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花嫁と邪竜の学園生活(3)

読んでくださってありがとうございます‼︎

誤字脱字、アドバイスなどありましたら、どうぞよろしくお願いします‼︎








ユーリ・シェノアは自分の姉……ミュゼ・シェノアを好いていた。




優しい姉。

いつもユーリのことを考えてくれる良い姉。

しかし、唯一面白くないのは彼女の周りにいる男のことだった。


ミュゼはとても美しい容姿を持っていた。

身内贔屓・・・・ではなくて、本当に。

幼い頃から将来は沢山の男性に囲まれるだろうと、いろんな人から言われていて……ユーリは面白くなかった。

まぁ、だからツンツンとした態度を取ってしまっていたのだが。


だから、アルフレッドが姉の婚約者になった時、ユーリは家族の誰よりも悩み、悩んで、悩みまくって……〝まぁ、許せる範囲かな〟と妥協したのだ。

アルフレッドのことは適度には認めている。

小さい頃からミュゼと婚約関係だった彼は、彼とアルフレッドの感性が似ていたというのもあるが、義弟になるユーリにも優しかった。



しかし、姉は彼のことを好いているからこそ暴走していて、それが婚約者のためというのが面白くなかった。


まぁ…自分の婚約者に恋慕を持って近づいてくる女がいたら、普通なのかもしれないが……女性というのは慎みを大事にする。

つまりは恋愛ごとで嫉妬などするのは、あまり良くないことだと考えられていた。

だから、他の女達を牽制する姿は……ユーリにしてみれば、姿は美しくても、はっきり言って醜かった。

いや、自分の姉が男のために心を砕くのが嫌だった。


でも……どこからおかしくなったのだろう?

この学園に入学して……アルフレッド経由である女性と出会った頃からだろうか。




ユーリの何かは、おかしくなってしまった。





そして……あのダンスパーティーの夜。

姉から婚約破棄を願い出たことは信じられない出来事だったのだ。

嬉しいと思った反面、何故かふざけるな‼︎と思っていた。


自分がおかしいとは分かっていたけれど、まるで……誰かに操られたように身体と、思考がいうことを聞かなかった。


それに加えて、国王の勅命でよく分からない男が一緒に住むことになるし……余計に訳が分からなかった。


一つ言えるのは、あの男が来てから姉は変わったということ。


あんなに醜かったのに、今ではとても美しく見えて……逆に不気味だった。


アルフレッドの時とは違う。




だが、今も同じように嫉妬にかられている姿は……何故あの時と違うのか?



何故、こんなにも美しいのか?





