07
「いらっしゃいませ、お客様」
お屋敷に入るとクロハさんと、とても大きいシャンデリアがお出迎えしてくれました。
「凄いですねー!」
足元に広がる真っ赤な絨毯。
頭上に煌びやかに輝く大きなシャンデリア。
正面にドーンと存在感のある階段。
どれを見ても、まるで映画の世界のようです。
「うふふ、ありがとうございます」
お屋敷を褒められたのが嬉しいのか、クロハさんは上機嫌そうに微笑む。
本当に素敵なお屋敷だよなー、とても広いし探検とかしてみたい!
「戻ってきたわねクロハ、と……お客様?」
誰だろう? 見知らぬ声が上のほうから聞こえてくる。
声の方へ振り向くと2階の方から薄いピンクの髪をしたメイドさんが降りてくる。
「はい、私がお連れしました」
「来客の予定はなかったはずだけど?」
視線がこちらに移ったので、とりあえず笑顔を返した。
それにしても、この人もクロハさんの姉妹の方だろうか?
顔がよく似ているし、そんな気がする。
そうなるとシロハさんも合わせて三姉妹? 三つ子?
いや、まだ会っていないだけで他にもいるかもしれないな。
「事情がございまして、それでお嬢様に会わせたいのですが今どちらに?」
「自室でいつも通り本をお読みになられているわ」
自室で読書か……噂のお嬢様は本が好きなのだろうか?
ともかく怖い人じゃないといいなー。
「申し遅れましたお客様」
「私、当家のメイド長をさせて頂いております、イロハと申します。以後お見知りおきを」
「はい、よろしくお願いします!」
クロハさんと話していた時の砕けた感じはなくなり、メイド長らしい流れるような所作で丁寧な挨拶をしてくれる。
「挨拶も済みましたし、そろそろ参りましょうか」
「はい!」
「私もご一緒したいところですが、他に仕事がありますのでまた後程」
「それでは失礼します」
そう言い残しイロハさんは何処かに向かっていく。
何となく後ろ姿に見とれるいると、足元に注意してください。と言われる。
どうやら目的地は2階らしい。俺はクロハさんに続き階段を上る。
「失礼します、お嬢様」
ドアをノックし部屋の中に入る。俺もそれに続くようにお邪魔させてもらう。
「凄い本の量……!」
「………………………。」
部屋を見渡すと沢山の本が平積みされている。
読書をしていると聞いたから本が好きなのかと予想していたがそれ以上だ。
そんなことを思いながら読書をしている女性を見つめる。
だが、肝心の部屋の主は本に夢中なのかこちらに見向きもしない。
「ただいま戻りました。イノリお嬢様」
「………………………。」
「うん…………お帰り」
どうやら噂のお嬢様はイノリという名前らしい。
何というか……無表情で掴み所が無い人だなと感じる。
けれども、緑の長髪が綺麗で目を奪われるし、 茶色ブレザーコートは似合っていてカッコいい。なぜだろう不思議と魅力的に感じている自分がいる。これがカリスマというものだろうか?
「クロハ…………その子誰?」
「はい、実はその説明をさせて頂きたいのですが……」
クロハさんはここまでの経緯を説明し始める。
けれども、このお嬢様は本から目線を離さずページを捲る。
「と言う訳でして」
「そう…………わかった」
「………………………。」
クロハさんの説明が終わると読んでいた本を閉じ、こちらをじーっと見つめてくる。
気まずくて思わず視線を逸らす。
すると振り向いた先に鏡が置いてあり、自分の顔が映る。
やっぱり……そうかだったか。
鏡に映っていた姿は、俺をお兄ちゃんと呼んでいた少女と瓜二つだった。
予想はしていたが実際に見てしまうと驚いてしまう。
そんな俺の顔を見たからだろうか、目線がクロハさんへ移る。
「……………クロハ」
「何でございましょうか?」
「この子……………私の妹にする」
「「えっ!」」
無表情で告げられた妹宣言に私とクロハさんは驚きを隠せず、変な声が出てしまいました。
俺を……妹に? このお嬢様は一体何を考えているのだろうか。
「イノリお嬢様、それは流石に!」
「……………大丈夫」
何が大丈夫なのだろうか? 俺にはよくわからないが。
ただ俺としては、この世界での身分と住処を得られるから魅力的な提案ではあるが……。
「ですが! 何処かのご令嬢様かもしれませんし」
「その時は……………私が何とかする。」
「と言われましても……」
クロハさんが心底困った顔をしている。
まぁ、あんな無表情で淡々と言われれば誰でもああなりそうだが。
だけど俺もこの世界での生活が懸かっています。
クロハさんには悪いですが、ここは、このお嬢様の味方に付きます!
「あ、あの、いいですか!」
「私………イノリお嬢様の妹になりたいです!」
「本人も言ってる……………問題ない」
「ですが……」
ここでもう一押しだ! やるしかない!
「……お願い、お姉ちゃん♡」
口に指を当て、瞳をうるうるとさせながらお願いをする。
これでお願いされて断れるだろうか? 少なくとも俺は無理だった。
「……………妹よ」
お嬢様に抱きしめられる。どうやら効果は抜群のようだ。
その様子を見て諦めが着いたのか、最後には仕方ありませんね……。と渋々OKをくれた。