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花嫁と邪竜の学園生活(1)








その日のラグナは、酷く聞き分けが良くて……ミュゼは複雑な顔になっていた。





昨日は子供みたいに拗ねていたと思ったのに、国王に会いに行ってくると言って…しばらくして戻って来たと思ったら、既にご機嫌モード。

わざわざお土産まで買って来ていた。


『これ、ミュゼに似合いそうだと思ってさぁ〜』


ラグナが差し出したのは、黒いレースのリボンだった。

その色にした理由は、自分ラグナと同じ髪色いろだったから、いつでもつけていて欲しいということ。

勿論、ミュゼは真っ赤になったのだが……彼女も同じようにリボンを送り返した。



淡い青の花が一輪、刺繍された銀のような白いリボンを。



という訳で……少し長かった髪をミュゼが渡したリボンで軽く結っているラグナは、更にご機嫌で。

ここまで来ると少し不安だった。






「では……私は学園に行ってきます」

「あぁ、行ってらっしゃい」


学園に向かう馬車の前で、ミュゼとラグナは向かい合っていた。

彼から貰ったリボンは、ちゃんと髪を結んでいるし、赤と黒を基調とした制服は着崩すことなくきちんとしている。

そこまで準備しておきながら、ミュゼは酷く素直なラグナに怪訝な顔をした。


「………大丈夫、ですか?」

「あははっ、何言ってるんだよ。大丈夫に決まってるだろ?」


キラキラとした笑顔でそう言ってくるが、だいぶ胡散臭うさんくさい。

何か企んでいるのでは……と疑ってしまうのは、その笑顔がとても胡散臭い所為だとしておく。

だが、他の兄弟達と時間帯が被らないように馬車の時間が調節されたミュゼが、時間がギリギリなのも真実で。


「………行ってきます……」

「行ってらっしゃい」



彼女は渋々、馬車に乗り込んだ。

馬車の窓から外を見ると、ラグナは満面の笑顔で手を振って送り出していて。



「………余計な不安なら良いんですけどね……」





まぁ、しかし。

……ミュゼの嫌な予感は、確かに的中するのだった………。






*****






聖ベルフェリア学園。




この王国で由緒ある歴史を誇る伝統校だ。

貴族の子息、息女が生徒の大半で……学科は、王族、貴族の通う普通科。

騎士を目指す者達の騎士科。

貴族に仕える使用人を目指す従者科というものがある。

様々な身分の者が一つの学園に通うのは、自分だけで生きているのではない、と学ぶためらしい。

ちなみに…制服の色はそれぞれ分けられていて、普通科は赤と黒を基調とし、騎士科は青と黒、従者科は茶色と黒になっている。







普通科の生徒は貴族の子息や息女ばかりだ。

注目されるのは仕方ない。


しかし、今日のミュゼは違う理由で注目されていた。


「見ろよ…ミュゼ嬢だ……」

「あぁ、国王命令で婚約破棄された?」

「捨てられた令嬢だろ」


馬車から降りるなりそんな不躾な言葉を投げかけられる。

本人達はひそひそ話のつもりなのだろうが、ミュゼの耳に普通に届くレベルの声の大きさだった。

それよりも……捨てられた令嬢とはなんなのだろう。

まるでアルフレッドから婚約破棄されたかのような言い方だ。


「確か…アリシエラ嬢とアルフレッド様の仲睦まじい姿に嫉妬して、奇行に走り、それを見たアルフレッド様が国王陛下に直談判なさったとか」

(いや、してません)

「え?他に殿方と不貞を働いたからではなくって?」

(それはラグナのことを言ってるんですかね⁉︎)

「傷物になったからではなくて?」

(それは剣の傷跡ですかねぇっ⁉︎その言い方だと違う意味に取れちゃいますよっ⁉︎)