そして……何故、この極寒の猛吹雪の中で平然と立っているのだー……‼︎






*****






猛吹雪だった。

物理的に。



季節は確かに寒い季節である。

しかし、この国は北国という訳ではないから、こんな猛吹雪が吹くことは滅多にない。

というか、普通に晴れていたのに……現在、極寒の北国のように猛吹雪になっているのはどういうことなのか。

中庭にいる生徒達は寒さで震える中、平然とーまたは呆然と立ち尽くすミュゼとラグナを固唾かたずを飲んで見つめていた。


「ミュ……ミュゼ?」

「なんです」

「今、なんて……?」

「あぁ、耳が遠くなってんですか?意地悪なヒトは嫌いだって言ったんですよ」


冷たい微笑みを浮かべる彼女と、世界の終わりと言わんばかりに顔面蒼白ー……を通り越して白くなっているラグナ。

聞いている限りでは痴話喧嘩であるのに、異常気象を巻き起こしているのはどういうことなのか……生徒達は教えて欲しくて仕方なかった。


「いや、あの、ちょっと……ミュゼ?その弁解を……」

「あぁ、ごめんなさい。ラグナ様。私と貴方は他人ですものね‼︎好きも嫌いもありません‼︎」

「〜〜〜〜っ⁉︎」


ミュゼの言葉はとても容赦なくて、彼の心を抉っていく。

ラグナはとうとう……その場に崩れ落ちた。

そんな彼を見てもミュゼは冷笑を浮かべるだけで。

自業自得だ、としか言えなかった。


「………ミュゼ…」

「呼び捨てにしないでくれますか。他人でしょう?」

「待って、ちょっと本気で待って。俺の心、完全に折れるから。もうバッキバキだから」

「知りません」

「ミュゼぇっ……‼︎」


完全に泣き出したラグナを尻目にミュゼは極寒対応。

ラグナは呻き声をあげながら、呟いた。


「俺……ミュゼに嫌われたら生きていけないんだけど……」

「嫌われるようなことする方が悪いですよね」

「ごめんなさい、本当にごめんなさい。他人のフリとかしてすみませんでした。だからお願い、捨てないでっ……‼︎」


ミュゼは嗚咽を漏らしながら泣くラグナを見て、少し怒りを収める。

あまりにも哀れなその姿に……ミュゼは静かに口を開いた。


「本当は他人のフリをしたのにも理由があるんだろうなーとは分かってるんですよ」

「………ミュ…ミュゼ……?許してくれー」

「それとこれとは話が別です。調子に乗らないで下さい」

「はい、ごめんなさい」


一瞬持ち直したラグナをミュゼは一蹴する。

そして……苦しそうな顔で、泣きそうになりながら告げた。



「他人のフリされるのは嫌です。でも……他人の女に触られてるのを見るのはもっと嫌です。そんなの、許せない。私の、ラグナなのにー……」



「………………っ…」


その言葉にラグナは息を飲む。

そんな彼の様子を見て、ミュゼは激怒した。


「おい、こら。なんでそんなに笑ってるんですか‼︎怒りますよっ⁉︎」

「いや、だって……」

「だっても何もないです‼︎その緩んだ顔、なんとかしなさいっ‼︎」

「いやいやいや、そんなこと言われたって……ミュゼ、今のセリフ、完全に告白だって分かってる?」

「はぁ⁉︎」


ミュゼは自分が言った言葉を思い返す。


『他人のフリされるのは嫌です。でも……他人の女に触られてるのを見るのはもっと嫌です。そんなの、許せない。私の、ラグナなのにー……』



私の・・、ラグナなのにー……』



「あれ?」


ミュゼは何故か自分が大告白しているのに気づき、固まる。

貴族界の中では……女性から思いを伝えるのは、はしたないことだと言われている。

しかし、今のは完全に……。


「〜〜〜っ‼︎ラグナ、今すぐ先ほどの言葉を消去して下さい‼︎頭の中から削除デリートです‼︎」

「んな勿体ないことできるかっ‼︎死ぬまで大事にしてやるっ‼︎」

「駄目ですからねっ⁉︎」


いつの間にか止まった吹雪の代わりに、春のような暖かさが周囲に満ちて、雪を溶かし始める。

それはさながら、ラグナの心を表しているかのようで。

一瞬のうちに春の兆しと変わらぬほどの暖かさになってしまった。

完全に凍りついていた噴水が、穏やかに流れるほどに。


「ミュゼ‼︎俺がお前のものだって言ってもらえて嬉しいよ‼︎愛してるよ‼︎」


ラグナは満面の笑顔でそんなことを言う。

彼女は顔を真っ赤にして、反論した。


「なっ⁉︎なんで愛してるとか言うんですかっ‼︎恥ずかしいでしょっ⁉︎」

「いや、お前に誤解されるくらいなら、いくらでも言うからなっ⁉︎言っとくけど、俺はあの女を好きになるくらいなら世界を滅ぼした方がマシだと本気で思ってるからなっ⁉︎」

「それはそれで恐いですねっ⁉︎」


抱きついてこようとするラグナ。

しかし、それより先に彼女はストップをかける。


「だから、他の女に触れた身体で触らないでって……」

「なら洗えば良い?」

「え?まぁ……」

「水洗いでも良いか?」

「………ギリギリ許します……」

「分かった」


その答えを聞いたラグナは溶け出した噴水の中に飛び込む。

今さっきまで猛吹雪で凍っていた噴水の水なのだ。

その冷たさは尋常じゃないはず。


「ラグナぁっ⁉︎風邪引きますよっ⁉︎」

「いや、邪竜おれが風邪引くとかないから」


水面から顔を出したラグナは、髪を掻き上げながら丸メガネを外す。

だぼだぼの制服を脱ぎ捨てて、上半身裸になる。

こんな場所で裸になるなんて信じられなかったが、ラグナはその美しい美貌を人目に晒しながら、ミュゼを抱きしめた。


「ミュゼ、本当にごめん。()()()動く予定だったから、他人のフリをした方がミュゼの立場が余計に悪くならないと思ってたんだ。でも、お前に嫌われるくらいなら他人のフリなんかしない」

「………そう、なんですか……」


彼が他人のフリをしたのにはやはり理由があった。

ちゃんと……自分ミュゼのことを思ってくれての行動だったのだ。

その彼女にこんなにも冷たい対応されるのは想定外だったようだけど。


「あと、俺、今までも今回もあの女に会ったの今日が初めてだからな?なんかさも知り合いみたいになって接してきたけど……うっ……」

「ラグナ?」

「………あのクソアマッ……ふざけたこと言いやがって……」


黄金の瞳が怒りに轟々と燃え盛る。

いろんな場面で怒っていたけれど、こんなにも本気・・で怒っているのは初めてかもしれない。


「どうしたんですか?」

「あのアマ……ミュゼの代わりに俺の隣にいるとか言いやがった。ふざけんな。誰がミュゼの代わりになるかよ」

「……………なんていうこと言ってるんです……アリシエラ様は……」

「今までの野郎共があの女のためとか言ってミュゼに害なそうとしてたのもムカついたけど、それがこれからも続くようなことを言外に言いやがって……それも自分を好きになるのは当然のことって当たり前に考えてるお花畑に余計に殺意が湧くっ……‼︎」


