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 互いに顔を見合わせて沈黙が流れ続ける。

 けれどもちっとも気まずくない。


 見つめ合い、安心する。

 まぶたを瞬かせることすら忘れて、気持ちが通じ合うような感覚が流れ込んでくるのが心地よい。


「…………」

「…………」


 時間の流れがゆったりしていて、いつまでも続けばいいとすら思う。

 だが、そんな時間もいつまでもは続かない。


 ワズディンさんがぶち壊した。


「お、俺もお嬢ちゃんを守るぜ!」

「え、ワズディンさんは別にいいです」


 横やりを入れられて思わず即答した。

 邪魔しないでくださいハゲディン! 

 そっちのハゲとハゲ同士、仲良く見つめ合っていてください!

 と、言いたくなったが心中で留める。

 武器屋の店主をハゲ呼ばわりしたらどうなるか、……考えるだけで恐ろしい!

 さすがにそんな危険を冒そうとは思わなかった。


「そりゃ……、命に代えてもは……俺には……、覚悟が足りないってことなのか……」


 床に突っ伏して落ち込むワズディンさんを他所にして、再びクロハさんへと視線を戻す。

 けれどもクロハさんは既に俺を見つめてはいなかった。


「店主、冷やかすような真似事をしてしまい申し訳ありません」


 見れば武器屋の店主に謝罪していた。

 武器屋で武器は要らない発言を堂々としたんだ。

 聞こえようによっては喧嘩を売っているようにもとられかねない。

 謝罪をするのは当然のことだろう。

 俺も続いて謝罪をするべく駆け寄る。


「あ、あの! ごめんなさい!」


 あの強面の店主の事だ、ワズディンさんのように怒鳴られるに違いない。

 僅かばかりの恐怖を覚えながら、しろどもどろに頭を下げる。

 けれども、返ってきたのは怒声ではなかった。


「構わねぇよ。いいものも見れたしな」


 武器屋の店主はさも気にした様子もなく、普通に答えた。

 ワズディンさんのように怒られると思っていたから拍子抜けだ。


「お気遣い感謝します」

「か、感謝します」


 呆気にとられながらも、クロハさんに続く形で俺もお礼を言う。

 どうやらあまり気にしてなかったようだ。良かった……。


「それにしても変なお嬢だな。俺みてぇのに頭を下げるなんてよ」


 メイドだったらまだしも。

 武器屋の店主はそう付け足して俺を物珍し気に見てくる。


「へ、変ですか?」

「ああ、少なくとも俺が知ってるかぎりはな」


 普通だと思うけどな……お嬢様らしくなかったのかな?

 けど、迷惑を掛けたし謝るのは当然だよな。

 小首を傾げながら頭にはてなを浮かべていると、クロハさんは僅かに笑みをこぼした。


「それがアリスお嬢様の美徳かもしれませんね」


 困り顔でクロハさんは見てくる。

 な、なんでだろう? そんなにおかしかったかな?


 頭の上のはてなを増やしていると、ぶつぶつ呟いていたワズディンさんがのっそりと立ち上がった。


「決めたぜ! 俺も命を懸ける!」

「いや、いいです。少し黙っていてください」


 再びハゲディンは床に突っ伏した。

 忙しないな……。

 それを見て、武器屋の店主が笑った。


「色んな意味で面白れぇお嬢だな!」

「そ、そんなことないですよ! 普通です!」


 頬を膨らませながら抗議する。

 すると武器屋の店主は更にゲラゲラ笑いだした。


「気に入った! 今日は要らねぇみたいだが必要になったらいつでも来い! どんな武器でも用意してやる!」


 なぜだか気に入られてしまった。なんでだろう?

 俺はハゲに好かれる体質か何かなのか……? 

 だとしたらちょっと嫌だな……。近くにいるだけで眩しいし。

 などと心中で冗談を思いつつ、武器屋の店主から目を逸らす。


「クロハさん。私、変じゃないですよね?」

「ええ、ちっとも変ではございませんよ。おかしいのはお嬢様を不快にさせている店主です」


 言いながらクロハさんは武器屋の店主に向けて手をかざしだす。

 まさか……。


「――バインドアイビー!」

「なっッ!!」


 瞬間。武器屋の店主が蔦まみれで蹲った。

 あ……やっちゃったよ。本日3人目の犠牲者だ。


「これでもう安心ですよ」

「ムゴ―! ムゴゴゴー!」


 蔦が顔まで巻き付いてる、今までで一番酷い絡まり方だ……。

 下着屋のお姉さんみたいに意識までは持っていかれなかったようで、武器屋の店主はムゴムゴと声を漏らして床を転がる。あの状態で動けるなんてすごい。

 そういえば元冒険者っぽいことを言っていたな。ワズディンさんとは大違いだ。


 転がる様子を呆然と見ていると、緑の簀巻きが床で突っ伏していたワズディンさんに向かって加速する。


「あっ! そっちに転がると!」

「ムゴゴゴー!!!」


 ドドドドドドドド


「頭を剃るだけじゃ覚悟は足りなかったのか……? 俺がお嬢ちゃんのために出来る事他の……? 何の音だ?」


 音に気づいたのかワズディンさんが振り返る。

 しかし、気づくのが遅すぎた。



 ドッゴーン!



 武器屋の店主の巨大な躯体がワズディンさんにクリーンヒット!

 ワズディンさんはうつ伏せに倒れた。


 だがそれだけでは終わらない。


 勢いづいていた緑の簀巻きは、跳ね上がり壁に向かって跳躍した。

 そして、バン!! と大きな音を立てて止まる。 

 武器屋の店主は動かなくなった。


「クロハさん! クロハさん! 動かなくなりましたよ!」

「すごい音でしたね。まさかあの状態で動けるとは」


 確かに! あれはすごかった、ってそうじゃなくて!

 普通に心配だ。大丈夫だろうか……。


 クロハさんは緑の簀巻きに近寄り、ナイフで顔の蔦を取り除いた。


「どうやら息はあるみたいですね」

「そ、そうですか……よかったです」


 状況は何一つとしてよくはないけど……。

 などと思っていると、クロハさんは緑の簀巻きを転がしてワズディンさんの隣に並べる。

 ハゲが並んだ。すごい絵面だな……。


「これでどちらかが目覚めれば気づくでしょう」

「そうですね、これなら安心です」


 この場で起こしても何一つ良いことはないだろう。

 後のことはワズディンさんに任せよう!


 並んだ円形に一瞥だけして、俺たちは店を出る。

 そして、店の前の立札をOPENからCLOSEへとひっくり返した。


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