噂好きの生徒達はミュゼのことを好き勝手言いふらす。

心の中でツッコミを入れながら、ミュゼは溜息を吐いて教室に向かう。

その途中で従者を引き連れた無駄にキラキラした男子生徒とすれ違いそうになる。



翡翠色の髪に琥珀色の瞳……。

整った顔立ちや振る舞いからは気品が醸し出されていた。



レイド・ヴィン・ノヴィエスタ。

国王陛下の第一子で、王太子殿下だ。



「……おや…おはよう、ミュゼ嬢」

「…………御機嫌よう、レイド殿下」


レイドは爽やかな笑顔で挨拶してくる。

元婚約者経由でレイドとは数回顔を合わせたことがあった。

向こうが不特定多数であるミュゼを覚えているなど思ってもみなくて、彼女は驚きつつ会釈した。


「最近、貴女の周りが騒がしいようだね」

「そうですね」

「アルフレッドに捨てられたとか?」

「…………婚約破棄したということでしたら、事実ですが?国王陛下の名の下に行われたのです。殿下もお耳にしたかと思いますが」

「あぁ、そうだったね」


くすくすと綺麗な顔で笑うのに、その笑顔にはどこか腹黒さがある。

後ろに控えている焦げ茶色の髪をした従者は、そんな主人を見て……複雑そうな顔をしていて。


「…………?」


ミュゼがじっと見ているのに気づいたのだろうか、従者の紺色の瞳と視線が合う。

従者はそれにも複雑……正確にはなんとも言えない、申し訳なさそうな雰囲気をかもし出していた。


(………確か…殿下の従者であるカルロス・フリット……という名前だったはず……)

「ミュゼ嬢」

「っ‼︎…はい……」


考えごとをしていた彼女の思考は、レイドの声で現実に引き戻される。

そして、彼は酷く黒い笑顔で聞いてきた。



「君が邪竜を呼んだと聞いたんだけど、本当なのかな?」



その言葉にミュゼは固まってしまう。

その話は最重要国家機密になったと聞いていたのだ。

それをこんな人がいる……況してや状況も知らず、噂話ばかりが好きな生徒達の前でするなんて。

ミュゼの懸念けねん通りに、周りにいた人達もざわざわと騒めき始めてしまった。


(駆け引きなしでいきなり核心ついてきますね……この状況を作ることが目的ですか……?)


