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元気よく店を出たものの、俺は僅かばかり落ち込んでいた。
なぜならば、魔具屋で魔法が判明したら、すぐに帰ってイノリお姉ちゃんと試そう!
そう思っていたからだ。
けれども明日まで掛かると言われたら仕方ない。
すぐに帰る理由がなくなってしまったので、俺達はせっかくなので街で遊歩することにした。
「まさか明日まで掛かるなんて……」
「珍しい物でしたからね」
確かに、あの魔具が召喚書だなんて思ってもみなかった。
というより、そもそも召喚書のことすら知らなかったので思いつくはずがないのだけど。
俺はてっきり普通に魔法が使える書物だと思っていた。
色も緑だったし、…………風魔法? とか使えると思っていた(今思いついた)
けれども、まさか召喚書だとは……。おじいさんの説明も長かったし(ほぼ聞いていない)よほどすごい物には違いないのだろうけど。なんだかなー。
魔法と召喚。原理はよくわからないけど違うのは何となくわかる。
魔法はラビの指輪みたいに炎や風が出てきて「すごい! 魔法だ!」っていうのが見ただけでわかる。
だが、召喚は……よくわからない。何かが出てくるのだろうけど、所詮は出てくるだけだろう? 「すごい!」と思うだけだろう。まあ、実際に見たらどうかはわからないけど。
とにかく召喚は魔法と比べて地味な気がする。
派手さが足りないイメージ……。うん、勝手な想像だな。
百聞は一見に如かずって言うし、実際は違うかもしれない。
期待はしないけど、楽しみにしておこう。
などと考えながら道を歩いていると見知った顔を発見する。
「あっ、ハゲディンだ」
「ハゲディン?」
テカテカハゲ頭を輝かせながら悠然と歩くワズディンさんに、クロハさんはどうやら気づいていないようだ。
そういえばクロハさんは『はずれ』事件以来ワズディンさんと遭っていなかったな。髪型が変わっただけで気づかれないとは可哀そうに……。
などと同情していると、ワズディンさんもこちらに気づいたのか駆け寄ってくる。
「お嬢ちゃん~!」
「アリスお嬢様! お下がりください!」
駆け寄ってくるハゲ…じゃなかった、ワズディンさんから守るように、クロハさんは俺の前へ出る。
「おっ、今日は二人か、前はぞろぞろと連れていたのに」
「気安く話しかけないでくださいますか」
冷たい声音を発し、クロハさんは警戒心をむき出しにしてワズディンさんを睨みつける。
するとワズディンさんは「ひぃ」と短い声を上げ尻もちをついた。カッコ悪い。
「お、お嬢ちゃん。俺なんかしたか?」
ワズディンさんは助けを求めるように俺の顔を見てくる。
強いていうなら……ハゲ頭にした。と言ったところだろうか。
まあ、そんな酷な事はさすがに口には出さないけど。
涙目になりながら助けを求めてくるワズディンさんがあまりにもみっともなかったので、俺は助けることにした。(本当は、クロハさんが今にも魔法を放ちそうだったからなのは言わずもがな)
「バイン――」
ワズディンさんへと向けられた腕に、俺は抱き着く。
もちろん魔法の発動を阻止するためだ。(こんなので阻止できるかはわからないけど)
まあ、結果としてクロハさんの動きは止まった。
「クロハさん! この人はワズディンさんです!」
「え? この不審者がワズディンさんですか?」
クロハさんはハゲディンさんの顔をまじまじと見る。
「お、俺だ! ワズディンだ! 何度も一緒に遺跡へ言っただろう?」
「…………どうやら本当にワズディンさんみたいですね」
クロハさんはワズディンさんに手を伸ばす。
「立てますか?」
「お、おう」
手を取り、ワズディンさんは起き上がった。
「よくわからんが……誤解が解けてよかったぜ」
「すみません。見慣れない方がなれなれしく近寄ってきたので、私はてっきり不審者かと思いました」
「見慣れない? まあ、無理も無いな。なぜなら俺は生まれ変わったからな」
ドヤ顔で自らのハゲ頭をサムアップ。
さすがはハゲディン、振り切っているなー。
なんて俺は思うのだが、クロハさんは特に興味は無いようで、
「そうですか」
と短く答えるだけだった。
◇◇◇
クロハさんに軽くあしらわれたものの、全く気にすることなくワズディンはハゲ頭を輝かせ続ける。
キラン彡
いつまでやっているんですか! 太陽が昇り続けている間ずっとですか!
……なんで俺はこんなのを見続けているのだろう。
見る必要もないな、と気づいた俺はワズディンさんの横を横切る。
「おいおい、お嬢ちゃん! どこに行くんだい」
しかし回り込まれた。
なんで引き留めるんですか……。
「ワズディンさん、邪魔です!」
「バイン――」
「待った待った! 今退く! 今退く!」
ワズディンは逃げ出した。
と、なればよかったのだが、ワズディンさんは立ち去ろうとしない。
それどころか、なぜだか後ろを着いてくる。
「あの……なんで着いてくるんですか」
「お嬢ちゃんの護衛をしようかと思ってな」
「私がいるので必要ありませんよ」
クロハさんはぴしゃりと答える。
表情から有無を言わさぬ威圧感が漂う。
しかしワズディンは狼狽しつつも引かない。
5メートルほど後ろに離れて「これなら問題ないな」と言いたげな顔で振り向いた俺を見た。
「どうやら離れる気がないみたいです」
「そのようですね」
仕方ないな……。
俺達はあきれ顔になりながら歩みを再開するのだった。