ミュゼを抱きしめる腕が余計に苦しくなる。

彼の腕の中で「うぇっ」と令嬢らしからぬ呻き声を漏らしてしまったが、離れる気はないようなので……そのままにさせておく。




「本当に……頭がおかしくなるかと思った。ミュゼがいなくなる未来なんて……考えらんないし……」




まるで子供のように。

愛おしい存在を離すまいと争うように。


「だから…ミュゼに今すぐ会いたかったんだ……俺の側に、お前がいるって確かめたくて……」

「…………んっ…」


柔らかく、目尻に落とされるのは優しいキス。

異性にされるキスなんて初めてで…ミュゼは顔を赤くしてしまう。

身体はいうことを聞かないように、動かなくて。


ラグナのキスは頬、こめかみ……と色々なところに落とされる。


その度に身体が震えた。

ぞわりっ……と甘く痺れが広がる。


「ミュゼ…ミュゼ……」


甘い睦言のように。

愛おしそうに呼ばれる名前に……彼女は溶けそうになる。

さっきまでの険悪ムードはなんだったのだろうか。

彼が両手でミュゼの頬を支え…顔を上に向けさせる。

そして……ゆっくりと近づく互いの唇がー……。



「ゔぅぅ……」



今にも死にそうな呻き声によって、重ならなかった。


ミュゼがハッとして周りを見ると、そこには倒れこんだ複数人の生徒達。

彼女は何故だか無事だったけれど、思えばさっきまで極寒の猛吹雪だったのだ。

つまり……。


「うわぁっ‼︎大変です、死にかけてますっ‼︎」


今は春みたいに暖かいけれど、猛吹雪の拠点であったラグナの側にいた彼らは寒さによって死にかけていた。


「えーっ。ミュゼ、そんなの無視してキスー…」

「できる訳ないでしょうっ⁉︎」

「ちぇっ」

「ちぇっ、じゃないです‼︎今すぐ病院に運ばないとっ……」

「仕方ないなぁ……」


ラグナは何か呪文を唱えると、柔らかな光が倒れていた生徒達を包み込む。

その光に包まれた彼らは直ぐに顔色が良くなって……一人、また一人と意識を取り戻した。


「………ラグナ…?」

「回復魔法だ。誰かを慈しみ、愛おしむことが大切なんだが……ミュゼを想う気持ちを抱いて使ってみたら、大成功だったみたいだな」


頬擦りしながら言ってのけるが、今までその魔法が苦手だと言っていた彼が使えるようになった理由が……予想以上に恥ずかしくて、ミュゼは顔を真っ赤にして固まる。


「えっと……オレ達は……」

「猛吹雪に襲われて…あれ……でも春みたいに暖かい……?」


ユーリと共にいた学友達も起き上がる。

そして、ミュゼに抱きついたままのラグナを見て爆発するように顔を赤くしていた。

男が頬を染める様は少し……いや、かなり見てて険しいものが込み上げてくるけれど、仕方ない。

女も男も関係なしで魅力するラグナが悪い。



「…………姉様……」

「…………ユーリ…?」



その声は、酷く弱々しかった。

ラグナの美貌にやられそうになりながらも、気合いと根性で我慢しているらしいユーリは……ミュゼを見て、涙を零していた。

その姿を見て、彼女はギョッとする。

慌てて駆け寄ろうとしたが、ラグナに抱き締められているからできなかった。


「ユーリ、どうしたのですか?どこか痛いところでも……」

「ごっ……ごめんなさい、姉様。僕、なんか、おかしくなってて……」

「ユ…ユーリ?」

「ミュゼ姉様ぁ、ごめんなさいぃぃぃいっ‼︎」

「うぐっ⁉︎」


猪の突進が如く、ユーリはラグナに抱き締められているミュゼの身体にどしんっ‼︎と抱きつく。

また令嬢らしからぬ悲鳴(嗚咽)が漏れたが、気にしてられない。

弟は……大号泣で、謝罪しまくっていた。

急な出来事に理解ができなくて、ミュゼは困惑する。


「ミュゼ嬢……」

「……はい…?」


名前を呼ばれて振り返れば、そこには顔面蒼白のユーリの学友達がいた。


「オレ達は女性に対してなんて酷いことを……申し訳ありませんでした」

「どうしてあんな風に言ってしまったのか……本当にごめんなさい」


彼らまで急に謝り出すものだから、ミュゼはもう訳が分からなかった。

完全に困惑モードに突入していたら、ラグナが酷く冷めた目で教えてくれた。




「まぁ……ミュゼが困惑するのも仕方ないかもな。全員、〝集団洗脳・・・・〟されてたからな」




「………………はいっ⁉︎」




さらっと言われた言葉は、とんでもない大爆弾だった………。







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[一言] 国の重要人物が簡単に洗脳されとる
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