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 クロハさんが立札をひっくり返したのを確認している間、俺はワズディンさんが居なくなったかどうかの確認をしていた。


 見渡して――あっ、居た。


 ワズディンさんは下着屋のちょうど真向かいにある、帽子屋の前に立っていた。

「帽子屋が気になるなー」なんて言いながら、チラチラと窺うようにこちらを振り向いてくる。


 だったら下着屋じゃなくて帽子屋の方を見ろよ! 気になるんでしょう!


 ちなみにワズディンさんの正面は白い壁だ。なので、もちろん店内は見えない。

 ……ワズディンさんは透視でも出来るのかな。(そんな訳がない)


 なら、帽子屋の何が気になったのだろうか。

 もしかして店名かな? だとしたら頷ける。

 だって、いかれた帽子屋だもんな。俺も気になったし。


 などと考えていると、一仕事終えたクロハさんが、かいてもいない汗を拭いながら俺の方を振り向いた。


「アリスお嬢様、次はどちらへ行かれますか?」

「そうですね……」


 次行く店を頭の外にして、ワズディンさんを巻く方法を考える。


 ワズディンさんはこの程度では巻けなかったか……。

 下着屋へ入ってこないのは予想がついていたが、まさか向かいの店で張り込んでいるとは思わなかった。まあ、下着屋の滞在時間が短かったしな。もう少し長居していたら諦めて帰ったかもしれなかったけど。


 でも、それも可能性の話だ。実際は出てくるまでずっと白い壁を眺めながら下着屋をチラチラ見ていたかもしれない。(だとしたら完全に不審者だな……)


 ともかく、男が入りにくい店作戦はあまり効果がないのかもしれないな。待ち伏せされたら結局意味が無いし。……あれ? となると、待ち伏せされたらどの店を入っても一緒じゃないか?  


 ……結論。ワズディンさんからは逃れられない。どの店を入っても同じ。

 考えるだけ無駄だった。 


 はぁ~。

 もう入りたい店に入ればいいか。


「ぼ――」


 帽子屋、と口に出しそうになって踏みとどまる。

 今帽子屋に入ったら間違いなくワズディンさんも一緒に入ってくるだろう。

 それは嫌だな……。何となく負けた気がするし。……別に勝ち負けもないけど。


 帽子屋以外で行きたいところ……。

 装飾品屋とか良いかもしれない。


 高い物が置いてある印象だし、ワズディンさんは入って来ないだろう。

 うん、決めた! 装飾品屋にしよう!


「装飾品屋に行ってみたいです!」

「かしこまりました。こちらですね」


 クロハさんの先導の元、俺は装飾品屋へと向かった。



 ◇◇◇



 チャリーン


「いらっしゃいませ、お客様」


 店内に入ると、老紳士と言って差支えがない細見のおじいさんが丁寧に出迎えてくれる。

 ちょっと格好が執事みたいだなー。


 なんて思っていると、老紳士は俺とクロハさんをそれぞれ一瞥する。

 それから店の中へと案内してくれた。


「ご自由にご覧くださいませ」


 店内を見渡すと見るからに高級そうなものが置いてあった。


 宝石類や指輪。

 イヤリング、ネックレス、ブレスレットなどの金属系。

 その他、たくさんの高級そうな物が置いてある。


「どれも高そうな物ばかりです……」

「実際に高級品ですからね」


 試しに値段を見てみたら魔具並みの値段のものばかりだ。

 シロハさん風に言うなら「これ一つでパイが100個買えちゃうよー!」だ。

 本当に高級品ばかりなんだなー。


 魔具屋の時は、値段こそ変わらないが「珍しい!」が先行してあまり値段は気にならなかった。

 けれども目の前の装飾品類は、「高い!」と思わずにはいられない。

 元々が社畜庶民だからな。露骨に高い物を見ると抵抗があるのかもしれない。


「こちらのイヤリングなど、アリスお嬢様にお似合いになると思いますよ」


 クロハさんは、雑貨屋で髪飾りを試す時のような平然としたテンションで耳元にイヤリングを当ててくる。


 な、何となく恐れ多いな……。クロハさんチョイスのイヤリングは緑色の宝石が埋め込まれたものだった。


 見るからに高そうだな……。


 そっと値段を覗き見ると雑貨屋で見た髪飾りの2000倍の値段が書いてあった。

 姿隠しのマント(魔具)より高いの!?


「とてもお似合いですよ」


 言いながら、クロハさんは置いてある鏡で俺を映す。

 確かに似合っている。じゃなくて!


「く、クロハさん。勝手に触っても大丈夫なんですか?」

「? 問題ございませんよ。こちらも試してみませんか?」


 クロハさんは次々とイヤリング手に取り、試していく。

 本当に大丈夫なのかな……。


 老紳士の方へ視線を向ける――。


 特に気にしている様子は窺えない。

 この店ではこれが当たり前なのかな?


 少し考えすぎだったのかもしれないな。

 雑、はさすがに咎められるだろうけど、普通に手に取る分には問題なさそうだ。


「どれもお似合いです。さすがはアリスお嬢様ですね」

「そ、そうですか」

「はい、宜しければ幾つか購入いたしましょうか?」


 い、幾つか!?


 思わず口に出そうになって危なかった。

 こ、こんな高級品を幾つもなんて無理無理無理!

 一つでも持て余しているのですよ!

 絶対に無理です!!


 などとは言えなかったので、買わずに済む言い訳を考えた。


「イヤリングって耳に穴を開けないといけないですよね? 私怖いです」


 少し涙を滲ませて、上目遣い。

 これで無理強いはされないはずだ。


「でしたらノンホールもありますよ」


 そう言って先程の緑色のイヤリングを見せてくる。

 どうやら穴をあけないでもつけられるらしい。

 大義名分を失ってしまった。


 何となく断れない雰囲気。

 俺はそっと頭を縦に振った。


「では、購入してきますね」


 一言残し、クロハさんは老紳士の元へと向かっていく。

 俺は来る店を間違えたかもしれないな。


 待つこと数分。


「お買い上げありがとうございます。またのお越しを心よりお待ちしております」


 とても丁寧な出迎えで俺達は装飾品屋を後にした。


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