今の話でミュゼの学園での立場は更に危ういものになった。

邪竜を呼んだ者。

正確ではないかもしれないが、その可能性がある・・・・・・という事実だけで充分だった。


「レイド殿下っ‼︎」

「何をそんなに怒ってるんだい、カルロス。僕はただの〝噂話・・〟を本人に聞いただけだよ」


カルロスは苦虫を噛み潰したような表情で、頭を押さえる。

あり得ない、とその顔が訴えていた。

彼はそれが国家機密だと知っていたのだろう。

だから、そんな顔をしているのかもしれない。


「殿下。噂話程度でミュゼ嬢の立場を悪くするおつもりですか」

「噂話だから聞いたんだよ」

「周りの方々はそう考えるとは限りません」

「なら、本人の口から言ってもらえば良いじゃないか。自分が・・・呼んだのかどうかを」


そうは言っても一度広まってしまった疑心は、本人が否定しても晴れることはないだろう。

それに伯爵令嬢ミュゼ王太子レイド、どちらを信じるかなんて明らかで。

もう……どうすることもできないのに、従者である彼は……救いを求めるかのような視線を向けてくるものだから、ミュゼは思わず苦笑してしまった。

どうやら、このおかしな世界でも味方とまではいかないけれど、常識人は存在するらしい。

だから、彼女はゆっくりと微笑んだ。


「私が呼んだという確証は?」

「さぁ?噂で聞いただけだから」

「なら、言いましょう。私呼んでませんよ?」


そう、確かに〝助けて〟とは言ったけれど〝ここに来て〟とは言ってない。

そもそも五回目でラグナと会えるか分からない状態での呟きなのだから、呼んだことにはならないだろう。

………ならないことにした。

一言で言えば、完全に屁理屈へりくつだった。


「あぁ…でも、殿下がこんな大衆の面前でそう言うものだから、皆は信じないでしょうね‼︎貴方のおかげで私は国家反逆者ですね‼︎」


周りからは非難の声が殺到するけれど、そんなの今更だった。

だから、彼女は笑う。

周りの人達が押し黙るくらいに綺麗な笑顔で。


「………邪竜を呼んだとしたら国家反逆くらい考えてそうだけどね?」

「なら、もうこの国は存在しないはずでしょう?いや、正確にはこの世界……ですかね」

「……………」

「あぁ、殿下にこんな口利くなんて失礼でしたね?どうしますか?私を不敬罪で殺しますか?そうしたら噂話の結果が分かるかもしれませんよ?邪竜が来なければ私は貴方に疑われて思わず不敬なことを言ってしまった愚か者で……邪竜が現れたなら世界滅亡‼︎スリリングですね‼︎」


彼女は満面の笑顔でそんなことを言ってのける。

レイドはやっと自分が何をしたのか分かったのか、強張った笑みを浮かべていた。

もしミュゼが死んだら。

もし邪竜の話が嘘なら、彼女はただの噂話・・で疑われて殺されたことになる。

そして、それを口にしたのは王太子……この国の次の王だ。

噂話……と明言したのはレイドなのだから、彼がただの噂話で殺したも同然になる。

疑惑と噂話はモノが違う。

だから、王になる人間がそのようなことをしてしまったとしたら。

彼はその資質を疑われることになるだろう。



逆に、もし本当なら……国家反逆を企んで邪竜を呼んだ彼女が、世界を滅ぼしていない理由は?

今までと変わらない日々を送れている今は?

それは単に彼女の気まぐれ、でも片づけられるし彼女が邪竜を抑えているとも考えられる。

だが、邪竜を呼ぶほどに世界を滅ぼそうとするのなら、彼女の気まぐれでいつも通りの日々を送れているはずがないのだ。

つまりは後者。

そうなると……処刑してしまったとしたら、邪竜はミュゼを失った反動で何をするか分からない。

それこそ世界滅亡だ。


彼は馬鹿ではなかったらしい。

レイドは余裕…を装っているが、明らかに動揺した笑顔で笑っていた。


「………君…そんな性格だったっけ?」

「さぁ、貴方様が知らなかっただけかもですよ。どうしますか?殺しますか?」


視線だけの攻防。

今までのミュゼだったらこんなことしなかっただろうが、今は違う。

ミュゼもレイドもどちらも譲らず……その戦いが終わったのは、予鈴の鐘の音が響いたからだった。


「……授業に遅れてしまうね。カルロス、行こうか」

「…………はい…」

「失礼するよ、ミュゼ嬢」


レイドはにやりと不気味な笑みを浮かべて、立ち去っていく。

カルロスも一度深く礼をして、その後をついて行った。

この場に残されたミュゼは、大きく溜息を吐いて空を見上げる。



「もう帰りたいですね……」



朝から憂鬱過ぎだった。









普通科三組の教室に着いたミュゼは一人、一番後ろの席で授業が始まるまで待っていた。

階段のような作りの教室は自由席であるが、彼女の周りには誰も近づいてこない。

完全に孤立していた。

こそこそと話しているのを盗み聞きすると、邪竜という単語が聞こえた。

邪竜召喚説が広まってしまったのだろう。


(許すまじですね)


学園ぐらい平穏に暮らさせて欲しい。

まぁ、できやしないだろうけれど。


「はーい、始めますよー」


そんな時、白ブラウスに紺のロングスカートを着た女性教員マチルダが、教室に入ってくる。

彼女は教壇に立ち、生徒達を見渡すとにっこりと笑った。


「お久しぶりです、皆さん。長期休みはどうでしたか?問題が多々あったと聞いていますが……ひとまず後にしましょう。まずは新しいクラスメイトを紹介します」


そう言った彼女は「入って来て」と声をかけた。

ミュゼはその瞬間、嫌な予感がした。

そうして入って来たのは………。




……………………もさかった……。




まず、どこに売っているんだろうと思ってしまう丸メガネ。

制服のサイズは合っていないのか、ブレザーがぶかぶかだ。

顔の輪郭は良いのに……ボサボサの黒髪の所為で残念感が凄い。

よく見ると……ちょっと長めの髪はハーフアップのようで……髪を結っているリボンは淡い花が一輪刺繍された銀色。



(隠す気ないですねっ⁉︎)



