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 泣きながらイノリお姉ちゃんに抱き着いていると、扉の開く音が背後から聞こえた。


「お待たせしまし、……何かございましたか?」

「イノリがご主人様を泣かしているんだよ……」


 振り返るとラビとイロハさんが驚愕の表情を浮かべていた。

 あ……。ああ!! 俺! いったい何をして!?

 状況に気づいた俺はすぐさまイノリお姉ちゃんから離れようとする。

 しかし向こうからも抱きしめられていたので離れることは叶わなかった。


「い、イノリお姉ちゃん! もう大丈夫です! 泣いてないですよ!」


 目元の涙を拭いながらイノリお姉ちゃんとラビ達を交互に見る。

 無表情のまま変わらないイノリお姉ちゃん。

 開いた口を閉じられないでいるラビと、対応に困っているイロハさん。

 あたふたするものも止まったようにみんな動かない。


「私も…………………大好き」

「っ!!!/////」


 瞬間、俺の顔が多分真っ赤に染まった!

 俺はなんて恥ずかしいことを言ってしまったんだ!!

 俺は男だぞ!! いくら気持ちが高まったからって……あぁあぁーー!!


「はっ! 見ている場合じゃないんだよ!! ご主人様ー!! 私も大好きなんだよー!!」


 放心していたラビが俺の方へ駆け寄り飛びついてくる。

 そして俺たちをその勢いのまま押し倒した。


 ドーン☆彡


「重い………………………」

「ら、ラビ! ちょっと……!」

「ご主人様ー! すりすり~」


 ラビット

 アリス

 イノリ

 =床 床 床 床=


 と、重なるように倒れる。

 一番上のラビが身体を擦りつけてくるので負荷が凄い。

 ついでに密着率も凄い。とにかくすごい。上下に柔らかい何かがー!

 ハヤク、タスケテクダサイー。

 などと思っているとラビの身体が浮いた。


「ラビ、お嬢様方を困らせないでください」


 イロハさんの冷たい声音がラビに降り注ぐ。

 こ、怖い! 自分が怒られているわけでもないのにそう感じた。


「おも………………」

「ご、ごめんなさい!! 今どきます!!」


 視線を戻すとイノリお姉ちゃんがぐったりしていた。

 二人分の負荷だったし無理もない。

 俺は床に手をついて身体を起き上がらせた。


「……………………」


 解放されたイノリお姉ちゃんは無言で立ち上がる。

 それから床に転がっている緑革の本(魔具)を拾い上げた。

 お、押し倒してしまったし謝らないと!


「あ、あの! ごめんなさい!」

「…………………?」


 俺が謝ると、イノリお姉ちゃんは僅かに首を傾げて困り顔になる。

 あ、あれ? なんで困り顔?

 と思いながらあたふたしていると、イノリお姉ちゃんはラビの前に立つ。


「ラビ………………………ご飯抜き」

「そ、それは勘弁して欲しんだよ!!」


 未だに持ち上げられぱなしのラビは平謝りしだす。

 そんなラビを見てか(単に腕が疲れただけかもしれないが)イロハさんはラビを雑に床に降ろす。


「駄目……………………」

「ガーン! なんだよ……」


 ラビは脱力するように床に突っ伏す。

 少し可哀そうだな。

 今日はあれだけ頑張ったから少し助けるとするか。


「い、イノリお姉ちゃん!」

「なに………………………」


 イノリお姉ちゃんは何事もなかったかのようにこちらへ振り返る。

 平時の無表情。別に怒りは感じられない。

 けれども有無も言わせぬプレッシャーを放っているように感じるな……。

 す、少しだけ怖い。


「そ、その、実はその魔具を見つけるのにラビはすごく頑張ってくれたんです! だからご飯抜きは許してあげてください!」


 実際にラビは頑張ってくれた。

 ラビの力がなかったら魔具は手に入らなかったかもしれない。

 イノリお姉ちゃんはジトーとラビを見つめる。

 それを受けてラビはコクコクと頷いてアピール?


「………………………わかった」

「ご飯抜きは……………………許す」


 それだけ言うとイノリお姉ちゃんはラビの頭をポンと僅かに撫で、椅子に座ってお茶を持ってくるようにイロハさんに促した。


「すぐにお注ぎします。アリスお嬢様もいかがでしょうか」

「お、お願いします」

「かしこまりました」

「……許されたんだよ」


 お茶を注ぐイロハさんに取り残されたラビは「あれ? イノリが優しい?」とでも言いたげに頭をひねり出す。そして思いついたかのように頭にビックリマークを浮かべて「ご主人様のお陰なんだよー!」という結論を口にした。


「おいしいです」

「うん…………………おいしい」

「ありがとうございます」


 しかしラビを気に留めるものは居ない。

 俺達はゆっくりとお茶を楽しんでいた。


「おかわりをください」

「私も………………………」

「かしこまりました」


 ティーカップに2杯目のお茶が注がれる。

 それを見て、構ってオーラを出したラビが声を発しようとした瞬間、ノックの音が聞こえた。


「どうぞ」

「ただいまー! イノリお嬢様ー! イロハお姉ちゃんー!」

「ただいま戻りました」


 クロハさんとシロハさんが部屋の中に入ってくる。

 恰好を見ると二人ともメイド服姿だった。

 来るのが遅いと思っていたが着替えていたのか。


「おかえり……………………」

「おかえりなさい。二人ともご苦労だったわ」


 イロハさんはイノリお姉ちゃんが持っている魔具を一瞥した後、二人をねぎらった。


「アリスお嬢様ー! ちゃんと渡せたみたいだねー!」

「はい! 皆さんのお陰です。今日はありがとうございました!」


 感謝の気持ちをこめて俺は頭をめいいっぱい下げる。

 するとクロハさんは「恐れ多いです」と謙遜し、シロハさんは「照れるなー!」と素直に喜んでくれた。ラビは……(チラッと覗いてみる)期待の眼差しをしていた。何を期待しているんだよ。


「どうか頭をお上げください、アリスお嬢様。我々はメイドです。主のために尽くすのが本望。そのように頭を下げられ続ければ困ってしまいます」


 イロハさんの『困ってしまいます』に反応して俺は頭をあげる。

 困らせたいわけじゃないからな。あくまで感謝しているだけだ。

 これ以上は止そう。


「さーて! 無事魔具も見つかったことだしご飯にしようかー!」

「いえ、その前にお風呂にしましょう。遺跡での汚れを早く落としたいはずです」


 言われて身体を見ると、所々汚れている。

 俺、こんな状態でイノリお姉ちゃんに抱き着いたりしていたのか……。


「体に入った草のせいで緑が付いているだよ」

「そうだねー! よーし! まずはお風呂だー!」

「し、シロハさん! 私はみんなが入った後で独りで!」

「いいからー! 行くよー!」


 シロハさんは俺の手を取って浴場へと走り出す。

 元気があり余り過ぎです!!


「シロハ! アリスお嬢様が嫌がって!」

「待って欲しいんだよー! ご主人様ー!」

「私も行く……………………」

「ではその間、私は料理を準備しておきます」


 こうしてイノリの部屋から全員が出ていくのだった。


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