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「――ってな訳で完全に誤解だ! 俺はお嬢ちゃんの誘拐なんて企んでいないし、意味がわからない系の生まれ変わらせてもらった系だ!」

「どうやら本当に誤解だったようですね。……未だに意味がわからない系の生まれ変わらせてもらった系は理解できませんが」


 かみ合わない会話を続けていたワズディンさんとクロハさんは、どこかで折り合いをつけて納得したのかはわからないが、無事誤解が解けたようだ。


「ですが、誤解は誤解です。申し訳ありません。今解きますので――」

「ふぅ~、やっと解放されるぜ」


 クロハさんは、ワズディンさんにまとわりついた蔦をナイフで斬り裂いていく。

 ワズディンさんの足元には、いや店内に蔦の切れ端がボトリボトリ。

 普通に営業迷惑だろうな……。


 そう思い、武器屋の店主の顔色をちらりと窺うが特に気にした様子は感じない。俺が気にし過ぎなのかな?(そんなことないと思うけどな……)


 そういえば、下着屋の時の蔦はどうしてたっけ? 

 たしか……店内に放置しっぱなしだった気がする。

 あれもあれで迷惑だよな。


 店内に放置された蔦の切れ端の山。……そぐあわなさが半端ないな。


 けれども過ぎたことだ、気にしてもしょうがない。

 気にするのなら、むしろその後のお姉さんのほうが気になる。あの後お姉さんは無事に目を覚ましただろうか。いや、さすがに今頃には覚ましているだろうな……、あれから数時間は経っているし。

 目覚めたらどんな気持ちだろう? 目が覚めると更衣室の中。カーテンを開けると大量の蔦の山……。うん、あまり考えたくないな、軽くホラーだ。


「――終わりました。これで動けるはずです」

「よっと……、一時はどうなることかと思ったぜ」


 ワズディンさんは衣服をパッパッと手ではたき身体を起こす。(払うものもないのに)

 あれだけまとわりついていた蔦はクロハさんの手によって綺麗さっぱりに落ちていった。(床に)なので、ワズディンさんは一切汚れていない。(元々の汚れは除く)汚れたのは床だけだった。


「悪いなおやっさん。床を汚しちまったぜ!」

「気にしてねぇよ!」


 武器屋の店主は思っていた通り全然気にしてなかったようだ。余裕の態度が声音からにじみ出ている。案外懐が深い人なのかもしれない。

 俺の勝手な印象では、「出ていけぇぇ!!」と怒鳴り散らすような人物だと思っていた。(強面だし)

 けれども実際は、さながら「日常の出来事だから気にしてもしょうがねぇ!」と言わんばかりの勝気な笑顔を見せてくれた。すごく良いひとかもしれない。


 しかし、武器屋の店主は付け足すように言葉を続けた。


「だってよ……、もちろんお前らが掃除してくれんだろう? なぁあ? あぁん!!」


 ――訂正。かなり気にしていたようです。武器屋の店主はワズディンさんへと詰め寄り、顔を近づけて、飛び切りの怒声で一喝した。かなり怖い、傍から見ているだけで、身体がブルつくのだからワズディンさんはたまったもんじゃないだろう。


 実際、ワズディンさんは武器屋の店主の言葉を受けるなり「は、はいぃぃぃ!!!」と情けない声を上げ、店の隅に置いてあった箒のもとへと駆け出した。本当に情けない……とは言えないな。俺も同じシチュエーションなら似たようなことをしていたと思うし……。と思いながら俺も箒の方へと自然と足が動いていた。恐怖を前にしてなんと素直なことか(モンスタや魔物より怖かったんですけど!?)


「アリスお嬢様! 掃除でしたら私が!」


 おもむろに箒の方へ駆けていく俺を見て、クロハさんは制止するように後を追いかけてくる。あ、お嬢様には掃除はさせられない云々とか言っていたな。けれども身体が反射的に動くのだ。俺にも意図して止められない。


「なんでお嬢ちゃんまで!?」


 箒を手にしてこちらへと振り返ったワズディンが少し驚いたように俺を見る。その顔を見て(実際は箒を見て)俺は動きを止めた。箒は一つみたいだし、行っても仕方ない、というよりどうしようもないと気づいたからだ。


「はっ!? 思わず身体が動いて」


 ほとんど素に近い声を漏らす。まあ、女の子の声で言っているので疑問には思われなかったと思うけど。お嬢様らしいかといえば怪しい所だ。そもそも正気かどうかも怪しい。うぅ、武器屋の店主怖すぎ。


「アリスお嬢様、大丈夫ですか」


 クロハさんは俺を心配するように声を掛けてくる。

 大丈夫にはどんな意味がこめられているのだろうか? 少し確認するのが怖い。


「大丈夫です。少し取り乱しました。ですがこの通り大丈夫です!」


 取り繕うようにちょっといい笑顔を浮かべる。

 スマイル~スマイル~。……誤魔化しかたを間違えた気がする。

 などと思っていたが、クロハさんは短く息を漏らし安心した表情を見せる。うん、可愛いって正義だね。


「おやっさん! このゴミどうすればいい!?」

「裏に捨ててこい! 間違っても道端に落とすなよ!!」


 言われて、ワズディンさんは蔦の山を抱えて店の外へとヨチヨチと出て行った。


「……アリスお嬢様、私たちは何をしにこのお店へやってきたのでしょうか」

「ワズディンさんのみぞ知るです……」


 本当に何しに来たのだろう……。

 呆れながら、俺たちはワズディンさんの背中を見送るのだった。


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