか?」


国王の言葉にミュゼはきょとんとする。

そして、くすくすと楽しそうに笑った。


「お気になさらずです、国王陛下。私は頭が良い訳ではないので、難しいことはラグナに任せてしまってるんです」

「………そうなのか?」


それを聞いて国王は驚いた顔をする。

この騒動の中心にいるのは紛れもなくミュゼ本人だ。

しかし、その本人が投げやりなのに疑問を抱いたのかもしれない。


「勿論、今回の件で重要なのは私が……今回はまだ殺されてませんけれど、今までの四回の人生で殺されたことと、アリシエラ様がラグナに接触していることに関してだと思います。私も当事者、に当てはまるので自分にできることは協力したいと思ってますよ?」

「の、割には我関せずって感じですよね?ミュゼ嬢」

「まぁ、私はラグナに好かれてるだけのなんの力もない小娘ですから、精々できるのは皆さんの言う通りに動くくらいです。下手に口出しして場を混乱させるのは望まないので。それに、私にできるのは囮ぐらいだと思ってますし」

「ミュゼ、俺はお前を囮にする気はないぞ」


ラグナの怒気の孕んだ瞳で睨まれるが、彼女は柔らかく微笑む。

国王とカルロスは、死ぬかもしれないのに囮になることさえ厭わない彼女に驚きを隠せなかった。


「死んだら死んだで構わないです」

「ミュゼっ‼︎」

「大丈夫ですよ、ラグナが守ってくれるのでしょう?私は私を大事にできないので、ラグナが大事にして下さい」


隣に座るラグナの手に手を重ねて甘えるように、彼の肩に頭を乗せる。

顔は見れないけれど、ラグナが息を飲むような気配を感じた。




「それに、私の〝旦那様・・・〟が私のために頑張ってくれてるのは、見てて気持ちが良いものですよ?」




「「「………っ…‼︎」」」


その場にいた三人は息を飲んだ。

目を細めて微笑む彼女は、とても美しくて。

可愛らしいのに仄かに香る色気が、途轍とてつもない魔性を生み出している。

国王とカルロスは思わず、ラグナに聞いてしまった。


「……ミュゼ嬢は魔法は使えないんだよな?」

「当たり前だろ、ミュゼは普通の人間だ」

「いやいやいや、この感じ、魔法としか考えられないくらいに緊張するんですけど」

「………つまりは素で魔性の才能を持つ、と」


ラグナの言葉にその場が静まり返る。

ミュゼはきょとん……としていたが、男にして見たらその仕草さえも危険だ。

国王は大きく溜息を吐いた。


「ラグナ殿……今はアリシエラ嬢の問題があるが、それが片づいたらミュゼ嬢を守り抜いてくれ」

「言われなくても当たり前だろ」

「………何故じゃろう……ミュゼ嬢が本気を出せば本気でこの国が傾く気がするのぅ……」


遠くを見る国王に、カルロスも同意するように頷く。

ここにきて〝ミュゼ・シェノア傾国説〟が出てくるなんて思わなかった。






そんな会話を途切れさすように、廊下に続く扉がノックされた。


『皆様、聖女様をお連れしました』


女性の声がかかると、ゆっくりと扉が開かれる。



そこにいたのは、美しい……女性だった。



流れるウェーブの金髪に、海のような瞳。

白磁の肌と純白のドレスがとても美しい。

彼女が……《聖女》ヴィクトリア・レイモン。

神に愛された女性だった。

彼女と側仕えらしい少女が中に入り、扉が閉められる。

向かいのソファに座った彼女は、ゆっくりと口を開いた。



「お待ちしておりました、国王陛下。そして……邪竜・・様」



凛とした声が響いて、その場に程よい緊張感が持たれる。

一番初めに口を開いたのはラグナだった。


「よく俺が邪竜だと分かったな」

「貴方様の禍々しいオーラで気づくなと言う方が難しいかと。この教会は魔を祓う呪いが施されているはずですが?」

「あんなので俺がやられるとでも思ったか?」

「いえ……わたくしは初めて貴方様にお会いしましたが、まず無理でしょうね」

「……ふぅん、力量を測る程度には力はあるか」

「お褒めに預かり光栄ですわ」


彼女は柔らかく微笑む。

それはミュゼとはまた違う慈愛の満ちた美しさだった。


「……後ろの女性は?」

「わたくしの側仕えです。ご一緒しても?」

「ご迷惑はおかけいたしません」


リオナというセミロングの深緑の髪の少女は、真剣な顔で頷く。

国王がラグナに視線を向けると、彼も頷いたのでそのまま続けた。


「…………では、本題に入ろう」


国王の言葉を皮切りに、今の現状を話し始める。




ミュゼ・シェノアが五度目の人生であること。


アリシエラ・マチラスという少女について。


彼女に関わる者によって、ミュゼが殺されてきたこと。


その過程で《破滅の邪竜》ラグナと出会い、今回も出会ったこと。


ミュゼがまだ殺されてはいないが、拉致などにあったこと。


アリシエラが洗脳の魔法を使って、学園を支配している(ラグナによって一部解放)こと。


洗脳されている人物達の概要。


そして……アリシエラが《秘匿されし聖女》だと言っていること、など。




大体の話が終わる頃には、だいぶ時間が経っていた。

ヴィクトリアは酷く驚いた顔をしつつ、真剣な眼差しで話を聞いていた。


「………なるほど……ミュゼ様は今が五度目なのですね?」

