69
さて、どこへ行こうかな。
ワズディンさんにどこに行くと聞かれたが、実は全然考えていなかった。
そもそも街来たのだって、魔具の使用法を聞くためだ。
これといって行きたい場所など思いつかない。
なので俺は街を彷徨い続ける。
「アリスお嬢様、どちらへ行かれるご予定なのですか」
しかし、ただただ大通りを歩く俺に、シロハさんは感づいたかのように行き先を尋ねてくる。
どうしようかな……。う~ん……。
正直に話すか。別に隠すようなことでもないし。
「実は決めていません。興味が出たお店に入ろうと思ってます」
何かしろ興味が出れば入ろうと思うだろう。
ただ、あまり辺りに興味を惹くお店がないのだけど。
とりあえず視界に入るお店は、
――服屋。課長に似たハゲ親父が居る。
服も特に欲しいと思わないし、あの人に舐め回されるようにじろじろ見られるのは精神的に辛い。
それと腕がいいのが腹が立つ。なんで見るだけでサイズが当てられるんだよ!
……無いな。別の店にしよう。
――下着屋。店内を下着で跋扈するお姉さんが居る。
恥ずかしいので却下。身体は女でも心は男! うん、倫理的に良くない。
……でもワズディンさんは間違いなく入ってこないよな。巻くのには良いかもしれない。
――雑貨屋。店員がまとも。正直俺の知るかぎり一番普通の店。
特に欲しいものもないな。眺めるだけでも楽しいけれど。
そういえば初めてワズディンさんを見かけてのもこの店の近くだっけ。
――靴屋。入ったことがない。多分靴が売っているのだろう(靴屋だし)
靴も特に欲しいと思わないな。
眺める……。う~ん、見ていて……楽しいのかな? 俺にはよくわからないな。
まあ、今履いている靴が駄目になったら来ようかな。
(そういえばこの靴、あれだけ歩き回っているのに一切汚れていない。靴擦れとかもしないし、実はとんでもなくすごい物なのでは……)
――帽子屋。いかれた帽子屋と看板に書いてある。これまた入ったことがない。
何がいかれているのだろう。他の店は普通に〇〇屋なのに個性的だ。
少しだけ興味があるな……。候補に入れておこう。
――鞄屋。鞄が売っている……のだろう、多分。
遺跡で見つけたアイテムや宝を入れる鞄は欲しいとは思っていた。
けど魔具は無事に見つかったし、もう遺跡へ行く必要もないか。
お店を見つけるのが遅すぎたのかもしれない。機会があれば行こう。うん、今は必要ない。
――装飾品屋。魔具屋のおじいさんが前に言っていた店かな?
確か、王冠の買い取りもしているとか。
あ! 赤い丸石はむしろこっちに持っていけばよかったか?
以前にクロハさん達も宝石かもしれないと言っていたし、見てもらうならこっちだったかも。
……それだと売る前提か。そもそも俺は売り気はないしお門違いか。
それに欠けているし大した価値もつかないだろう。
……考えるのは止そう、俺に売る気はない。お金にも困ってない! ……お屋敷に拾われてよかった。(そもそも魔具かもしれない可能性があったから魔具屋に預けたのだったな。本当にお門違いだ。反省反省)
「…………う~ん」
――目につくのはこんなところか。
さて、どのお店に入ろうかな。
◇◇◇
「……決めました。ココニシマス」
「かしこまりました。それでは入りましょう」
チャリーン
「いらっしゃいませ、お客様」
俺は結局、下着屋に入った。
目的はもちろん下着を買う事ではない。ワズディンさんを巻くためだ。
だから決して下着屋のお姉さんの下着姿が見たかったわけじゃないし、下着を試着したかったわけでもないです! 本当です! 本当なんです! 本当なんですよ! 本当に!!
「あら? 誰かと思ったらこの前たくさん下着を買ってくれたお嬢ちゃん達じゃない? 今日はどんな下着をお探しかしら」
などと自分に念押しをしていたら下着姿のお姉さん(店員)が胸部のスライムを揺らしながら近づいてくる。どうやら覚えられていたらしい。少し嬉しい――嬉しくない!! 嬉しくないです!! 本当です!!
とりあえず、目のやり場に困ったので、俺はそっと目を逸らした。
「どうしたの? 急に目なんか逸らして」
「その……恥ずかしいので」
「女同士なのだから恥ずかしいことなんてないのよ」
確かに、女の(身体の)俺が恥ずかしがるのもおかしな話だな。
いや、でも、世の中には女同士でも恥ずかしいと思っている人がいるかもしれない。
居ないのなら俺が第一号になる! ……馬鹿なことは考えるのは止そう。
なんてことを思案しながら、困って立ち尽くしている俺を無視して、下着屋のお姉さんは息多めで続ける。
「だから見ていいのよ? むしろ見て! 見て! 私を見て!」
「へ、変態だ……」
思わず口からこぼれ出てしまった。
けれどもお姉さんは気にすることなく胸元を近づけてくる。
「お嬢様に不埒な真似をしないでいただけますか?」
冷たい声音でクロハさんは下着のお姉さんに手をかざす。
そして、かざした手から紺緑色の光を出し、詠唱した。
「バインドアイビー」
瞬間、紺緑色の蔦が下着屋のお姉さんにまとわりつく。
「――さあ! 見て! 触って! 感じて! あぁぁん~!!」
お姉さんは悶絶して倒れた。
縛られかたが凄いな……。すごくエロ……ごほん!
これ以上は目の保養だ。じゃなかった目に毒だ。
俺は目を逸らしてクロハさんの方を向く。
「もう大丈夫ですよ、アリスお嬢様」
「助かりました。けど、大丈夫なんですか? 気絶していますよ」
「その内目も覚めるでしょう。それより出ましょう。これでは買い物もできませんし」
確かに、店内にはお姉さんしかいないし、これでは買い物は出来ない。
まあ、元から買うつもりはなかったから結果オーライ? かな。
「そうですね。私ももういいです」
「それでは失礼して――――」
クロハさんはメイド服からナイフを取り出し、お姉さんにまとわりついていた蔦を解く。
そして試着室へと移動させて、カーテンを閉めた。
「これで大丈夫です。さて、後は――」
クロハさんは店の前の立札をOPENからCLOSEへとひっくり返した。




