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 入浴を終えて、俺とイロハさんは脱衣所へと向かった。

 ちなみにまた手を繋いだ状態で歩いている。何の疑いも違和感もなく自然とそうしていた。


「いいお湯でした!」

「ご満足いただけたようでなによりです」


 扉を開いてもらいながら俺は感嘆を漏らす。

 いや、そんな意図はなかったけどイロハさんがそう受け取ったのでそうなってしまった。


 俺としてはただ純粋に感想が零れただけのこと。 

 つまりは偶然だったわけである。

 ……結果としてなんだかお嬢様らしくなったかも! 

 なんて思いながら脱衣所の中へと入っていく。



~脱衣所~ 


「タオルを持ってまいります。少々お待ちを」

「はい!」


 握っていた手を離し、イロハさんは部屋の隅に常備してあるタオルを取りに向かった。

 あ……、手が離れて……。


 俺は、ぬくもりが薄れていく手のひらを見つめる。


 そういえば当たり前のように握ってたな……、少し残念。

 って! なんでちょっと名残惜しくなっているんだ!? ここまで来たら手を握っている理由なんてないし離すのは当然じゃないか! 意識してどうする!


 なんてことを考えてしまったばっかりに現状が正しく脳裏を走る。

 俺、イロハさんと……触れ合って!!?


「アリスお嬢様! お顔が真っ赤ですよ! のぼせられましたか!?」


 頭の中がピンク色! になってわたふたしていると、タイミング悪くイロハさんがタオルを持って戻ってきてしまった。もちろん着替えてないので裸である。


「い、いえ! 大丈夫です! なんともありません! 変な事も考えてません! それよりタオルで身体を隠してください!」

「……? 隠す、のですか?」

「はい! 今すぐです! なるはやです!」

「なるはやが何かは存じ上げませんが……、かしこまりました」


 言って、イロハさんは『俺に』タオルを巻き付けてくる。

 な、なんで俺に!? イロハさんが隠さないと意味がないですよ!


「い、イロハさん! どうして私の身体にタオルを巻いているんですか!?」

「――? 違うのですか?」 

「違います~! 隠すのはイロハさんの方です~!」


 言いながら俺はイロハさんから目を逸らす。

 タオルを巻き付ける際、距離が近づいて色々と――。 

 意識してしまった以上、目の前の姿態はこの上なく眼福、ではなく目に毒だった。


「私がですか? ――お気遣いなく。私はこの格好のままでも大丈夫ですので」


 それよりアリスお嬢様のお身体を――、とイロハさんは別のタオルで頭を拭いてくる。

 どうやら『クロハさんの身を案じて言った』かのような意味に捉えてしまったようだ。


 違うんです! むしろ自分の身を案じていただけなんです~! 

 もちろんそんなことは言えるはずもなく、押し黙るしかなかった。



 ◇◇◇



 身体を拭かれている間、俺はひたすら目を瞑り続けた。

 ……本当ですよ。薄目でちょっと見たとかしてないです。


「――終わりました。アリスお嬢様、お目を開けられても大丈夫ですよ」


 薄目で覗いてみる。

 イロハさんは裸のままだった。(そりゃそうだ)


「い、いえ! このままで!」

「そうですか? では次にお着換えを――あら?」

「どうかしましたか?」

「いえ、替えのお召し物がございませんでしたので」


 あ……。そういえば、替えの着替えを持ってきてなかったな……。

 言われて気づく。

 ダイニングルームから直行だったし、一人で来たから付き添いもいない。

 いつもみたいに準備してもらえるわけもなく、着替えがあるわけがなかった。


「わ、忘れてしまいました……」

「そうでしたか――わかりました、少々お待ちください。これから急いで着替えて取りに向かいますので」


 タタタと足音が聞こえ、遠ざかる。

 ………………タタタ――

 …………シュ――

 ……パッ――

 それを確認して俺は目を開けた。


 見ると、イロハさんがメイド姿へと早着替えしていた。

 ホントに早い! あっという間だ!?


「それでは行ってまいります」

「は、はい! お願いします」


 答えるように一礼。

 その後、扉を開けてイロハさんは脱衣所を出て行った。


「…………この間どうしよう?」


 脱衣所で全裸待機。

 この上なく手持無沙汰だ……。全裸だし。


「…………とりあえず」


 とりあえず、全裸なのもあれなので身体にタオルを巻きなおした。

 裸でいるのも恥ずかしいし、なるはやで巻き付ける。


「うん! タオルがあるだけで落ち着きます!」


 ちなみに、巻き付けたタオルは新しいやつだ。

 することもなかったので、置いてあった乾いたタオルを適当に持ってきたのだ。

 そろそろ戻って来るかな?


「…………来ないです」


 そう思ったけど戻ってくるはずがなかった。

 やったことと言えば、新しいタオルを探して身体に巻き付ける、ただそれだけ。

 所要時間数分。……戻ってくるわけがなかった。


「お屋敷も広いですもんね……、来るはずがないです……」


 浴場室から俺の部屋までどのくらいの距離があるかはわからない。

 けど、それなりに離れていることは何となくわかる。(散々迷ったから)

 だから時間がかかるのだろう。うん。


 ………………一分経過。(体感)

 …………二分経過。(体感)

 ……三分経過。(体感)


「…………(むずむず)」


 タオルで身体を覆っているとはいえ、薄着であることには変わらないので、なんとなく落ち着かなくなってきた。

 遅いな、イロハさん……。もう結構経っていると思うけどな……。


 今か今かと扉を見つめる。

 すると――扉が開いた。


「あ! 戻って、――っえ?」


「やっぱりここだったんだよ」

「本当だー! まさか浴場室とはねー!」

「こちらにお出ででしたか、アリスお嬢様」


 入って来たのはイロハさんではなく――ラビとシロハさんとクロハさんだった。


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