「はい。死に方は崖から落とされたり、ズタズタに斬り裂かれたり、犯されて病気で死んだり、元婚約者様にラグナの前で殺されたり、ですね」

「「「「っ⁉︎」」」」


ラグナは驚きはしなかったが、それを聞いてその場にいた人達は驚愕していた。

ミュゼはその様子を見て首を傾げる。


「……どうかしましたか?国王陛下」

「いや……殺されたとは聞いていたが、そんな詳細までは教えてくれなかっただろう……」

「……あぁ…まぁ、隠すことではないのです。今回はまだ死んでませんし」

「そのような……死に方をされたのですか……?」


ヴィクトリアが悲しそうな顔で聞いてくる。

ミュゼはにっこりと笑って頷いた。


「信じなくても良いですよ」

「………いえ…わたくしには嘘を見抜くギフトがあります。貴女様の言葉に嘘はございません」


それを聞いたラグナは彼女を見て、考え込む。

そして、納得したように頷いた。


「やっぱり、あの女はイレギュラーみたいだな」

「……イレギュラー、ですか?」

「あぁ。こっちの聖女はちゃんとした神の選定の元、祝福を受けた正当な聖女だ。あいつはこの世界のバグだろう」


ヴィクトリアは聖女としての神聖性を有しており、ちゃんと機能している嘘を見抜く神からの贈り物ギフトを有しているとラグナが言った、

神と相対したことがある彼が言うのだから、その通りなのだろうと周りの人々は納得した。


「神の仕組みから溢れてしまった……欠陥の聖女、ですか……」

「まぁ、こればかりは仕方ない。神だって生きているからな。完全無欠とはいかないんだ」

「えぇ、ではこれからどうするのですか?」


ヴィクトリアの言葉にその場が静まり返る。

どうすればこの事態を収束できるのか。

それが分かっているのは、ラグナだけだった。


「今回、あんたに接触したのは事後処理を任せるのに適任だったからだ」

「………事後処理、ですか?」


ラグナは頷き、にやりと獰猛な笑みを浮かべる。

その視線は獲物を見つけた獣のようだった。


「本当は皆殺しが楽なんだが……まぁ、洗脳されてるから情状酌量の余地ありとして、まずはアリシエラの周りの奴らを貶める」

「………ラグナ、楽しそうですね?」

「うん、楽しいぞ?やーっとミュゼに害をなした奴らを潰せるからなぁ」


楽しそうに笑ったラグナはそう言って、ミュゼの頬を撫でる。


「でも、流石に周りの奴らを貶めたってそいつらの扱いが困るだろ?だから……そこはあんたに頼みたいんだ、聖女」

「わたくし、ですか?」

「あぁ。あの女の誘惑テンプテーションをある程度緩和してから、聖女であるあんたの誘惑テンプテーションをかければ、あいつらはもうあの女の言う通りには動かない。あんたの方が聖女として格上だから、たとえ他の奴に洗脳されてもほとんど効かないと思う」

「………わたくし、余りその能力は好きではないのですが……」

「ちゃんと大事を取らないと、あの女がまたおかしなことするかもしれないだろ?それに……現時点であの女は自分を聖女だと言いふらしてるから、教会としても最悪なんじゃないか?ある意味、神の祝福を受けた女が自分のために男をたぶらかしてるんだからな」

「………そうですね。それは神への冒涜ですわ」

「という訳で、あんたには事が片づいた後の洗脳されてた重要人物達の受け皿になってもらいたいんだ」

「承りましたわ」


ラグナの話を聞いた彼女は少し怒ったような顔で、頷いた。

心から神を信じるヴィクトリアからしたら、神の力を私欲のために使うのは許せなかったからだ。


「で、国王とあんたがこちらにつくことでこちらが官軍であると印象づけることもできるしな」

「あのクソ女側は賊軍ということですか?」


カルロスの言葉にラグナは頷く。

そして、二人は悪い顔をして視線を交わした。


「そういうこと、だ。カルロスは今後も情報収集に務めてくれ」

「了解です。じゃあ、以前頼まれていた情報ですね」

「あぁ」

「情報、じゃと?」


反応した国王に答えるように、カルロスは懐から紙を取り出す。

そして、悪役のような嬉々とした笑みを浮かべた。


「ラグナ様とオレは同じことを考えてたんです。戦争などで大事なことはなんだと思いますか?はい、ここまで黙っていたリオナ様‼︎」

「えっ⁉︎急に……⁉︎えっと……戦力を削ぐこと、ですか?」


急に話を振られたリオナは慌てながら答える。

カルロスは「惜しいですね‼︎」と楽しそうに答えた。


「まぁそれも大事なんですけど……こういう少人数戦の場合は指令系統を潰すことです」

「………つまりは向こうの頭脳ブレーンを潰すということじゃな?」

「その通りです、国王陛下。向こうの頭脳ブレーンは宰相子息のヴィクター様です。で、ラグナ様が望んでいた情報はこちらになりまーす」


そこでやっと、カルロスは手にしていた紙を広げた。

そこに書いてあったのは裏社会で闇取引をしている商人のリストだ。

それを見た国王は目を大きく見開いた。


「なっ……これはっ……⁉︎」

「ヴィクター様が接触した闇商人を始めとして、国際規模で活動してる闇商人達ですね。芋づる式でこんなに出てきちゃったんで、情報過多になっちゃったんですけど、大丈夫ですか?」

