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「……おいしかったです」


 最後の一口の紅茶を飲み終わり、ティーカップをテーブルへと置く。

 あんなに大きかったスコーンも美味しさのあまり2つとも食べきってしまった。

 ……食べ始める前は絶対に無理だって思ってたけどそんなことは無かったな。変な達成感だ。

 当然というかお腹は結構膨れている。(物理的にじゃないですよ! 比喩です!)

 お腹を(さす)ろうと手を下に下げようとして止める。クロハさんの視線に気づいたからだ。


「満足していただけましたか?」

「は、はい! 大満足です! また来たいくらいです!」

「そうですか。満足していただけて何よりです」


 クロハさんは軽くかしこまり、メイド然と答える。

 実際、すごい大満足だ。

 今日行ったお店だと圧倒的1位! これは揺るがないな!

 それほどまでに紅茶屋は最高だった。

 店内は落ち着いてるし、店主はまとも……な方。(スコーンには困らせれたけど、結果オーライ?)他と比べると居心地の良さが群を抜いていた。


「私は会計を済ませますので、こちらでしばらくお待ちください」

「はい! ここで座ってます」


 会計に向かうクロハさんの背中を見送り、俺はどうでも良いことを考えて時間を潰す。

 ……仮に順位をつけるとしたら、どうなるだろう?


「今日行ったお店は確か……」


 魔具屋、下着屋、装飾屋、パイ屋、武器屋、そして紅茶屋か。

 指折りしながら数える。こうして見ると結構色々行ったな。

 全部で6店舗。当初は魔具屋に行くだけだったが、随分と回ったものだ。


「そうだな……、1位の紅茶屋は揺るがないとして……2位は――」


 2位はやっぱりパイ屋かな? 他が結構ひどいし、これも揺るがないだろう。

 パイ屋も特に不満は無かった。ワズディンさんが居たけど大人しかったし、被害もない。

 いや……、被害はあるか。武器屋に行くきっかけはパイ屋でのワズディンさんのせいだし。

 まあでもパイ屋に罪はない。悪いのはワズディンさんだ!(すごい名言な気がします!)

 なので、パイ屋は2位。決定!


「となると……、他はどうしようかな……」


 他は結構どうしようもないものばかりだ。

 あまり良い印象がない。けど強いてマシと言うなら……。

 この中だと……3位は魔具屋かな?


 魔具屋では、持って行った魔具がすぐに試せなくてがっかりはした。

 がっかりしただけ……。うん、一番被害が少ないな。それにワズディンさんも居なかったし。(ここ重要です!)

 今思い起こせば、魔具がすぐに試せなかったせいで色々な店を回ることになったけれども……。まあ、紅茶屋に出会えたし、トントンかな。


「4位はどうしよう……」


 ここが非常に迷う。

 俺の中では2択だ。下着屋か装飾品屋か。


 下着屋は……、目の保養、じゃなくて目に毒だった。

 そういえば、第一の被害者が出たのもこの店だったな。今どうしているだろう?

 ……考えるのは止そう。俺は正当防衛だ。


 装飾品屋は……、とにかく居心地が悪かった。

 お金持ち然とした雰囲気がどうにも馴染めなかった。

 多分、機会が無い限り二度と行かないだろう。


「う~ん……こっちかな?」


 4位、装飾品屋。(決め手は買ってもらったネックレス)

 5位、下着屋。(敗因はお姉さん)

 うん、下着屋のお姉さんがまともだったら逆だったかも。

 今回はネックレスに軍配が上がったな。僅差だけど。


「最下位はやっぱり……」


 武器屋だよな……、どう考えても。

 期待して向かったら、強面の店主が怖くて精神的ダメージを負わされ。

 誤解を解いて武器を見て回ったら、何も買えずに(買わずに)店を出る羽目になった。

 ……本当に散々だった。『いつでも来い!』と言ったけどもう行けそうにないし。


「……武器屋の店主、どうしているかな……?」


 さすがに目は覚ましているだろうな。あれから結構経っている気もするし。

 起きたらどうするだろう? ……あまり考えたくないな。


「お待たせいたしまし――、どうされましたか? 随分とお顔が青く」

「な、なんでもありませんよ! 終わったんですね! 出ましょう!」


 武器屋の店主の事だ。今頃街中を探し回っているとかありそう。

 俺は、危機感を感じて足早に扉へと向かった。


「おや……、どうしたんだい……? そんなに急いで……?」

「しょ、食後の運動です! ――とってもおいしかったです!」


 それだけ告げて、俺は扉を開けて店を出る。お礼だけはちゃんと言いたかった。


 後ろから「またおいでね……」と、か細いけど温かみを感じさせる声が聞こえた。

 けど振り返らなかった。(武器屋の店主を思い出して)


「アリスお嬢様、そんなに急がれますと――。……もうこんな時間でしたか」


 店の外を出ると、陽が大分落ちていた。

 朱色が混じって空が赤くなっている。


「もう夕方です……」

「そろそろお屋敷に戻りましょうか」


 はい、と短い返事をして馬車預かり所を目指して歩く。

 にげ、帰ろう! お屋敷に――。



 ◇◇◇



 馬車預かり所に着く頃には、食後の運動とか武器屋の店主から逃げようとかの考えはすっかり頭の外へと消えていた。道中、何もアクシデントもなかったし、色々歩き回って疲れていたせいもあると思う。



~馬車預かり所~


「はわぁ~」

「眠たそうですね」

「はい……、疲れました」


 やっと帰れる、と思って思わず気が抜けた。

 全身に疲労感と眠気が襲ってくる感じだ。ホントに疲れたよ……。


「そのまま馬車の上でお眠りになりますか?」

「そうですね……、そうします」


 言いながら俺は馬車に乗り込む。そしてそのまま荷台の方へと移った。

 馬車はそこそこ揺れるので寝心地はあまり良くはない。

 なので俺は横にはならず、もたれるように身体を預けた。


「では出しますね」

「はい……、お願いします」


 ゆっくりと馬車が動き出す。

 その動きに合わせて身体が小刻みに揺れながら、俺は次第に瞼が閉じていった。


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