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武器屋を出た後、俺達は適当に大通りを歩いていた。
「はぁ……なんだか疲れました」
「どこかで休まれますか?」
それはいい提案だ。少し休みたい。
何処か良い店は――と見渡すがまともな店などなかった。
武器屋に似た冒険者向けの店ばかり。一休み出来そうな店は一つもない。
「けど冒険者みたいな人ばっかりで、休めそうなお店がないですよ」
差し詰め、冒険者向けの大通りと言ったところだろうか、来た時と変わらず強そうな人たちが歩いていた。
恐らくは冒険者なのだろう、ワズディンさんみたいに武器を持っている人たちが多くいる。正直、場違い感が半端ない。
さっきまではワズディンさんが居たから気にならなかったけど、絶対に浮いているよな……。
冒険者だらけの中にメイドとお嬢様。辺りと比べて、明らかに異彩を放っていた。
冒険者と思われる人たちにチラチラと見られているような気がする。
居心地悪いな……、帰りたい……。
「この大通りですとそうですね。引き返しましょうか?」
「はい……、ここはなんだか疲れます」
武器屋に入れば、強面の店主に精神をすり減らされ。
大通りを歩けば、奇異の目に晒される。
気が休まる暇がない……、早く引き返そう。
俺の気持ちを察してくれたのか、クロハさんは食料品の大通りへと向かって歩き出す。俺もそれに続いて横を歩いた。
「ワズディンさんに着いていくんじゃなかったです」
思い返せば、ワズディンさんに気づいてしまった時点で失敗だった。
行きたくもなかった下着屋にも入らなくてはならなくなったし、(本当ですよ! お姉さんの下着姿とか、ちっとも見たくありませんでした! 本当です!)こんな場違いなところへと来る羽目になってしまった。
散々すぎる……、良かったことと言えばパイ屋での食事ぐらいしかない。(それもワズディンさんは居なくてもよかった)
そんな俺の愚痴を聞いて、クロハさんは愛嬌笑いを返した。
「そうですね、まさか武器屋へ入っていくとは思いもしませんでした」
「本当です! ……まあ、ワズディンさんらしいと言えばらしいですけど」
武器が俺に役立つ、だもんな。実にワズディンさんらしい浅はかな考えだ。
冷静になった今となっては、武器が必要ないことが理解できる。
だって、もう遺跡に行く理由もないし武器が必要な場面が無いもんな。
あの時は目の前の武器たちに興奮して、その考えが頭から抜けていた。
服飾関連の大通りでは既にその結論が鞄屋を見て思い到っていたのにだ。
武器に魅せられたと言ったところだろうか?
いや、魅入られた? まあ、どうでもいいか。
他愛のない会話をしていると、見知った大通りへと景観が変わっていた。どうやら食料品の大通りに到着していたようだ。
「どちらのお店へ入られますか?」
「う~ん……」
さて、どうしようかな……。
正直入りたいお店が無い。正確には知ってる店が無い。
そもそも、入ったことがある店がパイ屋だけだし、他がどんな雰囲気なお店か分からない。
なので初見の店は入りづらい……、避けたいところだ。
けど、そうなるとパイ屋にしか選択肢が無くなる。
一度行った店にまた行くのもな……、何となく気まずいし乗り気になれない。
う~ん……。
本当にどうしよう……。
考えあぐねていると、クロハさんの口を開いた。
「お決まりでないのでしたら、紅茶屋などいかがでしょう? 美味しい紅茶とスコーンが楽しめますよ」
紅茶にスコーンか……。
なんかお嬢様らしいな……作法とかあったりして。
けど他に思いつかないし、気にしてられない。
俺はクロハさんの提案に乗っかることにした。
「良いですね! 賛成です!」
「お気に召していただけたようで何よりです。それでは向かいましょうか」
「はい!」
◇◇◇
チャリ~ン
「いらっしゃいませ……」
店内に入ると、店主と思われるおばあさんのか細い声が俺達を迎える。
ここが紅茶屋か。なんかいい香りがする。
視線を巡らすと、おばあさんの後ろの商品棚に色とりどりの瓶詰の茶葉が置かれていた。
あれらが匂いを放っているのかな?
「良い匂いがします」
「おやおや……可愛らしいお嬢ちゃんだねぇ……紅茶は好きかい……?」
おばあさんは俺に気づくと、腰を曲げながら駆け寄り、聞き取りづらい声で紅茶は好きかと問うてきた。
好きって答えたらどうなるのだろう? 銘柄とか聞かれるのかな……。
だとしたら困る。俺、全然わからないし……。
な、なので、
「飲むのは好きです……」
と、半ば苦しい返事をした。
うん、嘘は言っていない。飲むのは好きです。
「そうかい……そうかい……」
それを聞いて紅茶屋のおばあさんは嬉しそうに笑った。
良かった……、追及されなくて……。
ほっ、と胸を撫で下ろしていると、クロハさんが注文をしてくれていた。
「店主、アフタヌーンティーセットを頂けますか」
「茶葉は……?」
「お任せします」
「はいよ……、そこで座ってておくれ……」
紅茶屋のおばあさんは店内のテーブル席を一瞥すると、背中を向けて戻って行った。
「では、座って待ちましょうか」
「はい!」
どんな紅茶が来るのか楽しみだ。




