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真実に近づいて

サブタイトル直しました‼︎








甘い匂い。



妖しい赤や紫の光。



頭がぼーっとする。



身体が上手く動かない。



助けて、と小さく呟く。



何故、わたしはここにいるの?



何故、わたしはこんな目にあってるの?



分からない。



分からないの。



誰でも良いから助けて。



これ以上、私が汚されてしまう前に。




だれかー………。






*****





ミュゼは、顔面が固まるのを感じていた。



教室中から向けられる視線は全て隣にいる人に向けて。

でも、その隣にある魔性の美青年は……それらを気にせずに大欠伸をしていた。


「飽きたな」


ラグナの一言がソワソワとした教室に響く。

流石のミュゼも小さな声で注意した。


「ラグナっ‼︎素直に言っちゃダメですっ‼︎」

「だって……マトモに授業の進行もできてないんだぞ?」

「それはラグナの美貌の所為ですよっ……⁉︎」


そう……もさもさモードを卒業したラグナは、いつも通りの美貌を晒しているのだ。

おかげでクラスメイト達からの視線が辛いし、休み時間ごとに他クラスから人が見にくるし、授業を行う先生がその色気にやられてマトモに授業進行できていない。

大問題だった。


「どうしたら良いんですか……いっそまたあのダサメガネを……」

「え?ミュゼはあのメガネ、ダサいと思ってたのか?」

「逆にダサくないと思ってたラグナの美的センスが心配になりますよ?」


さらっと毒を吐くと、ラグナは分かりやすいショックを受ける。

徐々に彼に対する扱いが酷くなる気がするが…愛ゆえということにしておく。


「……ミュゼが最近毒舌……」

「そうですね。ラグナに気を使う必要はないかと思いまして」

「うわーっ、そういう信用は嬉しいんだけどっ……俺はどちらかといえば甘やかしたい派なんだよなぁ」

「充分、甘やかしているでしょう?これ以上甘やかされたら悪い子になっちゃいますよ?」


くすっと笑うと、ラグナは頬を赤くして目を逸らす。

ミュゼは彼が存外、初心うぶな反応をするのにキュンとしてしまった。

男の人のちょっとした反応が可愛らしいと思うのは、女性的な本能なのかもしれない。

だがそこは彼の方が上手で。

ラグナはお返しとばかりに甘ったるい色気を醸し出しながら笑う。


「悪い子になっても俺は好きだよ」

「………甘々ですね…」

「ミュゼのことならいくらでも甘やかしたい」


ミュゼに向けられたものなのに、周りの女子達が倒れていくのが見える。

男子生徒もちょっと腰砕けしたらしい。


(うん、これは一種のテロですね)


ミュゼの心の声など気にせず、頬にするりと頬を擦り寄せてくるラグナ。

頬を合わせるのがラグナの癖なのか……最近、よくこうされている気がする。

彼なりの愛情表現なのかもしれない。



ミュゼはこれからどうするか……と考えて、ひとまず周りの人達の救出を決心した。







アリシエラ接触事件の日から、ラグナは彼女に猛アタックを受けていた。

例えばティーパーティー。

または社交界のエスコート。

更にまたは学園での自主勉強。

怪我をしたはずの彼女は二日後には普通に動いていて……聖女のスキルによるものだとラグナは言っていた。

ついでにヴィクターの怪我も治っていた。

だが、ラグナの殺意にやられた精神的なダメージはアリシエラの力で緩和された程度らしい。

ラグナの姿を見ると完全に怯えている。

まぁ、とにかく。

アリシエラはミュゼが少しでも離れると、猛アタック(という名のテンプテーションと洗脳魔法)をしてくるとか。

武力行使や暗殺などの強硬手段には出てない限り……現在は様子見なのだろう。

彼曰く、何度も殺しそうになっているらしいが。


(どれだけ拒絶されても再チャレンジなんて……精神メンタル強いですよね……)


というか……最近の彼はその美貌だけで彼女の洗脳を解き始めているようで。

他学年とかの洗脳が弱い人達に接触を図っては、(魔力放出付加の)笑顔で洗脳解除しているらしい。

そうなると、あの時の猛吹雪は死にかけたからじゃなくてラグナの美しさで洗脳が解けたことになるのだが……。

ミュゼは深く考えるのを止めた。


(なんか……悪いことじゃないのに女として負けたような気分になりますね……)


