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 店内に入るとき、チャリーン~♪ なんて音は聞こえなかった。

 大抵の店は入るときはこの音が鳴るのに。


 やや現実逃避気味にどうでもいいことに思考を割いていると、


「らっしゃい! 好きに見ていきな!」


 代わりに強面のおじさんの蛮声が店内を鳴り響いた。

 いや、実際は響いてはいないけど。そのぐらい大きな声だった。


 それを受けて俺は思わず身体がビクついた。な、なんか怖い。

 社畜時代のトラウマとでもいうのだろうか。散々怒声を浴びせられていたので身体が無条件に反応してしまった。


「お、誰かと思ったらハ――ワズディンじゃねぇか! 今日はどうした! また武器を買いに来たのか!」


 ん? この強面、今ハゲディンって言いかけなかったか?

 俺が気にするのも変な話だが、ワズディンさんをハゲディン呼びする(してないけど)ところは好感度高い。もしかしたら仲良くなれるかもしれない。


 などと思いながら武器屋の店主の顔をまじまじと盗み見る。……ハゲだった。


「おいおいおやっさん、俺にそんな金があると思うか。ちょっと覗きにきただけだ」

「へっ、まあいい好きに見――ん? なんだそのお嬢は、見ねえ顔だな」


 ハゲと、じゃなかった、武器屋の店主と目が合う。

 なんだか気まずいな……。


 ハゲ2号、じゃなかった、武器屋の店主の目線は、まるで珍しい物を見るかのような、どこか怪しむような、奇異としたものだった。まあ普段のハゲ2、じゃなかった、武器屋の店主を知らないので、もしかしたら初見さんに対してはこれは普通の視線なのかもしれないけど。


 しかし、少なくとも俺はそのせいで自然と視線が泳いだ。

 あまりじろじろと見られるのは好きじゃない。いい思いはしないしな。

 あっ、じろじろ見られるといえば、服屋の店主とかを思い出すなー。あれはまた違った視線だったたけれども。

 あの時の舐め回すような視線と比べると幾分かマシかもしれない。そう考えると気持ちが楽に……ならなかった。


 結局俺はハ、じゃなかった、武器屋の店主の眼差しにたじろぎ、無言で立ち尽くす。

 そんな俺を見てか、武器屋の店主はワズディンさんへと視線を戻した。


「随分と大人しいそうなお嬢じゃねえか? 誘拐でもしてきたのか?」

「人聞きの悪いことを言わないでくれよおやっさん! お嬢ちゃんはな! 俺の……俺の……なんだろう……こう、なんていうか……恩人? だけどそれ以上……、う~ん、人生? は言い過ぎか、…………ともかく! なんか生まれ変わらせてもらった系だ!」


「いや、意味がわからないです」

「意味がわからねえな」


 武器屋の店主と声が重なった。シンクロ率が凄い。さながら昔からの親友のようだ。(初対面)

 そんなことより、生まれ変わらせてもらった系ってなんだよ。肉食系とか草食系とかの系かな。


 脳内ギャル1『アリスって生まれ変わらせてもらった系だよね』

 脳内ギャル2『輪廻転生的な~』

 脳内ギャル3『ウケる~』


 こういうノリか?(なぜにギャル?) ……無いな。ないわ~だわ。うん、やっぱり意味がわからん。


 それ以外だとしたら……太陽系とかの系か? 人生とか言ってたし、規模とかそれっぽい。(基準がガバガバ)うん、それだと以上じゃなくて異常だな……我ながらアホな事を考えてしまった。


「誘拐とは聞き捨てなりませんね」


 声に振り返ると、奴が(奴って誰だよ)遅れて店に入って来たクロハさんが、冷ややかな声音を発しながら、こちらへにじり寄ってきていた。その表情は明らかにゴミを見るかのような冷徹さを帯びている。どうやら生まれ変わらせもらった系のくだりは聞いていなかったようだな。


「お、おい、なんでそんな顔で見てるんだ!?」


 クロハさんの視線の先、詰まるところワズディンさんは、蛇に睨まれた蛙のように縮こまった。誘拐うんぬんを言い出したのは武器屋の店主なのに少し可哀そうだ。


「私はワズディンさんを少し評価していました。周りの目を顧みず、お嬢さんを見守る姿はどこか誇らしく見え逞しくもありました。けれどもそれも誘拐する機会を窺っていただけだったのですね」


――残念です。と短く。クロハさんはワズディンさんへと腕を掲げる。


「まてまて! 俺は誘拐なんて考えていない! 誤解だ! 誤解!」

「言い訳は聞きません、――バインドアイビー!」


 そして、クロハさんは狼狽するワズディンさんに容赦なく魔法を放った。


「あぎゃぁぁああああああああ!!!」


「また犠牲者が出ちゃいました……」

「捕縛魔法か、良い腕をしている」


 下着屋のお姉さんよろしく、ワズディンさんは蔦で雁字搦めになって床に転がった。


「さて、衛兵に突き出しましょうか」

「だから誤解だー! お嬢ちゃん~助けてくれ~」


 クロハさんはでっかい芋虫、じゃなかったワズディンさんを抱えながら店を出て行こうとする。

 さすがに可愛そうだし助けるか。

 俺は引き留めようと咄嗟に言葉をひねり出す。


「クロハさん! 誤解です! ワズディンさんは誘拐なんて企んでいません! ただちょっと……、生まれ変わらせてもらった系なだけなんです!」

「アリスお嬢様……? 生まれ変われせてもらった系とはなんですか?」


 問われて言葉に詰まる。いや、俺もよくわかってないしな……。というより俺は何を言っているんだ?(咄嗟だった故に自分でもよくわかんないことを言ってしまった)


 俺が言いよどんでいると、なぜだか武器屋の店主が代わりに答えた。


「そいつは……、意味がわからない系ってじゃねえか?」

「なるほど、意味がわからない系……ですか」


 武器屋の店主の言葉をうけて、クロハさんは考え込むように頷き出す。

 いや、意味がわからない。なんなの意味がわからない系って? なんでなるほどなの!?


「……わかりました。とりあえず話しましょうか」

「は、離してくれるのか!?」

「ええ、事情を聞きませんといけないようですからね。何度考えても意味がわからないですから」


 クロハさんも解っていなかったようだ。

 『わかりました』とか言い出すから内心びっくりしていた。

 なるほど、分からないことが解ったのか。


 クロハさんは蔦を解くことはせず、ワズディンさんを壁に寄り掛からせる。


「え? 離してくれるわけじゃないの?」

「話しますよ。今から」

「そうか……頼む、正直苦しいから早くしてくれ」

「では、こうなった経緯から説明してもらいましょうか?」

「へ? 離してくれるんじゃないのか?」

「はい?」

「へ?」


 微妙にかみ合わない会話を少し遠目に見ながら、


「お嬢、ひとつ聞きてぇんだが……、ウチに何しに来たんだ?」

「私もわからないです……」


 俺は武器屋の店主と愚痴をこぼし合うのだった。


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