完全に……ラグナだった。


「初めまして〜。ラグナ・ドラグニカです〜。よ〜ろ〜し〜く〜」

(隠してすらなかった‼︎)


酷く間延びした挨拶をするラグナは、にぱーっと笑う。

一応は変装しているらしい彼を思って、ミュゼは真顔で目を逸らした。


「席は自由席よ。ラグナ君、好きなところに座ってね」

「は〜い〜」


マチルダに言われて、ラグナはとことこと歩いてミュゼの隣にちょこんっ。と座る。

周りの生徒達が彼にそこは止めろ、と目で訴えていたが……ラグナは気にしていなかった。


初めまして・・・・・〜」


その一言にミュゼは衝撃を受ける。

他人のフリ、なんてすると思わなかった。

ラグナのことだから、学園でも変わらない態度を取るだろうと高を括っていた。

だが、そんなのはミュゼの思い違いだったようで。

ミュゼは、泣きそうな……怒ったような顔で返事をした。


「…………初めまして…」

「俺、ラグナ〜。よ〜ろ〜し〜く〜」

「……………ミュゼ・シェノアです。よろしくどうぞ」


ぽわぽわとした雰囲気を出しているが、メガネの奥の瞳が意地悪そうに笑っているのが見える。

ミュゼは凄まじく険しい顔で、彼を見た。


(学園に来るなら来るで一言、言ってくれれば良いのにっ‼︎それもっ……他人みたいにっ……)


ラグナと一緒にいる時間が変わらないのを嬉しく思う反面、他人のように接する態度に怒りも覚えて。

ミュゼの中で、ラグナという存在がいかに大きいモノなのか……嫌でも分かってしまう。

そんな彼女の心境を見透かしたかのように、ラグナは小さく呟いた。



「可愛い」



「っ‼︎」


ミュゼにしか聞こえない声で、酷く優しく呟くものだから……彼女は顔を真っ赤にする。

怒りが消えそうになるが、ミュゼはキッと睨み返した。




ラグナはその視線を受けながら……ご機嫌な顔で、前を向くのだった……。







二限目の授業が終わり、お昼休みー。



ミュゼの隣にいたラグナは、意を決して行動したらしい数人の男子生徒に無理やり彼女の側から離された。

人のことを無理やり引っ張るような失礼な行動に、ラグナは困ったように笑う。


「な〜に〜?」

「あの女の隣は止めとけ‼︎怪我するぞっ‼︎」

「怪我ぁ〜?」

「朝、レイド王太子殿下と話してるのを聞いたんだが……あの女、邪竜を呼べるらしいぞ‼︎」


ミュゼは自分にまで聞こえる声の大きさに、溜息を吐く。

そして、あくまでも心の中で教えてあげた。


(君達が話してる相手こそ邪竜・・ですけどね……)


何も知らない男子生徒達は、まさか自分が邪竜と話しているなんて思ってもいないのだろう。

ラグナもそう考えているからか、笑みを堪え切れないようで身体が震えていた。


「ほら、やっぱり怖くて震えてるじゃないか‼︎」

「あの女の隣は止めとけよ‼︎」

(いや、それ、笑ってるだけですからね?)