と、まぁ……こんな風にマトモに授業が進まず、かつラグナに溺愛される日々を過ごしていた……。




その裏で、彼がこそこそ暗躍していたことを知らずに。










その日の昼ー。



学園は騒然としていた。

その理由は簡単だ。



王太子レイドが従者のカルロスに、剣を向けて反撃されたからだ。



学園には貴族子息が多い。

ゆえに、有事を想定して……男子生徒は、護身術として剣術(勿論、刃を潰した木刀を使用する)を学ぶ。

アリシエラやアルフレッド達…加えてレイドがいる一組は、午前中剣術の授業(なお、従者科の生徒達も主人を守るために剣術を学ぶため、普通科と従者科の剣術の授業は合同となっている)だったのだろう。

流石に令嬢達は剣なんて学ばないので……教室で裁縫の授業をする。

しかし、その日は違った。



アリシエラが授業を抜け出して彼らの元に行ったのだ。



もうその時点でおかしいのだが、生憎とこの学園は彼女の味方が多い。

誰も咎めることなくアリシエラは練習場に近づいて……まぁ、一言で言えば怪我をしそうになった。

男子生徒が模擬戦をしていたところ、手から剣が滑り……彼女に向かって飛んで行ったとか。

それを近くにいたカルロスがいなして、守った。

何故、彼女を守ったカルロスが剣を向けられなくてはいけなかったのか?

その理由は、その後に続くらしい。


『貴女は女性でしょうっ⁉︎なんでこんな場所にいるんですかっ⁉︎』


激昂したカルロスに、彼女は涙を目に浮かべながら感謝を述べる。


『………ありがとう…カルロス様』

『うっ……気持ち悪いっ……』


しかし、彼はアリシエラを見て吐き気を訴えた。

それを見たレイドが今度はカルロスに激昂し。


『カルロスっ……お前っ、アリシエラに気持ちが悪いなどっ……‼︎』


激怒したレイドは我を忘れて剣を向けていったとか。

しかし、……今まで上手く・・・手加減していたのに、カルロスは吐き気で手加減を忘れてしまい……本気でやり返してしまったとか。



現在、気を失った彼は医務室に。

やり返されたレイドの方は迎賓館の休憩室レストルームに運ばれてしまったとか……。







その話を聞いたラグナは、にやりと笑っていた。


「早速、良い駒を発見したみたいだな」

「………えっと…」

「あの女見て吐き気を催したってことは耐性があったってことなんだよ」

「吐き気で、ですか?」

「脳がその魔法に対応したからな。身体の機能がおかしくなって、吐き気ぐらいするだろ。会いに行こう」


ラグナにエスコートされて、歩き出す。

向かった先は医務室。

すれ違う生徒達が顔を真っ赤にして固まってしまっていたが、彼は気にしていない。


(やっぱり…ダサい格好をさせるべきですか……)