「悪いな、カルロス。あんまりそういうことしたくなかっただろ」

「いえいえ。レイド殿下のためですからね。そのためにオレを有用に使って頂けるなら問題ないです」


と、簡単に言ってのけるがこのリストは国王も喉から手が出るほどに欲しいものだった。

裏社会で暗躍する者達は、大なり小なり、その手を悪で染めている。

そんな奴らの情報源だ。

国王は緊張した面持ちで……二人を見た。


「……それは…カルロスが手にしたのか?」

「えぇ。オレ、こういうのが得意・・なんです」


にやりと笑うその顔は、酷く悪役顔で。

国王は絶句した。

自分の息子についていた従者が、予想以上に有能だったがゆえに。


「このリストの所有権は、入手したカルロスにある。なら、どうする?」

「オレはこれを手にしてても上手くは使えません。所詮、オレは誰かに使われて役立つんでね。ラグナ様の指示ですので、貴方に渡します」

「………分かった」


カルロスはそれをラグナに渡す。

そのリストを確認して、彼はミュゼの方を見た。


「さて……ミュゼの記憶を見た俺が言うのもなんだけど」

「なんです?」

「今回の人生で、出会ってない人がいるんだよ。それが誰か分かるか?」

「……出会って……いない人……?」


ミュゼはそう言われて記憶を探る。

アリシエラは勿論、洗脳されてある四人は出会った。

国王、カルロス、ヴィクトリア……ラグナにももう出会っている。

他に……。


「…………あ……」


ミュゼは目を見開く。

頭は良くないけれど、〝彼女・・〟の存在を忘れていたなんて。

ミュゼの様子を見て、ラグナも満足そうに頷く。

彼女は……恐る恐る、聞いた。



「………ローラ・コーナー……のことですか?」



「正解」


彼女のことを知るのは、この場にいる二人だけ。

ミュゼは他の人にも分かるように、説明した。


「ローラ・コーナーはアリシエラ様と共に行動していた女子生徒です。四回目の人生で、私は彼女になんとも言えない態度で接されていました」

「なんとも言えない態度とはどんな感じなのだ?」

「………なんていうか……見下してる感じですかね?」


それも少し違うような気がしたが、何も言わずにおいた。

ミュゼ本人言い表すのが難しかったからだ。


「だが、今回は出会ってない。カルロス、お前は?」

「………もしかして、オレも今までは会ってたんですか?」

「あぁ。カルロスがこう言うってことは会ってないってことだ。ということは?」

「……排除されているってことですか?」


ラグナは「それは少し違うな」と言いながら、ミュゼの髪を撫でる。


「あの女は売られたんじゃないか、と」

「売られたっ⁉︎」

「ミュゼがヴィクターに拉致された時、言われなかったか?今更、一人、二人は変わらないって」

「………言われました…」

「というか……一応、ぶん投げた時についでに記憶を覗いておいたから、売られた女がそいつだって知ってるんだけどな」

「………ラグナ殿、何故それを早く言わないのだっ‼︎」


国王が絶叫に近い声で非難する。

しかし、彼は酷く不思議そうに首を傾げた。


「なんで?」

「な……んで……って……」

「俺はミュゼ以外の奴らが死のうがどうでも良いからな。その女が売られたからって俺にどうこうする義理はないだろ」

「だが、宰相の息子がやったのだぞっ⁉︎」

「あぁ、おかげでこうして攻撃する手段の一つになったな」


とても落ち着いた声で告げるラグナに、ミュゼとカルロス以外が呆然とする。

ミュゼはそれをフォローするように、彼に告げた。


「ラグナ、その考え方は普通の人には受け入れがたいものなんです」

「ふぅん、俺は邪竜だから関係ないな」

「まぁ、そうですね」


結局、納得して終わってしまったが。

ラグナはにっこりと笑って皆に告げる。


「さて、今回はその売られた女を助け出してヴィクターを潰す。救出後は聖女、あんたが身柄を引き受けてくれ」

「………分かり、ましたわ」


ヴィクトリアは難しい顔をしつつ、頷く。

ここにいる男は人の姿をしているが、邪竜なのだ。

人間の常識なんて、通りはしない。

ミュゼ以外がどうなろうと構わないのだから。




「さぁ、反撃を始めようか」



こうして……〝ローラ・コーナー救出作戦〟を開始した。









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