だが、見当違いな推測をした男子生徒達に思わず心の中でツッコミを入れつつ…ミュゼはじーっとラグナを見る。

彼が何を考えてこの学園に来たのかまだ聞いていない。

普通に一緒にいる時間が減るから、という理由だけではない気がする。

ミュゼが思考に耽っていると……視線に気づいた男子生徒が「ひいっ⁉︎」と悲鳴をあげた。

ラグナも初めからその視線に気づいていただろうに、今気づいたといったていを装う。

そして、彼女の方へてけてけと歩いて行った。


「ミュゼ〜」


側まで来ると、彼女の目の前で手を振る。

ミュゼは少し難しい顔をしながら、その手を払った。


「……ラグナ、様。親しくない・・・・・女性を呼び捨てにするのは如何いかがなものかと」


ジト目で見ると、何故かラグナは嬉しそうで。

それを見たら余計にムカッとした。


「ならミュゼも呼び捨てにして良いよ〜」

「ご遠慮願います。私、知り合ったばっかりの人に気安く呼び捨てさせるような安い女じゃございませんので」

「なら〜親しくなる〜?」

「………………」


白々しい態度にミュゼの中の悲しさと怒りが増していく。

本当なら甘く触れてきてくれるのに。

優しく言葉をかけてくれるのに。

何か理由があるとは分かっているけれど、他人のように接せられるのがこんなに苦しいものなんて思いもしなかった。

これ以上ここにいたら、ミュゼは酷い言葉を投げつけてしまいそうで。

ミュゼは何かを言われる前に教室を出ようとした。

ラグナも後を追って来ようとする。

だが、今の彼女にはそれをどうすることもできなくて、無視を決め込む。


「待ってよ〜」

「………………」


後ろでラグナが何か言ってるが、無視をする。

そうして…扉に手をかけた時、彼女が開くよりも先に扉が開いた。


「きゃあっ⁉︎」

「っ……‼︎」


何もしてないのに大袈裟おおげさに悲鳴をあげたのは、亜麻色の髪の少女だった。

その琥珀色の瞳と視線が交じる。


アリシエラ・マチラス。


〝秘匿されし聖女〟。

ミュゼを死ぬべきだと言った人。


「…………アリシエラ、様……」

「あら……こんにちは、ミュゼ様」

「………ご機嫌よう」


アリシエラはとても無邪気な笑顔を浮かべる。

彼女は一組のはずだ。

間違えてこの教室に来た訳ではないはず。

ミュゼは動揺して、身体が震えてしまう。



目の前にいるのは確かにアリシエラだ。


しかし、得体の知れない恐怖が襲う。



怖い、恐い。

ミュゼは顔面蒼白で……ゆっくりと後ずさった。


「どうかなされたの?顔色が悪いわ」

「………っ…‼︎」


心配している様子なのに、全然、心配していない。

その瞳は嬉しそうにほころんでいる。

こんなにも歪な顔をする人、初めて会った。

最後に会ったのはダンスパーティーだけれど…その時よりも、恐い。

会わなかった間に、色々なことがあったからだろうか?

剣を向けられて、拉致されて……その全てがアリシエラのためだったから?

だから、この恐怖はそれに基づくモノなのか?

だとしても、これは……。


「貴方に用はないの。退いてくれる?」


アリシエラはそう言って、ミュゼのことを押し退ける。

そして……目的の人物を見つけると、花が綻ぶような笑顔を浮かべた。


「ラグナ様‼︎」

「………っ⁉︎」


ラグナの胸に飛び込むようにして抱きつくアリシエラ。

ミュゼはその光景を見て、言葉を失くした。



また彼女は奪っていくのだ。



ミュゼが大切にしているものを。



「ラグナ様が入学すると聞いて、会いに来たんです‼︎一緒にお昼を食べましょう?」


アリシエラはきらきらと微笑んで、少し怒ったように言う。


「もうっ……ラグナ様、なんでそんな変な喋り方してるんですか?それにそんなダサい格好……止めた方が良いわ‼︎」


アリシエラが彼の顔に手を伸ばしてメガネを取ろうとする。

それ以上先を見ていられなくて、ミュゼはその場から逃げ出した。

途中でアルフレッドとすれ違ったけれど、そんなの気にする余裕もなくて。





「なんで………なんで…なのですか……」






ミュゼは溢れる涙を、拭うことができなかった。









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