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~魔具屋~
チャリ~ン
店内には相変わらずたくさんの魔具が置かれていた。
心なしかまた以前より増えているような気がする。
本当に物凄い数だよな……。
遺跡に入って魔具探しをした今だからこそ、この魔具の数は驚愕だと認識できる。
探してもそうそう見つかるものでもないし、そもそも数が少ない。
クロハさんとシロハさんが初めて来たときに驚いていたのが今なら何となく分かるなー。
そんなことを考えて店内を物色していると、店の奥からおじいさんがやって来る。
「ふぉふぉふぉ、いらっしゃい」
「こんにちは! おじいさん!」
魔具屋のおじいさんは髭をかきながら、こちらを向いた。
そして俺に気づくと、頬を僅かに弛緩させる。
「おぉ、お嬢ちゃん達かい、よくきたのぅ。今日はどうしたのじゃ」
顎鬚を撫でながら、おじいさんは孫に語り掛けるような声音で訊ねてくる。
何となく距離が近いな……。
まあいいか。そんなことより魔具の使い方について聞かないと。
「はい! 実はこれの使い方が知りたくて来ました」
俺は胸に抱えていた緑革の本をおじいさんに差し出す。
するとおじいさんは目を僅かばかりに見開いた。
「ほぅ、これは珍しいのぅ」
「そうなんですか?」
知識のない俺からしたら、この本の魔具がどれほどの価値があるのかは判らない。
俺が知っているのは魔具自体が珍しいことであることだけだ。
けれども、おじいさんの反応を見るかぎり、この緑革の本は魔具の中でも珍しいものなのかもしれないな。一体どんな魔法が使えるのだろう。
そんな俺の疑問に答えるようにおじいさんは続ける。
「かなり珍しいのぅ。恐らくこれは召喚書じゃ」
「なるほど……召喚書でしたか」
クロハさんは知っているのか、納得したようにうなずき出す。
召喚書ってなんだろう? 初めて聞くな。
俺は首を傾げながらクロハさんに問いただす。
「クロハさん、召喚書ってなんですか?」
「それはじゃのぅ――」
クロハさんに聞いたはずなのに、なぜだかおじいさんが答え始める。
それを見てクロハさんは俺を一瞥して、微笑を浮かべた。
まあ、聞けるのならばどちらでもいいか。
俺は仕方なくおじいさんの話に耳を傾ける。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・「そうなんですか」
・・・・・・
・・・・「すごいですね」
・・
・「へぇ~」
「――要は、魔物やモンスターを召喚して使役できる書物じゃ」
「なるほど! とってもわかりやすかったです!」
――最後だけな。
おじいさんの話は専門用語が多すぎて9割方解らなかった。
話を聞いている途中も、適当に相槌をうって聞き流していたのでほとんど覚えちゃいない。
なんなんですか! 魔術領域って! 初めて聞く単語ばかりで全然わからないです!
……正直、最後の一言だけを聞きたかったです。
「それでこの召喚書はどんな魔物やモンスターを使役できるんですか?」
召喚書がどんなものであるかは解った。
けれど俺が知りたいのはあくまでもどんな魔法が使えるか。
この場合だと、何を召喚できるだが。
「それは中身を見ないとわからないのぅ」
おじいさんは真剣な目をしながら「見ても大丈夫かのう」と問いただしてくる。
多分、イロハさんが言っていた、読むだけで魔法が発動してしまう危険性のことを言っているのだろう。
けれどもラビが一度見ているし、その時は何も起きなかった。問題ないだろう。
一応、クロハさんの顔色を窺う。
するとクロハさんもラビが一度開けて読んでいたのは知っているので、頷いた。
「大丈夫です」
「では見させてもらおうかのぅ」
神妙な顔つきで、おじいさんはゆっくりとページを開いていく。
具体的に言うと、一ページ見るのに5分ぐらいかけて……。
ちなみに本の厚さは3センチほどだ。
いつまでかかるんだろうこれ……。
「………………」
――十五分後。
「あの……おじいさん」
「……? どうしたかのう?」
「その……時間がかかりますか?」
「そうじゃのぅ、この分だと一晩かかるかもしれん」
ひ、一晩!? そんなに掛かるんですか……。
どうしてそんなに時間がかかるのだろう……?
もしかしたらあの長話の途中で言ってたかもしれないが、聞き流していたからな……。
う~ん、今更聞き直せないし、聞いたとしても一からまた説明されそうだ。
「あの……じゃあ一晩だけ預けますので任せて大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃよ。明日までには解読しておくのでのう」
おじいさんは一旦本を閉じ、卓上へと置いた。
「ではまた明日訪れましょうか」
「そうですね」
魔具屋に居ても他に用事があるわけでもないので、俺たちは店を出ようとする。
すると、おじいさんは思い出したかのようなリアクションをして俺たちを引き留めた。
「そうじゃ! そういえばフードの女は見つかったのか? ちょうど人探しの魔具を入荷してのう、よかったら代わりに使って構わんよ」
そういえば、おじいさんに報告をしていなかった。
ラビのおつかいのときに寄ればよかったな。
「それなんですが、無事見つかりましたから大丈夫です」
「そうじゃったか、ならこれは要らんか」
言いながらおじいさんは金色の杖のようなものを取り出す。
「それが人探しの魔具なんですか?」
「そうじゃよ。導の杖と言ってのう――」
おじいさんはまた長々と説明を始める。
墓穴を掘ってしまったな……。なんて思いながらも俺は真剣に聞く。
もしかしたら、この杖を使えばあの子を探しだせるかもしれない。
そう思ったからだ。
導の杖。
探す対象の名前を唱えて杖を倒すと、対象の居る方向へと倒れて光を放つらしい。
なるほど……、名前を唱える必要があるのか……。
となると使えないな。俺はあの子の名前もわからないし、そもそも自分の名前すら未だ思い出せてない。使い道はなさそうだ。
「まあ、見つかったようで何よりじゃ」
「はい! あの時はお世話になりました!」
「いいんじゃよ、お嬢ちゃんのためなら儂も力は惜しまん」
「あはは……頼もしいです。――あっ! そうだ!」
俺はポケットから欠けてしまった赤い丸石を取り出す。
確かこれも魔具の可能性があるって言っていたな。
「これも預かってもらっていいですか? もしかしたら魔具かもしれないんです」
「これがかのう。構わんよ、一緒に見ておこう」
「お願いします!」
俺はおじいさんに赤い丸石を手渡す。
欠けているから望み薄だけど、念のためだ。
「それではまた明日です!」
「よろしくお願いします」
「ふぉふぉふぉ、気を付けてのう」
俺達は魔具屋のおじいさんに見送られながら店を出た。




