06
「……クロハさん! あれですか!」
「はい、あちらがヨツバ家のお屋敷になります」
「すごい~!」
馬車の上から外を眺めると、まさしくお屋敷と言われて遜色ない立派な洋館が建っていました。
「それにあっちの湖もすごい~!」
「あちらはルベリア湖ですね」
「美しい湖畔があるって言ってましたけど、もしかして?」
「はい、ルベリア湖の事でございます」
「綺麗~!」
美しい景色ばかりだな~興奮を隠しきれないや~
「ルベリア湖では、アーユという魚が穫れるんですが絶品ですよ」
「へぇー食べてみたいなー!」
「おすすめですよ。機会があれば是非召し上がってみてください。」
「はい~!」
楽しい会話をしていると馬車がお屋敷の前に着きました。
間近で見るとさらに凄いなー! 窓なんていくつあるんだろう?
「私は馬車を置いてきますから、こちらで待っていてもらえますか?」
「独りでは不安なので一緒に居たいです……」
少し目を潤わせてクロハさんにお願いする。
「仕方ありませんね。一緒に行きましょうか」
「はい! ありがとうございますー!」
「だ、抱き着かれると危ないです!」
「えへへ」
俺も段々この身体の使い方を分かってきた。
この愛らしさ。それこそが俺の唯一の武器な気がする。
生き残る(独りにならない)ためにはこうするしかない!
そう自分に言い聞かせる。……だが、抵抗がないわけではない。
……これ以上は考えるのは止そう。今はただ現実に向き合うしかない。
「どうかなさいましたか?」
「……何でもないよ! お屋敷楽しみだなー!」
「そうですか」
「…………」
「色々と不安で考えてしまうんでしょうが、安心してください」
「きっと悪いようにはなりませんから」
「だから心配しないでくださいね?」
クロハさんが微笑みながらそっと髪を撫でてくれる。
こそばゆい、だけど温かくて気持ちいい。
「……ぅっ、ずっと…ずっと不安で……」
「もう大丈夫です……安心してください」
「……ぅっ…ありがとうございます」
自然と涙が出てしまう。だって仕方ないじゃないか。
この世界に来て初めて、本当の意味で人の温かさに触れたんだから。
「随分可愛らしい子を連れているねー!」
「シロハ! 居たんですか?」
涙を拭いながら下を見ると、クロハさんそっくりの白髪メイドさんが居ました。
「そりゃないよークロハお姉ちゃん! さっきからずっと声を掛けてたのにー」
「本当ですか? すみません、私としたことが気が付きませんでした……」
「珍しいよね? クロハお姉ちゃんがそんな風になるの!」
「クロハさん……その方は?」
「私と同じくヨツバ家でお仕えしている妹のシロハです」
「どうもー! 妹のシロハでーす! よろしくねっ、可愛らしいお嬢ちゃん!」
「はい、よろしくお願いします/////」
さっきまでのやり取りを見られていたのか……。恥ずかしくて思わず赤面してしまう。
それにしても、姉妹にしてはそっくりだな? 双子か何かなのかな?
「そういえばシロハ、どうしてここに?」
「そんなことよりー、その子は誰? どこかのご令嬢?」
「いえ、私が保護したお客人です」
「ふ~ん? そうなんだー」
「そうだシロハ」
「私の代わりに荷物と馬車を置いて来て欲しいのだけれども、いいかしら?」
「えー、やだよ! シロハもその子とイチャイチャしたい!」
「私はお嬢様にこの子の事を色々話さなければならないの!」
「仕方ないなー! これは貸しだよー」
「覚えておきます。それではお願いね?」
「任せなさいー!」
俺とクロハさんは馬車を降り、シロハさんを見送る。
「それではお屋敷の中に参りましょうか」
「はい、クロハさん!」