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「やっぱりここだったんだよ」
「本当だー! まさか浴場室とはねー!」
「こちらにお出ででしたか、アリスお嬢様」
視線が俺に集中する。か、かなり気まずい……。
もちろん、「恰好が恰好なだけに少し恥ずかしい……」なんて思って気まずくなった訳ではない。
いや、全く思ってなかったわけではないのだけど、それ以上に――、
一人で黙って行ったのがバレてしまった!? ど、どう言い訳しよう!?
と、そっちの方に頭が一杯になっていた。
ホントにどうしよう!!
「あー! ご主人様、既にお風呂に入っちゃてるんだよ!」
「ホントだー! 髪がつやつやだねー!」
「あ、あの! その!」
口をアタフタさせながら答えあぐねていると、ラビとシロハさんが近寄って俺の体を回るようにして見てくる。そ、そんな珍しいものを見るみたいにしなくても……。
「そ、そんなにジロジロ見られると……その……はずかしぃです……」
俺はさっきまでよりも、困り顔を強め、身体を捻らせて手をアタフタさせた。
声も心なしか小さくなってしまっている気がする。
それを見てなのか、クロハさんがため息をついた。
「シロハ、ラビ。アリスお嬢様が困っています」
「「―-!?」」
クロハさんの鶴の一声で、ラビとシロハさんは瞬く間に俺から飛びのいた。
先程のスープの一件のお陰か効果覿面のようだ。
「わ、私はただ見てただけなんだよ! だから悪気はないんだよ!」
「あー! ラビ、今『私は』って言ったー! シロハも悪気はないよー!」
「いや、シロハはあからさまだったんだよ! 私は見てたんだよ!」
「ら、ラビが見ていたのはアリスお嬢様でしょうー! それにあからさまだったのはラビのほうだよー!」
「シロハの方が!!」
「ラビの方だよー!」
「二人ともいい加減にしなさい!!」
ぐむむぅ~……と、しかめっ面をしていた二人の頭に、クロハさんの拳骨が落ちた。
か、かなり痛そうだ……。また、たんこぶが出来てるし……。
「責任の押し付け合いなんてみっともない! そんなことよりアリスお嬢様に言うべきことがあるでしょう!」
言われて、ラビとシロハさんは頭を押さえながらこちらを見てくる。
お、俺に言う事!? 「なんで独りでお風呂に入ったんですか!!」とかかな?
……か、覚悟しないと。
責められるのを覚悟して、二人に向き直る。
すると二人はか細い声で、
「ごめんなさいなんだよ……」
「ごめんなさい……」
と謝ってきた。
へ? なんで謝るんですか……? 俺はてっきり……。
てっきり、責められると思っていた。
けれども来たのは謝罪の言葉。
……正直、拍子抜けもいいところだった。
「あ、あの……」
「…………」
「…………」
あ、あの……、なんで謝って……、と聞こうとして止める。
二人が俺の言葉を待つようにして、潤んだ目で俺を見つめてきたからだ。
な、なんだか聞きづらい。それに求められているものじゃない気がする……。
でも、この場合の求められているもの……? 謝罪の返し……かな? 多分?
「え、えーっと、許します?」
間の抜けた声音で返すと、二人は安堵の息を零した。
どうやら合っていたようだ。
「二人とも、よかったですね」
「よかったんだよ……」
「よかった~……」
怒られなくて……よかった~!
と、言わんばかりに二人は俺に感謝の趣を向けてくる。
いや、全然良くない! いや、こっちも責められるわけじゃなくてよかったけれども……。いや、そうじゃなくてー! ……なんか釈然としないです!!
言葉にもならない葛藤を心中でうずめかせ、悩んでいると、扉の開く音が聞こえてきた。
「お待たせしまし――貴方達、何をしているのかしら?」
振り返ると、衣服を抱えたイロハさんが「この状況は?」と言いたげな雰囲気をかもしだしつつ、真顔で俺達を見ていた。より正確に言うと、俺を除く3人を見ていた。
「いえ、私達も入浴をしに。そうですよね?」
「そ、そうなんだよ!」
「う、うんー! そうだよー!」
何処か取り繕うようにして3人は答える。
く、クロハさんまで!?
カーストが如実に表れていて、なんか怖いな……。
それを聞いて、イロハさんは気にした様子もなく平素な声音で頷いた。
「そうでしたか。では早くお入りなさい」
「はい」
「はいなんだよ!」
「はーい!」
言われて、3人は俺の元から離れてゆき、衣服を脱ぎ始めた。
黒、白、青、……って、め、目を逸らさないと!!
「アリスお嬢様、着替えを致しますのでこちらへ」
「は、はい! 今向かいます」
呼ばれて、そそくさとイロハさんの元へと向かう。
そして寝間着姿へと着替えさせてもらった。
◇◇◇
着替えを済ませてから俺は自室へと戻って行った。
もちろん、俺一人では迷うのでイロハさんの付き添いのもとでだ。
「すみません、着いて来てもらっちゃって」
「いえ、お気になさることのほどでは」
適当な会話をしながら渡り廊下を歩いていく。
そして――自室の前へと着いた。
「後は部屋でゆっくりしていますね」
「かしこまりました。お風呂上りですし冷たいお茶をお持ち致しましょうか?」
「はい、お願いします」
イロハさんはかしこり、一礼して立ち去る。
それを見届けて、俺は部屋の中へと入っていった。




