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「とうちゃくー!」

「なんだよ!」


 渡り廊下を歩いていると、到着コールをしている二人の声が聞こえてきた。あの……、二人は俺に着いてきたんですよね? 先に行ってどうするんですか……。


 呆れつつ、俺は遅れてイノリお姉ちゃんの部屋へと歩みを続ける。

 二人の声が聞こえるくらいなのでそんなに離れているわけじゃない。すぐに追いつく距離だ。

 それはわかっているので、歩くスピードは上げずに平時の速度で向かう。別に急ぐ理由はないしな。それに夜中にバタバタと走るのも騒がしいので良くはないだろう。


 歩くこと数十秒。イノリお姉ちゃんの部屋の扉の前で、二人が今か今かと俺の到着を待っていた。


「アリスお嬢様ー! ファイトだよー!」

「あともう少しなんだよー!」


「私はマラソンのランナーかなにかですか……」


 呟きながら、やっぱり俺は歩いていく。乗せられて走ったりはしないのだ。

 脳内に『負けないで~』とか『さくら吹雪の~』とかが流れても走りはしない。てかそんな感動の場面じゃないし、別に何十kmも走ってはいない。


 などと至極どうでもいいことを考えながら扉の前に到着。

 感動のハグ? で、ゴールを称えられた。


「アリスお嬢様も到着ー!」

「ご主人様ー!」

「ちょっと、ラビ! 離してください~!」


 言いながらラビを引き剥がす。

 ただ抱き着きたいだけじゃないですか! 別に感動する要素なんてないですし! と言うと、「へ?」と怪訝な顔をされることが分かっていたので心中に留める。「何の話ー?」と掘り下げられでもしたら説明のしようが無いからな。なので、軽い抵抗をするのが関の山だった。


「むぅ……、ご主人様は私に冷たいんだよ」

「急に抱き着かれたら普通そうします!」

「まあー、普通はそうするねー!」


 不貞腐れるラビは無視して、扉をノック。

 さっさと要件を済ませてしまおう。


 ノックをすると、「どうぞ………………」とイノリお姉ちゃんの声が返ってきた。

 どうやらイロハさんは一緒では無いようだ。何となく普段は居る印象だから珍しい。


 俺は扉を開けて入室する。それに続いてシロハさんとラビも部屋へ入った。



 ~イノリお姉ちゃんの部屋~


 部屋へ入るとイノリお姉ちゃんは読書をしていた。

 何ら変わりない、いつもの光景だ。何となく落ち着く。


 イノリお姉ちゃんは部屋に入って来た俺達を一瞥して、本を閉じる。

 そして俺達の方へと視線を向けた。


「イノリお姉ちゃん! ただいまです!」

「うん……………おかえり」


 平然とした声音で挨拶が返ってくる。

 けれども、僅かに怪訝な表情をしていた。


 その表情は俺に向けてではない。というのはすぐに分かった。

 なぜなら視線の先はラビとシロハさんだったからだ。


「なんで二人が居るの……………………?」

「私はご主人様と常に一緒なんだよ! だから着いてきたんだよ」


 いや、ラビ。常に一緒は勘弁してもらいたい……。

 俺も1人になりたい時があるし……。(特にお風呂とか)


「シロハはねー! ラビの指導係だからねー! あ、でもアリスお嬢様のお付きでって理由もあるよー!」


 いつの間に指導係なんて出来たんですね……。

 あ、そういえば――。

 クロハさんがクロストに行く前に、イロハさんとシロハさんでラビを鍛えるとか言っていた気がする。

 それでシロハさんが指導係にでもなったのかな? イロハさんもなんやかんやでお屋敷の仕事で忙しそうだし、シロハさんに任せたのかもしれない。納得だ。


 二人が部屋に来た理由を聞いて、イノリお姉ちゃんは「そう…………」と短く返して俺に向き直った。どうやら興味はそれだけだったようだ。


「ご飯………………食べた?」

「へ? まだですけど……」

「なら用意させる……………」


 遅く帰って来たから食べてきたと思われていたのかな?

 ラビの話を聞いた感じ既にイノリお姉ちゃん達は済ませているみたいだし。


「シロハ……………準備して」

「はーい! すぐに準備するからねー!」


 イノリお姉ちゃんの指示が出るなり、シロハさんはすぐに部屋を出て――行くと思いきや振り返った。


「ラビ! ここは任せるから粗相はしちゃだめだよー!」

「任せるんだよ!」

「お願いねー!」


 それだけ言うと今度こそシロハさんは部屋を出て行った。

 なんだかラビだけだと不安だ……。

 そんな俺の気持ちを他所にラビは自信満々と目を輝かせている。

 仕事を任されたのが嬉しいのだろう。


「ラビ……………不安」


 イノリお姉ちゃんも同じことを思ったらしい。

 やっぱりラビ一人じゃ不安ですよね。

 イノリお姉ちゃんの言葉を受けて、ラビはムッとした顔でイノリお姉ちゃん方を向いた。


「そ、そんなことないんだよ! ラビだって二人の付き添いぐらい出来るんだよ!」

「……………………」

「なんで無言なの! ラビだって出来るんだよ!」

「………………あやしい」

「あ、あやしくなんかないんだよ! 出来るんだよ!」

「………………」


 イノリお姉ちゃんは無言のまま温かい目をラビに向ける。

 それを見てラビは俺の方へと視線を向けてきた。

 いや、俺に同意を求められても……。


 思っていることはイノリお姉ちゃんと同じなので言葉に詰まる。

 ここで否定するのは少し可哀そうだ。

 なので、


「そ、そろそろお暇しようかなー。お腹もすいているしー」


 とはぐらかし部屋を出ようと試みた。

 シロハさんが出て行ってすぐだが、早めに待機するに越したことはないだろう。変じゃないはず……だ。


「ご、ご主人様! 私も行くんだよ!」


 そんな俺を見て、ラビは慌てて俺の方へと寄ってくる。

 うん、俺のお付きの仕事を必死に果たそうというのは伝わってきた。

 その姿勢は良いと思います。俺の行動に疑問を覚えないのも評価が高い。


「なので、失礼します~!」

「うん………………いってらっしゃい」


 イノリお姉ちゃんの見送りの言葉を皮切りに俺は扉を閉める。

 そして、話がはぐらかせた事に安堵しつつ、ダイニングルームへと向かった。


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