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「あ、本当です!」
小さく駆け寄り、注目する。
置いてあった二つのクロスボウはそれぞれ大きさが異なっていた。
一方は俺でも持つことが出来そうな小さいクロスボウ。
もう一方は、俺では持つことが出来なさそうなクロスボウだ。
ぱっと見た感じ、見た目はあまり変わらない。
大きさが違うだけの同じものだよな……。
そう思いながら、武器名を見てみる。
『クロスボウ』
『ヘビークロスボウ』
うん、名前的にそうに違いない。
重たいか重たくないかの違いなのが如実に解る。ヘビーが付いてるだけだし。
なんて言うか、バリエーションが少ないな……。そのせいか選択の余地が無い。
「んで、どっちが欲しい? っても、ヘヴィクロスボウの方は持てねぇか」
言いながら武器屋の店主は『クロスボウ』の方を取り、俺に手渡してくれる。
良いハゲ、じゃなかった、いや合ってる……か。いやいや、そうじゃなくて!
武器屋の店主から見てもやっぱり『ヘビークロスボウ』は駄目そうなんですね……。
やっぱり重たいのは無理だって言いたいんですね。分かります。私もそう思いましたから!
心中で不貞腐れつつも、受け取ったクロスボウを適当に構えてみる。
持ってみた感じ、多少はずっしりした重さはあるものの、今まででは一番軽い。
まあ、比べる対象がそもそも重たすぎるのもあるけれども。
一番重かったのが大槌。(そう言えば名前を見てないな)
そして一番軽いのが『クロスボウ』だ。(ナイフは手に持ってないので除く)
こうして比べると雲泥の差あるな。ホント軽いって素晴らしい!
ともかく、持つ分には何も問題はなかった。
「意外に様になってるじゃねぇか!」
「そうですか! えへへ、照れます」
正直、今日一番で今が楽しいかもしれない!
さっきまで散々だったからな……。
褒められて悪い気はしない。むしろ有頂天なくらいだ。
調子に乗って、色々なものに銃口を向けて構える。
その度に的、じゃなかった、武器屋の店主が褒めちぎるから助長しまくった。
――壁。
「へ! お嬢のくせして一丁前に構えやがる!」
「そうですか! そう見えますか!」
――植木。
「間違っても撃つなよ! 撃ったら許さねぇぞ!」
「わかってますよ! 構えただけです!」
――ハゲディン。
「よし、撃て。よーく狙えよ!」
「はい! ハゲディン! 覚悟です!」
「いやいや! お嬢ちゃん!! 待った待った待ったーっ!!」
ガチャ。
しかし、何も射出されなかった。
「……そういえば装填してねぇな」
「……つまらないです」
「おやっさん! あとお嬢ちゃんも! 勘弁してくれよ……、心臓が止まるかと思ったぜ……」
ワズディンさんはへ辟易としながら尻もちをついた。
あれ? ワズディンさんは居るのにクロハさんが居ない。
そう思いキョロキョロ見渡していると、クロスボウが手元から消えた。
「アリスお嬢様、お戯れはお控えください」
声に振り返ると、クロハさんがクロスボウを手にして立っていた。
いつの間に背後に!? 全然気づかなかった……。
表情を窺うようにして見ると、クロハさんは悪戯っ子を叱るオカンの顔をしていた。
まあ、メイドだからオカンではないけど。(しいて言うなら姉かな? 全然、似てないけど)
ともかく、怖かったので俺は自然と謝っていた。
「ごめんなさい……」
「もう銃口を人に向けてはいけませんよ」
「はい……」
声音が優しかったのが心にくる。
社畜の頃は、怒られるときは決まって怒声を浴びせられていたから尚更染みた。
もうふざけて銃口を人に向けるのは止そう。反省反省。
「罰として、このクロスボウは没収です。いいですね?」
「はい……」
俺の返事を聞いてクロハさんは『クロスボウ』を棚へと戻した。
なんだか本当にオカンみたいだ。俺、仮にも主だよね……?
かと言って、主らしい振舞いなんて知らないし、この立場なんて成り行きだ。
主であることを威張り散らしたり、それを出しにして我儘を言う気など毛頭ない。
なので、文句を言う気にはなれなかった。
見かねた武器屋の店主が口を開く。
「よくわからねぇが……結局買わねえってことか?」
「はい、アリスお嬢様には武器は必要ありません。私が守りますので」
クロハさんはきっぱりと答えた。
そういえば、身を守るためって名目で武器を探していたんだっけ?
クロハさんの『守ります』を聞いて思い出す。
なんで武器が欲しかったのかを――。
俺は足手まといになるのが嫌で武器が欲しかったんだ。
アジーン遺跡の時みたいに、何もできず、みんなを頼って、ただただ見ているだけ。
それが嫌だった。力になれないのが、役に立たない自分が、たまらなく許せなかった。
だから武器を、解りやすい戦う手段を、欲していたのかもしれない。
けれども、クロハさんはそれを望んでいなかった。
俺に戦って欲しくない、戦う手段を持って欲しくないと初志貫徹していた。
武器を持つのは、戦う手段ではなく身を守る手段。
実際にそれで了承してくれたし、実際にそうであって欲しいと思っていたはずだ。
それは今までの行動が証明している。
だから、戦う手段から、武器から、俺を遠ざけるようにしていたのだろう。
そう考えると、俺たちはそこからしてすれ違っていたのかもしれない。
俺は俺の為に、――自分を許すために。
クロハさんは俺の為に、――俺を守るために。
互いに俺の為ではあるけど、本質は全く違う、全く噛み合っていない。
俺はどこまでも自己中に。
クロハさんは『誰かのため』に。
俺は我儘を言っているだけだったのだ。
結局俺は、人の気持ちも考えず自分しか見ていなかった。
クロハさんの気持ちなど考えてすらなかった。
ならば、今度は俺がクロハさんを慮るべきだろう。
クロハさんがそうしたように、俺も――。
「クロハさん。私、武器はもう要らないです」
「――よろしいのですか?」
「はい、私にはクロハさんがいますから」
守ってくれるんですよね?
そう付け足して、俺は上目遣いにクロハさんを見上げる。
男としては情けないけど、自然とそうしていた。
「はい、お守りします。この命に代えましても」
かしこまり、クロハさんは答える。
その姿はメイドと言うより騎士みたいだった。