格好良い彼が自分のものだと自慢できるのは嬉しいが、モテすぎるのも嫌だ。

そんなことを考えていたミュゼとラグナは、いつの間にか医務室前に来ていた。

彼は声をかけずに堂々と扉を開ける。


「こら。部屋に入る時は声をかけー」

「カルロスはいるか?」

「ひゃいっ……」


医務室の女性教師が、一瞬で顔を真っ赤にする。

彼女が指差したカーテンのところに歩いていくと……中にカルロスが横たわっていた。


「顔色悪いですね……」

「そうだな」


ミュゼの呟き通り、彼の顔色は蒼白だった。

額には汗が伝っている。

ラグナが回復の呪文をかけると、その顔色はみるみる回復して……彼はゆっくりと目を開けた。


「………ここ、は……」


焦点の合わない瞳が天井をぼーっと見つめる。

ミュゼはそんな彼に優しく挨拶した。


「おはようございます、カルロス様」

「起きたな」


側にあった椅子にミュゼが座ると、ラグナは彼女を背後から包み込むように抱き締める。

カルロスは呆然とそれを見ていたが……しばらくして意識が戻ったのか、ハッとした。


「ミュゼ、嬢……‼︎」

「…………はい。そうですけど?」


カルロスは明らかに動揺していて、ミュゼは首を傾げる。

だが、ラグナを見ては動揺していない。

先ほど言っていた魔法耐性というのがラグナの美貌耐性にもなっているのかもしれない……なんてちょっと馬鹿なことを、ミュゼは一瞬考えてしまった。

ラグナは彼女を見て動揺するその姿を見て、クスクスと笑っていた。


「実際に会うのは初めまして、だな」

「………貴方は…」

「邪竜ラグナ」

「……………やはり…」


やはり、と言ったということはラグナの人の姿を知っていたのだ。

彼が人の姿でいたのは交渉の場にいた人達、ミュゼの家、買い物に行った時……そして、ヴィクターの前だ。

一体、どこでラグナの人型を知ったのだろうか?

それを聞くよりも先に、ラグナは質問した。




「お前、俺らを監視してただろ」




「っっっ‼︎」

「えぇっ⁉︎」


ラグナの言葉にミュゼは驚愕する。

言われた彼も顔面蒼白で……言葉を失くしていた。

今はラグナの姿をどこで知ったかというのは置いておくことにしておく。

それよりも……〝監視していた・・・・・・〟という言葉。

ということは誰かが彼に命令していた、ということ。

そして……彼の主人は……。


「俺達を監視するように言ったのはあのレイドとかいう男だな?」

「……………」

「なぁ、あの男はクソ女・・・に会ったらおかしくなったか?」

「…………っ‼︎」


何も語らないが、カルロスの顔が全てを物語っていた。

名前は出していないが、彼が指す〝〟が誰なのか分かったのだろう。


「……ラグナ…」

「あぁ。」

ラグナは嘲るように鼻で笑う。


「あの男もあの女に洗脳されてんのか」

「なっ……⁉︎レイド、様が……洗脳⁉︎」

「…………」


ミュゼは「あぁ、やっぱり」という気持ちになり、カルロスは驚愕に顔を染めていた。

国王はラグナのことをあの場にいた者の心の中に留めるように箝口令を敷いた。

つまり、王太子も邪竜のことは知らないはずなのだ。


だが、あの日。


確かにレイドは邪竜のことを口にした。

彼個人の情報網を持っていることも考えたが、アルフレッド達と同様ならば、情報の共有くらいしているかもしれない。

アリシエラと会っておかしくなったのなら……アルフレッド達と同じと、ほぼ断言しても良いかもしれない。


「話してくれませんか?」

「………です、が……」


口を開いたのはミュゼだった。

ラグナは事の成り行きを彼女に託したのか、満足そうに微笑んで頭に頬を擦り寄せる。

ミュゼは真剣な眼差しで彼を見た。


「お願いします」

「……………」


主人レイドのことが関わるからか、彼の口はどこか重たい。

従者なのだから、主人の不利益になることは言いたくないのだろう。

しかし、そんなことを言ってる状況ではないのだ。

ミュゼは真面目な顔で言った。


「大丈夫ですよ。私達は、この学園の生徒達のようにおかしくなってません」

「それにさっきあの女教師を追い出して、鍵をかけたし。俺が人払いの魔法と結界と防音結界を発動したから。あの女がやって来ようが、この医務室へやには誰も入れないし何も聞こえない」


いつの間に、と彼女は思ったが……手を重ねることで感謝の意を伝えた。

今は目の前にいる人に集中する。

彼だって分かっているはずなのだ。

この学園にいる人達が、アリシエラを盲信していることに。

自分の主人が……おかしくなっていることに。




「私は知りたいんです。何故……私がアリシエラ様に狙われるかを」




ミュゼの声は、酷く…酷く落ち着いていて。

カルロスは苦しそうに唇を噛んだ。


「………っ……」

「だから、どうか。教えて下さい」

「……………自分、は……オレ・・はっ……‼︎」





彼の瞳から涙が溢れる。




意を決したように、彼は大きく息を吐く。

そして……カルロスは語り始めた……。








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