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08

 

「………………………。」

「あの……」

「お嬢様そろそろ離してあげてください」

「……………もう少し」


 あれからずっとイノリお姉ちゃんに抱きしめられています。

 別に苦しい訳でもないですし、嬉しいのですが反応に困ります。


「…………………アリス」

「アリス?」


 首を傾げて尋ねてみます。するとイノリお姉ちゃんは抱きしめるのを止めて、さっきまで自分が読んでいた本を俺に渡してくれます。


「これは?」

「……………読んでみて」


 タイトルは…… 『アリスと不思議な冒険』

 なるほど、この本のことを言っていたんだ。


「―――これは!」


 本を開けてみてびっくりしました。

 このヒロインのアリスって子……今の俺に姿がそっくりだ!

 長い金髪に青い瞳。着ている服装、全ての特徴が一致している。


「どうかしましたか?」

「見てください! これ!」


 興奮気味にクロハさんにも本を見せる。

 すると同じように驚いた顔をしながら俺の顔と見比べます。


「これは……まるで本の中から出てきたみたいですね」

「私もびっくりしました……」


 何でこんなにも似ているのだろう?

 そう思っていると、イノリお姉ちゃんの口が開きます


「この子の名前………………アリス」

「私ですか?」

「うん……………」

「いいかもしれませんね。何とお呼びすればよいものかと悩んでいましたから」


 確かに! 今まで名前が無くてずっと不便だった。

 名付けてもらえるのなら有難い。

 それにしてもアリスか……自分の名前じゃないのに違和感がない。


「決定……………」

「はい! これからはアリスと名乗ります!」

「違う……………」

「えっ?」


 何が違うのだろう? 

 もしかして本当の名前があるのを見抜いている?

 けど自分の名前は思い出せないし、思い出したところで男の名前だ。

 多分この姿じゃ名乗れないだろう。どうしようもない。


「………………アリス・ヨツバ」

「どうやらお嬢様は、私の妹だ!と主張したいみたいですね」

「なるほど!」


 全くの杞憂だったようだ。

 アリス・ヨツバか……。

 多少語呂が悪い気がするが、気にするのは止めておこう。


「分かりました! 今日から私はアリス・ヨツバです!」

「うん……………よろしく」

「これからはアリスお嬢様とお呼びしなければなりませんね」

「えへへ」


 お嬢様などと言われると照れてしまう。

 そう思っているとドアの向こうからノックの音がする。


「失礼しまーす!」


 元気な声と共にシロハさんが部屋に入ってくる。


「シロハ! 部屋に入るときはもう少し静かに!」

「えー! 別にいいじゃーん! それにちゃんとノックもしたよ?」


 部屋に入るなり、クロハさんのお叱りが始まる。

 これだとまるで、姉と言うよりお母さんみたいだ。


「……そんなことより重大な報告があります」

「何々ー、気になるー!」

「今日から当家に新しいお嬢様が加わります」

「もしかしてー!」


 シロハさんの顔がこっちを向く

 凄いニコニコしている。ってかこっちに駆け寄ってくる!


「はい。そちらに居られるアリスお嬢様です」

「やっぱりー!」


 そう叫ぶと同時に、力いっぱい抱きしめられる。


「シロハさん少し苦しいです~」

「シロハ! アリスお嬢様に失礼ですよ!」 

「嬉しくてー!ついー」


 クロハさんの一言で解放される。

 危うく窒息するところだったかもしれない。

 嬉しさの余りでの意味だが・・・うん、柔らかかった。

 そんなやり取りをしていると、イノリお姉ちゃんが不思議そうな顔をしてます。


「みんな………………顔見知り?」

「はい、既に一通り皆、顔を会わせております」

「私が………………最後?」

「そうなります」

「…………ずるい」


 この子は渡さーん! と言った感じの拗ねた顔でまた抱きしめてくる。


「あー! イノリお嬢様ずるいー!」


 私も私もー! と言わんとばかりに、イノリお嬢様を巻き込んで再び力強く抱きしめてきます。


「シロハ……………苦しい」

「愛ゆえにでーす!」

「はわわ~」


 より一層力が込められる。密着率が凄いことに……

 シロハさんは何というか……常に全力です。素晴らしいと思います。


「シロハ! いい加減にしなさい!」


 シロハさんの頭に渾身の拳骨が放たれる。

 あれは痛そうだ。たんこぶが出来ている。


「痛いよー、お姉ちゃん!」

「お嬢様方が嫌がってます。お止めなさい」

「そんなことないよー、ねっ!」


 痛そうに頭を押さえながら同意を求められる。


「シロハ…………今日はご飯抜き」

「嘘ー!? それだけは勘弁をー!!」


 イノリお姉ちゃんに縋りつきながらマジ泣きしている。少し可哀そうだ。

 そういえば、この世界に来てから食事をしていないなー。

 アーユだっけ? あれを食べてみたいなー。


「駄目……………これはお仕置き」

「そんなーっ!!」

「あ、あの!」

「どうかなさいましたか?」

「私! アーユが食べてみたいです!」


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