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ナイフだったら……ナイフだったらって思っていたんです……。
目的もなくトボトボと店内を歩く。
……希望が無くなってしまった。
まさかナイフが剣類に入るだなんて……予想外だった。
普通、ナイフは暗器とかの部類じゃないんですか!
剣類じゃないと思います!
と、言いたがったが心中に留めた。
言っても「いえ、剣類です」ときっぱり否定されるのがわかり切っていたからだ。
そもそも刃物は全部駄目な気がするな……。
どれも結局「危ないですから」と言って止められそう。すごくあり得る。
クロハさんは厳しすぎます!
いや、気持ちはわかるんですよ! 分かるんです!
けど、男だったら武器の一つを持ってみたいと思ってもいいでしょ!!
まあこれも言っても仕方ない。俺、女の子だもんな……。
仮に「実は男なんです!」カミングアウトしたらどんな反応をされるだろう?
……なんか温かい目で同情されそうな気がする。絶対信じてもらえないな。
信じてもらえないだけならまだいい。
その後の対応まで変わってしまったら居たたまれなくなってしまう……。
例えば――
『アリスお嬢様、本日のお頭の調子はよろしいですか? なにかあればすぐにおっしゃってくださいね』
『男性になりたいアリスお嬢様。本日は何処へ向かわれますか? 病院にしますか? 精神科など、どうでしょうか?』
『実は男のアリスお嬢様。お身体は女性なのに男性のお嬢様――』
さすがにそれは嫌だ……。(いや、ここまでは言われないだろうけど……)
……うん、男であることを打ち明けるのはなしだな。やっぱり良いことが一つもない。
「はぁ~、前途多難です」
「いいのか? お嬢ちゃんすげ~落ち込んでるぜ」
「これもアリスお嬢様のためです。……致し方ありません」
ワズディンさんの言葉に振り返ってクロハさんを見ると、心苦しそうな顔をしていた。
心を鬼にして、俺のためを思って、そうしているのがひしひしと伝わってくる。
……俺は、いいのだろうか。
――お世話になっているクロハさんにこんな顔をさせてまで、武器を欲しがっていていいのだろうか?
……なんか違う気がする。間違ってる気がする。
うん、そうだよな! 武器はあきらめ――
「あっ! そうだお嬢ちゃん! クロスボウなんてどうだ? よっぽど変な事をしない限り危なくないぞ!」
「それです! ワズディンさん!! 私はそれを求めてました!!」
暗転。ワズディンさんの一言で良心が霧のように消えた。
ワズディンさん天才です! クロスボウだったら刃物でもないし危なくない!!
俺の求める条件を完璧に満たしています!! 最高です!!
窺うようにクロハさんの顔を見ると、反応に困ったあきれ顔をしていた。
せ、セーフですよね!? その顔はセーフなんですよね!?
考えても仕方ない! この勢いのまま、クロスボウの置いてある所へ!
「わ、ワズディンさん! それで、クロスボウはどこに置いてあるんですか?」
「え、えらい食い気味だな……。確か……おやっさんが居る辺りに置いてあったはずだぜ」
「おやっさんの所ですね! 行きましょう!」
思えば、武器屋の店主の周辺も避けていたな。(だって怖いし、怒鳴られそうだし)
けど、今はそんなことを気にしてられない!
クロスボウが! 男のロマンが待っている!
「アリスお嬢様! 走ると危ないですよ!」
「まさかここまで元気になるとは思わなかったぜ……」
俺は振り返らず、全速力で武器屋の店主の元へと向かった。
◇◇◇
今にして思えば、クロスボウが思いつかなかったのも異常だ。
シロハさん=ナイフ。が導き出されたのだから。
イロハさん=クロスボウ。も思いついてもよかったはずだ。
少し考えれば思いつくことだった。
俺は目先の物に囚われすぎかもしれないな……。
まあ、それもさっきまでだ! もう他に心配するようなことは思いつかない!
止められる理由もないはずだ!
全速力で向かった先で、武器屋の店主が背中を向けて待ち構えていた。
いや、待ってはいないだろう。定位置っぱかったし、たまたま居ただけだけだ。
けど、近寄りがたい雰囲気がそれを思わせる。
やっぱり怖いな……。近寄りたくない。
気づかれないように周囲を見渡す。
いや、足音で存在は気づかれているかもしれないけど。
そんな細かいことは気にしてられない! と周りを見渡すがクロスボウらしき物は見当たらない。
あれ? ワズディンさんは確かおやっさんの居る辺りって……。
もう一度見渡してみたが、それらしきものは見当たらない。
ワズディンさん……、まさか間違えたんじゃ……。
ワズディンさんだし、あり得る話だ。
うろ覚えぽかったしな。ホントにもう……。
仕方ない……ちゃんと知っている人に……。
――って! となると、武器屋の店主しかいないじゃないですか!?
店をうろついた感じ、他に店員は居なかった。(総じて他の店も1人体制だったけど)
ここもそうなのかもしれない。いや、多分そうなのだろう。
……仕方ない、声を掛けるか。
「あ、あの!」
「なんだ? 何か買う気になったのかぁ!」
近寄ると、武器屋の店主は植木に水をあげていた。……可愛らしい小さいじょうろでだ。
に、似合わなすぎる……。逆に怖い!
「そ、その、可愛らしいじょうろですね?」
そっちの方が印象強くて思わず聞いてしまう。
ピンクの像のじょうろって……。
こっちの世界にもあるんだ……。知らなかった。
「ぁん? ああこれか、これはじょうろなんかじゃねぇ、魔具だ、俺が若いころ遺跡で見つけた自慢の一品。すげぇだろ?」
「こ、これが魔具ですか!?」
「おぉよ! ……こうして傾けると水が出続ける優れモノだ」
ホントだ! すごい! 水が出ている!
よく見ると水を入れるところが無かった。穴があるのは鼻の部分だけだ。
それに明らかに容量以上の水が出ている。こんなの魔法としか思えない!
「おっと、あげ過ぎはよくねぇな。それで何が欲しいんだ? 言ってみろ?」
見惚れていると、優しいハゲ、じゃなかった、武器屋の店主は強面を少し緩めて厳つさを薄める。
そうだった。クロスボウの在処を聞きに来たんだった。
「私、クロスボウが欲しいんです! どこにありますか?」
「それなら目の前にあるじゃねぇか?」
「目の前?」
見ると、武器屋の店主に隠れるようにして、クロスボウが二つだけ置いてあった。




