幕間・騎士候補は解放を願う
ちょっと、話で分かりづらいところがあるので、それを補います‼︎
よろしくどうぞ‼︎
ジャン・ビィスタは、自身がおかしな状況になっていると理解していた。
それは、ある人物に限り自身が望まない行動を取るということ。
その人物は、彼が仕えているアルフレッドの元婚約者……ミュゼ・シェノアに関してだった。
何故か、彼女を前にすると剣を手に取りその身を斬り刻みたくなる。
見えない力が働いて、勝手にジャンの身体を動かしているようで。
なんとかミュゼを害しないように身体に命じても、言うことを聞かない。
今は縁があって、アルフレッドに仕えて専属騎士の練習のようなものをさせてもらっているが……彼は代々、騎士として国家に仕える一族であり、幼い頃から父や祖父に教育され、騎士の誇りというのを教え込まれてきた。
弱きを守り、強きを挫く。
ただ、その剣先を向ける先は間違うことなく。
殺すのではなく、生かすために剣を取るのだと。
だからこそ、自分で自分が分からなくて、気持ちが悪かった。
騎士としての誇りがあるのに、女性に剣を向けてしまいそうになる……いや、実際に向けてしまったことに恐怖した。
思考の流れが、自分の意思が、強い力に操られているようで。
頭に靄がかかるように、時々、ジャンは自分の意識が不明瞭な時さえある。
その時の記憶は、薄っすらと覚えているようで覚えていなくて。
自分が何を言って、どんな行動をしたかも、正確に分かっていない。
おかしい、とは思っていても何がおかしいのかが分からない。
その〝異常〟は、ミュゼに関する事柄になるほど顕著に現れた。
言う通りにならない自分の身体が、思考が……気持ち悪くて、とても気持ちが悪くて。
誰かに助けて欲しいと願う自分がいるのに、それを行動に移すことができない呪いのようなものを感じて……変になりそうだった。
謝罪をしようにも、ジャンが再び彼女に会ったら同じことをしてしまうだろう。
だから、会いにも行けず、謝罪もできず……ミュゼに会わないようにすることしかできない。
だから……〝彼〟が現れたのは、ある意味の希望だったのかもしれない。
「よう」
酷く冷たい声。
ダサいメガネをかけてはいるが、そこにいるのは間違いようがなかった。
ジャンは、縋るような気持ちで……彼を見る。
「君、は……」
「名乗らなくても分かってるだろう?俺がお前に会いに来た理由も」
彼は復讐に来たのだ。
彼の大切な存在を、傷つけたジャンを。
普通ならば抵抗するところなのだろうが、ジャンはそうされることが当たり前だと受け入れる。
騎士候補なれど騎士を目指す彼は、自身の矜持を、自ら傷つけたのだから。
「お願いだ……どんな罰でも、受け入れる……」
「…………?」
「オレ、を……解放して、くれ……」
それは少し狡い言い方だったかもしれない。
だが、頭に靄がかかって、意識が薄れそうになっているジャンにはそう言うのが限界で。
目の前にいる彼は、ジャンを見て驚いたようだった。
そこから先の記憶は、酷く朧げだ。
唯一、分かるのは……目の前にいたあの存在は、ジャンの〝異常〟を止めるように……動き出してくれたということだった。