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「ところでお嬢ちゃん。食事って行ってもどこに行くんだ? もし決まって無いなら俺のオススメの店をだな――」

「それなら決まってます。パイ屋です」

「そ、そうか! パイ屋か! パイと言えばな――」


 食料品の大通りを歩きながら、ワズディンさんは上機嫌そうに話しかけてくる。

 ものの数分ですぐに馴染んできたな……。


 同行の許可を出した途端、ワズディンさんは「え? ああ、俺、初めからいたけど」的雰囲気を醸し出しながら隣を歩いてくる。


 調子に乗るのがワズディンさんの悪い癖だが、注意してまた騒がれてもな……。


 食料品の大通りは、他の大通りと比べても人通りが多い。

 そんなところでまた悪目立ちされたら俺達まで変人に見られかねない。

 なので、下手に突き放すのが出来ない。……辛いところだ。


 無視しても話しかけても迷惑をかけられるなんて……。

 一体誰が想像しただろうか……。はぁ~。


 などと心でため息をついていると、目前にパイ屋が見えてくる。


「でだな、パイと言えばおっ――」

「見えてきました!」


 ワズディンさんが何かを言いかけていたようだが、俺の語勢が上塗りするようにかき消した。


 何となくワズディンさんを救ってしまった気がする。まあ、そんなことはどうでもいい! 今はパイ屋だ!


「行きましょう! クロハさん!」

「アリスお嬢様、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」


 クロハさんの手を引いて俺はパイ屋へと小走りに向かう。

 チキンパイ楽しみだな~!


「よっぽど楽しみなんだなー、お嬢ちゃん。おっと、見ている場合じゃない、置いてかれちまう!」



 ◇◇◇



 チャリーン


「いらっしゃい」


 店内に入ると、パイ屋のおじさんが気持ちのいい笑顔で出迎えてくれる。

 先程の装飾品屋の堅苦しい空気が全く感じられない。落ち着くなー。


「久しぶりに来たからな、どれにすっかなー」


 ワズディンさんはたくさんのパイが入ったショーケースを眺めて眉間を寄せる。

 相変わらずどれも美味しそうだ! 目移りしてしまうなー。

 ――けど、やっぱりチキンパイかな! そのために来たし。


 おじさんに注文しようと声をかけようとする。しかし、それより先にクロハさんの口が動いた。


「店主、チキンパイのランチを3ついただけますか」

「はいよ、テーブルで座って待っとくれ」


 クロハさんは注文を済ませると「アリスお嬢様、こちらの席へどうぞ」と手近な空いているテーブルまで向かい、椅子を引いてくれる。

 さすがはメイドだ。到れり尽くせり。そんな光景を見てか、ワズディンさんはボケーっと俺達を見てくる。


「どうかされましたか?」

「いや……、遺跡で一緒の時はあまり思わなかったが、こうして見るとやっぱり良いとこのお嬢様なんだなーって思ってな……」


 椅子に座らせるだけの動作で良いとこのお嬢様に見えたらしい。

 今まではどんな風に見られていたのだろう。


「アリスお嬢様はヨツバ家の次女であらせますからね。当然です」

「あはは……」


 これには俺も苦笑いするしかない。

 お嬢様らしい所作なんてわからないし、なんて返していいのか分からない。

 イノリお姉ちゃんの真似をすればいいのかな?

 『当然…………………』

 ……違う気がする。むしろ疑われそうだ。


「やっぱり良いとこのお嬢ちゃんとなると貫禄というか……、なんか……すごいんだな……。持っているって感じがするぜ」

「あはは……、そんなことよりワズディンさんも座りませんか?」


 未だにショーケースの前で立ち尽くしているワズディンさんに手招きしながら空いてる席を勧める。


「あ、ああ。もうちょっと待ってくれ。すぐに決めるからよ」

「? 何をおっしゃられているのですか? 既にワズディンさんの分も注文してますよ」


「お待ちどうさん」


 クロハさんが言い終わると同時ぐらいに、パイ屋のおじさんがテーブルに頼んだランチのプレートを並べる。3人前だ。


「俺の分? 奢ってくれるのか?」

「はい、そのつもりでしたが……。ご迷惑でしたでしょうか?」


 クロハさんは「護衛の報酬はこれでは少ないでしょうか?」と付け加えてワズディンさんを不思議そうに見る。


 なるほど、クロハさん的にはお礼を込めているのか。


 正直、迷惑しか掛けられていないので、俺は要らぬ気遣いだと思うが……。

 まあでも、俺が支払うわけでもないし、これはクロハさんの気持ちの問題だ。

 口を出すのも野暮と言うものだろう。


「――いや、そんな事は無い。十分すぎるくらいだ。……そう言ってもらえるのなら……遠慮なくだくぜ!」


 ワズディンさんは、僅かに拍子抜けしながらも席に着き――


「へへ、感謝するぜ! お嬢ちゃん達!」


 ちょっと良い笑顔を見せて座った。


「いえ、それではいただきましょうか」

「はい! 頂きます!」


 しかし、ときめきは悲しきかなゼロだった。

 むしろ普段の行いが悪すぎてマイナスだ。

 なので、プラスがあったとしても、少しマイナスが減っただけだった。


「おいしいです!」

「おいしいですね」

「うめぇ!」


 その後俺達は、「うまいうまい!」と言いながら(そんな下品なのはワズディンさんだけです!)、和気あいあいと食事をするのだった。


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